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673:エインセルの兵士











 セイランが翼を羽ばたかせ、一気に加速する。

 最初の攻撃がシリウスに向かったのは幸いだっただろう。シリウスならば、あの衝撃を受けても谷底に落とされることはない。

 的がでかいから最初に狙ったのだろうが、これなら大した痛手にはなり得ない。



(攻撃の誘導性が無いから当てやすいシリウスを狙ったのか、或いは単純に目立っていたからか――)



 どちらが理由かは分からないが、何にしろ足を止めていたら撃たれてしまうだろう。

 サイの上の砲塔は今も動いている。それが俺に狙いを付けるよりも早くセイランはその身に嵐を纏った。



「ルミナ!」

「はい、足を止めます!」



 セイランが凄まじいスピードで加速すると共に、複数の魔法を放って悪魔たちの足止めをする。

 アークデーモンとグレーターデーモンによる小隊と、装甲を与えられた巨大なサイ。

 いや、あのサイは元からああいう生き物なのだろうか?

 まあどちらにせよ、あの砲塔は後からくっ付けられたものだろう。



(あのデカブツは小回りが利かない。ならば――まずは、横の悪魔共を片付ける!)



 いわば、戦車と随伴歩兵。厄介なのはどう考えても戦車だが、それを破壊するのにも横の歩兵が邪魔だ。

 故に、まずは奴らを殲滅する。サイについては後から何とかするとしよう。

 素早く駆けるセイランが放つ雷は、ルミナによって足止めを受けていた悪魔たちに直撃し、確かなダメージを与える。

 とはいえ、相手は通常種ではあるものの上位の悪魔。その程度で怯むようなこともない。グレーターデーモンに至っては両腕を砲口に変化させてこちらを狙ってきた。



「ミニガン――!?」



 かつての戦場での苦い思い出が蘇り、背筋を悪寒が這い上がる。

 グレーターデーモンの肉体操作能力が、まさかそのような形状にまで対応することができるとは。

 弾幕は対空攻撃の基本、戦車の随伴歩兵としては理想的な能力といえるだろう。

 どちらかといえばサイよりもあちらの方が危険。そう判断した俺は、即座に餓狼丸を振り下ろした。



「『命餓一陣』!」



 まずは牽制、こちらを狙おうとするグレーターデーモンへと向けて、生命力の刃を射出する。

 その一撃に、グレーターデーモンはこちらへの攻撃行動を中断して回避行動を取った。

 俺の一撃は地面に衝突し、土塊を巻き上げて一瞬相手の視界を塞ぎ――それらを焼き溶かしながら、地上戦に移行した緋真が突撃した。

 グレーターデーモンは咄嗟に腕を交差しながら攻撃を防ぐが、ダメージを抑えきれてはいない。

 それに、あの鈍重な武器では接近戦は困難だろう。再び腕を変化させるのか、または逃げ回るのか。

 どちらにせよ、あのグレーターデーモンはすぐには攻撃に戻ることはできないだろう。



「残るアークデーモンは四体――セイラン、突っ込め!」

「クェエエエッ!」



 ルミナの攻撃から体勢を立て直したアークデーモンは、グレーターデーモンの援護に動くだろう。

 それよりも早く、地上に足を着けたセイランが、その前足でアークデーモンの一体を地面へと叩き付けた。

 それと同時に俺はセイランの背中から飛び降り、前転して衝撃を殺しながらアークデーモンの一体へと肉薄する。


 打法――破山。


 同時、地を踏み砕くほどの衝撃を、余すことなく相手の体へと伝える。

 それによってアークデーモンが吹き飛ばされた先は、足場のない崖の上であった。

 しかし、その体が谷底まで落下することはない。何故なら、光芒の如く加速したルミナによって、更なる上空まで蹴り飛ばされていたからだ。

 そのまま空中で斬り刻まれるアークデーモンはもう気にする必要もないだろう。



「『命呪練斬』」



 歩法――縮地。


 次いで、狙うはもう一体のアークデーモン。

 【命輝練斬】に《奪命剣》の力を付与し、次なる標的へと接近する。

 そのアークデーモンはグレーターデーモンの援護に向かおうとしていたようだが、その動きを即座に中断してこちらへと手を向けてきた。

 魔法による攻撃のつもりだろう、正面から受けるわけにはいかない。


 歩法――陽炎。


 生憎と、既にスキルを使ってしまっているため《蒐魂剣》を使うことはできない。

 瞬間的に減速し、更に進む方向を相手に誤認させながら再加速。それにより、アークデーモンの魔法はあらぬ方向へと飛んで行った。

 その衝撃を肌で感じながら、俺はアークデーモンへと向けて強く踏み込む。


 斬法――剛の型、白輝。


 踏み込んだ足元の地面が爆ぜ割れ、その勢いの全てを刀身へと収束させる。

 黄金と漆黒、その二つの色はただ軌跡のみを残し、俺の一閃はアークデーモンの身を肩口から両断していた。

