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008:街へ帰還











『レベルが上昇しました。ステータスポイントを割り振ってください』

『《刀》のスキルレベルが上昇しました』

『《強化魔法》のスキルレベルが上昇しました』

『《死点撃ち》のスキルレベルが上昇しました』

『《収奪の剣》のスキルレベルが上昇しました』



 どうやら、しっかりと倒しきれたらしい。

 倒れている魔物たちからドロップアイテムを回収しようとするが、なぜか魔物たちは俺が触れる前に光の粒子となって消え、その後俺の目の前にウィンドウが表示されていた。



『おめでとうございます! フィールドボスに勝利したことで、次のエリアへの通行が可能になりました! 報酬アイテムをインベントリに格納します』


「何か、ボス戦だと勝手が違うんだな」

「ボスの場合は、解体じゃなくて参加パーティの全員に報酬が渡されますからね。まあ、貢献度とかもあるので、今回は私には殆ど何も入ってないですけど」



 これまで観戦していた緋真が、肩を竦めながらそう口にする。

 まあ、緋真は今回、全く手は出さなかったからな。貢献度とやらも最低ラインだろうし、碌なアイテムは手に入らなかったのだろう。

 ふむ、しかし――



「確かに面白いな、こいつは」

「先生、何を?」

「ここの所、技を使う機会なんざ殆ど無かったからな。使わなきゃ錆び付いちまう所だが……剛の型とか、お前使われたらヤバイだろ?」

「まあ、控えめに言って死にますけど」



 斬法、打法、歩法の三法から成り立つ我が久遠神通流、その中でも最も攻撃的な斬法・剛の型。

 攻撃力に関してはピカ一であるのだが、如何せん竹刀でも相手を殺しかねないほどの威力がある。

 防御のしっかりしている師範代辺りならばある程度安心して放てるのだが、それでも本気で振るうには至らない。

 俺が本気で斬りかかれたのは、後にも先にもジジイだけになるかと思っていたのだが――ここならば、いくら本気を出そうが誰も文句は言わないだろう。



「あ、先生。今の戦闘の様子を録画したんですけど、これを公開しても大丈夫ですか?」

「あ? 録画だ? そんなことまでできるのか」

「提携している動画サイトだったら生放送までできますよ。まあ、生放送で見れるのはゲーム内だけですけど。と、それはともかく……たぶん、先生のこと、騒ぎになってると思いますから。先生が強いってこと、動画を含めて説明しておきます」

「ふむ。よく分からんが、任せていいんだな? じゃ、頼んでおくとするか」

「はい、お任せください」



 何やら妙に楽しげな様子の緋真には疑問を感じたものの、とりあえずは気にせずに頷いておく。

 正直なところ、専門用語だらけで話されてもよく分からんとしか言えない。

 まあとにかく、今はあまり気にしないでおくとして――



「で、この後はどうするんだ?」

「そうですね。先に進んでもいいんですが、先生もある程度レベル上がりましたし、一度戻っておきますか? また装備を整えてもいいですし」

「今のところ不満はないんだが……まあ、まだあの街もしっかり見ていなかったしな」



 今のところ、あの街は多くのプレイヤーの拠点となっている場所のはずだ。

 自分の足で歩いておかんと、どんなものがあるかも覚えられない。

 そもそも、旅支度なんぞ何もしてない内からここまで来ちまったし、一度戻って準備しておいた方がいいだろう。



「それじゃあ、戻りますか。あ、あと、こういうストーリー上倒さないと進めないようなボスを倒した場合、『スキルスロットチケット』を貰えますから、使っておいてください」

