795:瀉血
「……ッ!」
口から零れ落ちかけた悪態を飲み込んで、後方へと跳躍する。
どう考えても、触れたらロクなことにならない相手だ。絶対に、コイツに捕まるようなことはあってはならない。
だが、こちらに覆いかぶさろうと膨れ上がるその速度は速く、一度の跳躍だけで回避しきれる量ではなかった。
迎撃し、相手の動きを留めながら後退する――そう判断しようとした瞬間、後方から魔力の気配が膨れ上がる。
綺麗に俺を避けながら放たれたそれは、黒く逆巻く嵐の暴風であった。
「ナイスだ、セイラン!」
「クェエエッ!」
強烈な暴風に押された赤黒いスライムは、そのまま弾き飛ばされるように後退する。
俺の安全を確保できたことを確認したセイランは、そのまま放つ魔法を雷へと切り替えた。
風の刃よりは、そちらの方が効果があると判断したのだろう。
迸る紫電が甲高い音を立てながらスライムを打ち据え、その中に浮かぶ黄色い瞳を揺らす。
「警戒していた通りの新種だな。アリス、調べられたか?」
「『鎖された蟲の瀉血』、ほぼ全ての物理攻撃に耐性あり、ってことぐらいだけ分かったわ。というか、属性攻撃が乗らないとほとんど通らないわよ」
俺にとってはかなり相性の悪い性質に舌打ちする。
三魔剣はどれも物理攻撃に類するものであるし、《昇華魔法》によって攻撃を魔法属性に変えることは可能だが、あれはあくまで魔法の武器攻撃であり、炎のような属性が乗るわけではない。
つまり、俺ではあのスライム――瀉血とやらには有効なダメージを与えづらいということだ。
一応、方法としてはあの瞳を狙うという選択肢もある。やってやれないことはないのだが、やはりリスクは高いだろう。
一撃で殺し切れなければ、反撃を回避しづらい距離になってしまうのだから。
「緋真、悪いがあいつは任せていいか?」
「了解です。まだいるでしょうから、時間をかけている場合じゃないですしね」
相性差をひっくり返すことも可能だろうが、わざわざ手間のかかる方法を取って時間を浪費する必要はない。
俺たちの目的は、鎖された蟲たちの殲滅だ。数を稼がなければならない以上、余分な時間を取っている場合ではない。
相性で戦いづらいことは残念だが、ここは効率的に動かねばならないだろう。
「『生奪』」
スキルを発動しながら瀉血を迂回するように移動、その奥から迫ってきていた個体を誘導しつつ斬りつける。
瀉血の方はこちらの動きを捉えてはいたものの、緋真の炎によって炙られその動きを止めていた。
アリスが分析した通り、魔法によるダメージは十分に通っているようだ。
(物理耐性以外には特に変わった性質は無いか。しかし、瀉血とはな)
その名称が付いているということは、あれはラーネアが自ら排出した血ということなのだろうか。
捨てた血すら自意識を持って襲い掛かってくるなど、冗談どころではない怪物である。
エルダードラゴンが末端を毛先と表現したことも、案外そのままの意味だったのかもしれない。
とはいえ、瀉血という名称であるなら、あれは本体と直接繋がりのある存在ではないのだろう。
であれば、それほど強力な個体ではないと考えられる。
(面倒な性質はあるが、それを除けば強さは末端以下。魔法で攻撃すれば倒すことは難しくないか)
緋真の炎に包まれた瀉血は、蒸発するように赤い煙となって消滅する。
緋真の魔法火力なら、奴の体力を削り切ることも容易であるらしい。
面倒な相手ではあるが、対処法自体は単純だった。
「とはいえ、油断はできんか」
木々に阻まれて観察はし辛いが、前方の地面にはまだ赤黒い液体が広がっている場所がある。
どうやら、瀉血たちはあのように地面を這って接近し、奇襲を仕掛けてくるのが主な戦法であるらしい。
だが、道まで出てきてしまえば一目瞭然であるため、森の中まで踏み入れて戦わない限りは見失うことは無いだろう。
緋真も気づいているのか、そちらへと向けて魔力を収束させている。
あちらは緋真に任せておけば問題は無いだろう。
「しッ!」
斬法――剛の型、刹火。
こちらへと飛び掛かってきた末端に、踏み込みながら刃を合わせる。
黄色い瞳ごと斬り裂かれた末端は、両断こそされていないもののそれだけで消滅した。
弱点を狙うことができれば片付けるのは容易いが、上手く狙えるかどうかはその時の状況次第だろう。
俺の左足に喰らいつこうとしてくる残骸を蹴り飛ばし、距離を開けた相手へと【命輝一陣】を放つ。
流石にそれだけで倒し切ることは不可能だが、距離を開けさせるには十分だ。
「『呪命衝』!」
斬法――剛の型、穿牙。
餓狼丸が黒い闇を纏い、長大な槍となって伸びる。
その一撃は宙を浮かぶ末端を団子のように三つ刺し貫いて、その生命力を奪い尽くした。
枯れ果てて煙と化す末端を尻目にテクニックを解除、体勢を立て直した残骸を斬り捨てる。
「『命呪閃』」
敵の気配もそれなりに減っては来た。この群さえ凌げば、襲撃は一旦落ち着くだろう。
