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676:警戒状況











 とにかく急いでその場から脱出し、悪魔や蜂たちとの戦闘領域から距離を取る。

 あまり蜂の素材を拾っている余裕もなかったが、特に使うような予定のある素材でもなかったし、それはとりあえずいいだろう。

 しばらく北へと直進し、悪魔たちの追跡が無いことを確認して、俺たちはようやく一息ついた。



「ふぅ……何とかなったか」

「まさかの連戦だったわね」

「全くだ。少し休憩にするぞ」



 その辺の倒木に適当に腰を下ろしつつ、消耗の度合いを確認する。

 幸いなことに、装備品を損耗するようなことはなかったし、回復アイテムの消費も少ない。戦闘の継続には問題ない状況だ。

 仲間たちについても同様の状況であるようだし、とりあえず今のところは問題ないだろう。

 ダメージだけならルミナの魔法で回復できるし、それで消費したMPは少し待っていれば自動的に回復するのだから、時間さえ確保できるならば問題にはなり得ないのだ。



「さて、それはともかくとして――あの悪魔共、南からやってきたな」

「え? ええ、そう言えばそうでしたね」



 俺の発した言葉に、緋真は虚を突かれたように目を見開く。

 だが、俺の言葉の真意までは読み取ることができなかったのか、そのきょとんとした表情のままだ。

 その様子にじろりと半眼を向けつつ、話を続ける。



「考えるべきことは二点だ。北へと逃げた俺たちだったが、そちらの方角では悪魔に遭遇することはなかったこと、そして奴らが南の方角から襲って来たことだ」

「あ、そういえば……北については、運が良かったっていうだけなんじゃ?」

「それも否定はできないが、ああも派手にドンパチしながら北上していたんだから、哨戒がいるなら捕捉されない方が不自然だろう」



 緋真の言う通り、単純に運が良かった可能性というのも否定はできない。

 しかしながら、実際のところかなり派手に戦闘しながら北上していたため、警戒している部隊がいるなら発見されないことの方が不自然だと言えるだろう。

 仮にそういった部隊が存在していたとして、何故俺たちはそいつらに発見されなかったのか。



「……北側には哨戒の悪魔がいなかったってこと?」

「俺はその可能性があると考えている。確信を持っているわけじゃないが、十分に考えられる可能性だ」

「そうかもしれないですけど、あんな部隊がいたことを考えると、北側にもいないとおかしいんじゃないですか?」

「何故あいつらが東側ではなく南側からやってきたのか、それを含めて考察するんだよ」



 俺の言葉に、緋真とアリスは揃って首を傾げる。周辺を探索していたルミナも、こちらの声に耳を傾けているようだ。

 ここまで山際を北上してきて、不自然なことはいくつかあった。

 川そのものを網として利用するような、不確かで効率の悪い手段。

 森の中で視界が悪いというのに、戦車に分類されるような戦法を採用する判断。

 そして、哨戒している悪魔の部隊と、それらが編成されている位置に関しての疑問。

 それぞれ、一つだけならば偶然とも取れるだろう。だが、こうも疑問が積み重なると、疑ってかかるしかなくなってしまう。



「野生の魔物が引っかかる可能性のあるような、川に対する仕掛け。それに引っかかったものに対処する哨戒部隊。どちらにしても、こんな山の方に仕掛けるような代物じゃないだろう」

