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838:状況推移











 坑道を制圧してアルトリウスに連絡を入れたところ、どうやら俺たちが最後であったらしい。

 流石に時間をかけ過ぎたかとも思うが、性急に進めていたら失敗していた可能性も高い。

 結果として無傷で施設を手に入れることができたのだから、大成功だと見ていいだろう。



「しかし、編成には多少言いたいことはあるぞ? 坑道の規模がそれほど大きくなかったから何とかなったが、もう少し広ければ俺たちだけじゃ手に負えなくなっていたところだ」

『すみません、こちらの調査不足でしたね。ですが、それでも完全制圧を成功させたのは流石としか言えません』

「成功したからいいものの……で、他のところはどんな調子だ?」



 ここ以外にも、いくつかの拠点を制圧するために動いていた。

 軍曹が動いていた以上、下手な仕事はしていないだろう。

 だが、あの男とてすべて同時に手を回せるわけではない。

 果たして、作戦はどこまで上手く行っているのか――その疑問に、アルトリウスは軽く苦笑を交えながら答えた。



『完璧に、とはいきませんでしたね。同様の鉱石資材入手場所のうち、二つを崩落させられました。制圧自体は成功していますが、復旧は困難でしょうね』

「第一目標は達成できたが、ってわけか。悪くはない結果なんだがな」



 まず第一の目標は、エインセルの資源確保手段を断つこと。

 そのための複数拠点同時攻撃であるし、その目的自体は達成できたと言ってもいい。

 しかしながら、こちらに利用できる状態で確保するということまでは達成しきれなかった。

 やはり、あのゴーレムのような爆破手段が用意されていたということだろう。

 残念ではあるが、とりあえずの目標は達成できたわけだし、良しとしておくか。



「何にせよ、エインセルの資源確保手段を断つことはできた。なら、次はどうする?」

『エインセルの動き次第ではありますね。まず、ドラグハルトとの戦場をどうするのかによって変わります』



 エインセルは現在、ドラグハルト達と戦闘中だ。

 本格的な戦いに至っているわけではないが、徐々に戦闘は激化してきている。

 その状態で後方を荒らされたエインセルは、果たしてどのように動くのか。



『戦線を引き、体勢を立て直す動きを見せるのか。或いは、このまま戦線を維持しようとするのか。それによってこちらも対応を変える必要がありますね』

「エインセルは、採掘した資材は自分たちの拠点に運び込んでいたようだが」

『ええ、それは他の採掘所でも確認しています。であれば、エインセルはしばらくの間戦闘の継続が可能でしょう。その余裕がある期間を使って素早くドラグハルトを打倒しようとするのか、或いは再び採掘所を奪還しようとするのか……』



 エインセルの戦い方には余裕がある。

 多少の負けを喫したとしても、立て直せるだけの下地が存在しているのだ。

 だからこそ、未だに出方が見えてこない。エインセルという大公の戦い方を推察するには、未だ情報が足りないのだ。



『ただどちらにしても、エインセルが採掘所を放置しておく可能性は低いです。本格的か、片手間かの差はありますが、奪還に動くと見ておいた方がいいでしょう』

「……まあ、それだけの量の補給を一気に断たれたら放置もできんか」

『はい。つまり、奪還に来た部隊に対する防衛は必要です』



 アルトリウスは、今回確保したこのエリアに、悪魔の部隊による襲撃があると予想している。

 それがいつ頃になるかまでは不明だが、どう動くにしても遠くないうちに奪還の動きはあるだろう。

 せっかく確保した拠点だというのに、あっさりと奪い返されてしまっては面白くない。



「つまり、俺たちはここで防衛をしていろってことか?」

『それがベストではありますが、ただ待機しているだけなのも勿体ないので、交代要員が到着しましたら狩りに出て頂いて大丈夫ですよ。ただ、すぐに駆け付けられる距離にはして頂きたいですが』



