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674:悪魔の警戒網











 結果から言えば、何とか砲塔を回収することには成功した。

 緋真が前に取得した呪文、【フレイムポイント】。それの照射によって接合部分を焼き斬ったのだ。

 流石に少々時間はかかってしまったが、幸いなことに他の悪魔には捕捉されることはなかった。

 これでもう一つ、連中の攻撃手段を研究することができるだろう。



「こっちのサイも金属素材として優秀そうですね」

「まあ、シリウスの鱗には及ばんだろうけどな」

「真龍の鱗がコンスタントに手に入るのって、本当に反則だと思いますよ」



 緋真の言葉には軽く肩を竦めて返しつつ、再びセイランに跨って北上を再開する。

 悪魔共がどのような連絡系統を構築しているかは分からないが、連絡が途絶えた場合それを確認しに来る可能性は否定できない。

 とはいえ、流石にそれで大部隊を派遣してくるとは思えないが。



「しかし……ここまで警戒網を広げているとはな」

「川を渡った時に発見されたこと?」

「ああ。渡ってる途中に、何かが作動した感覚がしただろう? あれで近くにいた部隊が急行してきたんだろうよ」



 奴らの本拠地からは、大きく離れた場所だ。

 そんな場所にまでそのような仕掛けを設置しているとは、俺も考えてはいなかった。

 果たして、何を考えてそのような仕掛けを設置したのか。

 目的としては渡河を防ぐための部隊であることは間違いないだろうが、どのような状況を想定していたのかはさっぱり分からない。



「まあ、目的は何であれ、だ。問題は、どうやってアレを避けるかだな。ルミナ、仕掛けが施されているかどうか、見て判断できるか?」

「……どうでしょう。もう一度見てみないことには分かりません」

「むしろ、私が気付くべき案件だったわ、ごめんなさい」

「いや、俺も予想外だったからな、あれは。次に川に行き当たった時には、確認してみるとしようか」



 何にせよ、あまり何度も悪魔と戦うようなメリットは今のところない。

 できるだけ、奴らには見つからずに先に進んでいくべきだろう。

 無論、集められる情報は集めながら、ではあるが。



(順当に考えるなら、迂回しての渡河を警戒していたってところだろうが……支流の上流にまで警戒網を伸ばすほどのことか?)



 下流では広くなっている川も、上流はいくつもの支流で構成されている。

 つまり上流を渡河するような迂回を警戒するとなると、いくつもの支流を見張らなくてはならなくなるのだ。

 しかも、現状では異邦人とエインセルは敵対しているとはいえ直接の戦闘状態には入っていない。

 その状況で、警戒する必要性の薄い上流に警戒網を敷く必要があるだろうか。



(調査してみるべきか? しかし、当てもなく探すのもな……)



