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722:進軍開始











 俺たちが帰還した際、アルトリウスは既に軍勢の編成を整え、アルフィニールの領地へと出発しているところだった。

 急ぎ街から軍勢を追いかけ、空からその様子を見れば、どうやって統制しているのか整然とした隊列が進んでいる。

 ドラグハルトは既に布陣し、戦闘が始まっている状態であったためばらけていたため、どちらかと言えばこの行軍の方が洗練された印象を受けた。



「さて、直接降りて行ってもいいんだが……いや、流石に邪魔か」

「それはまぁ、そうでしょうね。シリウスが降りただけで大騒ぎになりそうだし」



 シリウスが第五段階に進化したという話は、既にプレイヤーたちの間では噂になっているようだ。

 まあ、遠目で見ても明らかに姿が変わっているためそれも無理は無いだろう。

 問題は、シリウスの素材が非常にレベルの高い代物であると認識されてしまっていることだろう。

 フィノに卸した、数枚の鱗。大半は俺たちの武器を造るために消費されたが、まだ若干の素材は残されていたのだ。

 それを使って造られた大盾は、『キャメロット』によって購入されたと聞いている。



(恐らくはパルジファルに支給されたんだろうな、ありゃ)



 シリウスの持つ、《不毀》の効果を付与された盾。

 その防御力は、現在のプレイヤーメイド装備の中ではトップクラスと見て間違いないだろう。

 それ自体はこちらとしても誇らしいことではあるのだが、あまり素材として注目され過ぎるのは勘弁してほしいところだ。

 前回の進化からはしばらく間が空いたため、流石に注目度は下がってきていたのだが、今になってまた大注目されてしまった。



「行軍が乱れても困るしな。通話で済ますとするか」



 どうせ、アルトリウスは今も忙しくしていることだろう。

 直接会話をしてもその邪魔にしかならないだろうし、ここは通話で済ませておいた方がお互いにとっても利点が多い。

 そう考えつつ通話を開始すると、ほとんどコールを待たずしてアルトリウスからの返答があった。



『お疲れ様です、作戦の状況については報告を受けていますよ。ありがとうございました』

「礼には及ばんさ。むしろ、あのクソビッチの無茶ぶりに付き合って貰って悪かったな」

『ははは……まあ、作戦が効率的に進んだことは事実ですから』



 厄介事を押し付けられたことは否定できなかったのか、アルトリウスは乾いた笑いを零している。

 あの女は、できないことは要求してこないが、できることであればどこまででも要求してくる。

 おかげで大層苦労させられるのだが、そのリターンが大きいこともまた事実であった。



『現在も監視は続けていますが、ドラグハルト陣営とアルフィニールは本格的な戦闘に入っています。あの悪魔の合成体についても、既に何体も投入されているようですね』

「使っても惜しくはない札だろうとは思っていたが、ポンポン投入できるようなものだったか……」

『合成している悪魔の数にもよるようですが、おおよそ二体で伯爵級一体と拮抗するほどの戦力のようです。それをいくらでも投入できるとなると……流石は、大公級といったところでしょうか』



 その言葉に、俺は思わず眉根を寄せた。

 悪魔の合成体――初めて見た時は即座に攻撃し、倒し切ってしまったわけだが、それが伯爵級に及ぶ戦力であるとは思えなかったのだ。

 大技を使ったとはいえ、シリウスの攻撃二発だけで倒し切れてしまうようなものだろうか。



「そこまで強い印象は無かったんだがな。合体途中なら、そこまで強くはないのかもしれんぞ」

『成程、それはあり得るかもしれませんね。単純に、合成した悪魔のリソースを合計しているのであれば、混ぜている途中はまだ全力を発揮できないのかもしれません』



 もしも合体中は力を発揮できないというのであれば、そうなる前に仕留めてしまえばいいということになる。

 流石にそうそう上手くはいかないだろうが、一つの対策にはなる筈だ。

 あんなものを次々と投入されたら、流石に進軍の足も止まってしまうだろうからな。



「それで、ここからはどう動くつもりだ?」

『まずは急ぎ過ぎず、安定を取ります。あまりスピードを上げ過ぎて、ドラグハルトよりもこちらを注視されることは避けたいので』

「となると、順当に迎撃しながら進むわけか」

『はい。しかし進めない状況も避けたいので、その辺りは状況次第で対応を変えます。何しろ、アルフィニールの手札はまだあまり割れていませんからね』



 今回の作戦、その問題点はそこだろう。

 俺たちはまだ、アルフィニールの実際の姿すら目にしたことが無いのだ。

 ある程度戦い方は見えているものの、他にどのような手札を持っているのか、情報はほとんど存在しない状態だ。

 それこそが、アルトリウスが最も懸念している点なのだろう。



『これまでも何度か調査は行ってきましたが、それでも詳細な情報を手に入れることはできませんでした。もし、ここまで意図してそれらの手札を隠していたのであれば、アルフィニールは想定の数倍は狡猾です』