 アルトリウスの言葉に成程と頷く。

 正直、いつ来るか分からない敵を警戒して待ち続けるのも効率が悪い。

 今は少しでもレベルを上げたいのだ。ただ待っているだけの時間を作ることが勿体なく思えてしまう。

 この近辺だけだとしても、狩りに出られるのなら悪くないだろう。それなりに強い敵が出現するエリアでもあるしな。



「しかし、全ての拠点を防衛できるのか?」

『崩落した拠点については、最悪防ぎ切れなくても構いません。採掘できる資材については、また別の手段を取りますから』

「逆に、採掘可能な状態の拠点については何とか維持すると?」

『はい、『エレノア商会』からの強い要望ですので……』

「……まあ、あいつならそう言うだろうな」



 ここで手に入る資源は、エインセルが使っている兵器の砲弾に使用されると思われる。

 そこまで情報が判明しているのならば、『エレノア商会』はあっさりとその製法を解明し――それどころか改良にまで乗り出すことだろう。

 あのクランには、正真正銘の研究者、技術者、そして科学者までもが軒を連ねている。

 何もゲームの中でまで仕事をしなくてもいいだろうに、とは思わなくもないが、頼りになることは間違いないのだ。



『可能であれば、今後はプレイヤーサイドで採掘を続け、同様に兵器を用いて対抗手段としたいところです。尤も――』

「このゲームの中では、兵器の存在だけでは有利にはなり得ない、か?」

『そうですね。例えば緋真さんのレベルになりますと、最早個人で兵器相当の火力を保有していますから』



 成長武器を完全解放した緋真であれば、爆撃機に引けを取らない火力となるだろう。

 トップクラスにまで成長したプレイヤーは、個々人で兵器にまで比肩しうる力を保有することになる。

 この世界においては、兵器というものはあるだけで有利になるような代物ではないのだ。

 無論、その破壊力が脅威であることは事実であるため、無視できるというわけでもないのだが。



「とりあえずの方針は了解だ。状況が動いたら――」

『ええ、真っ先に知らせます。場合によっては、早い段階でエインセルと戦うことになりますから』



 果たして、エインセルはどのような選択を取るのか。

 未だ接触したこともない大公ではあるが、少しずつその存在感が近付いてきている感覚はある。

 油断は禁物だ。どのように状況が動くか、未だ想像することすら難しいのだから。



『では、少々お待ちください。できるだけ早く、人員を送りますので』

「ああ、よろしく頼む」



 とはいえ、ここに来るのは『エレノア商会』の人員も含まれていることだろう。

 このエリアからの採掘は、エレノアたちにとっても必要な仕事である筈だ。

 エレノアにも人の配置は急いでもらわねばなるまい。



「さてと……どこまで時間の余裕があるもんなのかね」



 ちらりと視線を横に向ければ、カーゴのゴーレムを試しに動かしている緋真たちの姿がある。

 俺たちは種族関連のクエストをクリアし、新たな力を手にすることはできた。

 どれもこれも、かなり強力なスキルであることは間違いないだろう。

 しかし、それだけで大公級と正面から戦えるかと問われれば、それは否と答えざるを得ない。

 俺たちはまだまだ力が足りない。エインセルとの全面戦争の前に、もっと力を付けなくてはならないのだ。



(俺たちにとって都合が良いのは、エインセルがドラグハルトとの戦闘を継続し、かつ戦いが長期化すること。だが箱庭の稼働限界を考えるとあまり長引かせすぎるわけにもいかないし、ドラグハルトも出方を変えてくる可能性もある)



 そもそも状況が膠着した場合、資源を削られたエインセルは、拠点の奪還に本腰を上げてくることだろう。

 それはそれで、少々面倒な事態になりかねない。

 どのように動くにせよ、あまり長い間今の状況を維持し続けることはできないのだ。

 その限られた時間の中で、俺たちは少しでも力を付けなくてはならない。



「全く、無茶を言ってくれる」



 苦笑と共にそう呟いて、東の方へと視線を向ける。

 まだ手を尽くしたわけではない。やれるだけのことをこなして、近付いてくる戦いに備えることとしよう。











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