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Magica Technica ~剣鬼羅刹のVRMMO戦刀録~  作者: Allen
DH ~Dragon Heart~

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861:兵器の雨











 ある程度の制空権確保に成功したため、歩兵部隊である俺たちも先へと進む。

 だが生憎と、敵陣の防衛は戦車の配備以外は十分という状況だ。

 それは即ち、向こうの砲門がいつでもこちらを向いていることに他ならない。

 馬鹿正直に正面から向かって行けば、狙い撃ちにされるだけという話である。

 頭上から降り注ぐ砲弾の雨は、俺たちとて防ぎ切れるものではない。



「アルトリウスたちなら、幻術なり何なりを使うんだろうが……」



 生憎と、そのように便利な代物は使えない。

 まあ、マリンはこの場にはいなかったが、他にも同種の魔法を使えるプレイヤーは揃えていることだろう。

 人材の豊富さは実に羨ましいことではあるが、今はそれを気にしている場合でもない。



「で、どうやって近付くんですか?」

「そこはまぁ、アリスに頑張って貰うことになるな」

「また私? 潜入して迫撃砲を無力化して来ればいいの?」



 面倒臭そうな物言いの割には、どこか楽しそうな表情であるが――流石に、そこまで危険度の高い仕事を依頼するつもりは無い。

 確かにアリスならば不可能ではないだろうが、そこまでの仕事はリスクが高すぎる。



「流石に、それじゃ時間がかかりすぎるからな。夜間に工作するならともかく、今は昼間だし」

「それじゃあ……月属性の魔法でってこと?」

「その通りだ。最初に相手の射程外ギリギリから隠密して近付いて、【ムーンゲート】で接近。隠れられる場所に転移できるなら、そこからもう一度【ムーンゲート】を使いたいところだな」

「成程ね……陰になっているところを探せばいいってこと」



 俺の言葉に頷き、アリスは取り出した双眼鏡で付近を見渡し始める。

 とはいえ、敵もそれなりに見通しがいい場所に陣を構えている。

 あまり、隠れられるようなスペースは多くないだろうし、一度でも遮蔽を発見できれば御の字といったところだ。



「そして、可能な限り【ムーンゲート】で近付いてから全速力で接近する。相手の迫撃砲の精度にもよるが、【フェイズムーン】は用意しておいた方がいいだろうな」



 視界が広い場所では、【フェイズムーン】は最大限の射程を発揮できる。

 その魔法だけで、敵の攻撃を躱しつつかなりの距離を稼ぐことができるはずだ。

 とはいえ、魔法である以上、同じ呪文を連発して使うことはできない。

 距離を詰めるための手段というよりは、緊急回避のためと割り切っておいた方がいいだろう。



「……見つけた。あっちは丘のようになっているから、あの拠点からは視界が遮られる筈よ」

「ふむ。ここからだと分かりづらいが……確かに、そのようだな」

「了解。それじゃ、行ってくるわね」



 結論は素早く、アリスは即座に【ムーンゲート】のポイントを設置した後、姿を消して丘の方向へと向かって行った。

 アリスの素早さならば、それほど時間がかかることは無いだろう。

 遠ざかって行く気配を見送りながら、緋真へと向けて声をかける。



「お前は一応、敵の砲撃を防ぐ手を準備しておいてくれ」

「かなり無茶を言いますね。上から落ちてくる砲撃を正確に撃ち抜くとか、滅茶苦茶難しいですよ?」

「お前なら、そのぐらいは可能だろう?」



 その言葉に、緋真はきょとんと眼を見開き――やがて、その口元に笑みを浮かべる。

 何とも分かりやすい反応だが、やる気が出たようなら何よりだ。

 それに、この言葉は別にリップサービスというわけではない。

 狙った場所へと正確に攻撃を当てる技術は、久遠神通流にとっては基礎であるとも言える。

 実力ある剣士である緋真が、それを仕損じるとは思っていなかった。



「まったく……仕方ないですね。何とかしますよ」

「頼んだぞ。俺にはあまり、遠距離攻撃は無いからな」



 【咆風呪】はかなり広範囲に攻撃できるが、物理的な迎撃はできない。

 俺が敵の砲撃を防ごうとした場合、【命輝一陣】を使うしかないのだ。

 当然、何度も連発して使えるわけではないため、連発して落ちてくる砲弾に対処することはできない。

 これについては、緋真に対処を願うしかないだろう。

 まあ、上手く行けばその対処も必要なくなるだろうが。

 と――そんなことを考えていたちょうどその時、目の前にゲートが開き、中からアリスが姿を現した。



「開通したわ、入って」

「了解、行くとするか」



 アリスの導きに従い【ムーンゲート】の中へと入れば、視界は一瞬で切り替わり、敵拠点が目に入らない位置へと移動する。

 先ほどの宣言通り、丘の裏側へと転移することで敵の視界から逃れられたようだ。

 体勢を低く、匍匐前進で丘の上へと登ると、先程とは角度の異なる拠点の姿が目に入った。



「この丘が敵のキルゾーンになっている可能性も考慮していたが……どうやら、考え過ぎだったようだな」

「いや、怖いこと言わないでくださいよ」



 ここに移動した瞬間に爆弾が雨霰と降り注いでくる可能性も考慮していたのだが、流石に杞憂であったようだ。

 まだ俺たちが射程内に入っていなかったため、敵も本格的な攻撃態勢には入っていない。

 しかし、俺たちが姿を消したことも、連中は気が付いているようだ。



「流石に、転移魔法は考慮していなかったか?」

「まあ、アリスさんがゲートを設置したら、見失うのも仕方ないかと思いますけど」

「とはいえ、気付かれたらこちらに撃ち込んでくるだろうからな。一旦、気付かれないように潜んでおくか」



 アリスの呪文のクールタイムが終わるまではここで待つ必要がある。

 敵を刺激する必要もないし、しばらくは敵の観察に留めておくこととしよう。



「流石に、次に移動できそうな場所はないか」

「そうね……少し眺めた限りだと見つからなかったわ」



 小高い丘となっているため視界は良好なのだが、生憎と他に隠れられそうな遮蔽物を見つけることはできない。

 つまり、ここからもう一度転移したら、今度は敵から狙われ続けるようになるということか。

 覚悟していたこととはいえ、流石に辟易してしまうものだ。



「他に隠れられそうなところもないし、敵陣に近付くのよね。どこから行く?」

「可能な限り距離を詰めた方がいいだろう。限界まで接近するべきだ」



 ここから直線で敵陣まで近づいて転移し、更に接近した上で回避に【フェイズムーン】を使用する。

 そこまですれば、敵陣は目と鼻の先となるだろう。

 その距離ならば迫撃砲は使えないだろうし――まあグレネードランチャーによる集中砲火は喰らうだろうが、迫撃砲よりはまだ対処しやすい。

 それに、その距離になったなら、シリウスを呼び戻しても問題は無いだろう。



「つまり……ここからが本番だ。覚悟を決めろよ」

「了解です。派手に燃やしてやるとしましょうか」



 やる気になっている緋真の様子に苦笑を零し――アリスのクールタイムの完了を、静かに待ち構えることとした。











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