「おん? スキル枠が増えるのか?」

「はい。まあ、貰えるのは初回だけですけどね」



 まあ、そんな便利なアイテムを何度も貰えたら、それはそれで問題か。

 緋真の言葉の通りにメニューを開き、インベントリに格納されていたスキルスロットチケットを使用する。

 直後、システムメッセージで『スキルスロットが1つ増設されました』と表示され、自動的にスキルのメニューが表示された。

 とりあえず、スキルポイントはそこそこ溜まっていたが、今はほしいスキルも無いため《採掘》を入れておくことにするか。

 そんな操作を行いながら石柱の向こう側へと戻ると、待っていた先ほどのパーティは、唖然とした表情で俺のことを見つめていた。



「おう、譲ってもらって悪かったな。詫びと言ってはなんだが、色々と講義しておいた。参考にするならしておけよ」

「あ、ああ……なあ、アンタ。その……リアルを詮索するのはマナー違反だとは分かってるんだが……」

「はは、そう気にしすぎるなよ。俺はこいつの師だ。そう言えばまだ納得できるだろ?」

「あ、《緋の剣姫》の師匠……」



 既に随分と注目されている様子だし、今更目立たないようにしたところで意味は無い。

 ならば、誤解されないように話を通しておいた方が手っ取り早いだろう。

 リーダーらしき男も、俺の言葉に驚きはしたものの、どこか納得した表情で頷いている。

 どうやら、それだけで強さを納得させられるほど、緋真の奴の名前は売れているようだ。



「お前、随分と有名だな」

「ま、まあ、イベントで上位入賞したこともありますし」

「……ま、リアルでの訓練を疎かにしないなら別にいいんだがな。さて、それじゃあ俺らはここで失礼する。健闘を祈ってるぞ」



 まあ、何はともあれ、ここでの用事は済んだわけだ。

 待っていたパーティの連中にそう告げると、リーダーは軽く笑みを浮かべて応えた。



「ああ、ありがとう。参考に……いや、中盤辺りから殆ど参考にはならなかったが、できるだけ参考にさせてもらうよ」

「んん? ああ、初心者に殺気を読むのは流石に難しかったか」

「……先生、そんなの私でも結構失敗しますからね」



 半眼で見つめてくる緋真の言葉に、俺は首を傾げつつもパーティ連中に手を振って踵を返す。

 そのまま俺と緋真は、襲ってくる敵を片っ端から片付けつつ、最初の街である『ファウスカッツェ』へと帰還の途に登った。

 ――先ほどのボスでまた経験値を溜めたせいか、最終的にレベルは8まで上昇していたが。











 * * * * *











「ふむ……やはり、あのボスに比べると、ただの狼は物足りないな。兎は言うまでもないが」

「そりゃまあ、ボスとは比べるべくも無いですけど……あら?」



 街に到着し、先ほど出ていった門から戻ってきた直後。

 突如として虚空を見上げた緋真に、俺は首を傾げつつ問いかけた。



「どうした? 何かあったのか?」

「あー、はい……その、リアルの方からのメールの転送です。済みません、用事ができてしまったみたいです」

「そうか。ま、とりあえず一通りは説明して貰ったからな。街の中については、とりあえず自分で歩き回ってみるさ」

「ごめんなさい。せっかく誘ったのに、放置する形になってしまって……あ、ログアウトのやり方は分かりますよね?」

「流石に、メニューに書いてあったからな。そこまで心配は要らん」



 まあ、こちとらまだしばらくは時間的余裕があるし、ゲームは続行するつもりなのだが。

 何でも、このゲームの中では、時間が三倍の速度で流れているらしい。

 こちらに三時間いたとしても、現実世界では一時間しか経過していないわけだ。

 短い時間でも実戦に割り当てられるのは、俺としても嬉しい限りである。



「それじゃあ、済みません、お先に失礼します。あ、掲示板には私から説明しときますから!」

「あ? おい、ちょっと待――」



 待て、と告げようとした所だったが、生憎と緋真の姿は薄れて消えた直後。

 恐らくはその際の音に紛れて、俺の声は届かなかっただろう。

 思わず持ち上げていた手を手持ち無沙汰に下げて、俺は嘆息を零す。



「掲示板に説明って、どういうことだ……仕方ない、後で聞くか」



 まあ、リアルだろうがこっちでだろうが、いくらでも聞く機会はあるだろう。

 何か企んでいる様子ではあったが……流石に、俺に不利益なことはしないだろう。

 もしもそうなったら、明日きつめにしごいてやればいい話だしな。

 さて、しかしだ――



(緋真がいなくなった途端にこの状態か)



