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837:全力制圧











 あれから少しの時間が経過し、次なる輸送のためカーゴが動き出した。

 今のところ、悪魔たちに襲撃を察知された様子はない。

 恐らくは、荷降ろしに時間がかかっていると判断されているのだろう。

 とはいえ、それでは長々と騙していられるわけではない。隠れた襲撃も、この辺りが潮時だろう。

 例によって付き添っていた悪魔を瞬く間に排除し、カーゴは地上へと向けて移動させる。

 先ほど行った奴が戻ってこない辺り、荷物を降ろしたら改めて移動を命令する必要があるのだろう。



(何にしても、襲撃を察知される前にこちらから仕掛けるべきだ)



 歩法――至寂。


 こちらの動きが察知されていないことを確認し、場所を移動する。

 可能な限り近い距離まで接近しておきたいところだが、どこまで身を隠して進めるかが問題だ。

 音を殺しながら進み、悪魔たちの視界に入らぬよう闇に紛れながら潜り込む。

 四体の悪魔を削ったことにより、残る悪魔は八体。それに加えて、カーゴのゴーレムが三体と掘削用ゴーレムが三体。

 カーゴについては攻撃してこないため無視していいが、掘削用の方は未知数だ。

 ドリルのようなものが付いているし、何気に殺傷性は高いと考えられる。



(懸念点となるのはあの掘削ゴーレムと、まとめ役であるアークデーモン。まあ、上位と言ってもアークデーモン程度だし、戦闘能力的にはそこまで脅威ではないが)



 どちらかというと問題なのは、そいつが指揮することで他の悪魔に動く余裕が生まれてしまうことだ。

 奇襲によって生まれた混乱を最大限に活かすためにも、指揮官の存在は邪魔になる。

 逆に、上位の役割がいなくなれば、他の悪魔にもより大きな混乱が生じるだろう。

 組織だった行動をするエインセルの悪魔ならば、それも尚更だ。

 故にこそ、まず最初に狙うべきは指揮官の悪魔だ。狩人であるアリスも、それは十分に理解しているだろう。



(位置関係は……悪くない)



 指揮官であるアークデーモンは、全体の作業を俯瞰するため少し離れた位置に立っている。

 他の悪魔は作業に動いているため、傍にいる者は存在しない。

 最初に襲う相手としては、絶好の位置関係であった。

 抜き放った二振りの小太刀を握り、静かに状況の推移を見守る。

 そして――ほんの僅かに、気配が揺らいだ。



「――――!」



 闇の中に揺れる赤い影。ほんの僅かにだけ姿を現したアリスは、アークデーモンの心臓を背後から穿ち、再び姿を消す。

 未発見状態からの攻撃に限って言えば、アリスの攻撃力は俺や緋真を凌駕する。

 その一撃は、アークデーモンを一撃で葬り去り、周囲どころか当人にすら気付かれることなく絶命させた。

 最高の幕開けに俺は小さく笑みを浮かべながら、周囲の状況を観察する。



(さて……アリスはどこまで記録を伸ばせるか)



 完全に姿を消したアリスは、次なる標的を求めて移動している。

 俺ですら気配を捉えることが困難な状態なのだ。悪魔たちに発見できる筈もない。

 外周を回るように、なるべく全体から離れた個体を狙い、刃を振るう。

 元より警戒されていない状況ならば、その刃が狙いを外すことなどあり得ない。



(……二つ)



 端にいた悪魔が音もなく倒れ、消滅する。

 こと暗殺においては、死体が消滅するという悪魔の性質は大変助かるものであった。

 直立状態のまま死んだ悪魔は、地面に崩れ落ちるよりも早く体が塵へと変わって行く。

 それは、アリスの攻撃がいかに最小で最大の効果を発揮しているかを示すものであった。



(三つ……残るは五体、だが)



