634:風の歩む先、凍れる城塞あり その21
Magica Technicaのコミック第3巻が6/12(月)、書籍第8巻が6/19(月)に発売となります。
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オーガウォーリア・ヒーローを打倒した俺たちは、さっさとスクロールを使ってダンジョン内から撤退した。
あの辺りは普通に進むだけでも面倒臭い。戦闘で疲れた状況では、アリスにもミスが発生する可能性がある。
目的地までも距離があるし、さっさと戻って入り直した方が有効だ。
「ついでに補給を、と思っていたが……相変わらずだな」
「エレノアさんですし」
脱出ついでに消耗品を補給しておこうかと思ったのだが、街まで戻るのは中々面倒だ。
どうしたものかと思っていたのだが、何とダンジョンである城塞の入口で『エレノア商会』の出張店舗が設けられていたのである。
商品のラインナップは基本的に消耗品だけ、あとは装備の修理を行っているようであるが、価格は割高である。
ちょっと悩みはするが、利便性を考えるとここで購入した方がメリットは大きい――そんな価格設定である辺り、エレノアの手腕が見て取れるだろう。
俺としても金に困ってはいないし、わざわざ街まで戻るのは面倒であるため、ここで購入していくことにする。
「あとは装備の修理か……」
「先生の上着、肩の防具が吹っ飛んでましたけど」
「損傷はインベントリに出し入れしたから戻っているがな。しかし、耐久度は結構減っちまったらしい」
掠めた程度だからよかったものの、肩に当たっていたら骨は砕けていただろう。
骨折程度ならば十秒程度で治るとは思うのだが、その間片腕を動かせないというのも厳しい。
攻撃の軌道はきちんと読んでいたとはいえ、あれは中々にリスキーだった。
とりあえず装備の修復も依頼しつつ、周囲の状況を確認するが――
「いつも通りとはいえ、注目されてるわね」
「仕方ないですよ。北のボスが倒されたことはアナウンスされたみたいですし」
「名前まで出てるのか。ま、構わんがな」
俺たちが目立っていることなど今更だ。いちいち気にしていても仕方がない。
文句があるなら言ってくるだろうが、遠巻きに見ているだけでこちらに近づいてくる様子もない。
であれば、気にするだけ無駄だろう。まあ、オーガとの戦いで本来のサイズに戻ったシリウスが、自覚なく周囲を威圧しているというのもあるだろうが。
再び内部に戻るときにはまたサイズを縮める必要があるが、しばらくはこのままでいいだろう。
「で、緋真。虫の状況はどんなもんだ?」
「すみません、スキルの進化があったから片手間でした。えっと……まあ、『キャメロット』は手出しをしていないので、群雄割拠ですね」
「烏合の衆の間違いじゃないの?」
「流石に『キャメロット』と比較するのは間違いだが、他にも多少頭の切れる奴はいるだろうよ。思いついても実行できるのかどうかは分からんがな」
『キャメロット』の――というよりアルトリウスの恐ろしさは、偏にその人材の豊富さにある。
つまりはアルトリウス自身の人望なのだが、粒揃いの幹部連中に加え、軍曹の部隊メンバーすらも一部引き入れている。
その他も各方面のプロフェッショナルが多く、しかも所属の最低条件として、きちんと指示に従うことができる人間だけを集めているのだ。
部隊運用の命令系統も透明性が高く、アルトリウスは末端の人員の能力すらも把握している。
そろそろ一個師団には達していそうな人員を、端まで掌握しているのは化物であるとしか言いようがないだろう。
(エレノアにしろアルトリウスにしろ、極まった怪物はいるもんだ)
片手間に指先一つで国の経済を操作するエレノアも、恐ろしさという点では比肩し得る存在だろう。
そんな化物二人と同盟を組んだ己の判断を、今更ながら自画自賛しつつ、俺はふとこちらに近づいてくる気配に視線を向けた。
どうやら緋真も同時に気が付いたようだが、何とも曖昧な表情を浮かべている。
「――お兄様、ここでお会いできるとは幸運でした」
「ユキか。お前たちも戻ってきたのか?」
「えー、先生がボスを倒したっていうアナウンスを聞いて、動きを予想して戻ってきただけじゃ――」
「緋真さん、何か?」
にっこりと笑って殺気を飛ばすユキに、緋真は視線を逸らして口笛を吹く。
相変わらずあまり仲は良くない様子だが、以前ほどのギクシャクとした感覚はない。
まあ、この二人の間柄について深く問うつもりもないのだが。
「で、何かあったのか?」
「いえ、折角ですので同道させて頂こうかと」
「ふむ……」
ボスと戦う前にこの話があったならば断わっていただろう。
ユキだけならばともかく、他の門下生たちには少々荷が重い戦いだ。
だが、今回は別にボスを積極的に狙いに行くわけではなく、単なる様子見である。
それならば、別に連れ立って歩いていても問題は無いだろう。索敵者がいる方がアリスの負担も減るだろうしな。
「分かった。だが、今日はもう積極的に戦うつもりはないぞ」
「それは残念ですが、それでも構いませんので」
「全く、物好きなもんだな」
緋真は若干不満げな表情ではあったが、特に否を発するつもりはないらしい。
