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072:王都への帰還












『《MP自動回復》のスキルレベルが上昇しました』

『《斬魔の剣》のスキルレベルが上昇しました』



 あれから山を下りた俺たちは、ひたすら街道を通って王都ベルクサーディへと戻ってきていた。

 途中の砦の様子が少々気になったのだが、エレノアたちに購入予定品と帰還予定時刻を伝えていたため、寄り道をしている余裕はなかった。

 遠目から見ただけなので様子は分からなかったが、撤退してくれていることを願うばかりだ。

 ともあれ、何故か妙に久しぶりに感じる王都まで辿り着いた俺たちの目に入ってきたのは、前とは比べ物にならぬほどに人通りの増えた街並みだった。



「こりゃまた……随分と増えたもんだな」

「うへぇ、サービス開始直後のファウスカッツェを思い出しますよ」



 辟易した様子で呻く緋真に、さもありなんと肩を竦める。

 これから戦いの舞台となる場所なのだ、人が集まるのは当然だろう。

 尤も、人が多い場所に嫌気が差すという思いも理解できなくはない。俺自身、視線を集めてしまっている身だ。

 正直な所、ここまで人の増えた場所には居づらいというのも否定はできないだろう。

 とは言え、それを避けるために遠回りするほど臆病というわけでもない。軽く嘆息し、俺たちは目的地である『エレノア商会』へと向かっていた。



「しかしまぁ、中々に慌ただしい状況だな」

「そりゃそうでしょう、イベントまでもう残り少ないんですから」

「おかげで、僕たちに構ってる余裕のあるプレイヤーも少ないようですけど」

「それに関しちゃ助かるがな。アルトリウスの話があったとはいえ、無駄なことをしてくる連中は皆無ではないだろうし」



 未だに、こちらに対して話しかけようとしてくる連中はいる。

 しかし、それが俺に対して視線を向けている連中の場合は、視線で威嚇して退散させておいた。

 クランをどうこうするつもりは無いし、イベントではアルトリウスと並んで戦うことが決定しているのだ。

 この状況では、顔見知りではない連中の話など聞いている時間は無い。

 まあ、緋真ならばともかく、俺はそれほど顔が広いわけでもないし、顔見知りに話しかけられることは無かったが。

 ともあれ、スムーズに『エレノア商会』の店舗まで辿り着いた俺たちは、あらかじめ話を通していたおかげでそのまま店の奥まで通されていた。



「……僕もいいんですか?」

「構わんだろう。と言うか、ドロップアイテムの精算をせんといかんしな」

「そういえば、どういう風に清算しましょうか? 私たちはシェパードさんが合流する前から色々集めてましたし」

「俺は別に山分けでもいいんだが」

「いや、それは流石に……」



 遠慮するシェパードの様子に苦笑する。

 貰い過ぎに遠慮する様は好感が持てるが、今回は流石に数が多すぎる。

 正直、計算が面倒臭いため、多少の不利益などどうでもいいと思っていた。

 ……まあ、細かく突き詰めるのも面倒だ、上位の素材は均等に分配するとして、その他の数だけ多い素材たちはざっくりと分ければいいだろう。



「蟻酸鉱は自分で《採掘》した分だけ、蟻の上位種は均等に分配、女王蟻は配布されたもの……残りの素材はどうする?」

「正直、私たちも持ちすぎですからね……シェパードさんのインベントリに入っている分は自分で持っていっちゃっていいと思いますよ?」

「結構大量なんですけど……」

「むしろ、全体から見れば結構少ないぞ? もっと持っていってもいいんだが――」

「い、いえ! いいですよ、これだけで!」

「そうか、なら決まりだな」



 そう告げてにやりと笑えば、シェパードは嘆息の後に苦笑を零していた。

 実際、彼のおかげで効率的に戦えたことは事実なのだ。正直、もっと欲を出しても良いと思っているのだが――まあ、本人が気にするのならばいいだろう。