これでどの程度ポイントを稼げているのかは知らないが、まずはこいつらを片付けるまでだ。
一閃と共に広げた生命力の刃は、空を舞う末端の動きを見極めて両断せしめる。
末端と残骸、そして瀉血。それぞれ厄介な性質は持っているものの、安定して倒し切れる程度の性能だ。
今回の群れについては、これ以上の追加種別は存在しない様子であるし、問題なく倒し切れる。
歩法――陽炎。
瞳が付いているということもあってか、一応この魔物たちは視覚でこちらの動きを捉えているらしい。
そのため、こうして緩急をつけて動いてやれば、蟲達の攻撃は命中することなく空を切る。
それに合わせて刃を振るってやれば、末端たちは次々に打ち落とされて地面を転がることとなるのだ。
動きを止めた個体などただの的でしかなく、ルミナの魔法やシリウスの攻撃で叩き潰されるのを待つばかり。
残る標的を倒し切るまで、それほど時間を要することは無かった。
『レベルが上昇しました。ステータスポイントを割り振ってください――』
「……とりあえずは、上々の出だしか」
ひとまず安堵の息を吐き出して、周囲の気配を確認する。
既に分かっている性質ではあるが、鎖された蟲達は周囲の個体を巻き込んで一斉にこちらに向かってくる。
そのような性質の魔物とは幾度か戦ってきているため、経験則としてしばらく戦闘にはならないことは分かっているのだ。
とはいえ、このエリアに戻って来た時には既に補充されていたことから、相当早いペースで元通りになることが予想される。
一度殲滅に成功したからといって、油断することはできないだろう。
次なる戦闘には、補充を待つべきか別の場所に移動するべきか――方針決めに、どうしたものかと眉根を寄せる。
『――テイムモンスター《ルミナ》のレベルが上昇しました』
『一定レベルに達し、ネームドモンスター化が発生します』
『テイムモンスター《セイラン》のレベルが上昇しました』
『一定レベルに達し、ネームドモンスター化が発生します』
「……何だと?」
――だが、それどころではない情報の追加に、俺は思わずそう呟いていた。
確かに、ルミナたちのレベルはこれで50。
先日のレベルアップでは進化は無かったため、これ以上は種族進化することは無いのだと判断していた。
とはいえ、レベルの節目に達すればそれなりに大きな強化にはなると思っていたのだが――
「ネームドモンスター化……?」
「先生?」
俺の様子に気付いたのか、瀉血の焼却を終えた緋真がこちらに近付いてくる。
何もかも分からないため聞きたくはある――のだが、生憎とこれに関する情報を持っているプレイヤーはどこにもいないだろう。
今はこのクエストから離脱するわけにもいかないし、この内容について相談できるのはこの場のメンバーのみである。
これは腰を据えて考える必要がありそうだと、俺は嘆息交じりにウィンドウをパーティへと公開したのだった。
■アバター名:クオン
■性別:男
■種族:羅刹族
■レベル:136
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:100
VIT:60
INT:70
MND:40
AGI:49
DEX:39
■スキル
ウェポンスキル:《刀神:Lv.57》
《武王:Lv.28》
マジックスキル:《昇華魔法:Lv.71》
《神霊魔法:Lv.43》
セットスキル:《致命の一刺し:Lv.63》
《MP自動超回復:Lv.40》
《奪命剣:Lv.92》
《練命剣:Lv.92》
《蒐魂剣:Lv.92》
《テイム:Lv.100》LIMIT
《HP自動超回復:Lv.40》
《生命力操作:Lv.100》LIMIT
《魔力操作:Lv.100》LIMIT
《魔技共演:Lv.68》
《レンジ・ゼロ:Lv.8》
《回復特性:Lv.69》
《超位戦闘技能:Lv.34》
《剣氣収斂:Lv.88》
《血戦舞踏:Lv.9》
《空歩:Lv.12》
《会心破断:Lv.61》
《再生者:Lv.44》
《オーバーレンジ:Lv.8》
《三魔剣皆伝:Lv.13》
《天与の肉体:Lv.12》
《抜山蓋世:Lv.9》
サブスキル:《採掘:Lv.15》
《聖女の祝福》
《見識:Lv.36》
種族スキル:《夜叉業》
称号スキル:《剣鬼羅刹》
■現在SP:40
■アバター名:緋真
■性別:女
■種族:羅刹女族
■レベル:136
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:92
VIT:50
INT:90
MND:40
AGI:50
DEX:34
■スキル
ウェポンスキル:《刀神:Lv.57》
《武王:Lv.32》
マジックスキル:《灼炎魔法:Lv.48》
《昇華魔法:Lv.44》
セットスキル:《武神闘気:Lv.35》
