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776:西の悪魔











 現在、俺たちの領地と接触しているのは二体の大公級悪魔だ。

 東は言わずと知れたエインセルであり、そして西が正体不明なままのヴァルフレアという大公であった。

 エインセルについては、未だ謎は多いもののある程度情報は判明している。

 しかし、ヴァルフレアについては殆どが謎のままであった。

 分かっているのは、非常に精強な悪魔が揃っていることと、その代わりとして数はそれほど多くは無いということ。

 それ以外のことについては殆ど判明していない、謎多き悪魔であった。



「成程、コイツは中々……!」



 俺たちは西側に寄りながら移動し、北を目指していたのだが、その途中で遭遇したのがヴァルフレアの陣営に属する悪魔であった。

 正確にはそう思われるというだけであるが、エインセルの悪魔と違って少数で行動し、特殊な兵器を持っている様子もない。恐らくは間違いないだろう。

 そのヴァルフレアの悪魔、名無しのグレーターデーモンであったのだが、驚くべきことにかなりの戦闘能力を有していた。

 恐らくは、最低でも子爵級はあるだろう。これまで十把一絡げに片付けていた悪魔たちがこれだけの戦闘能力を有していることに、俺は驚愕を禁じ得なかった。


 歩法――烈震。


 頭上に浮かぶ魔力の球体。それが弾けるごとに、散弾銃のように鋭い金属の棘が射出される。

 それらを一気に駆け抜けることで躱しながら、俺は悪魔へと向けて一気に肉薄する。

 恐らくは地属性の魔法。防御に秀でたその属性は、容易に刃を届かせることはできない。



「――『生魔』」



 対するのは、背中から一対の翼のようなものが生えた悪魔である。

 それは翼そのものではなく、巨大な岩の腕と言った方が正確なのかもしれない。

 背中から伸びている爪のような形状のそれは、こちらを威嚇するようにその先端を向けてきている。

 事実、三本の爪のようなその先端には、強力な魔力が収束を始めていた。


 歩法――陽炎。


 その先端より射出される金属の鏃。

 六つある先端部より放たれるそれらは弾幕のようにこちらを狙ってくる。

 狙いは正確、そうであるが故に回避そのものは行い易い。

 大量の弾をばら撒くなら、もっと広い範囲に狙いを付けず放った方が良かっただろう。



「し……ッ!」



 敵の狙いを外させて、一気に横合いまで踏み込む。

 射出の衝撃に耐えるため踏ん張る体勢になっていた悪魔には、回避行動を取ることは不可能だ。

 故に、そのグレーターデーモンが選んだのは迎撃。金属に包まれた強靭な腕が、俺を薙ぎ払おうと振るわれる。

 その腕へ、俺は更に一歩を踏み込んだ。


 斬法――剛の型、刹火。


 腕の下に潜り込むように、攻撃を紙一重で回避する。

 それと共に振るった一閃は、グレーターデーモンの左腕を肩口から斬り飛ばした。

 緑の血を噴き出しながら切断された腕が宙を舞い、グレーターデーモンはその衝撃にバランスを崩す。

 俺はその様子を見ながら地に手を突き、擦るように体を反転させる。



「《練命剣》、【命輝閃】」



 それと共に地を蹴り、再び悪魔へと肉薄。悪魔の背中へと向けて餓狼丸の刃を振るう。

 体勢を崩しているグレーターデーモンには到底避けられるはずもなく、俺の一閃は背中に生えている羽のような部位を一閃の下に斬り飛ばした。

 体の左側の部位を喪失し、グレーターデーモンの体は大きくバランスを崩す。

 このままでは体勢を保てるはずもない。何とか転倒を防ぐため、グレーターデーモンは大きく左に踏み込むように足を広げた。



「首を垂れたな――『生奪』」



 グレーターデーモンは大柄で、そのままでは首を狙いづらい。

 だが、体勢を保つために前傾姿勢になった今であれば、そこを狙うことも難しくは無かった。

 頭上には再び魔力の球体が配置されるが、それが弾けるよりも俺が刃を振るう方が速い。


 斬法――剛の型、輪旋。