 余計なしこりを残すぐらいならば、互いに妥協できる結果を落とし所とした方が良い。

 とりあえず、互いに異論が出なくなった所で落とし所とし、俺たちはフィノの作業場まで辿り着いていた。



「待たせたな、到着したぞ、フィノ」

「おー! 待ってたよー、先生さん、姫ちゃん」



 扉を開ければ、いつもよりもテンションの高い様子のフィノが、にこやかに笑みを浮かべて出迎えてくれる。

 どうやら、新しい素材のことを随分と楽しみにしていたようだ。

 そんなフィノの隣では、彼女と話していた様子である伊織と、道具の整理をしていたと思われる勘兵衛の姿があった。

 どうやら、この二人も俺たちのことを待ってくれていたらしい。

 同じくこちらに気が付いた勘兵衛は、どこか苦笑じみた表情で声を上げていた。



「よう、クオン。まーた予想外のことをやってくれたみたいだな」

「別に意図してたわけじゃないんだが」

「意図してやってたらそれはそれで困るんだが……まあいいや。こっちも慌ただしいんでな、とっとと話を進めちまおう」



 規模の大きいクランである『エレノア商会』だ、当然慌ただしさも小規模クランの比ではないだろう。

 恐らく、エレノアも今は慌ただしく陣頭指揮を執っているはずだ。

 本来であれば、彼女の副官的な立場である勘兵衛もそちらに行っている筈なのだろうが――それよりも、俺たちの用事を優先してくれたということだろう。

 手配したであろうエレノアには胸中で感謝しつつ、俺は勘兵衛の言葉に頷いていた。



「とりあえず、装備の調整から頼めるか?」

「おう、現状の素材で準備できるものについては既に用意してあるぜ」



 言って、勘兵衛は部屋の奥にある机を示す。

 そこには既に、フィノの作ったものと思われる刀、そして伊織の手による着物が用意されていた。

 刀については蟻酸鉱を用いるつもりでもあったのだが、現状では蟻酸鉱による武器の性能が判明していない。 

 そのため、とりあえず現状の最高峰の装備を用意したうえで、後々比較しようと決めていたのだ。

 とりあえず、まずは用意されている刀から確認する。


■《武器:刀》白鋼の太刀

 攻撃力:32(+4)

 重量:18

 耐久度:120%

 付与効果:攻撃力上昇(小) 耐久力上昇(小)

 製作者:フィノ


■《武器:刀》白鋼の打刀

 攻撃力:28(+3)

 重量:16

 耐久度:120%

 付与効果:攻撃力上昇(小) 耐久力上昇(小)

 製作者:フィノ


■《武器:刀》白鋼の小太刀

 攻撃力:24(+3)

 重量:12

 耐久度:120%

 付与効果:攻撃力上昇(小) 耐久力上昇(小)

 製作者:フィノ



「ほう……この白鋼ってのは?」

「今、王都で手に入る最高の金属素材。現地人の伝手を使えばそれ以上のも手に入るけど……今の私じゃ扱えないかなー」

「ふむ。今はこれが最上級の出来であることは間違いないか」



 太刀と小太刀はいつも通り俺が使うために。

 打刀は緋真とルミナが使うために用意して貰ったものだ。

 これまでルミナは小太刀を使っていたが、今の体格では打刀の方がちょうどいいだろう。

 多少重くはなるが、今のルミナならば問題はあるまい。

 まあ、取引はまだ完了していないため、刀は一度机の上に戻す。

 次に検分するのは、その隣に並べられた布系の防具一式だ。



「次はわたくしの番ですわね。今回、素材に加えて新しい製法も導入したのですわ」

「へぇ、それは初耳だね。クエストか何か出たの?」

「ええ、まだ取得者は少ないようですから、あまり有名にはなっておりませんが……効果のほどは保証いたしますわ」



 自信満々に胸を張る伊織に、感心しながらも着物の方へと視線を向ける。

 デザインについては、以前のものとさほど変化は無いようだ。

 精々、襟の部分に紋様が入り、少々モダンな雰囲気になった程度だろう。


■《防具:胴》魔絹の着物・金属糸加工(黒)

