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646:風の歩む先、凍れる城塞あり その33











 俺が時間稼ぎに動いていることは一目見て理解できたのだろう。アルトリウスは、俺が稼いでいる時間を有効活用する方向で動いている。

 今回のデルシェーラの場合、最も厄介な点はこのスピードだ。

 耐久度そのものについては、そこまで問題視はしていないだろう。先ほどから疎らに飛んでいる攻撃でも、一応ダメージは通っていることは把握できている。

 決して柔らかいというわけではないが、ディーンクラッドほど攻撃が通らないなどということはなかった。



(とにかく厄介なのはこのスピードだ……一度標的にされれば、叩き潰されるまで逃れられん)



 行動スピードが速いという点はとにかく厄介だ。

 何度か攻撃を受ける程度であれば、『キャメロット』のタンクたちは仕事を果たして見せるだろう。

 しかし、あのスピードで攻撃を重ねられてしまっては、流石の彼らとてスキルを維持することができない。

 デルシェーラの巨体故、防御スキルを使わなければとてもではないが攻撃を受けきれないのだ。

 つまり、スキルが打ち止めとなってしまえば、彼らは一方的に蹂躙されてしまうことになる。



「あいつ、これをどう対処するつもりだ……?」



 動き出したということは、何かしらの対策は思いついたということだろう。

 だが、デルシェーラの能力は単純であるが故に攻略が難しい。

 あのスピードを無効化する手段が在るならば最も都合がいいのだが、生憎とそう簡単にはいかないだろう。

 ――そう考えていたところで、『キャメロット』が動いている辺りの上空から、一騎の飛行騎獣がこちらへと近づいてきた。



「……ラミティーズか」



 俺と同じく、グリフォンを――嵐王ワイルドハントを駆るグリフォンライダー。

 長大な突撃槍を構える彼女は、その騎獣を操りながらデルシェーラの上半身へと向かって行く。

 先ほどアンヘルを送り届けた時からであるが、俺は比較的低空で行動している。

 これは、デルシェーラが主に腕を使った攻撃を優先しているためだ。

 腕で足元辺りを攻撃しようとすれば、どうしても動きに無理が生じる。

 俺がある程度余裕をもって回避できているのは、この位置取りをしているからこそだ。



(あいつもそれは分かっているだろうに、それだけ自信があるってことか)