 翻し、振り下ろした一閃は、グレーターデーモンの首へと突き刺さる。

 餓狼丸の刃は弱点である首へと容易く突き刺さり、一閃にて斬り落とした。

 夥しい量の血はすぐさま黒い塵へと変わり、跡形もなく消滅していく。

 完全に事切れたことを確認し、更にもう一体は緋真たちが片付けたことも確かめて、俺は血振りをしつつ餓狼丸を鞘に納めた。



「グレーターデーモンとはいえ、ただの悪魔がこれだけの実力か。確かに、コイツは面倒そうだな」

「でも、エインセルの方よりは戦いやすいわよね?」

「それは否定できんな。あっちは対応を間違えると続々と援軍が来る可能性があるし」



 エインセルが厄介なのは、奴の陣営が組織立って行動している点だ。

 末端に至るまで規律に従って行動しており、対応を間違えれば軍勢と戦う羽目になりかねない。

 エインセルの陣営と戦う場合の最大の懸念点こそ、その組織力だと言えるだろう。

 だが、ヴァルフレアの方にはそれが無い。ただ単純に個としての実力が高い、それがこの陣営の特徴なのだ。



「とはいえ、恐らくは銀龍王を一蹴したと思われるのがヴァルフレアだからな……陣営と戦い易くても、その頂点に勝てるかどうかはまた別の問題だ」

「どういう性質なのかも分かってないですからね……まあ、そもそもどっちと戦うかはまだ決まってないですけど」



 ある程度能力は分かっているが、その全貌までは把握できていない二体の大公。

 そして、そもそも存在すらも確認できていないもう一体。

 攻略の糸口はまるで見ていないのだが、それでもこいつらを何とかしなければマレウスに辿り着くことはできない。

 まだまだ、先の長い戦いになりそうだ。



「それで、このままヴァルフレアの悪魔と戦いながら進むのでいいの?」

「ああ、それである程度でも情報を得られたのなら御の字。得られなかったとしても、元々の目的は北に向かうことだからな」



 正直なところ、俺たちは諜報活動に向いているわけではないし、ヴァルフレアの情報も積極的に狙うつもりは無い。

 それでも、多少はヴァルフレアの戦力を削ぎつつ進めば、マイナスになるということは無いだろう。

 流石にヴァルフレアに近付き過ぎるというわけにはいかないし、そこまで無理をする必要もない。



「ああ、一応言っておくが、何か有用な情報が見つかったならそっちを優先でいいからな? 他のプレイヤーも調べて回っているんだから、何かしら見つかってもおかしくは無いだろう」

「当てもなく歩き回るよりは、そっちの方が効率的ですしねぇ。一応、情報は随時チェックしてますよ」



 今回の件で『MT探索会』は、自分たちのホームページで既に専用のページを作成している。

 現状、続々とまでは行かないが、そこに情報が集まってきているところだ。

 既に仙人の隠れ里については話が出回っているが、まあ《仙術》系を持っているプレイヤーが少ないのでそこまで有用な情報というわけではないだろう。

 一方で、ティエルクレスの情報は今のところ載っていない。難易度が高すぎるというのもあるが、どうやら検証できていない情報は載せるつもりは無いようだ。



(あいつらがティエルクレスを攻略できるなら、アンヘルから隕鉄剣も帰って来そうなもんではあるが……)



 さて、果たしてあいつらだけで正気のティエルクレスを攻略できるのかどうか。

 少なくとも絶対に勝てないというほどの実力差ではないだろう。

 あいつらがあのスキルを手に入れられるなら十分な強化になるだろうし、期待しておくとするか。



「ティエルクレスがいたのは北東側……北はマレウスの支配地で侵入できず。今回目指すのは北西側、と」

「何かありますかね?」

「無いなら無いで、生息している魔物は結構強いだろうからな。修行にはなるだろうよ」



 隠されたイベントがある可能性は、正直少しだけ期待している。

 それを確かめるためにも、遠い北の地を目指して足を進めることとしよう。











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