 気にはなるが、今回の行動目的には沿わない内容だ。

 当てもなくこの周囲を探索するのも無駄に時間がかかってしまうし、その分だけ悪魔と遭遇する可能性も高まる。

 今回は保留として、とりあえずは移動を優先するとしよう。

 だが一応、気になったことはアルトリウスに報告しておくことにする。

 移動はセイランに任せながらメッセージを作成し、アルトリウスへと送信。それが完了する頃には、俺たちは次なる支流の手前にまで到達していた。



「思ったより魔物が出てこんな」

「いないわけじゃないんですけどね。あんまりアクティブじゃないですし」



 一応ではあるが、周囲を探すと魔物もいることはいるのだ。

 しかし、勝手にこちらへと襲い掛かってくるアクティブなタイプの魔物ではなく、また単体としてもそれほど強くはない。

 人の居住域が近くにあるエリアにはよくある特徴だ。この辺りには、もしかしたら元々人間が住んでいた集落があったのかもしれない。

 一応、これに関してもアルトリウスのメールに含めつつ、改めて川へと向き直った。



「さて、大きさは前の川とあまり変わらんぐらいか」

「飛び越える分には問題ないんですけどね。アリスさん、どうです?」

「……ええ、やっぱり仕掛けられてるわね。警報装置みたいな魔法っぽい、っていうぐらいしか分からないけど」

「やはり警報だったのか。しかし、そんな大規模な警報なんぞどうやって仕掛けてるんだ?」



 川全体を警備するなど、警戒範囲が広すぎて正気の沙汰ではない。

 しかし、実際にこうしてできているのだから、何かしら仕掛けがあるのだろう。

 そんな俺の疑問に対し、谷底を覗き込んでいたルミナが声を上げた。



「お父様、どうやら水に仕掛けをしているみたいです」

「水に? ってことは、上流で何かを流してるってことか?」

「はい、川の水に何かしらの魔力が含まれています。私では、それがある程度上空まで立ち上っていて、大きな魔力に触れた際に何かしらの反応を示すぐらいしか分かりませんが……」

「ふむ……合理的なんだかどうなんだか。とにかく、解除するにはその上流の何かしらを排除する必要があるのか」



 思っていたよりは原始的な仕掛けだった。

 大きな魔力に触れた場合に反応を示すというのが、先程俺たちが感じた魔力が弾けるような感覚のことなのだろう。

 それが具体的にどのような作用をもたらしているのかは不明だが、要は触れなければいいということだろう。



「しかしまぁ、随分と誤作動を起こしそうな仕掛けだな」

「だから警戒に当たってる悪魔が少ないんじゃないですか?」

「殆どの場合は誤作動だから、ってことか。ま、そりゃそうだろうな」



 どの程度の魔力量で反応するのかは知らないが、多少強い魔物が川を渡ろうとしただけで反応してしまっては、正直あまり使い物にはならないだろう。

 自我の薄い名無しの悪魔だからこそできるような警戒行動である。

 プレイヤーがまだ進出していない現状では、実行するメリットの薄い警戒網だろう。



「まあ、仕組みさえ分かれば対処のしようもあるか。要は触れなきゃいいんだからな」

「下から立ち上ってるってことは、煙みたいなものですよね? 排除しようとしても魔力で触れたら反応しそうですけど」

「飛び越えりゃいいだけだろう。別に、上空に向かって無限に伸びてるわけじゃないだろうからな」



 川に何かを流すことで効果を発揮しているということは理解した。

 その前提がある以上、川の上空を際限なく警戒し続けることができるとは考えづらい。

 そう考えながらルミナの方へと目配せすると、上を見上げた戦乙女は俺の言葉に首肯しつつ声を上げた。



「確かに、上空に向かうにつれて薄れています。少し高く飛べば、触れずに通り抜けることができるでしょう」

「やはり、そうだったか。よし、それじゃあ飛んで抜けるとするかね」



 一度なら、ただの誤作動として片付けることができるだろう。

 強い魔物が通り抜け、それに対処しきれず悪魔の小隊が全滅したとも考えられる。

 だが、これが二度、三度と続いてしまえば、流石に警戒されることは避けられない。

 北へと向かうのに、奴らの目が向けられてしまうのは困る。穏便に、気付かれることなく潜り抜けるとしよう。



「しかしまぁ、川に細工をするとはな。やってくれる」

「何を流してるのか知らないけど、汚染されていないのかしらね?」

「分からん。というか、悪魔が水を必要とするのかもよく分からんしな」



 悪魔はどうだか知らないが、人間にとって水は必要不可欠な存在だ。

 それを汚染されるということは、様々な活動に大きな支障をきたすこととなってしまう。

 奴らが仕掛けたこれが、人体に悪影響を及ぼすのかどうかは不明だが、そうだとしたら念入りに排除しなくてはなるまい。

 まあ、それは先の先どころか、もっと先の話になるだろうが。



「……とにかく、種が割れたならここに用はない、先を急ぐとしよう」



 気になることはいくつかあるが、それを調べるのはまた後か、或いはアルトリウスに任せよう。

 とにかく北への移動を最優先事項へと改めて定めつつ、俺たちは目的地へと向けて先を急いだのだった。











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