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083:戦端開くは剣鬼の咆哮 その4












 刃と刃が重なり、火花を散らす。

 その一撃を逸らし、しかし返す一撃は空を斬っていた。

 俺が一閃を放った時には、ヴェイロンは既に後方へと移動していたのだ。

 どうやらこの悪魔、機動力に秀でたタイプであるようだ。



「ふははははっ! どうした人間! 遅い、遅いぞ!」

「……」



 背後にまで回り込んできたヴェイロンの一撃を半身になって回避し、緩く刃を振るう。

 しかし、相手の攻撃に合わせたカウンターであるにもかかわらず、この悪魔は即座に反応してみせた。

 単純に足が速いだけではなく、反応速度そのものも速い。

 成程、爵位持ちの悪魔というだけはある、中々に厄介な性質を持っているようだ。

 思えば、以前戦ったゲリュオンはどちらかというと魔法使いタイプ、しかも研究者に近い存在であったように思える。

 あちらは直接戦闘のタイプではなかったため、ああも容易く屠ることができたのだろう。



(足止めか、迎撃か――複数人パーティで戦うならば、誰かが受け持って足を止めさせ、タイミングを合わせて攻撃と言った所か)



 無論、一人で戦っている俺には選べる選択肢は少ない。

 袈裟懸けの一撃を受け流し、返す一撃を半歩後退して回避しつつ、俺は敵を分析する。

 確かに速く、厄介な敵だ。だが、そのスピードそのものには何らかのカラクリがあるように思える。

 更に言えば、剣術そのものはお粗末もいい所だ。そのスピードによって俺からの反撃に対処しているが、こいつはスピードを利用して斬りかかり、即座に離脱しているだけなのである。

 ヒットアンドアウェイであるため有効ではあるのだが、そのスピードを生かしてひたすら剣戟を重ねられた方がこちらとしては面倒だった。



「手も足も出ないか! 大口を叩くばかりで、大したことは無いではないか!」

「はぁ……」



 砂塵を巻き上げながら駆けまわるヴェイロンの台詞に嘆息する。

 その異様なスピードのカラクリは、恐らくあの足に展開されている風の渦のような魔法だろう。

 詳しい効果は分からないが、普通に走るよりも明らかに強く砂埃を巻き上げている。

 アレによって走るスピードを増している可能性は高い。



(《斬魔の剣》であれを斬るか? できなくはないが……また展開されれば同じことか。であれば――)



