753:融解せし愛の檻 その14
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かつてアドミス聖王国において、《奪命剣》の使い手であるブラッゾと戦ったことがある。
奴は卓越した《奪命剣》の使い手であり、その技術のみで言えば今の俺よりもまだ上であったと言えるだろう。
そんな奴は、《奪命剣》を利用して町中からリソースを奪い続けるという技術を利用していた。
あれは伯爵級悪魔と化したからこその力だと思っていたのだが――
「《奪命剣》そのものに、リソースを奪う力があるってことか」
相手のHPを削り取り、己のHPへと変換するスキル。
単純に言ってしまえばそのような効果ではあるのだが、まさかその中でリソースすらも奪っていたとは。
前からそうだったのか、あるいは最近それができるようになったのかは分からない。
だが、《奪命剣》が化け物たちのリソースを奪い、アルフィニールに還元させない可能性は十分に考えられるようだ。
(アルフィニールの総体に比べれば微々たるものだが、それでも多少はマシか)
アルフィニールのリソースを削り切るには、このイベントの期間だけでは足りないかもしれない。
だが、ほんの少しであったとしてもアルフィニールのリソースを削り取れることは有用だろう。
というわけで、俺は隊へと戻る帰り際に、そこら中を手当たり次第に《奪命剣》で斬りつけていくこととした。
「《奪命剣》、【冥哮閃】」
ざっと確認したところ、ただ《奪命剣》で攻撃すればよいというわけではなく、《奪命剣》でトドメを刺す必要があるようだ。
ブラッゾはそうでなくてもリソースを奪うことができていたようだが、まだ俺の技術が足りていないということなのだろう。
化け物であれば、《奪命剣》の一撃で殺し切れればそれで消滅させられる。
だが、周囲の建物はそうもいかない様子で、やはりHPを削り切れるかどうかが問題ということなのだろう。
(これだけ使い倒してきてるってのに、未だに謎だらけだな)
皆伝を受けて尚、知らない事実が判明する。
それもまた面白くはあるが、検証している暇はなさそうだ。
こちらへと襲い掛かってきた化け物の首を黒い刃で斬り落として、その体が枯れ落ちていく姿を確認する。
やはり、《奪命剣》で斬った化け物は溶けて消える様子はない。
枯れて消えていくその姿は、肉が溶ける有様とは明らかに異なるものだ。
建物まで含めて消し去れるならば非常に有用だったのだが、流石にそこまで都合よくはいかないか。
「……まあ、消せるだけでも特例だろうからな。シリウス、この壁をぶっ壊してくれ。本隊に戻るぞ」
「グルルッ!」
俺の言葉に頷いたシリウスは、タックルじみた体当たりで眼前の建物に突撃する。
その重量と身を包む刃は、壁や建物を紙か何かのように引き千切り、通り抜けるための通路をあっさりと開いて見せた。
とはいえ、短時間で再生してしまうため、周囲を更地にするということもできないのだが。
シリウスが強引に切り開いた道を進んで隣の通りへと出れば、そこには今まさに隊の方へと群がっている化け物たちの群れ。
視線があちらばかりに向いているのであれば、ちょうどいいタイミングだろう。
「《オーバーレンジ》、『奪淵煌牙』」
使い道があるのかは分からないが、一応作っておいた【奪淵冥牙】と《練命剣》の組み合わせ。
掲げた餓狼丸の刃は黄金に輝きながら、しかし周囲からは黒い闇が集い渦を巻いて行く。
やはり、あまりにも溜め時間が長すぎる。正面で敵と斬り合っている最中では、このようなテクニックを使うタイミングは無いだろう。
オークスも何を考えてこのテクニックを作ったのか――まあ、このように役に立つ場面があることも事実なのだが。
「――枯れ堕ちろ」
斬法――剛の型、中天。
前段階のHP吸収によってこちらに気付いた個体もいたようだが、標的を変えるラグがあるようでは到底間に合う筈もない。