 防御力:21(+3)

 魔法防御力:11(+2)

 重量:6

 耐久度:100%

 付与効果:防御力上昇(小) 魔法防御力上昇(小) 斬撃耐性

 製作者:伊織


■《防具:腰》魔絹の袴・金属糸加工(黒)

 防御力:16(+3)

 魔法防御力:8(+1)

 重量:4

 耐久度:100%

 付与効果:防御力上昇(小) 魔法防御力上昇(小) 斬撃耐性

 製作者:伊織


 防御力自体は以前から劇的に変化したわけではないが、魔法防御力が大きく上昇している。

 魔法に関してはいつも《斬魔の剣》で斬っているが、相手の魔法威力が高いと貫通ダメージを受けることもある。魔法防御力が上昇するのは有効だろう。

 この魔法防御力の上昇は魔絹とかいう素材由来の特性だと思われるが、この金属糸加工というのは何だろうか。

 そんな俺の疑問を察したのか、伊織は得意気な表情で声を上げた。



「金属糸加工は、金属を繊維状にして織り上げた生地を、防具の生地の間に挟んで縫い付けるという加工ですわ。単純な防御力の上昇に加えて、防具に斬撃耐性を付与することができます」

「ほう、この中にその金属繊維とやらを挟んであるってわけか」

「その通りですわ。尤も、その効果の代わりに、若干重量が増しておりますが……それでも、邪魔という程ではないでしょう?」



 持ち上げてみれば、確かに俺が今着ているものよりは重く感じる。

 だが、それでも具足を身に纏った訳ではないのだ。この程度ならば調整の利く範囲だろう。

 これならば、今までと変わらぬ調子で動き回れるはずだ。



「ふむ……二人とも、相変わらずいい腕だな」

「むふふん」

「ふふ、恐縮ですわ」

「満足してもらえたようだな。残りの装備については素材を受け取ってから作るから、次は精算やっちまうぞ」

「ああ、頼んだ」



 俺の言葉に頷き、勘兵衛は《書記官》のスキル画面を起動させる。

 装備については、俺とルミナの分、そして緋真の分で別々で計算を行う。

 未作成の装備まで含めて片側の欄に載せてしまえば、やはりかなりの量の金を取られる状況となっていた。

 とはいえ――



「これと、これと、これと……」

「おいおいおいおい、何だこの量」



 フォレストエイプの素材、ストライクビーの素材、レギオンアントの素材――どれもこれも数ばかり多い素材を次々と放り込んでいけば、表示されていた金額は瞬く間に下がっていった。

 これだけの量があれば、そうなるのも当然と言えば当然だが。



「やたらと敵の量が多い地域でレベル上げをしていたからな。しかし、割と先の方のアイテムにしてはそれほどの金額じゃないな?」

「ああ、フォレストエイプとストライクビー、レギオンアントの素材か……まあ正直な話、こいつらの素材は二束三文なんだよ」

「この魔物たちの素材のこと、知ってたんですか?」

「もうある程度のプレイヤーは、あの近辺まで到達してるからな。この魔物たちも数だけは多いんで、結構な量の素材が出回ってるんだわ」



 まあ、この魔物たちについては出会うことも難しくはないし、一度出会えば無駄に大量に集まってくるのだ。

 素材が出回っていたとしても不思議ではないだろう。



「でもって、こいつらもあまりいい素材ってわけじゃないんだよこれが。猿の方は革系の素材としては中堅――レベル20届かないぐらいのプレイヤーにちょうどいいってところだな」

「そりゃあ……微妙だな」

「大量にとれるおかげで、中堅層の装備の値段は結構下がってるけどな。あと、蜂の素材は針と翅、両方とも矢に使える。これも消耗品だから売れはするが、それほど高い値段にはならんのさ。蟻に関しちゃ、まあ正直まだ研究不足なんだが、防具にするには微妙な性能だろ? 精々、軽さを生かして軽装備勢の鎧にするぐらいだ」