「……確かに、こっちの方が誤作動の可能性が高そうよね」

「でも、それなら何で山の方にまで仕掛けていたんでしょうか? そうする理由があったって考えてるんですよね?」

「そう、それこそが重要な点だ。そうしなければならない理由とは何なのか、ということだ」



 悪魔共が仕掛けていたのは、どちらも警戒のためのものだ。

 だが、下流の方で侵入者に備えるならば、誤作動の可能性がもっと低い位置で仕掛けておくべきものだろう。

 その方が労力も少ないし、余分な稼働を取られることもない。

 結果として、あんなふうな雑な哨戒にもならなかったはずだ。

 しかし、それでもなお、エインセルは今のような警戒態勢を敷いている。

 ――ならば、奴が警戒しているものは一体何なのか。



「先ほど戦った部隊が南側から来たのは、単純にそちら側にいたからだろう。つまり、そちらで待機している悪魔たちがいた、ということになる」

「ここから、南の方角で?」

「今のところ、何も見かけなかったけど……そちらの森の中に、何かがあるって考えてるのね?」

「そうだ。先ほどの悪魔は、その何かを警備していたものなんじゃないかってな」



 確信は無いし、証明することもできない。仮にあったとしてもそれが何なのかすら不明だが――何かしらがある可能性は、十分にあるだろう。

 尤も、これを証明しようとするならば、あちらの方角を詳細に調査しなければならなくなる。

 それほどの時間的余裕はないし、しかもエインセルを大いに刺激してしまうことになるだろう。

 今でさえギリギリなのだから、これ以上下手な接触をするわけにはいかない。



「でも、わざわざあんな山の方にですか……別に山脈を越えやすそうな場所があるわけでもなさそうですし」

「この世界の技術レベルだと、トンネルというのも考えづらいわよね」

「そうだな。あんな位置に前線拠点を建てているとは考えづらい。悪魔の性質を考慮した上でも、どうしたところで利便性が悪いからな」



 こちら側に攻めてくるための拠点を、この近辺で建造しているとは考えづらい。

 エインセルの場合、地上兵器を運搬するための拠点が必要になるだろうから、もっと通りやすい場所を選択するはずだ。

 さて、であるならば――果たして、エインセルはこの場で何を行っていたのか。



「……分からんな」

「えぇ……」



 俺の言葉に、緋真ががくりと肩を落とす。

 生憎と、今の情報では大した考察をすることはできないのだ。

 アルトリウスや軍曹なら何かしら考えるかもしれないが、俺の場合はもうちょっと調査をしないことには結論を出せない。

 その辺りは俺にとっては専門外なのだから。



「気になることは気になるが、結論も出せん。今から調べに行くこともできないし、成り行きで得られた情報をアルトリウスに渡すだけだ」

「まあ、それはそれで楽でいいんですけど……それじゃあ、私たちはこのまま?」

「ああ、変わらず北上を続ける。この辺りがエインセルの警戒区域だというなら、これ以上は捕捉されないように行きたいところだ」



 いかに動きづらい状況のエインセルとはいえ、足元をウロチョロされていれば手を出してくるだろう。

 ここまで戦闘をしてしまった以上、奴の目に入るリスクはどうしても避けられない。

 故にこそ、これ以上の刺激はしないように、とっとと北に抜けてしまうのが吉だ。

 それに、もう少し気になることもあるしな。



「休息は終わりだ。追撃はないとは思うが、さっさと北に向かうとしよう」

「蜂がいたらもうスルーしましょうね」

「別に手を出したくて出したんじゃないんだがな……その言葉には同意するが」



 あの蜂、近付いただけで集団で襲ってくる上に、他の個体とも連鎖し始めるからな。

 もう少し注意して、巣があった場合は避けて進むことにしよう。

 いかにエインセルの警戒網から抜けているかもしれないとはいえ、何度も派手に爆発を起こしていたら追ってくるかもしれないからな。



「エインセルの支配領域でなければ、経験値稼ぎにはいい相手だったんだがな……仕方ない」

「私は狙いづらい相手だったんだけど」



 若干不満げなアリスの言葉を聞き流しつつ、倒木から立ち上がる。

 想定外の事象が何度も起きつつあるが、未知の領域を進んでいるのだから仕方のない話だ。

 このまま消耗を押さえることを念頭に置きつつ、先に進むこととしよう。

 何しろ、途中で補給を受けることはできないのだから。ティエルクレスの元まで辿り着いたとしても、戦えないのでは意味がない。

 もう少し、慎重に先へと進むこととしよう。


 ――そして、俺の気にしていた予想に反することなく、次の川には探知の仕掛けは施されてはいなかったのだった。











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