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625:風の歩む先、凍れる城塞あり その12











 結論として、俺たちは四つ目の封印解放は他のパーティに任せることとした。

 既に二つ解放することに成功しているし、貢献度としては十分。どこにあるかも分からない封印を捜し歩くよりは、先へと進む門を探しに行った方が効率的だと判断したためだ。

 とはいえ、現在地が分かりづらい上に定期的に構造が変化するこの迷宮では、目星をつけても辿り着くことが難しい。

 結局、俺たちは門に辿り着いたタイミングで、その日はログアウトすることになったのだった。

 迷宮内にはところどころにセーフエリアが設定されており、その中でならば安全にログアウトすることが可能なのである。



「四日目、折り返しか。ここで門を開くことができたのは、ペース的にはどうなんだろうな」

「内部になるほどエリアは狭くなってきてますし、そこそこいいペースなんじゃないですか?」



 翌日、俺たちがログインした時には、既に門の封印は解除されていた。

 どうやら、どこぞのパーティが封印の解除に成功していたようである。

 『キャメロット』であるとは聞いていないため、どこぞのクランによる戦果なのだろう。

 まあ、どこが解除したにせよ、先に進めるのだから問題はない。強いて言えば、封印が解かれる瞬間を見てみたかったという程度の話だ。

 ともあれ、これで先に進むことができるのだが――



「で……また面倒なことになってるって?」

「むしろここからが本番って感じですよね、これ」



 防壁内に入ったことで、攻略しなければならないエリアの広さは狭まったと言えるだろう。

 だが、その分だけ難易度も増した状況であるらしい。

 トラップの数や危険度の増加は当たり前、配置されている敵のレベルも強大化している。

 だが特に厄介なのは、次なる封印の解除に必要となる攻略手順だろう。



「封印が自分から動き回ってるんですけど」

「ボスが抱えてる……っていうより、ボスそのものが封印なのね」



 あらかじめ映像を確認していた緋真は、その様子を確認してぼやくように呟く。

 背伸びしながらそれを覗き込んでいるアリスもまた、眉根を寄せながら声を上げた。

 面倒なことに、城へと通じる門を塞ぐ三ヶ所の封印は、全て強大な氷の魔獣によって守られているのだ。

 実際に姿が確認された個体は二体だけで、もう一体はまだ発見されていないようだが、恐らくそれも同じような仕掛けだろう。

 どちらも氷によって形作られた魔物なのだが、片方は霜を纏った虎のような姿、もう片方は巨大なダンゴムシのような姿をした存在である。

 これらは迷宮内部を徘徊しており、それぞれある程度の行動範囲はある様子なものの、偶然遭遇するしか戦う術がないのだ。



(それ自体も厄介だが……こいつは面倒だな)



 映像は、探索を進めていたパーティが偶然に撮影したものだ。

 出現したのは白い虎で、何と壁から生えるような形で姿を現している。

 どうやらこいつらは、ある程度迷宮の構造を無視することができるらしい。

 建物ではなく氷の壁であればすり抜けることが可能であり、俺たちよりも自由に移動しているのだ。

 流石に、何も制限なく素通りしているというわけではなく、氷の壁を抜けるには数秒程度の時間を要すると思われるが、こいつらの移動が高い自由度を誇っていることは単純な事実だ。



