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081:戦端開くは剣鬼の咆哮 その2












 久遠神通流戦刀術は、基本的に一振りの刀で戦うことを想定した武術である。

 その源流を考えれば、鋒両刃造の太刀で戦うことこそが本来の戦い方なのだろうが、そこは長い年月の中で多様化してきていると言えるだろう。

 ともあれ、本来であれば一刀流で扱うべき術理であるのだが、別段それを強制しているわけではない。

 六百年も時間があれば、変り者も生まれるものだ。薙刀術が独立したのも、そういった経緯があるのだが――



「久遠神通流小太刀二刀――師範代の真似事だが、劣るつもりは無いぞ」



 柔の型の師範代が好んで使っている、小太刀二刀流。

 俺は専門というわけではないが、同じ型で競っても互角に戦えるだけの自信がある。

 威力の出しにくい小太刀、そして片手で扱うという都合上、どうしても威力の高い剛の型は出せないのだが――



「オォ――――ッ!」



 歩法――烈震。


 地面を踏み砕きながら駆けた俺は、逃げようと無様に背中を向けている悪魔へと刹那に肉薄していた。

 俺の声に反応して振り返ろうとしていたようだが、恐怖による逡巡があったのだろう、その動きはまるで間に合っていない。

 俺は相手の体が動くよりも先に、その心臓を刃で穿っていた。

 その刃を抜き様に左の刃で首筋を裂き、噴き出す血潮が落ちるよりも早く、その背を蹴り倒して前へと進む。


 歩法――間碧。


 目を見開き、集団の動きの全てを把握する。

 その隙間に存在する道なき道。混乱する戦場の隙間へと、俺は己の身を滑りこませていた。

 擦れ違うことになる大量の敵。だが、その全てを見逃す道理は無い。


 斬法――柔の型、散刃。


 滑るように足を前へと出し――その崩れそうになるバランスを、もう片方の足を大きく踏み出すことで保ちつつ更に前へとバランスを倒していく。

 転倒し掛ける体と、それを支える足。その繰り返しによって体を動かしながらも前進していく。

 その動きと共に、俺は周囲にいる悪魔共へと向けて、両手の刃を素早く走らせていた。

 足の腱を、太腿の付け根を、膝裏を――立ち、動く上で必要となる部位をことごとく破壊する。

 そうしてその集団を抜けた時には、俺の進んだ道筋を示すように、地面に倒れもがく悪魔の群れが存在していた。



「お父様、この悪魔共はこのままでいいのですか?」

「放っておけ、後でアルトリウスが踏み潰すだろう。それより――そら、そろそろ向こうも来るぞ」



 いかに鬼哭の影響下にあろうと、俺が姿を直接目視できなければ効果は薄まる。

 そして当然ながら、距離が開けば開くほど殺気による拘束も難しくなってしまうのだ。

 俺の目の前にいる悪魔共は未だに混乱の最中にあるが、遠くにいる連中はその限りではないだろう。

 そんな状況を示すかのように――正面の悪魔を巻き込むようにしながら、闇の魔法が俺へと迫ってきていた。

 それを捉えて、俺は両手にある小太刀を上空へと放り投げる。


 斬法――柔の型、零落。



「――《斬魔の剣》」



 シャン、と――鯉口が、鈴を鳴らすように響く。

 その音が届いた時には、俺の刃は既に鞘の内側へと戻されていた。

 体幹を動かさず、そして予備動作をほぼ削ぎ落とした神速の居合、零落。

 居合刀でやれば抜き手どころか戻しすら見せないのだが、流石に太刀で行うのは難しい。

 小さく自嘲しつつ、俺はその場から前へと跳躍していた。



「味方ごととは、いい度胸だ――ならばその手間を省いてやろう!」



 悪魔共は元々闇属性。

 スレイヴビーストはともかくとして、今の魔法はレッサーデーモンにはあまり通用していないようだ。

 俺は魔法に巻き込まれ、倒れていた悪魔共の方へと接近する。

 レッサーデーモンはゆっくりと起き上がり――その背中へ、俺は拳を押し当てていた。


 打法――寸哮。


 迸る衝撃が、破壊力のみを体内へと伝え、その内部を破壊する。

 悪魔は膝から崩れ落ち、倒れようとして――俺は、その肩に足を掛けて跳躍していた。

 そのまま、上空へ投げ飛ばしていた二振りの小太刀を掴み、先程俺へと魔法を放ってきた相手の姿を目視する。

 それは、レッサーデーモンとは姿の異なる悪魔。どこか人間に近いその姿に、俺は見覚えがあった。



「デーモンナイト……!」



 あの時斬った二体とはまた少し異なるが、それでも爵位悪魔の眷属には違いあるまい。

 であれば殺す。容赦などない。あの堕ちた親子と同じように、爆ぜるまで刻んでやろう。

 その殺意に反応したのか、デーモンナイトは僅かに身を震わせ、俺の方へと手を向けてきていた。

 次の瞬間、再び放たれた闇の砲撃。俺の体を飲み込もうと迫るそれに、俺は体を捻りながら刃を振るっていた。



「《斬魔の剣》ィ!」



 まるで闇の中を掻き分けるように、俺は回転しながら落下していく。

