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751:融解せし愛の檻 その12

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 三本目のおしべをクールタイムの終わった《不毀の絶剣デュランダル》で破壊して、急務となった仕事は完了した。

 が、今の位置関係的には全くもって安心できる状況ではない。上空を移動してきたため、他のおしべからの射線が通っている状態なのだ。

 角度的には地上の仲間たちが狙われることはないとはいえ、今まさに俺たちが狙われていることは事実である。

 流石に空中で砲撃を受けては堪らないためさっさと射線から逃れつつ、俺は一度北西方面へと視線を向けた。



(ドラグハルトたちは……流石に、この高度からじゃ見えんか)



 あまり高く飛ぶと妙な攻撃をされる可能性もあるため、現在はあまり高くは飛んでいない。

 そのため、今の位置からはドラグハルト達の状況を確認することはできなかった。

 とはいえ、あちら側のおしべの砲口が動いている辺り、あちらもある程度近付いてきていることは察することができるが。

 あちらは果たしてどのように対処するつもりなのか。見物ではあるのだが、生憎と観察しているような余裕はない。

 舌打ち交じりに地上へと戻ろうとし――視界の端で、黄金の光が閃いた。



「……!」



 一瞬で放たれたものとは思えないような、強大極まりない魔力の発露。

 それによって放たれたのは、恐らく《不毀の絶剣デュランダル》にも似た魔力の刃なのだろう。

 ほんの僅かにだけ見えたそれは中空に黄金の軌跡を描き、動いていたおしべを二本まとめて斬断した。

 その桁外れといっていい強力無比な攻撃に、俺は思わず息を呑む。



「あれがドラグハルトの攻撃か……」



 甘く見ていたわけではないが、やはりディーンクラッドやデルシェーラと比較しても強大な力だ。

 変身しているわけでもないだろうに、あれほどの破壊力を瞬時に発揮できるとは。

 いずれ戦うにしても、多くの情報を集め、対策を立てる必要があるだろう。

 ともあれ、ドラグハルト達も砲撃への対処はできたということだ。

 あちらもまた、障害を排除して前に進んでいるということだろう。尤も、被害なしで済んでいるのかどうかは分からないが。



(気にはなるが、確認する余裕もなし。適度に消耗しながら順調に進んでくれることを祈る)