 周囲から、俺に対する視線が集まってきている。

 緋真がいたときも向かってくる視線はあったのだが、半分ぐらいは緋真に対する視線だった。

 だが、今はその分も俺に対して向けられているようだ。

 今まではあいつが抑止力になっていた、というわけか。目立つのは仕方ないにしても、少々面倒だ。

 だがまぁ、そのせいで表を歩けないというのも癪だ。とっとと目的地まで行ってしまうとしよう。



「なあ、アンタ――っ!?」



 こちらへと声をかけるために接近してくる奴が一人。

 戦力として誘おうと言うのか、それとも緋真との繋がりを作ろうと言うのか。

 まあどちらにせよ、足の運びだけで素人だと知れる。敵だろうが味方だろうが、今はそんな奴の相手をするだけ時間の無駄だ。

 そう判断した俺は、近づいてくる男の視界からするりと死角へ潜り込んでいた。

 戦闘時のように狭い視野になっているわけではないため、完全に視界から外れるということは難しいが、今はそれなりに人通りも多い状況だ。

 一瞬でも視界から外れてしまえば、雑踏の中に潜り込むことはそう難しくはない。



(まあ、何度もやられるとそれはそれで面倒なんだが)



 己の気配を可能な限り薄くして、雑踏の中に身を紛れさせる。

 有名になってはいるが、基本的に緋真とセットだ。まだ顔もそれほど知れ渡っていないだろうし、気配を殺せば容易く視界から外れられるだろう。

 普段はこういう、暗殺者じみた行動はしないので、それほど得意というわけではない。

 が、戦闘時に相手の視界から外れた時などは、これと殺気によるフェイントを併用するとそこそこ効果的であるため、一応は習得しているのだ。

 こちらに視線を向けてくるものがあれば、その視線から隠れるように人陰へと消える。

 たとえ人の多い雑踏であろうと、その隙間を縫うことは、動体観察を鍛えた俺には児戯に等しい。

 そうして人ごみに紛れて進んだ先で、俺はさっさと、先ほど訪れた天幕の中へと逃げ込んでいた。



「ったく、面倒な……」

「おー、先生さん。もう戻ってきたの?」

「ん、フィノか」



 目ざとく俺の姿を見つけたフィノが、運んでいた武器類を棚に置いて近づいてくる。

 その姿に肩を竦め、思わず苦笑を零した。



「緋真の奴が用事だったんでな。人目を避けてここまで来たわけだ」

「随分目立ってるね、先生さん。草原のボス倒したんでしょ?」

「流石、耳が早いな。色々とアイテムが出たが、ここで売っても大丈夫か」

「うん、問題ない。かんちゃーん」

「はいよー。あと、その呼び方止めろっての」



 フィノの呼びかけに応えたのは、あのエレノアというここのリーダーの傍で話をしていた男性プレイヤーだ。

 黒い髪に、小さめの眼鏡をかけた優男だが、その繊細そうな見た目にそぐわぬ粗暴な口調の男だ。

 だが、不思議と悪い印象は受けない。どこか子供っぽさの残る仕草をしているせいだろう――尤も、それは演技の内なのだろうが。

 相手を油断させる術に長けているのは、中々見所があると言えるだろう。



「はいはいっと……ああ、アンタはあの剣姫のお師匠さんって人か。俺は勘兵衛だ、よろしくな」

「ご存知の通り、クオンだ。あんたが精算をしてくれる人ってことでいいのかな?」

「ああ、うちの会計担当だよ。それで、グレーターステップウルフの素材の精算だろう?」

「そうだな。ええと……アイテムを選んで交換、だったか」



 メニューからアイテムの一覧を選び、相手との交換のウィンドウを開く。

 俺はアイテムを、そして勘兵衛は金を出して、両者が納得すれば交換のボタンを押す。

 ちなみに、両者が納得している場合は交換ではなく一方的な譲渡もできるそうだ。



「……何か妙に多いな。アンタがほとんど一人で倒したってのは本当なのか」

