796:ネームドモンスター化
「はぁ、成程……要するに、これが最後の進化に相当する要素ってことですかね」
ネームドモンスター化に関する説明を読み、緋真はそう結論付けた。
第五段階のレベル50という、非常に高いレベルを要求される強化要素だが、それだけに十分な期待ができる。
予想していた通り、これ以上の進化はない代わりに、このネームドモンスター化という要素が用意されていたのだろう。
流石にこれ以上の進化はなさそうだが、能力としても格としても十分すぎる強化となる筈だ。
「通常の進化のようにレベルが1に戻ることは無く、継続してそのまま。実際のネームドモンスターのように二つ名が付いて、スキルや能力値の強化がされると」
「……基本的には、節目レベルの強化に近いようだな。能力値の強化は特別だが」
「どっちかというと、自分で二つ名を付けられるところが目玉要素なんじゃないですかね?」
俺としては、そこが最大の問題だ。
どうやら、このネームドモンスター化においては、主人が自分で二つ名を付けることができるらしい。
正直、そういったセンスは持ち合わせていない俺にとっては面倒極まりない要素である。
一応、システム判断によって自動で二つ名を付けることも可能なようではあるが、ルミナの期待の篭った視線を受けているとそうも言っていられない。
「二つ名ねぇ……『獄炎纏い』とかあの手の類だろう?」
「随分昔のを覚えてますね。それを言い出したら、それぞれの龍王の名前だってこの二つ名なんじゃないですか?」
「ふむ? それは……そうなるのか?」
今のシリウスのレベルは10、ネームドモンスター化が発生するまではあと40もレベルを上げる必要がある。
そう考えると、かなりの戦闘経験を積んだ真龍が生まれることになるだろうが、その頃には龍王に匹敵する強さへと至っているのだろうか。
正直、あまり想像もつかないが、その頃に龍王に相応しい実力があると判断できたら名を付けてもいいだろう
シリウスのスキル強化もあるが、そちらの確認は一旦後に回し、まずはルミナたちの強化である。
「とにかく、二つ名を付けなきゃ始まらんと。何かこう、ヒントというか……例とか無いのか?」
「それぞれのモンスターに合った二つ名でしょう? それこそ、主人にしか分からないようなものでしょうに。単純にネームドモンスターの例っていうだけなら、今戦っているのだって『鎖された蟲』だの『世界喰らい』だの呼ばれてたけど」
ラーネアについてはネームドモンスターと呼んでいいのかどうかはよく分からないが、呼び名としてはそういった類ということか。
しかし、そういったセンスは俺に求められても困る。正直、そういった創作にはあまり触れてきていないし、センスがあるとは思えないのだ。
「後はほら、意味ありげな単語にルビを振るとか」
「ルビってなぁ……しかも振れるようになってるし。そういう類の二つ名まで想定されてるのか」
これは運営の悪ふざけと言うべきか、或いは何かしら必要な要素だったのか。
正直、俺のセンスではそこまでこったものを考えられるわけではない。
もうちょっと何かしら、指標になるような例が欲しいのだが――
「何か、他にないのか? あまり適当なものを付けてやるわけにもいかんし」
「その辺真面目ですよね、先生。えっと、他には……何かの引用とか、後は四文字熟語を読みをそのままで字だけ変えるとか?」
「引用って言ってもな、文学に通じているわけでもないし。だが、四文字熟語ってのはちょうどいいかもしれないな」
流石にそれなら多少は知っているし、この場で調べることもできる。
使う文字が四文字だけというのもありがたい。少し弄ってやるだけで、それなりに凝った名称に見えることだろう。
場所が場所だけに、あまり長時間悩むというわけにもいかないのだが、ここはしっかりと考えなければ。
(意味的に勇敢で好意的な印象を持ち、その上でルミナやセイランにちなんだ漢字へと変えられる四字熟語、となると――)
ネットの検索窓から四文字熟語の辞典を開き、いくつかピックアップする。
正直、これがセンス的に正しいものなのかどうかはよく分からないが、見た目にはそれっぽく見えるようには思える。
しかしまぁ、こんなことならもう少し落ち着ける場所でレベル50にしておくべきだっただろうか。
どうしても思いつかなければ聖火のランタンを使うつもりだったが、何とかそれっぽい感じにはなったことだろう。
「……二人とも、こんな感じか?」
「はいはい……うん、いいと思いますよ」
「貴方からこんな感じの単語が出てきたと思うと、ちょっと面白いけどね」
「揶揄うな、これでも結構必死なんだよ」
にやにやと笑うアリスの頭を小突きつつ、嘆息する。
しかし、二人とも反応は好意的ではあった。どうやら、それほど頓珍漢な内容にはなっていなかったようだ。
俺としてもこれ以上の内容は思いつかないし、とりあえずこれで決定することとしよう。
テイムモンスターの設定欄から、ルミナとセイランの二つ名を入力し、ネームドモンスター化を完了させる。
――その瞬間、二人は身体の内側から溢れ出るように、淡い光に包まれた。
「これは……!」
「進化の時ほど激しく光っているわけじゃないが、これがネームドモンスター化か」
