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685:大型種











 押しのけた化け物たちであるが、斬撃によるダメージは相変わらず低い。

 命中した一撃は生命力の刃によるものではあるが、あれは物理攻撃扱いだ。

 この化け物共相手には、あまり有効な攻撃手段にはなり得ない。

 尤も、その後に続いた緋真とルミナの魔法により、まとめてその体力を散らしたわけだが。



(しかし、死に方まで他の魔物とは異なるな……)



 魔物の場合は、倒しても死体が残る。

 そこから素材を回収することにより、死体を消滅させることができるのだ。

 また悪魔の場合は、倒した時点で黒い塵となって消滅する。

 奴らはそもそも、存在の由来が魔物とは異なる。そのような消え方になるのも納得できる話だ。

 だが、この化け物共は溶けるように消える。液状になり、残っていたその液体もあっという間に消滅していくのだ。

 過去の映像であるし、何の素材も落とさないことは今更なのだが、この消え方はどうにも奇妙であった。



「っと、今は気にしてる場合じゃないか。《奪命剣》、【咆風呪】!」



 多少は距離を離した化け物共を、【咆風呪】の靄で包み込む。

 たとえ斬撃が効き辛かろうが、防御力を無視するこの一撃を防ぐことなどできはしない。

 刃を防ぐ性質を持つとはいえ、元の体力そのものはそう多くはない化け物たちは、【咆風呪】に包まれて萎むように消滅していく。

 通じさえすれば、俺の攻撃力なら十分に対処できるようだ。



「……問題はあっちか」



 だが、それだけでこの場の戦いは終わるわけではない。

 問題となるのは、奥の方に何体か出現している大型種だ。

 シリウスほどの大きさはないが、セイランよりは二回り以上大きいし、鎌のような足も四本伸びている。

 相変わらずどこが顔なのかよく分からない姿で、今の【咆風呪】のダメージも効いているのかも分かりづらい。

 だが、あれを野放しにすれば、この辺りが全滅してしまうことは想像に難くないだろう。



「まあいい、とにかくやるしかないか」



 ルミナとセイランは小型の残党狩りに走らせ、俺は緋真とともに大型種の方へと走る。

 大型種は三体、一体はシリウスが受け持っているため何とかなっている状態だが、もう二体は徐々にこちらへと近づいてきている。

 正直、あまり相性は良くないのだが――



「とりあえずは、小手調べだ」



 斬法――柔の型、流水。


 大型種は、こちらへと向けて鎌のような腕を振るってくる。

 横薙ぎに刈り取ろうとしてきたそれを、上へと押し上げるように受け流し、俺は相手の側面へと回り込んだ。

 奇妙な可動域をしている鎌であるが、流石に側面からでは四本ある内の二本しか狙っては来られないだろう。

 その状態で、俺は大型種の脇腹――というかその辺りだと思われる位置へと向け、餓狼丸の切っ先を突き出した。



「『命呪衝』!」



 【命衝閃】に黒を纏わせ、化け物の脇腹を一気に貫く。

 長大な生命力の槍は、刃を防ぐ化け物の表皮を容易に貫き、その内部を抉り抜いて見せた。

 だが、流石に大型は体力の桁が違うのか、その一撃だけで倒れるということはなかったようだ。

 相変わらず声を発する様子もないまま、それどころかダメージに対して身を捩るような様子すらなく、こちらへと向けて鎌を振るってくる。

 咄嗟に槍を消して後退しつつ、俺は改めて大型種の姿を観察した。



(相変わらず、生物味に欠ける奴だな……)