 実に身勝手な願いを胸中に抱きつつ、俺はシリウスと共に地上へと舞い戻った。

 たむろしている化け物共をシリウスが踏み潰し、大きく尾を振って周囲の建物ごと薙ぎ払う。

 それとほぼ同時、周囲に漂っていた霧が晴れ、味方の姿が再び露わとなった。

 ここまでの隠蔽で、果たしてマリンがどの程度消耗したのかは不明だが、やはりいつまでも展開し続けられるものではないのだろう。



「よく耐えた、ペースを上げるぞ!」



 シリウスが潰したおかげで開いたスペースに、うちの馬鹿たちが雪崩込んでくる。

 シリウスの移動には巻き込まれないようにしているが、また何とも命知らずな様相であった。

 とはいえ、俺も人のことは言えない。こちらに駆け寄ってきた緋真に合わせてセイランから降り、再びさらに前線へと足を進める。



「緋真、そちらは問題なかったか?」

「はい。ウチからは脱落者は無しです。後方も、大きな被害が出たという話は流れてませんね」

「これだけの規模で常時攻撃に晒されていれば、流石にある程度は被害も出るか。だが、小規模に抑えているのは流石だな」



 アルトリウスが手を回しているのだろう。レイドに参加しているメンバーはかなりの数であるにもかかわらず、ほぼほぼ被害は出ていない状態だ。

 結局、あの砲撃を受けなかったのは大きいだろう。もしも直撃を受けていれば、『キャメロット』でも少なくはない被害が出ていたはずだ。

 あのおしべとて、いつまでも再生せずにいるのかは分からないし、移動すれば他のものから射線が通るようになる可能性もある。

 まだまだ、警戒を続ける必要はあるだろう。そう考えていたその時、耳元に聞き慣れた声が響いた。



『――クオン、安全圏を発見したわ。位置を共有するわね』

「了解、よくやってくれた。アルトリウスにも送っておいてくれ」



 暴れるシリウスを避けて通って来た化け物に肉薄しつつ、アリスからの声に応答する。

 やはり、こちら側にも休憩可能なエリアはあったようだ。

 生憎と地図を見ている場合ではないため、まずは目の前の敵を片付けなければならないのだが。

 見た目は、生えている五本の腕の先がハンマーのようになっている化け物だった。

 ムカデのように長い胴で、上半身を反り返らせながら襲い掛かってくる姿は実に不気味である。

 だが、その腕の形状からして、接近すれば大した攻撃はできるはずもない。


 斬法――剛の型、穿牙。


 背中側は甲殻のようになっているが、腹の側にそれは無い。

 だというのにわざわざ腹を晒しながら襲い掛かってくるのはどういうことか。

 不条理ではあるが、その身を貫くのに不足は無い。餓狼丸の切っ先は化け物の体を穿ち、強引に振り抜いた一閃はその身を捌いて見せた。

 このような形状の化け物は、足を削いでも動きを止めることができない。

 さっさと殺して、動きの止めやすい敵が出てくるのを待った方が効率は良いだろう。



(さて、場所は――)



 敵の位置を気配で把握しながら、アリスの送ってきた情報を確認する。

 位置は、ここから北東の方角、直線距離ならば五分と経たずに辿り着ける程度の場所だろう。

 だが、街の構造は複雑なものに変わってしまっているため、辿り着くにはもう少し時間がかかってしまうと思われる。

 広さにしても、今の全軍が入れるようなものではないようだ。



「だというのに……何か用事があるってか」



 見ている暇はないが、後方の気配が慌ただしくなってきている。

 どうやら、今のアリスの報告を受けて、確保のための人員を送るつもりのようだ。

 確かにセーフエリアは確保しておいた方が、何かと都合が良いことは事実だろう。

 しかしながら、今この状況においては、それも難しいと言わざるを得ない。

 そこまで無事に到達するためには、それなりの実力者を護衛に付ける必要があるからだ。



(ただ安全圏だから、っていう理由ではなさそうだな)



 『エレノア商会』のメンバーを送り込んで、補給拠点を造るつもりか。

 或いは、長期戦を見据えた避難所の設立か。

 何にせよ、アルトリウスが必要と判断したのなら、それは確保しなければならないものなのだろう。



「ルミナ、お前はアリスが発見した安全圏の方に向かってくれ。そちらに移動する連中を援護するんだ」

「よろしいのですか?」

「今は他の連中が多いからな。援護だけならそいつらでも何とかなるが、ここから離れるとなると話は別になる。これはお前にしか任せられん仕事だ」



 アルトリウスが編成するとはいえ、この本隊から離れて行動するプレイヤーには大きなリスクが伴うだろう。

 一人で一通りの対応が行えるルミナであれば、そのリスクもいくらかは軽減できる筈だ。

 それでもリスクがあること自体は避けられないだろうが、ルミナならばやり遂げられると信じている。

 そんな俺の内心を察しているのかどうかは分からないが――ルミナは、誇らしげな表情で頷いた。



「分かりました、行ってきます!」

「頼んだぞ」



 アルトリウスも、流石に俺がルミナを割り振るとまでは考えていないだろう。

 であれば、ある程度は戦力に余裕ができるはずだ。

 翼を羽ばたかせて駆けていくルミナの姿を見送り、こちらはこちらで改めて先へと進む。

 しばらくの間は、シリウスの回復には注意しておく必要があるだろう。

 ――ふと、足元から伝わる振動に気が付いたのは、そんなタイミングだった。



「……何だ?」



 弱い地震が来た時のような、気のせいとも取れてしまうような揺れ。

 だが、これは決して違和感などではない。

 立っているため把握しづらかったが、間違いなく小さな揺れが発生していたのだ。

 今度は何が起ころうとしているのかと、周囲を見渡して――それを見た。



「――は?」



 先ほど切り落とした、巨大なおしべの先端部。

 その途中から腕が生え、周囲の建物を支えとしながら、ゆっくりと立ち上がろうとする姿を。

 砲口があった先端部は垂れ下がり、その中から無数の触手を生やしながら蠢いて――異形の化け物は、建物越しにこちらを見据えていた。











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