 首を狙ってきた一撃に、俺は軽く息を吐き出しながら左腕を掲げる。

 足元から軽く体を回転させ、フレイルのように遠心力を与えた拳の甲を、迫りくるサーベルへと合わせ――そのインパクトの瞬間に、強く拳を握り込んでいた。


 打法――鏡乱。


 ガギン、という強い音と共に、拳に僅かな痺れが走る。

 そしてその瞬間、サーベルは大きく跳ね返され、ヴェイロンは右腕から仰け反るように体勢を崩していた。



「な――」

「――《生命の剣》!」



 右手の太刀が黄金の燐光を纏う。

 そのまま振り抜いた一閃はヴェイロンの脇腹へと吸い込まれ――体勢を崩しながらも後方へと跳躍したことにより、奴の腹を少し裂いただけに終わった。

 体勢を崩しているため追撃したい所であるが、流石に10メートルも開けられると攻撃が届かない。

 俺は眉根を寄せつつ軽く左手を振り、ヴェイロンへと半眼を向けたまま声を上げていた。



「悪魔というのは能力にかまけた愚か者しかいないのか? 攻め方も剣の扱いも……雑にも程があるというものだ」



 確かに、この悪魔は速い。だが、それだけだ。

 力も無ければ、技術もない。攻撃を跳ね返す鏡乱で、あれほど体勢を崩していたのが何よりの証拠だ。

 例えルミナであったとしても、あそこまで体を仰け反らせるようなことは無かっただろう。

 まあ、所詮は男爵級の更に下位ということか。まだまだ、この程度では納得できる相手であるとは言い難い。



「ルミナの方も終わりそうだしな。そろそろ様子見も終わりにしてやろう」

「手も足も出ぬ分際で――吠えたな、人間ッ!」



 怒りの咆哮と共に、ヴェイロンが駆ける。

 やはり速い、が――それでも、動きが直線的過ぎる。

 そんなものは銃弾と大差ないだろう。出始めさえ見えていれば幾らでも対処が可能だ。


 斬法――柔の型、流水。


 ヴェイロンが放った一閃を受け流し、そのまま斜め後方へと流す。

 方向を逸らされたヴェイロンは、踏み出す位置をずらされたことによってバランスを崩し、勢い良く地面を転がっていた。

 太刀の峰で軽く肩を叩きながらそれを見送り、失笑を交えた言葉を吐き出す。



「そういう貴様は口ばかりが出るようだな。もう少し手と足を出してくれてもいいんだぞ?」

「ッ――人間がああああああッ!」



 またも直線的に突っ込んできたヴェイロンを受け流しつつ、俺はルミナの方の様子を観察する。

 黄金の光を振りまきながら駆ける彼女は、デーモンナイトを相手に互角の戦いを繰り広げていた。

 今のルミナは、剣術の基礎に沿った実に堅実な動きでデーモンナイトに対処しているようだ。


 斬りかかってきた相手の攻撃を流水で受け流し、そこに反撃の一撃を入れる。

 肉体そのものに装甲を纏っているデーモンナイト相手には、それだけでは有効打とはなっていない様子だ。

 だがそれでも、光を纏うルミナの刀は、確実に悪魔に対してダメージを蓄積させている。

 それが分かっているのだろう、ルミナは今の堅実な攻めを崩すことなく、逆にデーモンナイトは徐々に焦りを募らせている様子であった。



「もうあまり時間はかからんか。ならば――」



 斬法――柔の型、筋裂。


 再び突撃してくるヴェイロンの動きを読み取り、俺は回避と同時に刃を置く。

 紙一重の回避に反応しきれなかったのか、ヴェイロンは僅かに身を反らせるも、自ら刃に触れてその身に傷を刻んでいた。

 切っ先を向ける時間は無いが、それでも傷を与えるだけならば十分だ。



「ぐっ……馬鹿な、何故反応できる!?」

「見えているからに決まってるだろうが」



 こちとら、銃弾の飛び交う戦場を渡り歩いてきたのだ。

 弾丸の雨を回避することに比べれば、この程度は造作もない。

 俺は向かってくるヴェイロンの動きを確実に見切りながら、それに合わせて筋裂で奴の足を重点的に狙っていた。

 対応できることはできるが、それでも厄介な速さだ。少しでも削ぎ落としておくに越したことはない。

 流石に、この速さの相手に必殺の一撃を決めるのは中々に面倒だからだ。



「ふざけるな……人間が私の速さに追いつくなど、あり得るものかッ!」

「せめて当ててから言うことだな。そら、ここにいるぞ?」



 俺はひらひらと腕を広げ、ヴェイロンを挑発する。

 元より激昂していた奴はそれに耐えられるはずも無く、喚きながらサーベルを振り上げ、こちらへと疾走を開始していた。

 だが、先程からの筋裂の傷により、僅かながら動きが鈍っている。足を重点的に傷つけられ、その痛みが奴の動きを阻害しているのだ。

 これまでの様子から観察するに、ヴェイロンの攻撃は、殆どが振り下ろしと突きの二択だ。

 突きに関しては回避は楽だが反撃はしづらい。だが、それが袈裟懸けの一閃であるならば――



「――頃合いだ、それを待っていたぞ」



 斬法――柔の型、流水・逆咬。


 ヴェイロンの攻撃に合わせて振るった俺の一閃は、その攻撃に合流し――その軌道を変えて上段へと跳ね上がる。

 その急激なベクトルの反転に耐え切れず、ヴェイロンの手にあったサーベルは、空高く弾き飛ばされていた。

 突然手の中から消えた武器に、ヴェイロンは呆然と硬直する。

 そして――その一瞬こそが、俺の待ち望んでいた瞬間だった。



「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

「――――っ!?」



