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622:風の歩む先、凍れる城塞あり その9











 見上げるほどに大きな、二階建ての建物ぐらいの大きさはあろうかという氷のゴーレム。

 これまで戦ってきたゴーレムは、基本的に人とほぼ変わらない程度の大きさのものしかなかった。

 この大きさは明らかに別格。上位の悪魔ほどとは言わないが、そう易々と片付けられる相手ではなさそうだ。



「他にはトラップは無いのか?」

「無さそうね。その代わり、あれを避けることも不可能だったと思うけど」



 祠を護るために設置されていたトラップ。避けようもない配置である以上、あの巨大ゴーレムは戦うかトラップを解除するしかなかった。

 単純に戦えばいいだけであれば、むしろ俺としてはやり易い類ではあったのだが――まあ、ここは譲るべきだろうな。



「手は出さないの?」

「ああ、辿り着いたのは向こうが先だ。横から掠め取るような真似はせんさ」



 俺の答えなど分かっているだろうに、アリスは小さく笑いながらそう問いかけてくる。

 しかし言葉の通り、俺はこの戦いに手を出すつもりはない。

 最も早く辿り着き、トラップを発動させてしまった。そのどちらもが彼らの功績であり失敗だ。

 ならば、彼ら自身がそれを背負うのが筋というものだろう。



「勝てますかね」

「さてな。お手並み拝見だ」



 後衛らしき魔法使いの女性は、ちらりとこっちを見た後、複雑そうな渋面を作ってゴーレムへと向き直った。こちらが手出しをする様子がないことを察したのだろう。

 手柄を総取りできることに対する安堵と、このゴーレムに勝てるかどうかという不安だろうか。

 まあ、この程度の試練ならば攻略してみせてくれなければ、デルシェーラとの戦いなど夢のまた夢だろう。頑張って貰いたいものだ。


 完全に姿を現したゴーレムは、腕を振りかざしてパーティへと襲い掛かる。

 その巨大さゆえに鈍重な動きに見えているが、実際のところは結構な速度だ。

 巨大なハンマーのように振り下ろされた腕に、標的となった彼らは回避を選択する。

 だが――魔力を帯びた一撃は、地面に衝突するとともに衝撃波を発生させ、周りにいた彼らをまとめて吹き飛ばしてしまった。

 その威力は、結構な距離を離している俺たちのところまで余波が飛んでくるほどだ。



「ありゃ、直撃したら死ぬな」

「ガチガチに固めても厳しいかもですね。スキル含めてようやくぐらいかな……」

「……弱点どこなのかしら、あれ」



 急所に刃を突き立てる戦い方のアリスにとっては、急所を狙いづらいというだけで厄介な敵だ。

 元々のゴーレムと同じであると考えると、頭部が弱点として扱われているのだろう。

 しかし、周囲の建物とほぼ変わらない高さのあるゴーレムは、頭を狙うだけでも一苦労だ。

 攻撃力もかなり高く、下手に接近することも難しい。中々に厄介な敵だ。



「先生ならどう戦います?」

「やりようなら色々とあるが……一番楽なのは、元の大きさのシリウスに押さえさせてタコ殴りにすることか」

「技術も何もないわね」



 アリスのツッコミには、軽く肩を竦めて返す。

 確かに技術もへったくれもないが、あんな大きさの敵と戦う以上はそうなってしまうのも仕方あるまい。

 尤も、多少広い通りであるとはいえ、シリウスが最大サイズになるのは中々に危険だ。

 あんな巨大ゴーレムと揉み合って転がりでもしたら、俺たちも巻き込まれてしまいかねない。

 実際に戦う場合には、この作戦を取ることはできないだろう。

 一方で、そんな強引な解決策を取ることができないプレイヤーの一団は、真っ当に正面から相対することとなった。



(吹っ飛ばされた時はどうなるかと思ったが、流石にここまで来るだけの実力はあるか)



