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844:防衛のために











 件の悪魔と遭遇したその翌日。

 ログインした拠点は、流石に敵に攻め落とされているということは無かった。

 致し方のない話ではあるが、寝ている間に一日以上経ってしまうのは中々に不安な点だ。

 時間の進みが違う点は、便利なところもあれば不便なところもある。

 夜が手薄になってしまうところは、異邦人プレイヤーの明確な弱点であると言ってもいいだろう。



「さてと……ふむ」



 状況の確認のためメールの画面を開き、予想通り来ていたアルトリウスからの連絡を確認する。

 その内容に目を通し――俺は、思わず眼を見開いた。

 添えられるように届いていたエレノアからの連絡も、どうやら同じ内容が書かれているようだ。



「成程……また思い切ったことを」



 相変わらずの突飛な作戦に、呆れを交えつつも感心する。

 確かに、これであればある程度の問題は解決できる。

 後は、こちらがどれだけ、敵側の情報を引き出すことができるかだろう。

 それはそれで中々に大変なのだが、まあやるだけやってみるしかないか。



「『キャメロット』の方から連絡ですか?」

「ああ、こちらの防衛方針についてな。後は……ここで採れた鉱石の解析結果についてか。やはり火薬の原料みたいなもんだったな」



 尤も、正確に言えば火薬ではない。

 ここで採取できるのは、粉末状にすることで急速な燃焼速度を発揮するようになる鉱石だ。

 これを原料として組み合わせることで、エインセルは爆薬を作り上げているのだろう。

 その辺りの解析はエレノアたちに任せることとして――こちらは、こちらでやるべきことをこなすとしよう。



「とりあえず、今日も狩りに出るぞ」

「え、ここで防衛じゃないんですか?」

「いつ来るのかも分からんような敵を相手に待っていても仕方ないからな。やれることをやっておくだけだ」



 尤も、あまり拠点から離れすぎない程度にはしておくのだが。

 問題なのは、敵が転移魔法を扱えることだろう。

 知っている範囲内の月属性魔法であればそこまで便利な転移魔法は無い。警戒すべきは【フェイズムーン】程度だろう。

 だが、あの悪魔はもっと高度な魔法を習得していても不思議ではない。

 突然、このエリアの中心に集団で出現したとしても不思議ではないのだ。



「待っていても事態は好転しない。なら、こっちから見つけ出して敵の出鼻を挫いた方が建設的だ」

「見つかるかも分からないのに、それも厳しいと思うんですけどね……」



 懐疑的な様子の緋真ではあるが、その言葉も尤もではある。

 正直、隠密行動をされた場合はその動きを捉えることは困難だ。

 向こうからアクションを起こして貰わないことには、それを発見することは困難だろう。

 だが――



「とりあえず、道中で話をする。問題はないってことだ」

「はあ……まあ、それならいいですけど」



 首を傾げたままの緋真を連れて、拠点の外へと向けて足を踏み出す。

 さて、敵はどのように動いてくるか――その反応次第で、やり方を変える必要があるだろう。











 * * * * *










 そこそこに魔物を狩ったものの、未だレベルが上がる気配は無く。

 《神霊魔法》のレベルぐらいは上がって欲しかったところなのだが、そうそう簡単にはいかないようだ。

 今のところ、悪魔からのアクションがある様子はない。

 果たして、奴らは本当に仕掛けてくるのかどうか――そもそも、あの老婆の悪魔は何の目的で姿を現したのか。

 何もかもが謎のままでは動きづらい。せめてもう少し、あの悪魔に関する情報が必要だ。



(公爵級でなかったとしても、転移使いというだけで厄介なことこの上ないからな……)



