829:獄卒変生
書籍版マギカテクニカ、第11巻が12月19日(木)に発売となります!
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一瞬だけ視界が暗転し、開かれた視界に映し出されたのは大きな仏像の姿。
先ほど見た鬼神の姿と変わらぬそれは、何一つ変わることなくその場に佇んでいる。
どうやら、俺は先ほどいた場所に戻って来たらしい。見渡してみれば、クエストが終わるまで待っていたらしいアリスが立ち上がり、こちらへと近寄って来た。
「お疲れ様、成功したのかしら?」
「ああ、何とかな。ちょいと面倒臭い内容ではあったが」
アリスの言葉に頷きつつ、左腕を見下ろす。
そこにはあの時巻き付いてきた黒い鎖の姿は無い。しかし、ステータスを確認すれば、確かに新たなスキルの名前が刻まれていた。
《獄卒変生:黒縄熱鎖》――単純に言ってしまえば、あの黒い鎖を操る能力なのだろう。
「無事、新しい種族スキルも手に入った。俺の方は目的達成だが……緋真はまだやってるようだな」
「一緒にいなかったの?」
「ああ、俺は俺一人でクエストのエリアに飛ばされた。緋真もそうなんだろう」
向こうの様子を確認できないためはっきりとは言えないが、恐らくは同じような内容のクエストに挑んでいるのだろう。
とはいえ、相手をしている存在まで一緒であるとは限らないが。
俺が手に入れたスキルには『黒縄熱鎖』という名前が付けられている。
要するに、これは黒縄地獄にちなんだスキルということだろう。
即ち、他の地獄に関連するようなスキルも存在している可能性が高い。
(緋真なら焦熱地獄かね……まあ、それは後で聞けばわかるか)
まあスキルの由来はともあれ、使えるものであるなら問題はない。
俺がに入れたスキルは、その説明文を読む限りは、あの鬼が使っていたものとほぼ同一だ。
尤も、あれほど自由自在に操れるわけではなく、ある程度の制限はあるようだったが。
恐らく、俺に与えられた鎖が一本だけだったからだろう。あの鬼のように、無数の鎖を操るというわけにはいかないようだ。
「ふむ……アリスのスキル程、強力ってわけではなさそうだな」
「私のはそれだけ消費も激しいけどね」
「性能に見合ったコストだと言えばその通りなんだがな」
アリスの手に入れた《月光祭壇:闇月》は、実に強力な効果だった。
それに比べると、《獄卒変生:黒縄熱鎖》はある程度見劣りすると言わざるを得ない。
とはいえ、こちらは殆どコストを消費しないスキルだ。制限こそあるものの、使うことによってこちらのリソースを削られることはない。
まさに一長一短といったところだろう。
――そんなことを考えている間に、動く気配が一つ増えた。
「向こうも終わったか」
「無事……なのかしらね? こっちだと一歩も動いてないから分からないけど」
仏像の前で微動だにしていなかった緋真が、きょろきょろと辺りを見渡している。
どうやら、緋真の方もクエストは終了したらしい。
じっと左手を眺めているその姿を見るに、どうやら向こうもクエストを達成することができたようだ。
と――そこで、こちらの様子を見守っていた遼悳がこちらに声をかけてきた。
「どうやら、無事修行を終えられたようですね」
「遼悳殿。鬼神様への拝謁の機会を頂き、感謝を申し上げる」
「いえ、貴方たちは資格を持っておられた。拙僧が行ったことは、単なる道案内だけですとも」
手を合わせる遼悳の言葉に、こちらも深く礼を返す。
戻って来たばかりで状況を把握しきれていない緋真も、分からないなりに同調して頭を下げていた。
「どのような試練であったかは問いますまい。それはいずれ、拙僧自身が目の当たりにすべきもの。どうか貴方は、貴方の為すべきことを」
「……ご協力、感謝する」
この寺に集まっている者は、基本的には求道者が多いようだ。
自らを高めることこそが目的であり、果てへの近道を求めているわけではないのだろう。
そのストイックな在り方は嫌いではない。武を極めんとする者として、彼らの理念には敬意を抱くべきだ。
結局、その後で二、三程会話をし、俺たちは陸魂寺を後にすることとした。
用事が済んだというのもあるが、遼悳がさっさと修行に戻りたそうにしていたからだ。
どうやら、俺たちのクエスト達成に当てられてしまったらしい。