アリスもこちらの決定に意見は無いようだし、とりあえずは問題無さそうだ。
「いいだろう。次の目的は最後の封印、虫との戦線の観察でな。あまり積極的に仕掛けるつもりはない」
「そうでしたか。であれば、多少はお役に立てると思います」
「ふむ? まあ、そう豪語するなら楽しみにしておくか」
何やら自信ありげな様子のユキに、首を傾げつつも頷いておく。
何か便利なスキルでも身につけたというなら、実際に見せて貰うこととしよう。
装備の修復も完了し、再び街の内部へと足を踏み入れて――俺は、思わず眼を見開いた。
「ほう、こうなっていたのか」
「復帰は楽でいいですね」
先日、彷徨い歩いてようやく突破した外周区画。
正面の入口から入ったそのエリアは、真っすぐ一直線に通過可能な大通りが続いていたのだ。
遠目ではあるが内部区画への入口も見えているし、さほど時間をかけずに内部区画まで到達することができるだろう。
「望外の幸運だったな。もう一度中まで進むのも面倒だったし」
「内部ほどじゃないとはいえ、ここも注意して進む必要があったしね。一応、罠は無さそうよ」
「開通させた通り道で迄仕掛けてくるほど陰険ではなかったか」
軽く溜め息を吐き出しつつ、内部へと進む道を歩む。
ユキのパーティである薙刀術の門下生たちは、何やら落ち着かぬ様子でこちらのことを眺めているようだ。
薙刀術を護身術ではなく武術として学んでいる面々とはいえ、彼女たちにとってみれば俺は雲の上の存在であるらしい。
確かに稽古は付けてやれんのだが、別に話しかけられれば答えるぐらいのことはするんだがな。
「そういえば緋真、スキルの進化はどうなった?」
「《二刀流》が進化しましたよ。あれ、別に両手に武器を持ってなくても、片手で殴ってれば経験値入るんですね」
「お前にとっちゃ奥の手かもしれんが、もうちょっと使ってもいいとは思うぞ? で、どんなスキルになったんだ?」
「《二天一流》だそうで。この名前を口にするのは流石に恥ずかしいんですけど」
複雑そうな表情で眉根を寄せる緋真に、思わず苦笑する。
剣士として、武術家としての感覚としては、かの新免武蔵と同じ流派などとは口が裂けても言えるものではない。
とはいえ、これは単なるスキル名だ。複雑な思いがあることは事実だが、そこまで気にしすぎる話でもないだろう。
「で、何か追加効果があったのか?」
「一部のアクティブスキルが、両手の武器に発動するようになるらしいですね。《蒐魂剣》には便利かもですけど……私にはそこまで大きな恩恵は無さそうですね」
「《術理掌握》もか?」
「あれは体に取り込むようになりましたから。最初から両手の武器まで効果が及んでますし」
となると、そこまで大きな影響は無さそうか。
両手で《蒐魂剣》を使えたからといっても、そこまで大きな影響があるとも思えんしな。
とはいえ、スキルが成長すれば補正の値も高くなる。多少は効果もあることだろう。
「二刀流……あの時はしてやられましたね」
「よく言いますよ。初見でそこそこ対応してきたじゃないですか」
「私たちに見せぬ程度の付け焼刃で、よくそこまで練り上げたものだと言っているのです」
横目で見つめるユキの視線に、緋真は唇を尖らせながらそう答える。
そういえば、以前のイベントでこの二人は対決していたのだったか。
その時の様子は見ることができなかったし、映像記録でも残っているならば確認しておきたいところなのだが。
「……お喋りはここまで。そろそろ内部区画よ」
「ああ。アリス、悪いがまた頼む。ユキ、お前たちの方でも《看破》系スキル持ちはいるか?」
「ええ、そこそこに。以前の戦いで、あった方が便利な時がありましたから」
澄まし顔で、ユキはそう告げる。
俺には心当たりのない話であるし、どこか後追いのイベントか何かだったのか。
ともあれ、持っている人間がいるならありがたい。
何重かのチェックで、虫のいるエリアまで進んでみることとしよう。
■アバター名:緋真
■性別:女
■種族:羅刹女族
■レベル:115
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:83
VIT:50
INT:71
MND:40
AGI:40
DEX:30
■スキル
ウェポンスキル:《刀神:Lv.36》
《武王:Lv.11》
マジックスキル:《灼炎魔法:Lv.27》
《昇華魔法:Lv.24》
セットスキル:《武神闘気:Lv.14》
《オーバースペル:Lv.12》
《火属性超強化:Lv.14》
《回復特性:Lv.39》
《炎身:Lv.51》
《致命の一刺し:Lv.33》
《超位戦闘技能:Lv.16》
《空歩:Lv.20》
《術理掌握:Lv.28》
《MP自動超回復:Lv.13》
《省略詠唱:Lv.4》
《蒐魂剣:Lv.50》
《魔力操作:Lv.78》
《並列魔法:Lv.24》
《魔技共演:Lv.31》
《燎原の火:Lv.55》
《二天一流:Lv.1》
《賢人の智慧:Lv.42》
《見識:Lv.24》
《軽業:Lv.9》
サブスキル:《採取:Lv.7》
《採掘:Lv.15》
《聖女の祝福》
種族スキル:《夜叉業》
称号スキル:《緋の剣姫》
■現在SP:20