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728:哨戒任務











 先ほどの件を報告してから、軍勢の動きは明らかに変化した。

 《看破》系のスキル持ちを飛行部隊に同道させ、潜んでいる悪魔のあぶり出しにかかったのだ。

 これはあまりレベルの高くない、最前線の戦闘部隊には配属されていないプレイヤーたちが多く、トップクラスの実力者は相変わらずの防空任務だ。

 やはり、度々空から襲ってくる悪魔はいるようで、彼らの層を薄くすることはできないらしい。

 とはいえ、あの話を聞いては警戒をせずにいるわけにもいかないということだろう。



「流石に、いるかも分からないような相手を警戒するのは面倒なんだけど」

「哨戒なんてのはそういうもんだ。八割は空振りに終わる、それでいいんだよ」

「それはそうだけどね」



 地上に目を凝らしているアリスは、流石に飽きてきたのか時々ぼやいている。

 まあ、俺としても何もない場所に悪魔の融合体を仕掛けているとは考えていないが。

 この辺りの木々全てが悪魔と融合しているとなったら流石に危険だが、一本や二本が紛れていたとしても大した被害にはなり得ない。

 だが、そのような奇襲を度々受けることがあれば、こちらの足も鈍りかねない。アルトリウスは、それを警戒しているのだろう。



「……一応、発見の報告は時々上がってるんだったか」



 小さく呟き、眉根を寄せる。

 散発的な奇襲による鈍足化――アルフィニールの狙いはそこだろう。

 労力は少なく、しかし効果は高い。厄介な手だ。

 だが、同時に俺たちの足を鈍らせようとする意志はあるということだ。

 迎撃の準備が十分であるならば、俺たちの到着を遅らせるメリットはあまりない。

 つまり、アルフィニールは今十分な準備を出来ていない可能性があるということだ。



(無尽蔵に思える兵力も、流石に二面作戦を行えるほどの規模ではなかったか。そういう意味では、ドラグハルトの奴に感謝しなくもないがな)



 もしも奴がいなければ、俺たちは万全な状態のアルフィニールと闘わなくてはならなかった。

 奴の能力からして少数での奇襲も困難だろうし、どう足掻いても正面から戦わざるを得なくなっていただろう。

 アルフィニールがドラグハルトに対処しなければならない現状こそが、俺たちにとっても最大のチャンスであるのだ。



(しかしアルトリウスの奴、俺が考えている以上に警戒していたようだったが……)



 ちらりと、地上の軍勢の方へと視線を向ける。

 哨戒、偵察を密にしたおかげか、プレイヤーたちはほぼ減速することなく進むことができている。

 発見した悪魔は、単体ではそこまで脅威ではないため、すぐに排除できている状況だ。

 奇襲の警戒と考えると少々過剰ではあるが、機を逃さずに進むためには必要だろう。



「ねえクオン、この後の話なんだけど」

「どう戦うか、って話か?」

「ええ、このまま正面から戦うのかと思って」



 アリスは特に正面戦闘を苦手とするタイプであるし、そこを気にするのも仕方のない話だろう。

 とはいえ、それを決めるのは俺ではないし、何とも言えないところなのだが。



「搦め手を使うには情報が足りんからな。外から見た程度の情報を得ることはできたが、アルフィニールの懐までは入り込めていない」

「だから、馬鹿正直に正面から突っ込むってこと?」

「馬鹿正直ではあるが、布陣に隙は無い。相手が搦め手に出てきたとしても、付け入られることはないのさ」



 まあ、アリスからすれば戦いづらいやり方だろうが。

 だが、搦め手というものは相手の手札を知り尽くしているからこそ有効に使えるものだ。

 流石に、今のアルフィニール相手には通用するようなものではないだろう。

 しかし――



「だが同時に、相手にもこちらの戦力を見切られやすい。純粋にこちらが上回っているならいいんだが……そうでない場合は、順当に負けるだけになってしまう」

「それじゃダメじゃない」

「だからこそ、アルトリウスも色々と考えてるんだろうさ」



 確かに、今の進み方は隙は無いと言えるだろう。

 だが、純粋な戦力でアルフィニールを上回れている保証はない。いや、大公であるアルフィニールの戦力を考えると、完全に上回るということは不可能だろう。

 アルフィニールは、採算を度外視した行動を取れば、俺たちを殲滅することも不可能ではない筈なのだ。

 無論、こちらに全力を注げば後ろからドラグハルトに刺されるだけだろうが、やりようはあると思われる。



「今のところアルトリウスの目標は、可能な限り消耗を抑えてアルフィニールのところに辿り着くことだろう。最大の戦力を、万全の状態で標的にぶつける、分かりやすい目標だな」

