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848:僅かな可能性











 情報関連はアルトリウスに任せることにしたものの、少しだけ気になっている点はあった。

 それで手間が省けるならば儲けもの、そうでなかったなら素直にレベル上げに集中するべきだ。

 そんな考えのもと、俺たちが訪れたのは、帝国の闘技場であった。

 狙っていることが至極単純、元悪魔であるロムペリアから話が聞けないか、という期待である。

 大公級に関する情報を得ることはまず不可能だろうが、公爵級ならば何かしら話が聞ける可能性はあるだろう。

 尤も、彼女が素直にこちらの問いに答えてくれるのか、という疑問はあるのだが。



「彼女、案外あっさりと貴方の提案を聞いてくれたものね」

「向こうにもメリットのある話だったし、聞く価値はあると思ったんじゃないか?」



 元々、ロムペリアが俺の提案通り、帝国の闘技場に向かったのかどうかという疑問はあった。

 対人戦闘の技術を磨くことができるとはいえ、ライバル視している俺の話を聞くものだろうか、と。

 しかし、ロムペリアは中々に柔軟な性格で、こちらの提案通りに闘技場へと参加していたようだ。


 この闘技場にはいくつかのモードがあり、純粋に自分のレベルとスキルを持ち込めるものから、一定レベル時のスキルレベル、ステータスまで戻して戦うということも可能だ。

 変わり種は以前に俺たちが参加した『龍の庭園』のようなシステムだが、あれは何かしらのイベントの時にしか開催されていないらしい。

 まあ、龍王の力が必要になるようだから、そうそう頻繁には行えないのだろう。

 ロムペリアは、現在開催されているモードに満遍なく参加しているようだが、今はレベル一定化での試合を行っていたようだ。



(経験を積め、とは言ったが……元々、あいつの戦い方は対人に向いた戦法なんだよな)



 魔力の刃を散らすことによるエリアの制圧、それによって敵の行動を制限し、併せて魔法と接近戦で追撃を行う。

 戦えば戦うほど周囲の魔力は増え、相手は更に余裕を失っていくことになるのだ。

 それに加えて、切り札となる魔眼――正直、技術が伴っていれば俺も本気を出さざるを得ない相手になるだろう。

 そんなロムペリアは、まだこの闘技場に参加し始めて間もないルーキーであるものの、あの整った容姿も相まって、既に周囲からは注目株として認識されているようだった。

 ステージ衣装なのか少し派手になっている衣を身に纏い、対戦相手を制圧したロムペリアは、澄ました顔で周囲からの歓声を受け取っている。

 ――そんな彼女へと、俺は一瞬だけ鋭い殺気を向けた。



「……流石に、気が付くか」



 俺の殺気に反応し、ばっと振り返ったロムペリアは、俺の姿を捉えて怪訝そうな表情を見せる。

 今の一瞬で気付けるほど、感覚も研ぎ澄まされているようだ。

 今のは挨拶代わりだが、果たしてこちらに来てくれるかどうか。

 試合も終わっているため、控室へと退場していくロムペリアの背中を見送り、こちらもまた席を立つ。

 流石に、あいつが観客席まで来ると無駄に視線を集めてしまう。

 会話をするなら、通路の方が望ましいだろう。



「彼女、こっちに来ますかね?」

「さてな、来てくれるなら助かるが」



 もしも先ほどのメッセージを無視するのであれば、こちらから出向かなければならなくなる。

 こちらからあいつに接触するとなると、何処に向かえばいいのか分からないのが困るところだ。

 あいつは一応現地人の枠ではあるし、どこかしらで宿を取っているのだろうが――と、そんな懸念を払拭するかのように、先程のお返しだとばかりの殺気が俺の方へと向けられた。