「相手は大公だ、油断するつもりは無かったが……それでも警戒が足りなかったかもしれんな」

『はい、ですから慎重に進みます。出方が分からない以上、相手に付け入る隙を与えないこと。それが最善手です』



 眉根を寄せつつも、アルトリウスの言葉に頷く。

 後手に回っていることは否めないが、今は堅実に進む他に道は無いだろう。

 時間に追われているからと急ぎすぎ、想定外の手札で瓦解させられることは避けなければならないのだから。

 どのような策にも対応できる慎重さ、それこそが今求められている能力だ。



「分かった、とりあえずは警戒だな。俺たちはどう動けばいい?」

『方針としては二つあります。一つは上空の警戒ですね。『キャメロット』にも航空戦力はありますが、流石に軍勢の規模をカバーしきれるものではないので』



 やはり、上空からの攻撃は警戒せざるを得ない。

 航空戦力に対して空中で対処するのと、地上から対処するのでは難易度が段違いだ。

 頭上を取られた状態では進軍も難しいし、対応としては順当だと言えるだろう。

 俺も、その仕事に割り振られる可能性は高いと考えていた。

 だが、アルトリウスにはまだ何かの考えがあるようだ。



「もう一つの方針ってのは?」

『はい、これは正直、かなり無茶だとは思っているのですが――』



 そう前置きをされながら聞かされた、アルトリウスのもう一つの作戦。

 それを耳にした俺は、思わず大きな笑いを零してしまっていた。



「くくっ、ははははははっ! また本当に無茶なことを言い出すもんだな、お前さんは!」

『ええ、分かっています。最大限のリターンを得ようとする作戦ですが、堅実とは程遠い。正直、クオンさんたちだけにこのような作戦を割り振るのは――』

「何を言ってやがる、それこそ俺たち以外には割り振れない仕事だろうが」



 アルフィニールの手が分からない、だからこそ堅実に動かなければならない。

 そこまでは事実であるし、普通に考えればその選択肢を選ぶべきだろう。

 だが、状況は決して良くはない。少しでも好転させるためには、多少の無茶は必要だ。



「相手は大公、公爵すらも超える怪物だ。打てる手は全て打っておいた方がいい、それは間違いなく事実だろうよ」

『はい……しかし、これはかなりのリスクです。こう言うのはなんですが、クオンさんの戦線離脱を許すわけにはいかない』

「つまり死ななきゃいいってことだろ、いつも通りだ」



 自分が死なないなどと甘く見ているわけではない。

 だが、死ぬわけにはいかない戦場など、普段と何ら変わりはないのだ。

 アルトリウスが有用だと判断した作戦であるならば、それに命を懸ける価値はある。



「必要な賭けかどうかは分からん。だが、少なくともプラスにはなるし、上手くいけば更に大きなプラスだ。なら、やる意味はあるだろうよ」

『……分かりました、お願いできますか?』

「こっちから願い出たんだ、言われるまでもないさ」



 小さく笑みを浮かべ、俺は緋真たちへと視線を向ける。

 通話は一緒に聞いていたし、状況は理解しているだろう。

 緋真は呆れを隠しきれない様子でこちらを見つめ――それでも、溜め息と共に頷いた。



「よし、ならば作戦開始だ。精々、派手にやってやろうじゃねえか」



 セイランに合図を送り、移動を開始する。

 決戦はまだまだ先だが、それまで真面目に仕事をこなしていくこととしよう。











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― 新着の感想 ―
[一言] 諸君、派手に行こう
[一言] 全ての作品と更新に感謝を込めて、この話数分を既読しました、ご縁がありましたらまた会いましょう。(意訳◇更新ありがとな、また読みに来たぜ、じゃあな!)
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