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702:ワニの群れ











 エレノアから紹介されたブレードアリゲーター・アサルト、長いのでワニでいいが、彼女もただ素材面だけの考えでこれを勧めてきたわけではない。

 一点は、このワニは一体からそこそこな量の素材を手に入れられること。

 次に、群れで行動しているためそれなりの量の確保が可能であること。

 そして先も話した通り、狩場としての人気はあまり高くはないということ。

 最後に――



「……成程、こいつらは中々相性がいいな」



 エレノアは、俺たちがこいつらに対して相性がいいことを指摘していた。

 それは先ほど緋真が話していたように、盾で受け止める戦法とが相性が悪いことにも起因する。

 つまり、ほとんど回避を主体として戦っている俺たちにとって、ワニの噛みつき攻撃はそこまで脅威にはならないのだ。

 無論、喰らえば無事では済まないどころか、一撃で死にかねないだろう。しかし、そんな大振りの攻撃に当たるようなメンバーはうちにはいない。

 まあ、流石にシリウスは避け切れないだろうが――



「グルルッ!」

「そりゃまあ、ただの物理攻撃なら問題ないわな」



 突撃してきたワニを躱しつつ、シリウスの様子を確認してそう呟く。

 三体ほどの巨大なワニに群がられているシリウスであるが、まるで苦戦するような様子はなかった。

 それどころか、噛みついているワニの方が、鱗によってダメージを受けているような有様である。

 それに、噛みつくことができたとしても、圧倒的なまでの体重差によって引きずることもできない。

 回避を得意とする俺たち以上に、シリウスはこのワニたちの天敵であると言えた。


 とにかく、シリウスについては何ら問題は無さそうだと判断し、目の前の相手に集中する。

 異様に長く鋭い爪、鋭い牙に飛び出た犬歯、金属質な光沢のある鱗と、各所から飛び出ている角のような鋭い突起物。

 正面から突撃してくる姿は、どこぞの映画に出てくる違法改造された装甲車のようだ。

 しかし、正面を避けて後ろに回り込んでしまうと、そこにあるのはただデカいだけのワニの体である。



(流石にワニと戦ったような経験はないがな……)



 山ごもりの修業をした経験は国内しかない。

 野生動物と戦った経験は、熊や野犬、イノシシが精々といったところだ。

 とはいえ、ワニと相対した際の脅威が何であるかは見ればわかる。

 言うまでもなく、その巨大な口だ。



「正面さえ避けちまえばな、と――『生奪』」



 体を振りながら走ってくるワニの攻撃範囲を正確に見極め、ギリギリで回避しつつ刃を振るう。

 その一閃は、タイミングを逃すことなくワニの胴部へと突き刺さり、その皮膚を貫いて肉を裂いた。

 かなり頑丈なワニ革であるのだが、流石に俺の攻撃力を防ぎ切れるほどのものではないようだ。

 やはり、側面については攻撃手段が存在しないのか、反撃することもできずにワニは走り抜ける。

 唯一の危険は、尻尾の先端に付いている棘付きの球体だろうか。フレイルの如く振り回される尻尾は、遠心力も込みで中々の威力を持っている。

 とはいえ、尻尾も太いためフレイルほどの自由度は無く、軌道はある程度読みやすかったが。



(脅威は噛みつきと尻尾だけ。魔法攻撃もなく純粋な物理攻撃のみか……確かに、相性はいいな)



 適度な緊張感はある――が、危機感と呼べるほどのものではない。

 ティエルクレスとの、一瞬でも判断を間違えれば真っ二つにされるような緊張感は皆無である。

 あれほどの感覚を味わった後では、これは何と退屈に過ぎる戦いだろう。

 とはいえ、ティエルクレスの助言をふいにしてしまうのはあまりにも勿体ない。



(こういう単純な相手には、よりやり易いからな)



