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757:融解せし愛の檻 その18

★書籍第十巻は5/17(金)発売いたしました!

★書き下ろしでは、書籍未登場のあのキャラクターが登場します!

★大きなストーリー転換となる回ですので、お楽しみに!


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 深く断ち切られ、皮一枚でつながっているかのような首。

 辛うじて繋がっているその首も、緑色の血を噴き出しながら、自重に耐えきれずズレ落ちていく。

 その巨大な顔に浮かべられているのは、驚愕に染まった表情であった。



『どう、して……!? あの方の、愛が――』

「《オーバーレンジ》、『呪命衝』――【餓狼呑星】!」



 巨大すぎるせいでHPが見えず、トドメをさせているかの確信はない。

 故に、俺は落ちていくユグレヴィーナの首へと向け、黒く燃え上がる槍の一閃を解き放った。

 一直線に伸びてゆく黒い槍は、見開かれていた瞳を貫き、その奥へと穂先を届かせる。

 だが、その一撃の手応えからは、生命力を奪い取る感触を感じ取ることができなかった。



「終わっていたか。存外あっさりと……とは言えんか」



 一撃で成功させたように見えるだろうが、実際のところはかなり分の悪い賭けであった。

 レヴィスレイトの妨害を受けないタイミング、こちらへと向けられた迎撃に対する対処、何より一撃で殺し切れるかどうかのリスク。

 これらの無茶を通すことができたのは、偏に運が良かったからに他ならない。

 テクニックを解除した俺は、すぐさまレヴィスレイトに対して注意を向ける。

 必要だったとはいえ、横槍を入れて首を奪った形だ。その心情を慮ってやる筋合いはないが、レヴィスレイトにとっては大層気に入らない状況だろう。



『……余計な手出しをしてくれたな、魔剣使い』

「否定はせん。だが、この悪魔はここで完全に殺し切る必要があった」



 案の定、静かな怒りを湛えたレヴィスレイトは、滲みだすような殺気を纏いながらこちらに視線を向けてくる。

 しかし、その意識の大半は崩れ落ちるユグレヴィーナへと向けられているようであった。

 地に落ちたユグレヴィーナの首は、少しずつ黒く染まりながら崩壊していく。

 その体が溶けて都市に吸収される様子はない。これまでの《奪命剣》のテクニックと同様の、枯れて朽ちるような崩壊であった。



『嗚呼、そんな……わたくしが、消えて……お願い、奪わないで――』

「戯言を。今まで散々奪って来ただろうに」



 奪って来たのだから、奪われることもあるだろう。

 立場が逆転して敗北を悔やむならともかく、その状況を嘆くなど。

 ――そのような資格が、悪魔であるお前たちにあるものか。



『どうして、わたくしを、アルフィニール様――』



 事ここに至るまで、アルフィニールは手出しをしてこなかった。

 それはユグレヴィーナだけで十分だと考えていたからか、もしくは最初から捨て駒として扱っていたためなのか。

 理由を考えても、しっくりとする答えは見えてこない。それは偏に、あの思考パターンがまるで想像できないからだ。

 アルフィニールは、なぜこのように回りくどい形で俺たちを迎え撃ったのか。

 人間の論理に当て嵌めたところで、その答えが見えてくるとは思えなかった。



『……貴様に手向ける言葉はない。我らは道を違えた、その結末だ』



 レヴィスレイトは、一時だけ俺に対する殺気を納めてそう口にする。

 口ではそう言いつつも、その台詞は間違いなく別れの言葉であった。

 尤も、揶揄すれば面倒な反応が返ってきかねないため、沈黙を保つこととするが。

 別れを告げられたユグレヴィーナは、その崩壊が口にまで及び言葉を発することができなくなる。

 しかし、その瞳の中には最後まで何かを懇願するような色が残り――やがて、全てが崩壊して消滅した。

 同様に、首を切り離された身体もまた崩壊し……けれど、その元となっていた塔は消えずに残る。



(おしべは消えている。周囲に広がっていた花弁のような部位も。だが、街そのものが崩壊する様子は無いか)