種族が変わるわけではないため、姿かたちが変貌することはない。
だが、その身に纏う力は明らかに、それまでよりも大きく上昇していた。
■モンスター名:ルミナ
■性別:メス
■種族:ヴァルハラガーディアン『破邪剣精』
■レベル:50
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:100
VIT:45
INT:100
MND:45
AGI:82
DEX:50
■スキル
ウェポンスキル:《刀神》
《神槍》
マジックスキル:《天光魔法》
《大空魔法》
スキル:《光属性超強化》
《戦乙女の神翼》UP
《魔法抵抗:極大》
《物理抵抗:大》
《MP自動超回復》
《超位魔法陣》
《ブーストアクセル》
《空歩》
《風属性超強化》
《HP自動超回復》
《光輝の戦鎧》
《戦乙女の大加護》
《女神の霊核》UP
《精霊の囁き》
《吶喊》
《大霊撃》
《戦乙女の騎行》UP
《精霊強化》
《戦闘指揮》
《神霊化》NEW
《神域の智慧》NEW
称号スキル:《精霊王の眷属》
■モンスター名:セイラン
■性別:オス
■種族:ワイルドハント『嚆矢嵐征』
■レベル:50
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:120
VIT:75
INT:68
MND:45
AGI:102
DEX:45
■スキル
ウェポンスキル:なし
マジックスキル:《天嵐魔法》
《大空魔法》
スキル:《風属性超強化》
《天征》UP
《騎乗》
《物理抵抗:極大》
《痛恨撃》
《剛爪撃》
《覇王気》
《騎乗者大強化》
《天歩》
《マルチターゲット》
《神鳴魔法》
《雷属性超強化》
《魔法抵抗:大》
《空中機動》
《嵐属性超強化》
《吶喊》
《雷電降臨》UP
《亡霊召喚》
《剛嵐》
《亡霊操作》
《デコイ》
《麻痺耐性:大》UP
《一番槍》NEW
《轟雷疾駆》NEW
称号スキル:《嵐の王》
ステータスの上昇幅も大きいが、スキル三つの強化に加えて新たなスキルを二つも習得している。
大きく強化された己の力に、ルミナとセイランはなれない様子で自分の体を見下ろしていた。
慣らすためにもある程度戦闘をした方がいいだろうが、まずはどのような能力になったのか確認が必要だろう。
「まずルミナだが、《戦乙女の神翼》と《戦乙女の騎行》は純粋強化でいいか?」
「はい、そのようですね。機動力強化は召喚した精霊たちにも適用されるようなので、かなり素早くなっているかと」
「そりゃ汎用性が高くて助かるな。それで、もう一つ上がった《女神の霊核》は?」
「《女神の霊核》は……任意のタイミングで、ステータスを大きく強化できるようになりました。それなりに消費はありますが、コストとしてかかるのはMPだけのようです。あと、元々の《半神》の効果も据え置きです」
大幅ステータスアップ系のスキルで、コストは重いながらもデメリットが無いというのは中々良い。
しかも発動条件が無いというのもありがたいところだ。
強化前の《半神》は耐性アップに加えてHP半減時の能力値強化だったが、そこに大きなプラスアルファとなったわけだ。
「そして、《神域の智慧》ですが……これは緋真姉様の持っている《賢人の智慧》に近い効果です」
「ということは、消費MPの軽減ですね。でも近いってことは、何か違う点もあるってこと?」
「使える呪文が増える……ようです。使ってみないと、まだ良くは分からないですが」
詳細は不明だが、使える手札が増えるのはいいことだ。
使えるようになった魔法は、次の戦闘で検証してみるべきだろう。
残骸や末端までなら、実験をしてもリスクは少ない。
「それで、《神霊化》ですが……こちらは、全ての能力が大幅に上昇する代わりに、効果終了後はステータスが半減します」
「そっちはデメリットのあるブーストか。確かめたいが、使い所には注意せんとな」
この手のデメリットのあるスキルは、総じてかなり強力な効果を持っている。
俺は継戦能力を優先しているためその手のスキルは取っていないが、格上と戦う際には有効なスキルだろう。
ルミナは純粋にステータスと機動力に特化した成長――で、はセイランはどうか。
まず《天征》と《麻痺耐性:大》についてはあまり語ることはない、単純強化というだけだ。
「《一番槍》はプレイヤーも習得できるスキルね。戦闘を開始してから一番最初の攻撃が大幅に強化されるスキル。これからはセイランが最初に突撃するべきってことね」
「機動力も高いから大体そうなるんだがな。《雷電降臨》と《轟雷疾駆》は――」
「クェッ」
「……戦闘で実演して見せてやる、か。それじゃあ楽しみにしておくか」
何となくイメージは伝わってきたが、随分と派手なスキルになりそうだ。
そして二人が大幅強化されたため陰に隠れてしまっているが、シリウスも有効な強化を得ている。
身体の再生速度がより速くなった《急速再生》、そして余剰に回復したMPを蓄積しておける《魔力蓄積》。
《不毀》のコストとなるMP面の補強をすることで、シリウスはより堅牢に成長したと言えるだろう。
これらがどれほどの強化となったのか――それは、実際の戦いで確認してみることとしよう。