《オーバースペル:Lv.33》
《火属性超強化:Lv.37》
《回復特性:Lv.60》
《炎身:Lv.72》
《致命の一刺し:Lv.53》
《超位戦闘技能:Lv.39》
《空歩:Lv.41》
《術理掌握:Lv.47》
《MP自動超回復:Lv.33》
《省略詠唱:Lv.27》
《蒐魂剣:Lv.68》
《魔力操作:Lv.100》LIMIT
《並列魔法:Lv.43》
《魔技共演:Lv.43》
《燎原の火:Lv.74》
《二天一流:Lv.23》
《賢人の智慧:Lv.60》
《曲芸:Lv.8》
《臨界融点:Lv.15》
《剣技:絶景倒覇:Lv.12》
《抜山蓋世:Lv.8》
サブスキル:《採取:Lv.7》
《採掘:Lv.15》
《聖女の祝福》
《見識:Lv.35》
種族スキル:《夜叉業》
称号スキル:《緋の剣姫》
■現在SP:56
■モンスター名:ルミナ
■性別:メス
■種族:ヴァルハラガーディアン[NAMED]
■レベル:50
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:90
VIT:40
INT:90
MND:40
AGI:77
DEX:45
■スキル
ウェポンスキル:《刀神》
《神槍》
マジックスキル:《天光魔法》
《大空魔法》
スキル:《光属性超強化》
《戦乙女の戦翼》
《魔法抵抗:極大》
《物理抵抗:大》
《MP自動超回復》
《超位魔法陣》
《ブーストアクセル》
《空歩》
《風属性超強化》
《HP自動超回復》
《光輝の戦鎧》
《戦乙女の大加護》
《半神》
《精霊の囁き》
《吶喊》
《大霊撃》
《戦乙女の戦列》
《精霊強化》
《戦闘指揮》
称号スキル:《精霊王の眷属》
■モンスター名:セイラン
■性別:オス
■種族:ワイルドハント[NAMED]
■レベル:50
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:110
VIT:70
INT:63
MND:40
AGI:92
DEX:40
■スキル
ウェポンスキル:なし
マジックスキル:《天嵐魔法》
《大空魔法》
スキル:《風属性超強化》
《天駆》
《騎乗》
《物理抵抗:極大》
《痛恨撃》
《剛爪撃》
《覇王気》
《騎乗者大強化》
《天歩》
《マルチターゲット》
《神鳴魔法》
《雷属性超強化》
《魔法抵抗:大》
《空中機動》
《嵐属性超強化》
《吶喊》
《帯電》
《亡霊召喚》
《剛嵐》
《亡霊操作》
《デコイ》
《麻痺耐性:中》
称号スキル:《嵐の王》
■アバター名:アリシェラ
■性別:女
■種族:闇月族
■レベル:136
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:60
VIT:34
INT:60
MND:34
AGI:90
DEX:80
■スキル
ウェポンスキル:《闇殺刃:Lv.57》
《連弩:Lv.28》
マジックスキル:《深淵魔法:Lv.35》
《闇月魔法:Lv.28》
セットスキル:《致命の一刺し:Lv.62》
《姿なき侵入者:Lv.40》
《超位毒耐性:Lv.10》
《フェイタルエッジ:Lv.37》
《回復特性:Lv.48》
《闇属性超強化:Lv.31》
《ピアシングエッジ:Lv.42》
《トキシックエッジ:Lv.35》
《静寂の鬨:Lv.25》
《真実の目:Lv.47》
《パルクール:Lv.38》
《パリスの光弓:Lv.22》
《血纏:Lv.21》
《ミアズマウェポン:Lv.79》
《空歩:Lv.32》
《魔技共演:Lv.44》
《闇月の理:Lv.30》
《ブリンクアヴォイド:Lv.57》
《死神の手:Lv.47》
《光神の槍:Lv.20》
《超直感:Lv.13》
《天上の舞踏:Lv.8》
サブスキル:《採取:Lv.23》
《調薬:Lv.28》
《偽装:Lv.27》
《閃光魔法:Lv.1》
《聖女の祝福》
《リサイクル:Lv.20》
種族スキル:《闇月の魔眼》
称号スキル:《天月狼の導き》
■現在SP:34
■モンスター名:シリウス
■性別:オス
■種族:ブレイドドラゴン・デュランダル
■レベル:10
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:137
VIT:129
INT:65
MND:80
AGI:70
DEX:65
■スキル
ウェポンスキル:なし
マジックスキル:《昇華魔法》
スキル:《断爪撃》
《絶鋭牙》
《吶喊》
《ブラストブレス》
《物理抵抗:極大》
《不毀》
《鋭斬鱗》
《鋭刃翼》
《斬尾撃》
《魔法抵抗:極大》
《覇気》
《移動要塞》
《研磨》
《変化》
《龍王気》
《バインドハウル》
《急速再生》UP
《鱗魔弾》
《不毀の絶剣》
《ディフェンシング》
《魔力蓄積》NEW
称号スキル:《真龍》