 視線を向ければ、半眼を浮かべたロムペリアがこちらを睨みつけている。

 何だかんだ、この女は素直な性格をしているようだ。



「よう、楽しんでいるようじゃないか、ロムペリア」

「ええ、おかげさまでね。今度はそちらから挑みに来たのかしら?」

「昨日の今日で変わっていると言うのなら試合をしてもいいが……そうでないなら、こちらの方が有利だぞ?」



 先日はロムペリアの初見殺し的なスキルがあって、その上で俺が勝利したのだ。

 既にいくつかの種が割れている状況では、俺が一方的に有利なだけである。

 それに関してはロムペリアも同意見だったのか、舌打ちしながら視線を逸らした。

 流石に、そんなにすぐ強くなれるほど、勝負の世界は甘くはないのだ。



「それじゃあ、何の用かしら?」

「知りたいことがあってな。知っている範囲のことでいいから、教えて貰いたいんだ」

「私に聞きに来たってことは悪魔関連でしょうけど、素直に答えると思ってるの?」



 割と答えそうだなという思いはあるものの、それが伝わるとヘソを曲げそうであるため口には出さない。

 軽く嘆息した俺は、インベントリから取り出したアイテムをロムペリアへと放り投げた。

 それを受け取ったロムペリアは、眉根を寄せてこちらを睨みつける。



「……何かしら?」

「エルダードラゴン――時空属性の真龍の鱗片だ。攻撃を遮断する防御アイテムとか、何かしらに使えると思うぞ?」

「貴方、とんでもないものを突然渡してくるわね」



 ぎょっとした表情で鱗の欠片を見下ろすロムペリア。

 俺たちの装備に使った余りではあるが、それだけでも十分に効果を発揮できるだろう。

 まあ、エルダードラゴンの領域は既にプレイヤーに知れ渡っているため、決して手に入らないアイテムでもない。

 報酬の中でも鱗は最低限の素材であるため、いずれは手に入りやすくなるだろう。



「はぁ、まあいいわ。前払いで渡されたら話さないわけにもいかないし……それで、何を聞きたいのかしら?」

「公爵級第五位、ローフィカルムについて。知っていることを教えて欲しい」

「……あの方、動き始めたの?」



 俺の問いに対し、ロムペリアは片眉を上げた怪訝そうな表情でこちらを見つめ返してくる。

 どうやら、知っていることはあるらしいが、何やら意外そうな表情だ。

 その表情の理由を知るためにも、ロムペリアへと視線で先を促す。



「……第五位、ローフィカルム様。あの方は、私でも敬意を抱いている相手よ」

「珍しいな。ディーンクラッドが相手でもそんな反応はしなさそうだったが」

「ええ、そうね。基本的に、他の悪魔は好かないわ。けど……あの方は悪魔でありながら、探求心を持っていた。操る魔法は、自己研鑽の果てに身に付けたものよ」



 ロムペリアの言葉に、思わず眼を見開く。

 それは、通常の悪魔たちにはあり得ない性質。

 悪魔は生まれた時点で完成しており、自己研鑽という方法での成長は行わない筈だ。

 その例外こそがロムペリアであり、だからこそ彼女は悪魔という存在から逃れ、人間へと変化したのである。



「勿論、リソースの総量は変わらないわ。それに、元々の性質から逃れられるわけでもない。けど――新しい呪文を覚える、組み合わせを考察する、その精度を高める……その程度のことはできるわ」

「ローフィカルムは、そうしてあの数多の魔法を習得したのか」

「それに、あの方はあまり、悪魔としての性質にもこだわりがないわ。魔王が現れても、まるで動き出そうとする気配が無かった」

「……さっきの反応は、それが理由か」



 魔王たるマレウスは、悪魔たちに明確な指針を示している。

 だからこそ、ディーンクラッドやデルシェーラは動き始めたし、ドラグハルトは反旗を翻したのである。

 しかしながら、ローフィカルムはそれに反応を示すこともなく、自らの活動を続けていたのか。

 ロムペリアが最後に見た様子がそれならば、先程の疑問も当然と言えるだろう。



「貴方がこのタイミングで遭遇したということは、エインセルとの戦いに介入しているということよね。でも正直なところ、あの方がエインセルに従う理由が分からないわ」

「ふむ……突然の遭遇で戦いになったが、もっと会話をすべきだったか」



 いきなり目の前に現れたためつい攻撃してしまったが、情報を引き出すならその方が良かったかもしれない。

 ローフィカルムは、果たしてどのような思惑で戦いに介入しているのか。

 『義理は果たした』という発言もあったし、あまり積極的に戦うつもりは無いのかもしれない。



「それ以上のことは、正直分からないわね。私も、直接会話したことは殆ど無いから」

「そうか……いや、だが十分な情報だ。感謝する」

「礼は要らないわ、報酬は貰ったから。次の勝負、期待しているわよ」



 それだけ言い放つと、ロムペリアはさっさと踵を返して去って行ってしまった。

 機嫌は良さそうな様子であるし、早速あの鱗を加工しに行くつもりなのだろう。

 さて――



「……新情報ではあったが、あまり参考にはならんかもしれんな」

「性格的な面のはなしだったしね。むしろ謎が深まったし」

「ふむ。とりあえず、アルトリウスに話だけは通しておくかね」



 いかなる理由か、戦いに姿を現したローフィカルム。

 その思惑は、果たしてエインセルのそれと噛み合っているのかどうか。

 妙に複雑化してきた状況に、思わずため息を零すこととなったのだった。











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