「『キャメロット』でもまだ討伐に成功していないのか?」

「はい。初回は偶発的な遭遇で、体勢を整えきれずに敗走。二回目はしっかり準備して挑んだみたいですが……痛み分けって感じみたいですね」

「いや、もっと面倒でしょ、これは。単純に押し切れなかっただけならまだしも、逃げられてるじゃない」



 どうやら、俺の懸念していた通りの行動を行っているらしい。

 この魔獣たちは、危険な状況になったら氷の壁を使って逃げてしまうのだ。

 通り抜けるのに数秒かかるとはいえ、その程度の時間だけで残りの体力を削り切れる保証はない。

 そして、氷の壁を抜けられてしまえば、追いかけて追撃するのはよほど運が良くない限りは不可能だ。

 その性質もあり、未だどのクランもこの魔獣の討伐には成功していない状況であるようだ。



「……逆に言えば、『キャメロット』ならば一つのパーティで追い詰められる程度の能力か。強いことは強いが、レイド級の敵っていうわけではなさそうだな」

「逃げるところまで含めたらレイド級かもしれないですけどね」

「確かに、アルトリウスならそうするかもしれんな」



 アルトリウスならば、複数のパーティを操って、追い込み漁的に包囲していくことが可能かもしれない。

 だが、単独パーティである俺たちには採ることのできない方法であるため、他に方法を考えなくてはならないだろう。

 しかし、俺たちだけで取れる手など、かなり限られているわけなのだが。



(虎の方はすばしっこい。遁走を選択したら、すぐにでも氷の壁に向かって行くだろう。インターセプトできれば仕留め切ることも可能かもしれないが、状況次第だな。虫の方は速くはないがパワーがある。シリウスのパワーで押し留めることができるかどうか……)



 どちらも、可能性はあるが確証はない。

 これでは、一度戦ってみないことには結論を出すことはできないだろう。

 強いて言うならもう一つ案があるのだが、これも結局は博打の領域を出ない。

 結局のところ、今この場で悩んでいたところで、明確な答えなど出ることはないのだ。



「考えていても仕方ないか。とりあえず、実際に戦ってみてから考えよう」

「それじゃあ、どっちを狙うんですか?」

「虎だな。こちらの方が戦い易そうだ」



 どちらも容易い相手ではないのだが、巨体とタフネスを誇る虫の方は、迷宮内で戦うのは中々に厳しそうだ。

 一旦、虎が徘徊している東側のエリアに向かうこととしよう。

 余裕があれば、未だボスの姿が確認されていない北側を探索してみるのもいい。まずは足を使って、状況を確認していくべきだ。

 まあ、そうやって意気込んだところで、やることは先ほどから変わっていないわけだが。



「実際に見てみて、どんな感じだ?」

「やっぱり、危険な罠が多くなってきてるわね。発動させて対処するにしても、結構慎重にやらないとダメかも」

「具体的にはどれぐらいなんですか?」

「前のエリアの祠前にあったトラップが平然と置いてある感じね」



 アリスの説明に、思わず眉根を寄せる。

 二つ目の氷のゴーレムの方は当然として、最初に見つけた方もかなり危険なトラップが目白押しであった。

 下手に引っかかれば、防御力の低い俺たちでは一発で即死まで持って行かれかねない。

 流石にこれを発動させながら歩くのはかなり危険だ。



「とりあえず、基本的には避けて通るようにするか。避けられない場所はシリウスに任せる」

「強引だけど……仕方ないわよね」



 とりあえず、シリウスならばあの危険なトラップも耐えきれることは実証済みだ。

 であれば最初から巨大化させたシリウスに先行させた方が効率はいいのかもしれないが、そうするとアリスが前を見通すことができない。

 刃の鱗があるため上に乗るということも困難であるし、発動し逃したものがあった際に引っかかりかねない。

 そうそう、安易な方法を取ることはできないのだ。



「それで先生、ここのボスに遭遇したらどうするんですか?」

「とりあえず挑みはするさ。その際の手応え次第で、どうするか決める」

「じゃあ、最初の一回じゃ勝ちは狙わないと?」

「チャンスがあるなら狙うけどな。だが、そうそう上手くはいかんだろうよ」



 とりあえず、最初は様子見。仕留め切れるようなタイミングに恵まれたならば話は別だが、まずは相手の動きを体で覚えることが重要だ。

 戦い方だけでなく、どのようなタイミングで逃げるのか。それさえ把握していれば、逃亡を防ぐことも可能かもしれない。

 無論、捕らぬ狸の皮算用であることは事実。その辺りも含めて、一度検証することが必要となるだろう。



「場合によっちゃアルトリウスとも足並みを揃えるが……その辺も手応え次第だな。現状では、結論を出すことはできん」

「うーん……ま、そりゃそうですよね」

「今日含めて四日ある。その日程に胡坐をかくわけにもいかないが、相手の把握にはきちんと時間をかけてもいいだろうさ」



 情報量は勝利に直結する要素だ。

 姿が見られている虎と虫は勿論、未だ姿を見せないもう一体も、謎である要素が多い。

 まずは情報を集め、その上で追い詰めていくこととしよう。











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[一言] 虫型の方の元ネタって、ナ●シカに出てくるアレだよね……?
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