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668:山脈越え











 低空を飛行しながら、山道を辿るように山を進む。

 普通に歩いていた場合、坂道であるためここまで速く移動することはできなかっただろう。

 やはり、こうして移動した方が効率は良かったらしい。



「今のところ、道は大丈夫そうね」

「ああ。だが……テンポよく進んでいるだけに、敵に見つかるのも早そうだ」



 まあ、それは距離的な問題であり、普通に歩いていても同じ距離で敵に遭遇することだろう。

 そう考えれば、それより遥かに速いスピードで移動しているのは十分にメリットといえるだろう。

 最悪、その気になれば高度を上げて敵をスルーすることも可能だろうしな。

 ひとつ気になることがあるとすれば、山道であるため道が曲がりくねっており、辿っての移動は大層効率が悪いことぐらいか。



(最初からどこに道があるかが分かっていれば、ショートカットしてもよかったんだがな)



 山道を登る以上、直線で登ることは徒歩では不可能だ。

 そのため、何度も蛇行しながら少しずつ山を登っていくことになる。

 当然ながら、直線距離とは比べ物にならないほどに長い。これを辿っていくのは中々に面倒な工程だ。

 坂道を飛び越えてしまえばショートカットにはなるだろうが、当然その間は山道の場所を見失うことになる。

 この広い山林の中、そんなことをすれば再度発見することは困難だろう。

 ただでさえ、度々ミスティックトレントが出現する影響で視界が悪いのだ。山道を探して飛び回るような時間のロスは避けたい。



「お父様、あの辺りに――」

「ああ、ミスティックトレントだろう。シリウスと一緒に行ってこい」

「承知しました!」



 カエデの隠れ里がある森に比べれば、ミスティックトレントの数は多くはない。

 そのため、見つけたものを狩っていけばある程度は視界が確保できるのだ。

 やはり、あの森はカエデの何らかの術が働いていたのではないだろうか。

 ともあれ、定期的に出現するトレントを排除すれば霧も薄まる。完全に無くなることもないが、多少は見通しやすくなるだろう。



「では、行ってきます!」

「グルルッ」



 現在、俺たちの中でもっとも動きやすいのがルミナとシリウスだ。

 ルミナは取り出した薙刀を手に、霧の濃くなっているエリアへと向けて光る翼を羽ばたかせる。

 それに続いたレッサードラゴンサイズのシリウスは、同じく翼を払い、起こした風圧で僅かに霧を薄れさせた。

 直後、体の周囲に魔法陣を展開して飛翔するルミナが、ミサイルのように光の尾を引く魔法の弾丸を撃ち放つ。

 炸裂する光の弾丸は着弾すると共に衝撃を撒き散らし、霧を吹き払うと共に普通の木々を薙ぎ倒した。

 それでも、霧は完全に晴れることはなく、霧の中にミスティックトレントは潜み続け――それでも、特に霧の濃い位置は、光の下に晒された。



「続いてください!」

「ガァアアアッ!」



 その一瞬で敵の位置を捉えたのか、ルミナは薙刀に光を宿しながら飛翔する。

 そして、向かってきた枝葉を回避したルミナは、輝く薙刀にてトレントの幹を薙ぎ払った。

 強力な一撃ではあるが、トレントを一撃で屠るには至らない――それでも、その一撃に斬りつけられたトレントは、白く輝く光を目印のように付与された。

 そうなれば――



「グルルルルッ!」



 シリウスはその鋭い尻尾を振るい、光を纏ったトレントを薙ぎ払った。

 高い攻撃力と、鋭い刃。たとえシリウスの姿が本来の大きさでなかったとしても、木の一本を斬断するなど容易に過ぎる。

 振り子のように振るわれたその一撃によって、ミスティックトレントは真っ二つに斬り裂かれた。

 メキメキと音を立てながら倒れるトレントの姿に、俺は小さく頷きながら周囲の様子を確認する。

 やはり、多少は霧も晴れてくれたようだ。



「ふむ……一応、回収しに行くか」