 間近で放たれた殺気に、ヴェイロンは更に硬直する。

 その瞬間、俺は奴の足元へと強く右足を踏み込んでいた。

 刹那、爆発のような音と共に、踏み込んだ足元が爆ぜ割れる。その衝撃によってヴェイロンは体勢を崩し――そこに、踏み込みの力の全てを込めた一閃を叩き付けていた。


 斬法――剛の型、白輝。


 それは神速の速太刀。相手の体勢を崩したところに放つ、回避不能の一閃。

 故にこそ、これは実戦的に使える術理の内、最強と名高い久遠神通流にとっての切り札の一つ。

 その一撃は、反応の間すら許さず、ヴェイロンの肩口へと叩き付けられ――その身を、斜めに両断していた。



「か……ッ!?」



 その名の通り、閃光とも称される一太刀。流派によっては『雲耀』とも名付けられる一撃だ。

 その一撃を振り切り、俺は静かに残心を取っていた。

 ヴェイロンは目を見開き、その口から緑の血を溢れさせ――ゆっくりと、斜めにずれながらその場に崩れ落ちる。

 どうやらまだ息はあるようだが、体を真っ二つにされてまで生きていられるような生物ではないらしい。



「貴様程度には惜しい業だが……折角の合戦だ、派手な術理も悪くはない」

「く……か、は……!」

「軽い首だが、これで終いだ」



 肩から脇腹にかけて両断されたヴェイロンの上半身へと近づき、その首へと刃を振り下ろす。

 最早抵抗の余地はなく、その首はあっさりと斬り飛ばされていた。

 地面を転がった悪魔の首級は、しかし俺が掴み取る前に、黒い塵となって崩壊する。

 それは残った体も同様であり、こいつを倒した証がその場に残ることは無かった。

 だが――



『男爵級悪魔ヴェイロンが、プレイヤー【クオン】によって討伐されました』

『一定範囲内の悪魔の軍勢が弱体化します』



 どうやら、指揮している悪魔を倒すとその周囲の軍勢が弱体化するようだ。

 あの悪魔、指揮らしい指揮など何もやっていなかったような気がするのだが――まあ、それもシステム的な話ということか。

 その弱体化の効果もあってか、動きの鈍ったデーモンナイトは、その一瞬でルミナによって斬り裂かれていた。

 多少手傷は負っているが、ほぼ完勝。戦場の中での戦果としては、中々のものであると言えるだろう。

 尤も、久遠神通流としては、敵は一撃で殺せているべきなのだが……流石に相手が悪いか。

 俺は小さく笑い――太刀を大きく頭上へと振り上げ、宣言していた。



「敵将ヴェイロン、このクオンが討ち取った!」



 俺の声は、インフォメーションを証明するかのように響き渡り――少し離れた場所から、『キャメロット』の連中と思われる歓声が巻き起こる。

 さて、功名首を狙ってきてくれればいいのだが、周囲の悪魔共はやはりこちらを狙おうとはしていない様子だ。

 そろそろ鬼哭の効果も切れてきているのだが、悪魔共は未だに俺に対して恐怖を抱いているらしい。

 一体どんなAIを作ったらそんな感情まで再現できるのか、と言いたいが……足を鈍らせてくれるのなら、それはそれで好都合だ。



「さて、ルミナ。ここからは掃討戦だぞ?」

「獲物は選り取り見取り、ということですね」

「最早挙げるに相応しい首も無いだろう。後は、徹底的に狩り尽くすだけだ」



 どうやら、ルミナも中々に戦場の空気に馴染んできたようだ。

 くつくつと笑いながら、俺は太刀を肩に担ぐ。

 さて、先ずは――



「一度、アルトリウスに挨拶をしに行くとするか。来た道を戻るぞ」

「今度は隣で戦わせてください、お父様。急ぐ道ではありませんよね?」

「くくく。いいとも、しっかりと見ていくといい」



 勉強熱心なルミナの言葉に、俺は上機嫌に頷く。

 さて、戦が終わるまでにどれだけの相手を斬れるか――一つ、挑戦と行くか。



「目指せ四桁、一騎当千ってか。さぁて――続きも楽しませて貰うとしようか」






















■アバター名:クオン

■性別:男

■種族:人間族ヒューマン

■レベル:27

■ステータス(残りステータスポイント:0)

STR:24

VIT:18

INT:24

MND:18

AGI:14

DEX:14

■スキル

ウェポンスキル:《刀:Lv.27》

マジックスキル:《強化魔法:Lv.19》

セットスキル:《死点撃ち:Lv.17》

 《MP自動回復:Lv.15》

 《収奪の剣:Lv.14》

 《識別:Lv.15》

 《生命の剣:Lv.16》

 《斬魔の剣:Lv.7》

 《テイム:Lv.12》

 《HP自動回復:Lv.12》

 《生命力操作:Lv.9》

サブスキル:《採掘:Lv.8》

称号スキル:《妖精の祝福》

■現在SP:30






■モンスター名:ルミナ

■性別:メス

■種族:ヴァルキリー

■レベル:1

■ステータス(残りステータスポイント:0)

STR:25

VIT:18

INT:32

MND:19

AGI:21

DEX:19

■スキル

ウェポンスキル:《刀》

マジックスキル:《光魔法》

スキル:《光属性強化》

 《光翼》

 《魔法抵抗:大》

 《物理抵抗:中》

 《MP自動大回復》

 《風魔法》

 《魔法陣》

 《ブースト》

称号スキル:《精霊王の眷属》

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