 遠距離を一瞬で移動できる転移系の呪文はそれだけで厄介だ。

 昨日遭遇した時、あの悪魔は複数の味方を連れたまま転移を使って撤退していった。

 それはつまり、最低でもある程度の集団で転移することが可能だということだ。

 何かしらの制限があるのかどうかは不明だが、転移による戦力の輸送は脅威であると判断せざるを得ない。

 それに加えてさらに公爵級などと言う話になれば、単体で一つの軍が転移してくるのと同じである。

 その場合、最悪の脅威であると判断しても過言ではないだろう。



「よし、次だ次」

「そろそろ素材も溜まってきましたし、一回精算したいんですけどね」

「邪魔なら拾わんでもいいだろう、金に困っているわけでもないし」

「何に使えるか分からないからね、この辺りの素材って」



 強力な魔物の素材であれば回収して装備に使うという選択肢もアリだが、その辺で出現する程度の雑魚ならそこまで気にする必要もないだろう。

 正直、この辺りの魔物の素材では、俺たちにとっては金稼ぎ程度にしかならない筈だ。

 小さく嘆息し――俺は、餓狼丸の切っ先で方角を示しながら声を上げた。



「シリウス」

「グルァアアアアアアッ!!」



 直後、裂帛の咆哮と共に放たれる《ブラストブレス》。

 木々を薙ぎ倒しながら大地を蹂躙するそれは、僅かに反応を見せた方角を飲み込んで切り刻む。

 正確な位置を探る必要もない。相手を捕まえることがまず不可能であるならば、ある程度の目算でぶっ放してしまえば済む話だ。

 こちらがアクションを見せて悪魔が逃げたとしても、元から追い払うことが限度ならばそれで問題はないのである。



(だが……やはり、防ぐか)



 魔法とスキルで餓狼丸に強化を施しながら、遠くに見える魔力の気配へと目を凝らす。

 距離があり、威力が減衰しているという点もある。

 だがそれ以上に、展開された魔法がシリウスのブレスによる攻撃を防いでいた。

 絶大な破壊力を誇るブレスであるが、ある程度距離で減衰はする。

 それでも、ただの悪魔程度は容易に斬り刻める筈だが――



(……何のために出てきた?)



 疑問はあるが、千載一遇のチャンスでもある。

 俺はシリウスのブレスが途切れると共に地を蹴り、展開されている防御魔法の光の方へと走り出した。


 歩法――烈震。


 足場は酷く悪いが、木々が消えているため駆け抜けるのに不足はない。

 前回とは違い、強化を施した状態の餓狼丸。

 刃を寝かせた八相の構えにて刀身の長さを隠し、悪魔の元へと駆け抜けていく。



「『奪魂命斬』」



 構えるは、鋭く研ぎ澄まされた《蒐魂剣》の刃。

 たとえいかなる防御であろうとも、それが魔法によるものである以上、この刃で斬り裂けない筈がない。

 その確信と共に飛び込んだ先のエリアにて――夜空の如きローブを纏う影が、悪魔たちの後ろに控えて待ち構えていた。



(誘われたか、だが――)



 どうやら、この悪魔が俺たちが気付くことを前提に姿を現したらしい。

 その上で俺たちを誘い込み、倒すつもりでいるのだろうか。

 奴の意図の先までは読めないが――



「――戦う気があるなら、望むところだ!」



 斬法――剛の型、輪旋。


 大きく振るった刃が、展開されていた防御魔法を打ち砕く。

 その先にいる悪魔たちは、これまでのデーモンとは異なり、アークデーモンやグレーターデーモンで構成された部隊だ。

 だが、エインセルの兵器の類は携行しているようには見えず、どうやらあの老婆の悪魔が従えているものであるらしい。

 コイツがエインセルとどの様な関係であるのかも謎だが――まあいい、戦う気があるなら受けて立つとしよう。



「折角の殺し合いだ、名乗りぐらいは上げたらどうだ、爵位悪魔!」

「何ともまぁ、威勢の良いことだね。竜心公のことを思い出すよ」



 帽子の下で口元を歪めながら、老婆はそう告げる。

 ドラグハルトのことを知るその発言に、俺は内心で警戒を高めることとなった。

 奴のことをよく知っているということは、つまり――



「では、要望に応じて名乗るとしようか……儂はローフィカルム。公爵級第五位、夜天の魔女ローフィカルムだ。良く覚えておくことだね、特異点たる英雄の坊主」



 想像はしていたが、最悪に近いパターン。

 だが、その可能性は十分にあったため、動揺することはない。

 必要なのは、少しでもこの悪魔の情報を集めること。

 そのためにも――



「加減は無しだ――貪り喰らえ、『餓狼丸』ッ!」



 まずは本気で、コイツの従える悪魔たちを片付けることとしよう。











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― 新着の感想 ―
公爵級第五位かぁ。撃破出来なくても削る位はしたい。かなり難しいけど。 こうしてみるとドラグハルトってまともな悪魔なんだなぁ。
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