 セイランに合図を送って地上に降り、ミスティックトレントから素材を回収する。

 トレントの木材は頑丈な素材であるらしく、木材としてはかなり有用なアイテムであるそうだ。

 弓などは木工での製作もできるらしいし、何かしら使うことはできるだろう。

 とりあえず、後でまとめてエレノアに渡しておけばいいか。



「街の復興に使うには……流石に、数の確保が面倒か」



 そんなことをし出すと、カエデの住まう森の木々を丸ごと伐採することになりかねない。

 それは流石にカエデに止められるだろうし、プレイヤーの装備までで留めておくべきだろう。

 また生えてくるとは言っていたが、普通の木々まで伐採してしまってはそうもいかないだろうしな。



「よくやったルミナ、シリウス。トレントの相手は任せてしまってもいいかもな」

「はい! お任せください、お父様」

「先は長いんだ、張り切りすぎるなよ」



 まだまだ出発したばかりだ。ここで張り切り過ぎて疲れてしまっても仕方がない。

 通行の邪魔を排除している程度なのだから、程々でいいだろう。



「さてと、先を急ぐか。せめてさっさと山頂までは辿り着くぞ」

「魔物も多いだろうし、そこまでサクサクとは行かないんじゃないかしら?」

「いたらいたで、レベル上げになるから構わんだろう。シリウスの進化も目指したいからな」

「グルッ」



 トレントを切り倒して誇らしげなシリウスだが、コイツの進化までにはあと七つレベルを上げる必要がある。

 流石に今回の遠征でそこまでレベルを上げることはできないだろうが、ティエルクレスは大量のリソースを有しているだろうし、ある程度育てることが可能だろう。

 果たしてどのような姿になるのか、今から楽しみだ。



「どうせなら、もうちょっと数が出てきて欲しいところだがな」

「やめてくださいよ、そういうことを言ってると本当に面倒なことになるんですから」



 本当に嫌そうな表情を浮かべる緋真の様子に苦笑しつつ、セイランに合図を送って空へと舞い上がる。

 急いでいないとはいえ、ゆっくりするような理由もない。

 何もない移動ならばさっさと進めてしまった方が良いだろう。



「こう疎らに敵がいるだけじゃ、大して稼げんしな。どうせなら派手に襲ってきて欲しいもんだが」

「……本来なら徒歩のルートだけど、上空の魔物が襲ってくるほどの高度でもないと。それなら、徒歩ルートの何かしらに引っかかるんじゃないかしらね?」

「何かしらってのは何だ?」

「さあ、適当に言っただけだけど。でも、山頂辺りに何かいそうじゃない?」

「ふむ……」



 アリスの言葉に、ふと視線を山頂方面へと向ける。

 山頂とは言うが、向かっているのは恐らく山と山の間だろう。

 比較的高さの低い場所を通り、山の向こう側へと抜けようとしている筈だ。

 であれば、何かがあるとすれば、その間を抜けるタイミングにこそ何かがあるかもしれない、ということか。



「確かに、否定はできないな。国の境界ボスとまでは行かないが、多少強い敵が待ち構えている可能性はある」

「でしょう?」

「それなら、期待しつつ山頂を目指すとするか」



 まあ、何もない可能性も十分にあるが、それはそれで先を急げば済む話だ。

 何かある可能性を考慮して、一応の準備はしておくこととしよう。

 強敵がいれば、それなりに経験値も期待できるだろうからな。



(山の間がちゃんと目的のルートになっているんなら、さっさとそこに向かってしまってもいいが……実際のところは分からんしな)



 山頂に向かうまでに、果たして何度往復することになるだろうか。

 強敵がいるかもしれないと考えると中々面倒になってしまうのだが、だからといって道中をおろそかにするわけにもいかない。

 気は逸るが、落ち着いて山を登っていくこととしよう。

 そう考えながら、俺たちは蛇行するように山を登り――霧深い山間の広場へと到着したのだった。











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