 そして落下のその瞬間、俺は足元にいたレッサーデーモンへと両の刃を振り下ろしていた。


 斬法――柔の型、襲牙。


 その切っ先は悪魔の鎖骨の隙間へと突き刺さり、遮るもの無く一直線に悪魔の肺と心臓を破壊する。

 まあ、本当に肺と心臓があるのかどうかは知らないが、それで死んでいるのだから問題は無いだろう。

 絶命した悪魔の肩を蹴ることで刃を抜き、その先にいた悪魔の顔面へと踵を振り下ろす。

 その一撃はガードされたものの、勢いに押されてレッサーデーモンは仰向けに転倒する。

 それを幸いと、俺は振り下ろした足をそのままに、悪魔の頭部を全体重で踏み砕いていた。

 悲鳴も上げられずに絶命したその頭を踏み越えて、更に前へ。



「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

「ッ、人間が――!」



 目の前にいるのはデーモンナイト。

 人の姿に近いそれは、腰から黒い剣を抜き放つと、俺へと向けて刃を振るっていた。

 その一閃に対し、俺は二つの刃をタイミングをずらしながら振るう。


 斬法・改伝――柔の型、流水・細波。


 一振り目の右の刃がデーモンナイトの剣を受け流し、続くもう一振りが追い付いて、その手首を切り飛ばす。

 そのまま右の刃を返してデーモンナイトの肩を斬り裂くが、やはり片手の小太刀では浅い傷しかつけられない。

 だが――腕が交差したこの時点で、既に必殺の間合いにまで入っているのだ。


 斬法・改伝――柔の型、断差。


 その瞬間、俺は両の刃を同時に振り抜き、交差させるようにデーモンナイトの首を斬り裂いていた。

 シャキン、と鋏を閉じたような涼やかな音が響き渡り、同時にデーモンナイトの首が飛ばされる。

 噴き上がった緑の血が雨のように降り注ぎ――それが届くよりも先に、俺はその隣をすり抜けながら先へと進んでいた。



「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」



 歩法――跳襲。


 咆哮すると共に駆けた俺は、デーモンナイトが倒されて硬直していた悪魔へと跳躍する。

 その眼窩へと刃を突き入れ、首を裂きながら抱え込むようにして後ろへと着地する。

 俺の体重によって引き千切られた首から刃を抜き取り、そのまま投げつければ、後ろ側にいたスレイヴビーストの眉間に突き刺さっていた。

 崩れ落ちようとするその顎を蹴り飛ばし、仰け反った頭から刃を引き抜いて、逆手のままに隠れていたレッサーデーモンの首を斬り裂く。

 噴き出す血を押さえながら狼狽するその悪魔は放置し、更に奥へ。

 そこには、迫る俺に対する恐怖を抑えられずにいる様子の、巨体を持つレッサーデーモンが存在していた。



「ゴアアアアア――」

「シャアアアアアアアアアアアアッ!」



 威嚇の声を殺意の咆哮で掻き消して、俺はレッサーデーモンへと肉薄する。

 巨体を持つ悪魔は、その手に持った粗雑なハルバードを振るい、俺へとその斧の刃で薙ぎ払ってくる。

 雑ではあるが、その巨体故の膂力か、速度は十分。それに合わせるように、俺は地を蹴り相手へと接近していた。


 斬法――柔の型、流水・浮羽。


 柄の根元に近い部分で、俺はその一閃の勢いに乗る。

 地面を擦るように回転しながらその勢いを殺しつつ、俺は左の刃をレッサーデーモンの背中へと突き刺していた。


 斬法――柔の型、射抜。


 突き刺した小太刀の柄尻を、もう一方の柄尻で打ち据える。

 体内へと潜り込んだその刃は、確実にレッサーデーモンの心臓を貫いていた。

 崩れ落ちるレッサーデーモンの背中から小太刀を引き抜き、噴き出す血を振り払いながらその先を――悪魔の軍勢の先を、睥睨する。



「――まだだ」



 斬法――柔の型、釣鐘。


 横合いから突き出されてきた二本の槍を跳躍しながら回避しつつ、体を回転させてその首を斬り裂く。

 どうやら、そろそろこの殺気にも慣れてきたのか、動ける連中も出てきたらしい。

 ――それでいい、そうでなくては面白くない。

 俺は口元を笑みに歪めつつ、着地と共に地を蹴り、更に軍勢の先へと飛び出していた。


 スレイヴビーストへ指示を出そうとするレッサーデーモンへと小太刀を投げつけ、その刃にて胸を貫く。

 それに動揺して動きを止めたスレイヴビーストへ肉薄し、俺は己の肩甲骨を押し当てていた。


 打法――破山。


 地が爆ぜ割れ、爆発が起こったかのような衝撃音と共に、馬の姿をしたスレイヴビーストの体が吹き飛ぶ。

 その口や目からは血を噴出し、既に絶命していることが見て取れた。

 そして、胸に突き刺さった刃にもがくレッサーデーモンに対し、俺はその刃の柄尻を蹴り抜いていた。

 吹き飛びながら刃に貫かれるその姿を見送り、体を屈める。



「シィ――――ッ!」



 飛び掛かってきたのは獅子の姿をした魔物。