内心では苦笑しつつ陸魂寺を後にし――改めて、新たなるスキルの効果を確認する。
「緋真、そっちが手に入れたのも《獄卒変生》か?」
「はい、そうですね。やっぱり同種の別スキルが配布されるって感じですか」
予想通りというかなんというか、鬼神が渡してくるスキルは《獄卒変生》で統一されているらしい。
とはいえ、俺の予想が正しければ、同じ《獄卒変生》でも効果は全く異なるだろう。
その確認のためにも、お互いに手に入れた力の効果を精査することとしよう。
「まず、発動すると効果は一時間持続、効果終了後のクールタイムは二十四時間」
「それはこっちのスキル……《獄卒変生:焦熱烈火》も同じですね」
「よほど長い戦闘でもない限り、一度の戦闘中は持続するわね」
この性質については同じ――つまり、ここまでは基本的な仕様であると考えられる。
随分と長いクールタイムではあるが、感覚的には一日に一度使用できると考えておけばいいだろう。
効果時間はそれなりに長いし、強敵との戦闘に使うには十分だ。
「こっちの《黒縄熱鎖》は、発動すると左腕に鎖を出現させる。伸縮は自在で、射程は二十メートル程度か」
「それだけ聞くとシンプルだけど……どんな操作性なの?」
「そこは、使ってみないことにはな。まあ、試してみるとするか……ん、発動条件は種族スキル発動中とな?」
どうやら、鬼人としての力を発揮していなければ効果を発動できないらしい。
それ自体は構わないのだが、もしも発動中に《夜叉業》を解除できなくなるなら気を付けなければならないだろう。
ともあれ、物は試しだ。スキルを発動してみることとしよう。
「《夜叉業》、《獄卒変生:黒縄熱鎖》!」
額から魔力の角が伸び――《獄卒変生》の発動と共に、それが物理的な質感を得る。
それと共に、俺の左腕にはどこからともなく出現した黒い鎖が巻き付いた。
まるで蛇のように蠢くそれは、確かにあの鬼が使っていた黒い鎖である。
「ふむ……重さは特になし、動きの邪魔にはならんか」
「操作性はどんな感じですか?」
「そうだな、あの鬼が使っていた感じだと――」
頷き、鎖の動きに意識を向けてみる。
すると、鎖は俺の考えた通りに動き始め、その先端を空中へと伸ばした。
動きにイメージを反映するためのタイムラグはかなり短い。
ほぼほぼ、意識した通りに動かすことが可能だろう。
とはいえ、動かすことに意識を割かなければならないため、慣れるには多少時間がかかりそうだが。
「これは便利そうだが、反復練習が必要そうだな……一日一時間しか使えないのは中々困るぞ」
「そんなに使えそうなの?」
「そうだな、たとえば――」
首を傾げるアリスに、俺は軽く笑みを浮かべつつ近くにあった木へと鎖を伸ばす。
イメージ通りに飛翔した鎖は太い枝へと巻き付き、俺は即座に鎖を縮めた。
瞬間、鎖に引かれた俺の体は空中へと飛び上がり――軽く《空歩》で調整しつつ、枝の上へと降り立った。
鉤縄でも似たようなことをやっていたが、こちらの方が遥かに使い勝手がいい。
鎖の伸縮で大きく加速もできるし、敵に張り付くには便利な代物だろう。
「相手を拘束するだけじゃなく、移動にも使える。それに、拘束した相手には防御力低下のデバフを与える。便利で扱いやすい能力だな」
とはいえ、先ほど言った通り、ある程度の習熟は必要だ。
積極的に使って慣らしておきたいところなのだが、クールタイムという制限が邪魔をする。なんとも、勿体ない状況であった。
枝から飛び降りて鎖を元に戻しつつ、緋真の方へと視線を向ければ、向こうも既に《夜叉業》を発動して準備を完了させていた。
「こっちのスキルはもうちょっと単純ですけどね。《獄卒変生:焦熱烈火》!」
鋭く囁くスキルの発動と共に、緋真の左腕が赤黒い炎に包まれる。
普段のものよりもどこか暗い色のそれは、普段の炎の色を見慣れている側からすると少々違和感のあるものだった。
特に熱などを感じた様子もない緋真は、掲げた腕を眺めてから視線を前方へと向ける。
そして次の瞬間――緋真は特に何か動きを見せるわけでもなく、前方の空間に赤黒い炎の爆発を発生させた。
「スキルの発動中は、起点指定でこの炎を発生させることが可能。視界が通っていればどこでも行けるみたいですね」
「詠唱もなく使えるのか?」
「多少のクールタイムはありますけど、詠唱はありませんね。それと、直接触れても効果はあるみたいです」