 まあ確かに、上位種ならばともかく、ただのレギオンアントの防御力は大したものではない。

 数が多く、希少性も性能も低ければ、大した値段にならないのも納得だ。

 これは少々当てが外れた――とは言ったものの、数ばかりは大量にある。

 全ての素材を出し切らないうちに、装備品の金額を賄うことはできていた。



「いったいどれだけ倒してきたんだよ……まあいいか、他にも何か入用なものはあるかい? どうせなら一緒に精算しちまうけど」

「あー……そうだな、それならポーション類を包んでくれるか? 一応、保険程度に持っておこうかと」

「……むしろ今まで持ってなかったのかよ。それならまあ、質の高いファーマシーポーションをセットで入れておくわ」



 まあ、今まではポーションが無くとも何とかなっていたからな。

 とは言え、今回のイベントでは多数の敵が相手になる。

 流石に、緊急時の回復手段はいくつか持っておきたい。

 だが――



「ファーマシーポーションってのは何だ?」

「そっちも知らなかったんですか、先生……えっと、ポーションには製法が二種類あるんですよ。それが《調薬》と《錬金術》のスキルで、ファーマシーポーションは《調薬》で作ったポーションの方を指します」

「ふむ? その二つは何か違うのか?」

「簡単に言えば、《調薬》はハンドメイドの高級品、《錬金術》は大量生産の統一規格品ですね」

「高価だが性能も高いものか、安価で普通のものか……どっちにも需要があるからな。今回は、うちでもトップの薬剤師の作品を付けておくぜ」



 要するに、効果の高いポーションを売ってくれるということだろう。

 まあ、素材を売った金は余っているのだ、どうせならば効果の高いものを手に入れておくべきだろう。

 ポーションに関しては、それで問題あるまい。

 さて、それならば――



「んじゃあ、ここからが本番だな」



 俺はそう告げて、今回新たに手に入れたアイテムたちを、机の上に広げていた。






















■アバター名:クオン

■性別:男

■種族:人間族ヒューマン

■レベル:27

■ステータス(残りステータスポイント:0)

STR:24

VIT:18

INT:24

MND:18

AGI:14

DEX:14

■スキル

ウェポンスキル:《刀:Lv.27》

マジックスキル:《強化魔法:Lv.19》

セットスキル:《死点撃ち:Lv.17》

 《MP自動回復:Lv.15》

 《収奪の剣:Lv.14》

 《識別:Lv.15》

 《生命の剣:Lv.16》

 《斬魔の剣:Lv.7》

 《テイム:Lv.12》

 《HP自動回復:Lv.12》

 《生命力操作:Lv.9》

サブスキル:《採掘:Lv.8》

称号スキル:《妖精の祝福》

■現在SP:30






■アバター名:緋真

■性別:女

■種族:人間族ヒューマン

■レベル:27

■ステータス(残りステータスポイント:0)

STR:24

VIT:17

INT:21

MND:18

AGI:16

DEX:16

■スキル

ウェポンスキル:《刀:Lv.27》

マジックスキル:《火魔法:Lv.23》

セットスキル:《闘気:Lv.17》

 《スペルチャージ:Lv.16》

 《火属性強化:Lv.15》

 《回復適正:Lv.10》

 《識別:Lv.15》

 《死点撃ち:Lv.17》

 《格闘:Lv.16》

 《戦闘技能:Lv.16》

 《走破:Lv.16》

サブスキル:《採取:Lv.7》

 《採掘:Lv.10》

称号スキル:《緋の剣姫》

■現在SP:30






■モンスター名:ルミナ

■性別:メス

■種族:ヴァルキリー

■レベル:1

■ステータス(残りステータスポイント:0)

STR:25

VIT:18

INT:32

MND:19

AGI:21

DEX:19

■スキル

ウェポンスキル:《刀》

マジックスキル:《光魔法》

スキル:《光属性強化》

 《光翼》

 《魔法抵抗:大》

 《物理抵抗:中》

 《MP自動大回復》

 《風魔法》

 《魔法陣》

 《ブースト》

称号スキル:《精霊王の眷属》

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