大上段から振り下ろした黒い渦の奔流は、化け物たちの群れをまとめて飲み込み、その姿を消滅させた。
発動に消費した《練命剣》のHPは丸ごと回復し、消費したのは【奪淵冥牙】のMP消費だけだ。
とはいえ、流石に大技であるためMPの消耗は大きいのだが。
とりあえずMPポーションで補給しつつ、隙間ができた戦場を戻って本隊の方に合流する。
「あちらは片付けてきたぞ。様子はどうだ?」
「敵の数が増えてきたぐらいですけど、まだ許容範囲です! っていうか、今のって……」
「《奪命剣》の効果らしいな。まあ、ちょっとした嫌がらせだ」
結局、アルフィニールにリソースを回収させないというだけであって、そこまで大きな効果を期待しているわけではない。
無いよりはマシ、という程度の考えでしかないのだ。
それでも、効果がある以上は積極的に狙っていくつもりであるが。
「しかし、やはり敵の数は増えている感じか?」
「ですね。大型のは少ないですが、小型の数がかなり増えてきているかと」
眉根を寄せる緋真の言葉に、小さく頷く。
先ほどのおしべから出現した化け物は対処したが、俺が破壊したおしべは三つ。
残り二つが化け物を生み出し続けている可能性は否定できない。
転んでもただでは起きないというか、何処を切り取っても厄介な点しか存在しない化け物だ。
あのまま放置していればこちらが壊滅していたかもしれないし、破壊という判断は間違ってはいなかったのだが、それでもこのような状況を引き起こすとは。
(だが、それでも着実に近付いてきている)
ここまで、足を止めずに進んできている。
たとえ大量の化け物によって道を塞がれていたとしても、俺たちは歩みを止めていない。
目指すべき本丸、あの巨大な塔は間近にまで近づいてきているのだ。
【奪淵冥牙】によって多くの化け物を間引いたおかげで、またも前に斬り込むだけの余裕ができた。
加え――頭上から降り注いだ光が、疎らに残っていた化け物たちを撃ち抜き、その動きを止めていく。
「戻って来たか、ルミナ。そちらは問題なかったか?」
「はい、無事に送り届けました。次はどうしますか?」
「同じように安全圏確保に動く部隊が出るはずだ。それが現れたら同じように同行してくれ」
確保すべき拠点は一ヶ所には収まらないだろう。
アルトリウスが何を狙っているのかは知らないが、確保する数は多ければ多いほど有利に働くはずだ。
フットワークの軽いルミナは自由に動かし、少しでも盤面を有利にしておかなければ。
アリスからの報告が来るまでは好きにさせ、アルトリウスが動き始めたらそれに協力する。
二人の動かし方はそれで問題ないものとして、後は――
「《奪命剣》、【刻冥鎧】」
俺の右腕のみを、重さのない黒い甲冑が包み込む。
これで、いちいち《奪命剣》を発動することなくその効果を得ることができるようになる。
ルミナが転がした化け物の顔面へとその刃を突き込みつつ、俺は前方へと目を凝らした。
変異によって現れる化け物で見通しは悪いが、目的地は遠方に見え始めた。
何もない平坦な道であれば数分で辿り着ける距離、それがあまりにも長い。
俺たちだけであれば強引に突破することも難しくは無いだろうが、安全を確保しながら進むには危険が多すぎる道であった。
「とどめを刺すだけってのも味気ないが、贅沢は言ってられんか」
動きを止めている化け物を【刻冥鎧】の力で殺しつつ、再び最前線へと身を躍らせ――刹那、爆発的な魔力の奔流が、北西の方角より立ち上った。
「っ、何だ!?」
「先生、あれは……!」
天を衝くような、銀色の光。
柱のように立ち上ったその光の内側には、ゆっくりと体を起こす巨大な人型のシルエットが存在していた。
腕を振るい、光の中より顕れるのは巨大な白銀の鎧。輝くような全身甲冑。
この強大な魔力は間違いなく、公爵級悪魔の本体の出現。しかも、あの姿は――
「……レヴィスレイト、だったか」
ドラグハルトの傍らに侍る女騎士。
公爵級第二位の力を持つ強大な悪魔が、巨大な塔を前にしてその姿を現したのだった。