「ふーん……それ、篝神楽で吸えるのかしら?」
単純ながら便利な能力に感心していたところで、アリスが口に出したその言葉に、俺と緋真は思わず眼を瞠る。
確かに、赤龍王の力を持つ篝神楽ならば、地獄の炎であろうとも吸える可能性はある。
恐る恐ると言った様子で緋真は篝神楽を抜き放ち――その刀身は、左手に宿る地獄の炎を確かに吸収していた。
「ほう……つまり、篝神楽のスキルに《焦熱烈火》の炎を組み合わせて使えるのか」
篝神楽は吸収した炎を刃として発生させる能力を持つ。
その際に発する炎は、吸収した炎の性質を残したまま出現するのだ。
つまり、この地獄の炎についても、同じく効果を残したまま発動する可能性がある。
そして、この地獄の炎が持つ性質は――
「《焦熱烈火》は確定で敵に『火傷』の効果を与えます。ダメージの発生と攻撃力ダウンですね。射程が短いのが玉に瑕でしたが……篝神楽を組み合わせられるならもっと使い易くなるかも」
「二人とも、使い勝手は良さそうね。私のはしばらく使うタイミングはなさそうだけど」
「お前のスキルは、使うタイミングがあったらかなり追い詰められてるってことだからな……」
「別に、攻めに使ったっていいと思うのだけどね」
嘆息するアリスの姿に、軽く苦笑を零す。
さて、これらが大きなプラスとなるのかどうか――せっかく発動したのだから、効果時間が過ぎるまではその習熟に努めることとしよう。
■アバター名:クオン
■性別:男
■種族:羅刹族
■レベル:137
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:100
VIT:60
INT:70
MND:40
AGI:50
DEX:40
■スキル
ウェポンスキル:《刀神:Lv.58》
《武王:Lv.29》
マジックスキル:《昇華魔法:Lv.72》
《神霊魔法:Lv.44》
セットスキル:《致命の一刺し:Lv.64》
《MP自動超回復:Lv.41》
《奪命剣:Lv.93》
《練命剣:Lv.93》
《蒐魂剣:Lv.92》
《テイム:Lv.100》LIMIT
《HP自動超回復:Lv.41》
《生命力操作:Lv.100》LIMIT
《魔力操作:Lv.100》LIMIT
《魔技共演:Lv.69》
《レンジ・ゼロ:Lv.9》
《回復特性:Lv.70》
《超位戦闘技能:Lv.35》
《剣氣収斂:Lv.89》
《血戦舞踏:Lv.10》
《空歩:Lv.13》
《会心破断:Lv.62》
《再生者:Lv.45》
《オーバーレンジ:Lv.9》
《三魔剣皆伝:Lv.14》
《天与の肉体:Lv.13》
《抜山蓋世:Lv.10》
サブスキル:《採掘:Lv.18》
《聖女の祝福》
《見識:Lv.36》
種族スキル:《夜叉業》
《獄卒変生:黒縄熱鎖》
称号スキル:《剣鬼羅刹》
■現在SP:42
■アバター名:緋真
■性別:女
■種族:羅刹女族
■レベル:137
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:93
VIT:50
INT:90
MND:40
AGI:50
DEX:35
■スキル
ウェポンスキル:《刀神:Lv.58》
《武王:Lv.33》
マジックスキル:《灼炎魔法:Lv.49》
《昇華魔法:Lv.45》
セットスキル:《武神闘気:Lv.36》
《オーバースペル:Lv.34》
《火属性超強化:Lv.38》
《回復特性:Lv.61》
《炎身:Lv.73》
《致命の一刺し:Lv.54》
《超位戦闘技能:Lv.40》
《空歩:Lv.42》
《術理掌握:Lv.48》
《MP自動超回復:Lv.34》
《省略詠唱:Lv.28》
《蒐魂剣:Lv.68》
《魔力操作:Lv.100》LIMIT
《並列魔法:Lv.44》
《魔技共演:Lv.44》
《燎原の火:Lv.75》
《二天一流:Lv.24》
《賢人の智慧:Lv.61》
《曲芸:Lv.9》
《臨界融点:Lv.16》
《剣技:絶景倒覇:Lv.13》
《抜山蓋世:Lv.9》
サブスキル:《採取:Lv.7》
《採掘:Lv.19》
《聖女の祝福》
《見識:Lv.35》
種族スキル:《夜叉業》
《獄卒変生:焦熱烈火》
称号スキル:《緋の剣姫》
■現在SP:58