 うぞうぞと蠢いている大型種は、胴に大穴が開いた状態だ。

 しかしそうであるにもかかわらず、まるで動きが鈍る様子はない。やはり、痛覚は無いのだろう。

 更に、開いた穴からは青い体液が零れ落ちているが、勢いよく噴き出るような様子はない。

 これは血液ではない、ということなのだろう。心臓が存在しているならば、血液は勢いよく噴き出てくるはずなのだから。

 生物ではなく、ただそれっぽく見えるだけの機械と言われた方が、まだ納得できるような存在であった。



「謎は深まるばかり、ってか。果たして、クエストを進めればこれも分かるのかどうか――『呪命衝』」



 斬法――剛の型、穿牙。


 ネーミングは適当であるが、今度は【呪衝閃】に《練命剣》の生命力を纏わせる。

 純粋に威力を増した黒い槍は、ゴムのように切っ先を伸ばして化け物の体を刺し貫く。

 【命衝閃】よりも細い一撃であるため、威力を底上げしていると言ってもやはりそちらには及ばない。

 だが、化け物の表皮を貫くには十分な威力で、今度はその顔面と思わしき部位を貫通した。

 瞬間、化け物の動きが止まり、見上げるほどだった巨体はドロドロと溶け始める。



「弱点の概念はあるのか? いや、単純に今のが体力の限界だったのか……?」



 ただ真っ直ぐと向かってくるだけであるため、どのような状態だったのかの判別が難しい。

 一応、顔面っぽい位置ではあったし、弱点の可能性はあるのだが……まあ、スキル的にも弱点を狙うメリットは大きいし、弱点であるのなら狙っていくのも正解だろう。

 せめて、相手の体力バーが見えればどの程度効いているのかも判断できるのだが、《見識》が効かないのではどうしようもない。

 いや、普通の魔物なら《見識》を使わずとも体力バーまでは見えるのだが――本当に分からん、謎が多すぎる。

 とにかく気味が悪い、正体不明の敵というものがここまで厄介なものだとは思わなかった。



(とりあえず、今のところ倒す分には問題ないんだがな)



 知性を感じさせず、ただ真っ直ぐに向かってくるだけの化け物だ。

 倒す手段さえ確保できているならば、目の前の敵を倒す分には問題ない。

 逆に恐怖を覚えている様子もないため、威圧しても全く意味は無いのだが、現状の化け物共だけならば対処は可能だろう。

 だが、大型種が出てきたように、まだ異なる姿の化け物が姿を現す可能性もある。

 遥か過去、彼らがどのようにしてこいつらに追い詰められたのか――まだ、その先があるように思えてならなかった。

 漠然とした不安を覚えている間に、緋真たちやシリウスも大型種を片付け終わり、そこで再びノイズが走る。

 そしていつの間にか、俺たちの視界は先ほどまでと同じ、瓦礫の街の風景へと戻っていた。



「……うーむ。結局、今回分かったのは数が多かったことと、上位種っぽいのがいたことぐらいか」

「まあ、あれだけの群れがいたんなら、兵士の手が足りなくなるのも分かりますけどね。でも、あんな群が近付いてきたなら、都市に攻め込まれる前に気付かないものですかね?」

「それは俺も疑問に思ってる。奴らが海から現れたなら、都市に踏み込まれる前にそこで何とかするべきだ。手が足りずに攻め込まれたというなら分かるが……本当にそれだけなのか」



 防衛線を張って戦っていたならば、もっと早い段階で住人たちは避難していたことだろう。

 これほど住人が残っている状態で都市が戦場になっている――外部から攻め込まれたとするなら、これは異常なことだ。

 まだまだ、隠されている情報がある。それを知るための手段は、やはりこの場に残された記憶なのだろう。



「『嘆きの記憶Ⅱ』、予想通りね」

「やはり落ちていたか……これを集めてどうなるのかは分からんが」



 アリスが発見した、淡く光る結晶体。

 やはり、過去の映像を確認することで、この記憶を入手することができるのだろう。

 覚悟を決め、俺はそれを手で拾い上げた。



『どうなってるんだ、どこから現れたんだこいつら!』

『畜生、武器が足りない! 武器を持ってこい!』

『騎士団の連中は何をやってるんだ!?』

『北側はどうなってるんだ、ここを防げても、向こうから抜けられたら……!』

『何だ、あのデカい化け物は――』



 次々と響く、兵士たちの声。

 それらが途切れた瞬間、俺は溜め息と共に北へと視線を向けた。



「……どうやら、今度は北に向かえってことらしいな」

「最終的な目的地は東の港町だとは思うんですけどね。でも、ちゃんと順路は通りましょうか」

「そうね。謎が多すぎて色々と気になるし」



 道が塞がれているとはいえ、やろうと思えば乗り越えることはできるだろう。

 しかし、この街の謎はまだまだ多い。ここは注文通り、北回りで情報を探ってみることとしよう。











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