 俺はその爪と牙の下に潜り込むようにしながら、もう片方の刃を振り上げていた。

 その突きは顎の下に突き刺さり、頭蓋の内側を縫って脳を破壊する。

 着地と共に崩れ落ちた獣はそのままに、俺は先ほど使っていた太刀へと手を掛けていた。



「《生命の剣》――小太刀は回収しておけ、ルミナ」

「は、はいっ!」



 金の燐光が漏れ出す鞘に手を添えながら体を大きく捻り、射出・・までの距離を稼ぐ。

 迫るのは一体のレッサーデーモンと、二体のスレイヴビースト。

 ルミナが来て、多少は恐怖も紛れたのか、あるいは慣れてきたのか――まあ、それはどちらでもいい。

 襲い掛かってきてくれるなら、手間が省けるというものだ。



「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」



 斬法――剛の型、迅雷。


 溢れ出す金の輝きと共に放たれたのは、回転運動の全てを伝えた居合の剛剣。

 その一閃は黄金の輝きで横一文字の軌跡を描き、その軌道上にいた三体の敵を真っ二つに斬り裂いていた。

 まるで弾けるように散る血の雨の中、頬に付いた返り血を拭い、俺は嗤う。


 全員でかかってくれば、まだ勝ちの目もあるだろう。

 俺とて、この手は二本であり、今振るう刃は一振りだ。手が足りなくなれば押し切られることもあるだろう。

 だが、数で勝るはずのこいつらは、数で押すということができていない。

 それは、今までの様を見ていたからこそだろう。近寄ったモノから斬られるならば、近寄りたいと思う筈がない。

 緋真の奴は『異常なクオリティのAIのおかげ』だと言っていたが、どちらでも構うまい。

 敵は、俺を恐れ足を止めている。であれば、その隙を存分に利用させて貰うだけだ。



「お父様……『キャメロット』の人たちが近づいてきます」

「ああ、気付いてるよ。全く、ようやくか」



 呟き、苦笑する。

 彼らを責めることはできないだろう。連中が遅れたというより、俺が先行しすぎただけだ。

 とは言え、敵陣を混乱させる仕事は十分以上に果たした自負はある。

 その混乱もあってか、『キャメロット』の連中は上手いこと戦場を支配し始めているようだ。


 俺が切り開いた敵陣の亀裂に、アルトリウスが直接指揮して突撃し、その穴を広げる。そして、そこに自陣の兵士プレイヤーたちを突入させ、前線の維持と支援を両立させることにより、こちらの支配圏を広げていく。

 普通に考えれば数の差で押し潰されるだろうが、悪魔共は未だに混乱の最中にあり、そしてこちらはいくらでも兵士を送り込める状況だ。

 アルトリウスならば、連中が正気を取り戻すよりも早く大勢を決するだろう。

 であれば――



「さあ、ルミナ。ここからが本番だ」

「……何をするつもりですか?」

「決まってるだろう?」



 敵陣の内部にまで踏み込んだ。

 先ほど大きく跳躍した際に、この戦場の陣容もある程度は把握できている。

 向かうべき道筋は、既に見えているのだ。



「――大将首は俺のモノだ。この敵陣、完全に真っ二つにしてやるとしよう」






















■アバター名:クオン

■性別:男

■種族:人間族ヒューマン

■レベル:27

■ステータス(残りステータスポイント:0)

STR:24

VIT:18

INT:24

MND:18

AGI:14

DEX:14

■スキル

ウェポンスキル:《刀:Lv.27》

マジックスキル:《強化魔法:Lv.19》

セットスキル:《死点撃ち:Lv.17》

 《MP自動回復:Lv.15》

 《収奪の剣:Lv.14》

 《識別:Lv.15》

 《生命の剣:Lv.16》

 《斬魔の剣:Lv.7》

 《テイム:Lv.12》

 《HP自動回復:Lv.12》

 《生命力操作:Lv.9》

サブスキル:《採掘:Lv.8》

称号スキル:《妖精の祝福》

■現在SP:30






■モンスター名:ルミナ

■性別:メス

■種族:ヴァルキリー

■レベル:1

■ステータス(残りステータスポイント:0)

STR:25

VIT:18

INT:32

MND:19

AGI:21

DEX:19

■スキル

ウェポンスキル:《刀》

マジックスキル:《光魔法》

スキル:《光属性強化》

 《光翼》

 《魔法抵抗:大》

 《物理抵抗:中》

 《MP自動大回復》

 《風魔法》

 《魔法陣》

 《ブースト》

称号スキル:《精霊王の眷属》

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >「ああ、気付いてるよ。全く、ようやくか」 べつに間違いではないんですが 「ああ、気づいている」の方がなんとなくクオン味(?)を感じます 読み返していて一瞬アルトリウスさんかと思ってし…
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