 あの植物のような形状は、ユグレヴィーナの力によるものだったようだ。

 一方で、この侵食する肉の塊はアルフィニールの力ということなのだろう。

 ――つまり、ここからが本番だ。



「……言いたいことはあるだろうが、ここで戦う意味は無い。退かせて貰うぞ」

『フン……こちらとて、閣下の邪魔をするわけにはいかん。気に入らんが、ここは見逃してやる』



 レヴィスレイトは俺に対する殺意を隠すつもりも無いようではあるが、大局を見失うほど直情的でもない。

 こちらとしても少々複雑な感情はあるが、素直に本隊の方へと戻るようにセイランへと合図を送った。

 地上では、未だに数々の化け物が暴れ回っている。

 塔の前を確保するためには、こいつらを取り除かなければならないだろう。

 まあ折角ではあるし、少し手助けをするか。



「《奪命剣》【咆風呪】――」



 折角解放した餓狼丸なのだ、あるものは使いきらなければ勿体ない。

 【咆風呪】に【餓狼呑星】を乗せれば、あの化け物たちをまとめて吸い殺すことができるだろう。

 そう判断してテクニックを解放しようと刃を振り上げ――視界の端に、薄紫色がちらついた。



「――――ッ」



 殺気は無い。攻撃を受けたわけではない。

 ただ、その女はいつの間にかそこにいただけだ。

 ユグレヴィーナが消えたことで幾分か短くなった塔の上――そこに、先ほど見た女が姿を現していた。



『――アルフィニールッ!!』



 刹那、銀色の閃光が駆ける。

 大上段に振り上げられた巨大な剣、それが塔の上へと向けて凄まじい速度で振り下ろされたのだ。

 その凄まじい風圧に吹き飛ばされそうになりながら、けれど瞳を閉じることなくその様子を確認する。

 塔の上に出現した大公アルフィニールは――そこから微動だにすることなく、魔力の障壁によってレヴィスレイトの渾身の一閃を受け止めていた。



「消えてしまったのね、ユグレヴィーナ……幸せそうだったのに、可哀想ねぇ」



 しかし当のアルフィニールは、レヴィスレイトの攻撃をまるで意に介した様子もなく、ユグレヴィーナが消えた場所へと視線を向けている。

 アルフィニールの言葉は――ただ、純粋にユグレヴィーナの消失を悼んでいるようであった。

 分からない。アルフィニールという一個の人格の考えを読み切ることができない。

 だが――やるべきことは明白だ。レヴィスレイトが一度剣を引いた、その刹那。俺は即座にセイランへと合図を送った。



「《蒐魂剣》、【破衝閃】――【餓狼呑星】!」



 三度目の発動、これで制限時間を三分消費した。

 使えるタイミングはあと一度だけだろう。餓狼丸の力を纏って黒く染まった《蒐魂剣》の槍は、障壁を張ったままのアルフィニールへと伸び――僅かな抵抗と共に、その壁を貫いて打ち砕く。



「あら――」



 少し驚いたような、小さな呟きが耳に入る。

 だが、時間的余裕はない。瞬間的にセイランの背から飛び降りた俺は、回転をしつつ受け身を取って勢いを殺しながら、最後のテクニックを発動した。



「『練喰牙』【餓狼呑星】ッ!」



 金を纏う漆黒の短剣が、黒い炎を吹き上げる。

 その切っ先を擦れ違い様にアルフィニールの脇腹へと叩き込み――俺は、そのまま駆け抜けて塔の上から飛び降りた。

 首に刃を叩き込みたいところではあったが、生憎と塔の上に留まることはできない。

 何故なら、先ほど攻撃を弾かれたレヴィスレイトが、殺意を剥き出しに刃を振り上げていたからだ。



『数多の狼藉、その命で贖うがいいッ!!』



 急降下してきたセイランに掴まり、塔の傍から離脱する。

 そして、その直後――レヴィスレイトが振り下ろした大剣は、巨大な塔を唐竹割に叩き斬ったのだった。











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― 新着の感想 ―
[良い点] ある意味でレヴィスレイトとの共闘になっててワクワクしますね!
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