「あのでかい狼か? 周りの取り巻きも含めて一人で片付けたが」

「マジかよ……そりゃ面白い。精算するから、ちょっと待ってくれ」



 口元をにやりと歪めた勘兵衛は、手に持っていた帳簿で計算を始める。

 そこそこ素材の数は多かったし、多少時間は掛かるだろう。

 少し時間を持て余した俺は、近くで茫洋とした視線を俺たちへと向けていたフィノに声をかけた。



「なあフィノ、今はレベル8まで上がったんだが、装備の新調はできるか?」

「んー、STRはいくつまで上がった?」

「14だな」

「それなら、16まで上げれば鋼装備も装備できるようになる。今より二段階上で、現在の最高ランク。防具は重いの装備できなくなるけど」

「それは構わんさ。どうせ、防具は鎧をつけるつもりも無かったからな」



 今日動いてみたが、とりあえずこういう布系の装備が性に合っていることが分かった。

 今後もこの方向性で行くのであれば、防具の重さはそれほど気にしなくてもいいだろう。

 一応、金属の篭手などの重さはあるにはあるのだが、部位が小さいだけにそれほど重いというわけではない。



「そうか……ああそうだ、後、着流しの上から羽織のようなものは装備できんのか?」

「アクセサリの2枠のうちの1枠を使えば装備できる。ただ、在庫が無いから取り寄せ」

「あまり需要は無いのか?」

「まあ、軽防具なら、そこで防具を増やすよりはチャームとか使って耐性上げたりするのが一般的。いおりんに依頼すれば持ってきてくれると思うけど……今クエスト中だから、ちょっと時間がかかる」

「それなら、何処かしらで時間でも潰しておくかね……」



 いおりん、とやらはこの着物などの製作者である伊織というプレイヤーだろう。

 同じ製作者だというのなら、十分に期待はできるはずだ。

 多少楽しみにしつつも、俺はどうやって時間を潰すかを考えた。

 周囲の連中は面倒だが、ここでいつまでも隠れているのもつまらない。

 適当に街をぶらつくか――と、そう考えていたその時、何かを思いついたようにフィノが視線を上げていた。



「それなら、先生さんが興味ありそうなところがあるよ」

「ほう、それは何処だ?」

「街の南地区、剣術の道場が二つある。たのもーって言いながら入ると、歓迎してくれるって」

「歓迎ねぇ」



 そりゃまた、面白い歓迎になりそうだ。

 わざと言っているのか天然なのかは知らないが、せっかくだから参考にしてみるとしようか。

 内心でそう考えながら、俺はこの後の予定を決定したのだった。











書籍版マギカテクニカ第2巻、9/19発売です!

情報は随時、活動報告やツイッターにて公開していきますので、是非ご確認を!



■アバター名:クオン

■性別:男

■種族:人間族ヒューマン

■レベル:8

■ステータス(残りステータスポイント:0)

STR:14

VIT:12

INT:14

MND:12

AGI:11

DEX:11

■スキル

ウェポンスキル:《刀:Lv.8》

マジックスキル:《強化魔法:Lv.5》

セットスキル:《死点撃ち:Lv.7》

 《HP自動回復:Lv.2》

 《MP自動回復:Lv.3》

 《収奪の剣:Lv.3》

 《識別:Lv.5》

 《採掘:Lv.1》

サブスキル:なし

■現在SP:12

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マギカテクニカ書籍版第11巻、12/19(木)発売です!
書籍情報はTwitter, 活動報告にて公開中です!
表紙絵


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