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856:航空戦力












 目標地点に到達し、アリスに状況を探索して貰ったことで、大まかな情報を把握することはできた。

 ここも先ほど確認した場所と同じく、ある程度山の間となっていて高低差の少ないエリアなのだが、一部平地に近い場所が存在していたのだ。

 あのワイバーンたちは、その場所を利用して離着陸を行っていたようだ。

 つまり、ある程度のスペースが無ければ運用できない戦力ということでもある。



「大した広さじゃないが、それでも多少の助走は必要か。朗報と見るべきかは微妙なところだが」

「騎獣のワイバーンはそこまで助走が必要なんて話は無かったと思いますけど……」

「装備しているプロテクターのせいじゃないかしら?」



 飛行しているワイバーンたちは、体にプロテクターのようなものを装備している。

 基本的に、騎獣たちは鞍以外の装備は身に付けられないようになっている筈だ。

 それは、彼らの飛行の妨げになるし、重さが増えれば当然機動力も落ちてしまうからだ。

 飛行というのは、それだけ綿密なバランスで成り立っているのである。

 それなのに、エインセルが用いているワイバーンたちはあの防具を装備しているのだ。



「多少は飛行を妨げられるが、それでも十分に飛べる程度の重さしかないってことか……便利な物質だな」

「どの程度の防御効果なんですかね?」

「さて、実際に殴ってみないことには分からんが、流石にそこまで頑丈ってことは無いだろう」



 基本的に、頑丈さと重さはトレードオフだ。

 高い防御効果を得ようとすれば、それだけ密度の高い物質を用いる必要がある。

 軽さと頑丈さを兼ね備えるとなると、やはりある程度の妥協は必要になるだろう。

 とはいえ、飛行する魔物がある程度頑丈になるだけでもそれなりに大きな問題ではあるのだが。



「ルミナ、どの程度の防御効果があるのかは確かめておいてくれ。場合によっちゃ、都市防衛でかなり不利になる」

「分かりました、検証はお任せください。セイランは自由に戦えばいいですよね?」

「そうだな。複雑な指示を出して失速させるよりはその方がいいだろう」



 セイランも頭が悪いというわけではないのだが、その戦闘スタイルの関係上、複雑な行動は取らない方が強いのだ。

 ただ素早く、強力な攻撃を叩き込む。セイランは、そのように戦うべきだろう。

 面倒事をルミナに押し付けてしまうのは申し訳ないが、そこは適材適所だ。



「セイラン、お前はまずあの広場を破壊しろ。離着陸ができなくなれば、ワイバーンたちの脅威は一気に減少する。その後は戻ってきたワイバーンをメインに戦うんだ」

「クェ」



 相手に航空戦力がいるなら、その対策も必要だ。

 先ほど確認した限りでは、現状はまだ爆弾の類を装備していたわけではないが、頭上からブレスを吐かれるだけでもかなり厄介なのだから。

 ルミナとセイランを上空に回し、残りの戦力で地上部隊を削り取る。

 そこから先については先ほどの戦いとそう大差はない。



「それと……可能であれば、あのワイバーンが装備するであろうアイテムを鹵獲したい。あのプロテクターでも、投下するであろう爆弾でもな」

「それは私向きの仕事かしらね。見つかるかどうかは分からないけど」



 これに関しては可能であればの目標だ。

 あの集団を襲う以上、混戦になることは避けられない。

 そんな中で、位置の分かっていないアイテムを探すことは困難だろう。

 それに確保できたからとて、情報源にはなるが直接的な戦闘能力に結びつくことはない。

 そのためだけに無理に危険を冒す必要もないだろう。



「ま、それは可能であったらだけで構わんさ。重要なのは、こいつらの進行を遅らせることだ」

「了解です。それじゃ、配置に付きますね」

「ああ、作戦開始はセイランの攻撃からだ。準備が完了したら派手にブチかませ」

「クェエッ」



 俺の言葉に頷き、それぞれが森の中に身を潜める。

 ここまで、見つからずに接近できたのは運が良かっただろう。

 だが、やはり先程の部隊よりは近付けず、距離が開いてしまっている。

 真っ先に接敵するセイランのことには少々不安はあるが、あいつが仕損じることは無いだろう。



(さて、先程とは状況は変わるが、どうなるか……)



 配置に付き、数秒。息を整え、魔力を集中させ――紫電の雷光と共に、セイランは空へと舞い上がった。

 それと共に、俺たちもまた敵陣へと向けて走り出す。

 数秒と経たぬうちに発せられた雷の音は、セイランによる一撃が広場へと直撃した音であろう。

 木々の向こう側でその様子は見えないが、眩く輝く雷光が辺りを染め上げる様子だけは見て取れた。

 そしてそれと共に、俺たちは敵陣へと向けて勢いよく飛び出した。



「《オーバーレンジ》、『破風呪』!」



 木々の間から道へと姿を現した瞬間、俺の目に入ったのは態勢を整えようとする悪魔たちの姿であった。

 攻撃の開始から、あまりにも対応が早すぎる。

 奇襲に対しての混乱はほぼ無いと言っても過言ではない状況だった。



(こちらの襲撃を読んでいたか……!)