 一瞬遅れて爆発するように飛び散った緑色の血は、瞬く間に黒い塵と化して消滅する。

 一体は片付いた、ルミナとセイランの標的もまもなく沈黙するだろう。緋真は多少時間はかかるだろうが、援護は必要あるまい。

 後は、サイの上に乗っている砲撃担当の悪魔だが――



「――ガアアアッ!」



 怒り心頭で襲い掛かってきたシリウスにより、サイの上から放り出されることとなった。

 いかにサイが巨体とはいえ、シリウスの体格には大きく劣る。

 その突撃によってサイは横倒しになり、放り出されたアークデーモンはシリウスの前足によって叩き潰された。

 それは別に構わないのだが、サイが背負っている砲塔については確認の必要がある。



「シリウス、そいつの背中は壊すな! 胴を食い千切ってやれ!」

「グルルルルルッ!」

「ゥモォオッ!?」



 シリウスの鋭く強靭な顎が、巨大なサイの腹部へと突き刺さる。

 頑丈極まりない鎧を身に纏っているようであるが、どうやら真龍の牙を上回るものではなかったようだ。

 砕けた装甲の下から血が溢れ出すのを見つつ、俺はサイの様子を観察する。

 やはりスレイヴビーストであり、そして体を覆う金属の装甲はそもそもの外皮であるらしい。

 果たしてどこで捕まえてきたのか、通常の魔物である場合は際限なくコイツを配備することが可能になってしまうだろう。



「戦車の量産とはまた面倒なことを……まあ、今は気にしても仕方ないか」



 エインセルがどれだけ戦力を集めていたとしても、今こちらに出せる手はない。

 頭の痛い問題だが、今は考えていても仕方ないだろう。

 とりあえず、奴の用いる手の一つが分かったというだけでも御の字か。



「アリス、そろそろ終わらせてやれ」

「――あら、いいのね」



 待機はしていたのだろう、サイの隣に姿を現したアリスが、サイの顎の下へと刃を突き立てる。

 瞬間、その切っ先から伸びたであろう光の刃が、サイの脳天までもを貫いた。

 強靭な装甲を持っていたとしても、防御力を貫通するアリスの刺突までは防ぎきれない。

 即死部位にもあたるであろう弱点を直接貫かれ、サイは耐えきれる筈もなく絶命した。

 どうやら緋真もグレーターデーモンを仕留め切っていたようであるし、戦闘はこれで終了だ。



「ふぅ……流石に驚かされたな」

「一匹だけだったからよかったけど、何匹もこれがいたら大変よね」

「全くだ。さて……この砲塔は果たして回収できるのかね?」



 サイの背中に備え付けられている砲塔。

 外部から砲弾を入れられるようになっている構造からして、まず間違いなく後付の兵器だろう。

 いや、最初からこんな砲を持っている生物がいたら、それはそれで驚きなのだが。

 研究のためにも回収しておきたいところではあるのだが、果たして普通にアイテム回収をした場合にこれを取得することができるのか。



「どうしたもんかね……ふむ、とりあえず装填されてる砲弾は無いか」

「構造が分かるの?」

「詳しいわけじゃないが、まあ一応似たようなものは見たことがあるからな。流石に自動装填式じゃないか」



 どうやら、そのような形式のものまでは再現できなかったようだ。

 だからこそ、戦車兵が上に乗っている必要があったのだろう。

 逆に言えば、上に乗っている悪魔さえ何とかすれば、一時的とはいえ戦力を削減することができる。

 それはそれで、砲塔にシールドなりなんなりを増設してくる可能性もあるし、ある程度の目安にしかならないだろうが。



「とりあえず、暴発の危険は無さそうだな。緋真、この下の装甲ごと焼き斬れるか?」

「焼き斬るっていうか溶かす感じになると思いますけど……ちょっと時間がかかりますよ?」

「周囲の警戒は続けておく。あまり時間がかかるようなら諦めるさ」



 思わぬ土産になればよし、無理だったら諦めよう。

 砲塔そのものについては以前の迫撃砲とそこまで変わるものではないだろうし、そこまで大きな技術革新にはならないだろうからな。

 まあ、サンプルが一つ増えた程度に考えておくこととしよう。











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― 新着の感想 ―
[一言] > 深い川に叩き落されれば、装備の重いプレイヤーはあっという間に沈んでいくことになるだろう。 プライベートライアンの冒頭のオマハビーチで溺死するアメリカ兵みたいなもんなのかなぁ 二刀流の某黒…
[一言] よくよく考えたら、銃火器 vs 剣の構図なのですね。 スキルや魔法もあるから成立しているけど、 場合に寄っちゃ一方的な蹂躙もあり得たんですよねぇ 弓や魔法なら連射による弾幕は難しいだろうけ…
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