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623:風の歩む先、凍れる城塞あり その10











「【アダマンエッジ】【アダマンスキン】【武具神霊召喚】【ハイエンハンス】、《剣氣収斂》」



 さて、先に辿り着いていた彼らにとっては色々と悩ましい決断であったようだが、手を出すとなったからには容赦はしない。

 俺はあらかじめ用意していた魔法を発動しつつ、姿を消そうとするアリスに目配せをしてから、巨大ゴーレムへと向けて一気に駆けだした。

 さて、相手はこの巨体を持つゴーレム。そのまま相手をするとなると俺たちでも厳しいが、先程も言ったようにシリウスをそのまま戦わせるのは危険だ。

 であれば、異なる方法で奴の動きを鈍らせなければならない。



「セイラン、シリウス!」

「クェエエッ!」

「ガアアアアアッ!」



 俺の号令と共に、勢い良く地を駆けるセイランと、レッサードラゴン程度の大きさになったシリウスがゴーレムへと向かう。

 ゴーレムの意識はまだ先ほど戦っていたパーティの方に向いているため、その攻撃を阻むものはない。

 跳び上がったセイランの攻撃は奴の頭部に、そして大きく振り回されたシリウスの尾は奴の胴へと突き刺さった。

 無論、タフなゴーレムがそれだけで倒れるようなことはないのだが、その衝撃によって相手の動きを止めることぐらいは可能である。

 そして次の瞬間、小さな風切音と共に、小型の矢がゴーレムの左膝に突き刺さった。

 アリスが篭手から放ったであろう矢は、ほぼ相手にダメージを与えるには至らない。だが――矢が命中したその位置には、スキルによる赤いマークが刻印された。



「『練命破断』!」



 斬法――剛の型、輪旋。


 体勢を崩して位置が下がり、アリスによって弱点属性を付与されたゴーレムの左膝。

 そこへと向けて、俺は容赦なく一閃を叩きつけた。

 振り抜いた餓狼丸の一閃は、まるで抵抗を受けることもなく、水面でも斬ったかのように巨大ゴーレムの膝に深々と傷跡を刻む。

 足が太いため、一撃で斬り落とすには至らなかったようだ。

 しかし――



「《術理掌握》――《オーバースペル》、【インフェルノ】!」



 後ろに回り込んでいた緋真の一閃が、ゴーレムの膝裏からその身を焼き、左足の膝から先を完全に切断してみせた。

 片足とはいえ膝から先を失えば、その巨体を支えることなどできるはずもない。

 ゴーレムはバランスを崩し、地面に横倒しに倒れることとなった。



「うそ……っ!?」



 微かに、耳慣れない声が聞こえる。半壊したパーティの魔法使いのものであるようだ。

 こちらが参戦してから数秒でこの状態になったためか、状況に追いつけていないのだろう。

 元々彼らが戦っていたのだから少しは役に立ってもらいたいものだが、急に足並みを揃えろというのも無茶な話だ。

 下手に手出しをされない方が返っていいかもしれないが、その辺りを強制するつもりもない。



「《練命剣》、【煌命撃】!」



 ともあれ、狙い易い位置まで弱点が降りてきたならば遠慮することはない。

 ゴーレムの頭部へと向け、俺は力強く踏み込んだ。


 斬法――剛の型、白輝。


 足元が破裂するような音を立てる。

 その勢いによって爆発的に加速した一閃は、防ぐ暇も与えずにゴーレムの頭部へと叩き付けられた。

 一撃だけでゴーレムのHPを削りきるには至らないものの、ごっそりと削り取ることに成功する。

 このまま畳み掛けるならば――



「ルミナ!」

「光の槍よ、撃ち貫け!」



 空に舞い上がったルミナが、光の槍を発生させてゴーレムの手足を射抜く。

 高い威力を誇るルミナの魔法は、ゴーレムの手足を容易に貫いて地面へと縫い付けた。

 まあ、光の槍は物理的に存在しているわけではないため、そのまま穴が開いているわけではないのだが。

 しかし、多少なりともコイツの動きを封じられるだけでも十分だ。そのまま動かずにいるのであれば、容赦なく削り取るまでの話である。



「《ワイドレンジ》、《奪命剣》【冥哮撃】!」



 拘束から逃れようともがくゴーレムから距離を取りつつ、切っ先の先端に黒い球体を出現させる。

 振り下ろすと共に、瞬く間に巨大化したその一撃は、ゴーレムの巨体を飲み込むように叩き潰す。

 とはいえ頑丈なゴーレムの体、ひびが入る程度で砕けはせず、地面にめり込むに留まったが。

 【咆風呪】も使っておきたいところであるが、レイドを組んでいるわけではないパーティが傍にいるため、広範囲に影響を及ぼすテクニックは自重しなくてはならない。

 まあ、【冥哮撃】でHPは十分に回復できたし、そこまで緊急性も無いだろう。



「《奪命剣》、【命喰牙】」



 とはいえ、HP吸収の短剣だけは突き刺しておきながら、一旦ゴーレムから距離を取る。