 上半身の辺りは、デルシェーラにとって有利なフィールドだ。

 攻撃の速度、頻度は足元辺りとは比較になるまい。

 それでも、ラミティーズは可能と判断してそこを戦場に選んだ。

 実に挑戦的だが、その位置を保てるならばこちらとしてもありがたい。



「ひゅー! マジででっかい、前の奴以上じゃん! 《人馬一体》、《天馬の手綱》!」



 デルシェーラの巨体を前にしても臆した様子のないラミティーズは、歓声を上げながらスキルを発動する。

 そのエフェクトは彼女と、彼女が駆る嵐王ワイルドハントを包み込み、そのスピードを向上させる。

 レベルで言えばセイランには及ばないであろう彼女の騎獣だが、スキルを発動したことによる速度は明らかに俺以上だ。

 その機動性や、馬体に張り付くような姿勢制御も、恐らくはスキルの補助によるものだろう。

 流石は、騎獣戦闘特化型のプレイヤー。その一点については、間違いなく俺とセイランを超えているだろう。



「さぁ、こっちも見てもらおーじゃん!」



 今のところ、デルシェーラの注意ヘイトは完全に俺にのみ向いている。

 それを自らの方へも引き寄せるため、ラミティーズはデルシェーラの顔面へと向けて魔法を放った。

 黒い影に覆われた顔面は、ダメージを受けているのかどうかは分かりづらい。

 しかしながら、黒い影の中に浮かぶ赤い眼光は、煩わしげにラミティーズを捉えていた。



『邪魔――――』



 羽虫でも払うかのように、巨大な腕が振るわれる。

 それに素早く反応したラミティーズは、急降下してその一撃を回避した。

 攻撃を外したデルシェーラは、今度はきちんと視線を合わせてラミティーズの姿を睥睨する。

 どうやら、攻撃を回避されたことで、改めてラミティーズを敵として認識したらしい。

 直後に振り下ろされる巨大な掌――しかし、ラミティーズはそれすらも笑いながら回避してみせた。

 強風にあおられ、回転するような無茶苦茶な軌道を取りながら、それでも彼女は騎獣から振り落とされることはない。



「大した腕だ。おかげで、こっちも余裕ができる!」

「クェエエエッ!」



 俺の合図と共に、セイランは《亡霊召喚》による分身を生成する。

 重ね掛けされる《デコイ》は、その姿を俺たちと寸分変わらぬものにまで偽装してくれるのだ。

 現れた三つの分身。それらを散らすように操作しながら、セイランは翼を羽ばたかせて宙を駆ける。



「《ワイドレンジ》、《練命剣》【煌命閃】!」



 黒く染まり切った餓狼丸へと生命力を注ぎ込み、巨大な生命力の刃を形成する。

 それを振るう先は、デルシェーラの背面――足の踵側である。

 ラミティーズの方へと視線が逸れている今だからこそ、その攻撃を通すことができるのだ。


 斬法――剛の型、輪旋。


 大きく振りかざした一閃は、その分だけ広く生命力の刃を広げる。

 その一閃はデルシェーラの左踵へと突き刺さり、確かな傷を与えてみせた。

 有効なダメージと呼ぶには程遠いが、それでも今の俺ならば、公爵級の本体を相手にダメージを与えることができるようだ。



強制解放リミットブレイクを使わなけりゃまともにダメージを与えられなかった時と比べりゃ、大きな前進だ――なっと!」



 足に感じた痛みに反応してか、デルシェーラは反射的に足を振る。

 その動きに巻き込まれぬように退避しながら、俺はデルシェーラの動きを注意深く観察した。

 ラミティーズが援護に来てくれたおかげで、デルシェーラの注意は俺と彼女に分散されている。

 そのおかげで互いに攻撃を行えるだけの余裕ができたのだが、だからといって無遠慮に攻撃をしていいというものではない。

 デルシェーラがどちらに攻撃を仕掛けようとしているか、それを正確に見極めなければならないのだ。



(さて、今回は――)



 俺の一撃を受けたデルシェーラは足を踏みしめてバランスを保ち――軸足を回転させた。

 こちらへと振り返ろうとしている仕草に、俺はセイランへと合図を送って一気に加速する。

 その直後、振り子のように放たれた蹴りが、俺たちがいた場所を薙ぎ払った。

 分かってはいたが、足も攻撃に使えるようだ。どうしても足技は隙も動作も大きいため、読むことは難しくないのだが、それでも常に注意は払わなくてはならない。

 幸いと言うべきか、瘦身の巨人であるデルシェーラは、贅肉が少ないため筋肉の動きが分かりやすい。

 構造は人体に近いため、筋肉の動きから先読みすることは難しくなかった。



「《ワイドレンジ》、《奪命剣》【咆風呪】!」



 次いで、【咆風呪】を放ちながらデルシェーラから距離を取る。

 防御力を無視するとはいえ、HPの総量も多い。大して削れるわけではないのだが、削られたHPを回復させるには十分だ。

 おかげで完全にこちらへと意識を向けたデルシェーラであるが、そうなればラミティーズがフリーとなる。

 攻撃力では俺に劣るだろうが、それでもデルシェーラにダメージを与えることは可能だろう。



「【マルチエンチャント】、【ファントムアーマー】」



 クールタイムが終わった【ファントムアーマー】を、俺だけでなくセイランにも付与しながら、空を駆ける。

 先ほどよりはマシになったが、それでも俺とラミティーズのふたりだけでは、到底デルシェーラを倒し切ることは不可能だ。

 せめて紅蓮舞姫を解放している緋真が戦線に加わることができれば良かったのだが、今の状況ではリスクも高いだろう。

 時間を稼ぐことは可能だが、今のままでは到底倒し切ることは不可能。このままではジリ貧だ。

 アルトリウスへの期待を込め、デルシェーラの振り下ろしてきた爪を回避し――直後、巨大な爆発音が響き渡った。

 耳慣れているその音は、恐らく炎の攻撃魔法によるものだろう。しかし、それが発生した場所は、デルシェーラの体に対してではない。



「何を――」

『ッ――――!』



 だが、直接攻撃を受けたわけではないにもかかわらず、デルシェーラは特大の反応を見せた。

 俺への攻撃を中断し、その音の方向へと視線を向けたのだ。

 そちらで見えたのは、ゆっくりと倒れようとしている氷の柱。このエリアにいくつも立ち並んでいた巨大な柱のうちの一本が、いつの間にか移動していた緋真の攻撃によってへし折られたのだ。



(何だ、何に反応している……!?)



 これまで、俺とラミティーズにしか執着を見せなかったデルシェーラ。

 それが、今までには無いほどに大きな反応を見せたのだ。

 何のエフェクトも効果もなかった、氷の柱が破壊されただけで、である。

 何があるのかは分からないが、どうやらこれが、アルトリウスの作戦であるらしい。

 全てのプレイヤーたちがこのエリア全域に散らばり、氷の柱を破壊しようと攻撃を繰り返しているのだ。

 そしてそれこそが、デルシェーラにとって重要な要素であったようだ。



『おのれ――――』



 氷の柱を攻撃するプレイヤーたちを止めようと、デルシェーラは完全に俺たちから視線を外す。

 放っておけば、彼らの方に突撃していくことだろう。

 果たして、この動きを止めることが出来るのか――舌打ちと共に空へと駆け上がろうとした瞬間、その声が響いた。



「――我が真銘を告げる!」











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