 ダメージを受けたワニは、怒り狂いながら再度こちらへと向かってくる。

 単純極まりないが、ダメージを受けてもまるで怯む様子がないのは流石と言える。

 強襲アサルトの名に恥じぬ、猪突猛進っぷりだ。

 唸りを上げ、こちらに噛みつこうと迫ってくる大顎。



「――『生奪』」



 ――その攻撃が空を斬った瞬間に、俺はワニの眼球から脳を貫いた。

 そのままひらりと身を躱し、地面を滑るようにしながら崩れ落ちるワニを見送って、軽く溜め息を吐き出す。

 単純なのはいいのだが、果たしてこれで修業になるものかどうか。

 まあ、感覚を掴むための反復にはなるかもしれないが、変な癖が付かない程度にしなくてはな。



「ふむ……まあ、これなら何とかなるか」



 ティエルクレスから得たスキル、《天与の肉体》。特にデメリットもなく全てのステータスを常時上昇させる、パッシブスキルとしては規格外の代物だ。

 俺を始めとし、仲間たちはあまり使わないスキルを一時的にサブスキルに置き、ティエルクレスのスキルを一つセットしている。

 流石に二つセットする余裕はなかったため仕方ないのだが、使ってみるとその性能の高さを実感するものだ。

 付け始めた当初は若干の感覚の違いがあったが、少し戦っている内にそれも慣れた。

 まあ、レベルが1では強力なスキルといえども大差はないということか。こちらとしては慣らしやすくて助かるが。



(今の俺たちのレベルは124、次のスキル枠はまだ先か……今になってスキル枠に悩むとはな)



 エリア境界のボスは今のところ発見されていないため、ボス討伐によるスキル枠拡張の手段はない。

 順当にレベルを上げなければならないのだが、何か他にスキル枠を手に入れる手段が無いだろうか。

 スキル枠を拡張するチケットは、全てのプレイヤーが手に入れやすい導線となっている。

 存在するのであればとっくに話題になっていてもおかしくは無いだろう。

 もっと僻地にあるのか、或いは存在しないのか――ともあれ、あまり高望みはしないでおくとしよう。



「グルルルッ!」

「ギシャァッ!?」

「……シリウス、引き裂くのは止めておいてくれ。せめて胴から真っ二つ程度にしておけよ」



 巨大な腕で押さえつけ、ワニを八つ裂きにしているシリウスに、溜め息交じりにそう告げる。

 ワニ革はどのような素材として使えるのかは知らないが、エレノアが使えない部位が無いと言っていたし、価値のある代物なのだろう。

 フィノの育成用の素材にはならないだろうが、エレノアの機嫌を取っておく分には損はあるまい。


 シリウスが多めに受け持ってくれたおかげで、他の仲間たちの戦闘は終了している。

 そしてシリウスの尻尾によって最後の一体が真っ二つとなり、今回の戦闘は終了した。

 一つの群れで、多くて十匹程度だろうか。一度に群がられたら流石に厄介だが、シリウスがいればどうとでもなるだろう。

 あれだけ噛みつかれたにもかかわらず、シリウスの鱗には傷も見られない。

 この様子ならば、何匹請け負っても問題にはならない筈だ。

 次なる標的を探して辺りを見渡している緋真へと向け、一つ気になったことを問いかける。



「緋真、ティエルクレスの剣技はどうだった?」

「最初に使えるのはあの【断慨だんがい】とかいうテクニックでしたね」



 ティエルクレスが最も多用していたテクニック、【断慨】。

 使っていた時の様子から、攻撃範囲の拡大か何かかと思っていたが、おおよそ間違ってはいなかったらしい。

 尤も、このテクニックにはそれに加え、若干ながら相手の防御力を無視する性質まで付与されていた。

 今はその性質もそこまで強くないのだが、ティエルクレスほど習熟していれば、ほとんど防御力を無視して攻撃できるのだろう。

 育成には時間がかかるが、その分だけ強力な攻撃だ。


 ちなみに、アリスは《超直感》を選択した。

 そういった感覚的な部分を補助するスキルというのはどういう仕組みなのかよく分からないが、実際に背後から気配を消して接近してみたところ、アリスは即座に反応してみせた。

 本人曰く、『何となくざわざわした』とのことであったが、どうやってそんな感覚を再現しているのやら。

 ともあれ、そのスキルも決して腐ることのない便利な代物だろう。



「効果がテクニックに限定されている分、単発の性能としては強力ですね。スキルレベル依存の部分が大きいのは、逆に今後に期待が持てますし」

「ふむ。それを突き詰めた先の結果も見てるし、積極的に育てる価値はあるか」



 ティエルクレスは本当に強かった。アレをそのまま緋真に当て嵌めることはできないが、逆に緋真はそれを自分なりに落とし込むことができる。

 果たして、彼女の使っていた技をいかに活用するのか。期待しておくこととしよう。



「とりあえず、触りは問題なし。多少退屈な仕事だが、迷惑をかけている分は返しておくかね」

「次の群れ、向こうにいそうでしたし、移動しましょうか」



 川べりを移動し、先へと進む。

 さて、今日中にどこまでワニを狩ることができるか――戦いには期待できないが、俺たちの成長にはまだまだ楽しみが残っている。

 できるところまで進めてやることとしよう。











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