 僅かに、周囲の気配が変わる。

 それは、悪魔たちが異常に気付き始めた証左であった。

 決定的なタイミングを見られたわけではないが、徐々に数が減ってきている事実に気付いてしまったらしい。

 それに気づいた衝撃がいかほどのものであるかは不明だが、何にせよこれ以上気付かれずに動くことは不可能だろう。

 ならば――確信を持たれるより先に、混乱を生じさせるべきだ。

 周囲を見渡している悪魔が、他の悪魔へと呼びかけようとした、その刹那。



「しッ」



 音もなく地を蹴り、悪魔の群れへと突撃する。

 呼びかけを行おうとした悪魔は背後からアリスに穿たれて絶命し、しかしその様子を他の悪魔が発見してしまった。

 同時、奴らは俺の存在を察知して、状況を把握しきれぬままに警戒態勢を取る。

 だが、その時には既に、俺は二体の悪魔のすぐ傍にまで肉薄していた。



「『生奪』」



 黄金を黒が覆い隠し、二振りの刃が僅かな軌跡だけを暗闇の中に残す。

 その双閃は、状況を把握しきれていない二体の悪魔の首を斬り飛ばし、闇の中に消失させる。

 残るは二体。ようやく事態を把握し、戦闘態勢に入ろうとしていたが――最早、問題になどなり得ぬ数だ。


 歩法――縮地。


 スライドするように一体の悪魔に肉薄する。

 間合いを惑わせ、いつ近付いたのかも理解できぬまま、目の前に現れた俺に困惑し――


 斬法――柔の型、断差。


 刃の擦れる音と共に、悪魔の首はボールのように斬り飛ばされた。

 溢れる血の中で崩れ落ちながら消滅する悪魔。

 塵と化すそれを尻目にもう一体へと視線を向ければ、そちらはアリスによって心臓を穿たれ、膝から崩れ落ちるところであった。

 悪魔の方は良し。問題は残るゴーレムたちだが――



「……やはり、そうそう都合良くはいかんか」



 カーゴの方は前と同じく大人しい様子。

 だが、掘削用の方についてはそうもいかなかったようだ。

 頭と思われる球体、そのカメラ部分が赤く光り、こちらの姿を捉えている。

 相変わらず意志などは感じられないが、それが攻撃を仕掛けようとしていることは容易に把握できた。



「《練命剣》、【命輝練斬】」



 幸い、この場はそれなりに広い。餓狼丸を振り回すだけの余裕はある場所であった。

 カメラの赤い光と共に、こちらへと近づいてくるゴーレム。

 ドリルの付いたその腕部は、生憎と受け止めることも受け流すことも難しいだろう。


 斬法――剛の型、迅雷。


 故にこそ、一撃で破壊する。

 一歩の踏み込み、それと共に解き放った神速の一閃は、強固な金属のボディに突き刺さり、その身を逆袈裟に斬り捨てる。

 ズレ落ちたその身を踏みつけて念入りに破壊しつつ、次なる個体へと視線を向ける。

 アリスが一体は受け持ってくれているから、俺が破壊すべきはもう一体だ。

 味方が破壊されたことを見て、カメラの赤い光を明滅させ始めたゴーレム。

 その様子に嫌な予感を覚え、舌打ちと共に地を蹴った。



「自爆の兆候じゃないだろうな……《練命剣》、【煌命撃】!」



 可能な限り生命力を圧縮し、柱と化す餓狼丸のサイズを縮める。

 流石に、自爆されてしまえばただでは済まない。それだけは確実に止めなければ。

 明滅の速度が速くなっていくゴーレムだが、動き自体は止まっている。

 逃げる様子もないそれに大きく踏み出した俺は、正面から柱と化した餓狼丸を振り下ろした。


 斬法――剛の型、中天。


 真正面から小細工なしに振り下ろす、全力の一撃。

 その一閃は、四脚に上半身が付いたような形状のゴーレム、その頭の上から叩き付けられた。

 頭部からぐしゃりと潰れ、四脚は押し広げられるように地面へと叩き付けられ、部品が粉々に弾け飛ぶ。

 幸いなことに、派手に破壊したからと言って、それが爆散するようなことは無かった。



「もう一体は――」



 アリスにとってゴーレム系はあまり相性が良くない。

 倒すのに手間取るようであれば手を貸さなければならないだろう。

 そう考えて視線を向けた先では、赤い刻印を刻まれたゴーレムに刃を突き刺すアリスの姿があった。

 どうやら、強制的に弱点を生み出して、最大の攻撃力を発揮したらしい。

 威力そのもので言えば十分すぎるほどに高いアリスの一撃は、頑丈なゴーレムとて耐えきれるものではなかったようだ。



「ふぅ……スマートに殺せるのは流石だな」

「自爆しそうだったのは肝を冷やしたけどね。とりあえず、これで仕事は完了よ」



 敵の姿、気配が無いことを確認し、安堵の吐息を吐き出す。

 とりあえず、アルトリウスからの依頼は果たしたが、後方の人員がここを確保するまでは留まる必要があるだろう。

 一先ずはいい結果を得ることができたが、まだ気を抜くわけにはいかない。

 他の場所がどうなったのかの確認も含めて、アルトリウスに報告することとしよう。











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