 あらかじめ与えられていた情報か、或いは――先ほどの襲撃を受けて、情報が共有されたか。

 後者だとすれば厄介だ。エインセルの悪魔は、高速で情報を共有する方法を有していることになる。

 それはつまり、俺たち異邦人プレイヤーが持つアドバンテージが一つ弱体化することを示していた。

 こちらも使えなくなるというわけではないが、情報共有速度での有利を得ることは難しくなるだろう。

 幸い、向こうが銃口を向けるよりも先にテクニックを発動することはできた。

 溢れ出した黒い風が、奴らの視界を塞ぎながら体力を奪い取る。



(こっちの攻撃はいいとして、問題は緋真の方だな。あまり適当に火を撒き散らすと、妙なものに誘爆しかねん)



 それこそ、鹵獲を狙っている爆弾に引火したら大変面倒なことになる。

 鹵獲できない云々以前に、そんな大量の火薬を暴発させること自体が危険なのだ。

 緋真もそれは理解しているようで、今回はあまり広範囲に炎を撒き散らすつもりは無いようだった。

 しかし、それはそれで困ったことにもなる。威力を底上げしていない【咆風呪】では、デーモンのHPは完全には削り切れないのだ。

 とはいえ、威力を底上げするために《練命剣》を組み合わせるよりは、《蒐魂剣》を使って魔法の発動を阻害した方がリスクは少ない。

 ここは堅実に攻めていくべきだろう。



「《練命剣》、【命双刃】」



 左手に生命力の刃を生み出して、悪魔の陣地の中へと突入する。

 目標を定める必要もない。手あたり次第、攻撃の届く相手へと刃を振るえばいいだけだ。

 ただのデーモンならば軽く一撫ですれば、そしてアークデーモンであれば――



「――『生奪』」



 斬法――剛の型、刹火。


 テクニックを使用しない、スキルによる攻撃で事足りる。

 敵が咄嗟に振るった腕を掻い潜りながらの一閃は、その体を胴から真っ二つにした。

 僅かに残った命は【咆風呪】の闇が奪い尽くし、アークデーモンは枯れ落ちるように消えてゆく。

 動き自体は確かに訓練を受けたものではあるが、純粋なステータスの面ではやはりそれぞれの種の限界を出ないようだ。



(……やはり、まだ節約しているか)



 エインセルは、兵器と作戦を用いることで運用するリソースを抑えている。

 その理由は定かではないが、エインセルにとって今はまだ消耗を増やす状況ではないということだろう。

 まあ、向こうがまだ本気でないならそれでもいい。

 今はただ、こいつらの動きを鈍らせることだけが目的なのだから。



「アリス、グレーターデーモンは担当するか?」

『ちょっと資材っぽいものを見つけたから、先にそっちの対応をするわ。そっちで好きにして』

「了解だ、それなら――」



 歩法――烈震。


 暗闇の中、周囲へと指示を飛ばしているらしいグレーターデーモンへと向けて駆ける。

 闇の中でも見通しているらしきその悪魔は、こちらの接近には気付いたものの銃口は向けられていない。

 こちらのスピードに、射撃への移行が間に合わないと判断したのだろう。

 かと言って魔法を発動することもできず、相手はすぐさま肉体の変異によって防御を固める。

 それは、決して悪い判断ではないだろう――



「《練命剣》、【命輝練斬】」



 尤も、足を止めた時点でこちらにとってはいい的だが。

 腕を盾のように変異させたグレーターデーモンであるが、俺はその盾へと足を着けて踏みつけながら頭上へと跳躍した。

 下向きの力によって体が前のめりに崩れ、その身はバランスを崩す。

 その様子は、まるで斬首のために首を垂れているかのようだった。


 斬法――柔の型、襲牙。


 その首筋へと向けて切っ先を振り下ろし、体を内部から破壊する。

 威力を底上げされた一撃には耐えられる筈もなく、グレーターデーモンはあっさりと絶命することとなった。

 その様子を見届けることなく、俺は次なる標的へと向けて走る。

 制限時間は暗闇が晴れるまで。先ほどよりも効率的には動けない以上、急いで次へと向かう必要があるだろう。

 さあ、どこまで目標を排除できるか――やれるだけやってみるとしようか。











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