 俺がゴーレムにダメージを与えるためには、いくつか面倒な手順を踏まなければならない。

 今のような攻撃属性の変化、弱点攻撃による《会心破断》の使用がメインだが、どちらもクールタイムには制限があるのだ。

 それに、俺がいつまでもゴーレムの頭を独占していては、アリスが攻撃を行うことができない。



「はい、これでダメージ追加よ」



 そんな俺の期待通りに、篭手から矢を飛ばして頭部に弱点属性を重ねたアリスは、その刻印へと黒い短剣を突き刺した。

 元より防御力を貫通するスキルを使うアリスであるため、狙えるならばゴーレムが相手でも苦にはならない。

 即死効果こそ発揮しなかったものの、アリスの攻撃は見事にゴーレムのHPを削ってみせた。

 そして再度姿を消したアリスは、そのままゴーレムの巨体から距離を取る。

 《静寂の鬨》のお陰か、或いは事前に俺が大きくダメージを与えていたからか、あまり注意は引かれていなかったようだが――どちらにしろ、今は離れる必要があっただろう。



「《オーバースペル》、【ボルケーノ】!」



 鋭く唱える緋真の声と共に炎の柱が立ち上り、その間を炎が埋め尽くす。

 緋真の高い魔法攻撃力による魔法だが、《省略詠唱》を習得したことにより、発動までのタイムラグは皆無だ。

 おかげで、アリスの退避にもタイミングを合わせ、ゴーレムを炎に巻き込むことができた。

 あちらのパーティがダメージを与えており、そのおかげで注意を引いてくれていたとはいえ、かなりの量のダメージを与えることができた。

 できればこのまま倒し切ってしまいたいところだが、流石にゴーレムが倒れるよりも拘束を破る方が早いだろう。

 さて、どうしたものか――そう考えていた折に、何やら声が響き渡った。



「おい、何やってんだ馬鹿ッ!」

「うるせぇ、そっちはそっちでやってりゃいいだろ!」



 見れば、あちらのパーティのスカウトが、戦いを無視して祠に近づいていたようだ。

 どうやら、俺たちが戦っている間に、あの祠を開けてしまおうと考えたらしい。

 色々と言いたいことはあるが――それを口にするよりも早く、炎に包まれていたゴーレムが唐突な動きを見せた。

 強引に拘束を破り、左足を再生させながら、これまでよりも遥かに機敏な動きで祠の方に向かったのだ。



「成程、そうなるか……《蒐魂剣》、【因果応報】」



 ゴーレムが抜け出してしまったため、【ボルケーノ】も意味がない。

 この際だからと吸収しつつ、走り出したゴーレムの後を追う。

 どうやら、ゴーレムが健在なうちに祠を解放しようとすると、全てを無視してそれを阻止しようとするようだ。

 それはそれで興味深い性質であるのだが、弱点を狙いやすい状況を崩されてしまったことには文句を言いたい。

 あのスカウトもゴーレムの動きには気付いたようだが、それよりも早く祠の戸を開けようとし――



「っ、鍵が――ごべッ!?」



 ――開けることができず、ゴーレムによって蹴り飛ばされたのだった。

 ボールか何かのように吹き飛ばされていく姿には若干の憐れみを覚えつつ、俺は強く地を蹴ってゴーレムへと接近する。


 歩法――烈震。


 足を生やしたとはいえ、アリスが刻印を行った位置に変化はない。

 《肉抉》は長時間維持できるスキルではないのだが、逆に言えばそこまですぐに効果が消えるほどのものでもない。

 その力によって刻まれた刻印は、まだゴーレムの左足に残っているのだ。



「『練命破断』」



 斬法――剛の型、輪旋。


 クールタイムを終えてすぐのスキルを再発動し、跳躍しながら刃を振るう。

 本来ならば力も入りがたい体勢だが、防御力を無視できるならばそれでも十分だ。

 急激に再生させたためか、先程よりも細い状態のゴーレムの足。

 しかも、右足で蹴りを放ったため、左足は軸足となっている。そこへと叩き込まれた一閃は、バランスを崩させるには十分すぎる威力であった。

 ゴーレムの左足は砕け散りながら崩壊し――突撃してきたシリウスの剛腕が、バランスを崩したゴーレムの顔面を完全に打ち砕いたのだった。











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― 新着の感想 ―
[一言] うーんまあ不幸な事故でしたねw アレです、情報を売ってそれで補填しましょうw
[一言] ガーディアンモンスターの目の前で抜け駆けですか・・・・・・ 仲間の制止も聞かず突っ走ったあげくの自業自得。 行動パターンの一つと鍵の存在を暴いた点は評価できるけど、 イキった割にはあっさりと…
[一言] 実力足りてないのに欲だけは一人前のイキリプレイヤー達でしたか。 そして役に立たず盗賊退場って思ったけど、ゴーレムの情報集めるいい実験台になったので、むしろアワアワしてる他の連中より貢献してい…
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