「何ていうか、普通のRPGみたいね」

「その辺は良く知らんが、王道の手段ではあるだろうな」



 つまり、今のアルトリウスは『消耗を抑える』ことを念頭に置いている。

 警戒を密にし、奇襲を受けないようにしているのはそういった理由もあるだろう。

 そして今、方々に斥候を放って情報を集め、融合を用いた奇襲の性質を見極めている。

 それが終われば、彼もそろそろ次の手に打って出ることだろう。

 と――そんなことを考えていた後ろで、地上を眺めていたアリスが声を上げた。



「……あ、見つけた。緋真さん、あそこの辺りを爆撃して」

「はーい、了解です」



 《看破》系統のスキルで言うと、ティエルクレスのスキルで強化されているアリスのそれは一級品だ。

 遠く離れていたとしても、僅かな違和感から敵の正体を察知することができる。

 アリスの指示を受けた緋真は、特に疑問を抱くようなこともなく魔法を発動し、地上にあった岩の塊を爆撃した。

 緋真の強力な魔法の威力に晒された岩は、表面を砕かれその内側にあった血肉を露わにしている。

 そこへ、追撃に放たれたルミナの魔法が、擬態していた悪魔を完全に打ち砕いた。



「本当に、散発的にいますね。少数でちょくちょくいるだけですけど」

「奇襲にしても少し数が少なすぎるんだよな。何か他にも狙いがありそうな気はするが……まあ、放っておく理由もないな」



 少し嫌な予感はするものの、放置しておけば明らかに害となる。

 見つけたなら排除していくしか道は無いだろう。

 この程度の規模なら良いが、都市の外壁が丸ごと悪魔と融合していたアレは、果たしてどうやって攻略したものか。

 流石に、刀一本で何とかできるような代物ではないだろうからな。

 それに、もしも外壁だけではなく、都市全体が悪魔と融合していたとしたら――



(……目に映る景色全てが敵か。嫌になってくるな)



 敵が大量にいるだけならまだしも、壁から床から全てが敵となると流石に難しい。

 こうやって発見できる奇襲ではない、常に敵に囲まれながら、いつ来るかも分からない攻撃を警戒し続けなければならないのだ。

 壁を乗り越えることも困難だが、都市の攻略は更なる困難を強いてくるかもしれない。

 思わず溜息を零しかけ、咄嗟に飲み込む。不安はあるが、それを見せれば周囲に動揺が広がる。それは避けねばならないだろう。

 と――そこに、耳慣れた通話の通知音が響いた。



『クオンさん、今は大丈夫ですか?』

「っと……アルトリウス、どうした。不測の事態でもあったか?」

『いえ、今のところは順調に推移しています。なので、少し布陣を変えようかと』

「ほう、どうするつもりだ?」



 正直、他に手は少ないとはいえ、退屈であったことは間違いない。

 何かしら他の仕事があるなら、退屈しのぎにはちょうどいいだろう。



『一部部隊を先行させ、アルフィニールの先行部隊とぶつけようかと考えています。敵の出方をある程度把握し、布陣を整えた上で本隊で当たる形にしようかと』

「成程な。その仕事をやれってわけか」

『うちの部隊を回しても構いませんが、どうしますか?』

「ああ、哨戒任務よりはよほど向いてるからな。そっちの方がいいだろう。俺たちは殆ど消耗もしないからな」



 俺の場合、多少ダメージを受けたとしても、放っておけば勝手に回復するからな。

 消耗を抑えたいアルトリウスとしてはうってつけの駒だろう。

 まあ、俺が死なないことを前提としているのだが――その信頼には応えねばなるまい。



「なら、少し前に出る。ある程度の距離を保っていればいいんだろう?」

『はい、お願いします。厳しい戦闘になるようならすぐに引いてください』

「引き付けながら引け、ってことだろう? 了解だ」



 アルトリウスの狙いは、敵の先行部隊の戦い方を事前に知ること。

 そして、それに対して最も効率の良い戦法を選択して戦うつもりなのだろう。

 消耗を避けたい現状においては、順当だが悪くない手段だ。

 まあ――多少の戦力が相手なら、俺たちだけで殲滅してしまっても構わんだろうが。



「また危なそうな仕事を引き受けて……」

「構わんだろう、今よりは退屈しなさそうだ」



 軽く嘆息する緋真の様子に笑みを浮かべつつ、セイランの背を軽く叩いて合図を送る。

 向かう先は、プレイヤーの軍勢のさらに前方。

 いつ悪魔の群れが向かってくるかも分からない最前線で、少し偵察をしてくることとしよう。











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