 衝撃波によって弾き飛ばされはしたが、それだけで死亡するようなことはなく、即座に回復魔法によるサポートが入った。

 そして、武器を持たぬ格闘タイプのプレイヤーが、ヘイト奪取のためのスキルを使用し、ゴーレムの注意を引き付けている。



「あんな軽装備で敵の注意を引くのか」

「避けタンクですね。安定させるには結構なセンスがいるんですけど、あのゴーレム相手にはこの方がいいですかね」

「相手の注意を引く仕事は同じ。こっちは相手の攻撃を回避することで戦線を維持するのよ。攻撃力との両立がしやすいのが利点だけど、見ての通り防御力は薄いわ」



 色々とやり方があるらしい。確かに、あの巨体が相手であれば、攻撃を受け止めるよりも回避する方が有効だろう。

 注意を引き付けられたゴーレムは、そのプレイヤーに対して攻撃を繰り出そうと腕を振り上げる。

 先ほどの教訓もあってか、大きく回避をした彼は、見事に攻撃を避け切ることができたようだ。



「あっちの盾を持っている方はヒーラー兼任ですか。タンク二枚、戦士一人、スカウト一人に魔法使い二人と」

「まあまあオーソドックスな構成じゃない?」

「ふーむ……攻撃力が足りなくないか?」

「いや、全員アタッカーやってる私たちの構成がおかしいだけですから」



 半眼で答える緋真の言葉に、そんなものかと首を傾げる。

 とはいえ、攻撃力の不足そのものは、現実問題として彼らに立ちふさがっているようだ。

 ゴーレムはただでさえ防御力が高くタフだというのに、大型になって更にそれが増してきている。

 魔法攻撃ですら、有効なダメージと放っていない状況だ。

 それに――



(……個々の実力差が大きいな)



 前衛で槍を持っている戦士と、ゴーレムを引き付けている格闘家。

 この二人は、どうやら武術の経験のあるプレイヤーであるらしい。

 達人とは言わないが、それなりに長い年月学んできた痕跡が見て取れる。

 一方で、それ以外の者たちは素人だ。このゲームの中で戦ってきた経験もあってか動きはこなれたものであるのだが、その場その場での判断が鈍く、しかも適切とは言い難い。

 タンクの連中が前線を維持できている間はいいが、それが崩れればあっという間に崩壊することだろう。



「あの避けタンクとやらが生命線か。中々に綱渡りだな」

「やっぱりそうなりますかね」

「槍使いはそこそこにできそうだが、あれだけで前線は支えられんだろう。後衛に襲い掛かられればその時点で崩壊だ」



 とはいえ、そのパーティの問題点は彼らも理解していることだろう。

 果たして、それをフォローしきれているのかどうか、その対策次第ということになるだろう。



「くそっ……魔法攻撃中断、ヘイトを取り直せ!」

「仕掛け過ぎだ! まだクールタイム終わってないぞ!」



 とまぁ、その辺りを期待していたのだが――どうやら、早速問題が出てきたらしい。

 攻撃を仕掛け過ぎて、避けタンクへの注目が剥がれてきてしまったようだ。

 そうなると当然、もう一人のタンクである盾持ちのプレイヤーがヘイトを取るためにスキルを使用することになる。

 自らに魔法による強化を付与し、更に防御スキルを発動させたタンク。彼は注意を引いたゴーレムの拳の一撃を受け止め――次いで放たれた蹴りを受けきれず、建物の壁へと叩き付けられた。



「ま――」



 止めようとする声。しかし、ゴーレムがそれに反応することはない。

 淡々と動くゴーレムは、叩き付けられたプレイヤーへと容赦なく拳を振り下ろした。

 死に体の状態でそれに耐えられるはずもなく、彼のHPはあっという間にゼロとなる。

 やはり、あの攻撃は受けきれるものではなかったか。



(あそこからの連続攻撃は、もう一人のタンクの動きで見ていた筈なんだがな)



 ゴーレムの動きのパターンはそこまで多くはない。

 今の動きも、ここまでの戦闘の中で何度か目にしていた筈だ。

 それでも対応できなかったのは緊張か、焦りか、或いは何も考えていなかったのか。

 何にせよ、回復役の欠如は大きく不利に傾く要素となるだろう。

 HPが尽きても一定時間内ならば復活が可能だが、果たしてそれが間に合うかどうか。

 彼らの焦りを他所に、ゴーレムは淡々と動き続け、後衛へと向けて拳を振り上げている。



「っ……た、助けて!」



 標的となり、必死で走ってゴーレムから逃れようとする魔法使いは、こちらへと向けて手を伸ばした。

 その姿に、どうしたものかと眉根を寄せ――それを遮るように、スカウトの男が声を上げた。



「何を言ってやがる! みすみす手柄を横取りさせる気か!?」

「アンタこそ何言ってるのよ! こんなの、パーティ一つで勝てるわけがないじゃない!」

「おい、言い争いをしてる場合じゃ――」



 唐突に発生した揉め事であるが、生憎とゴーレムが待ってくれるわけではない。

 余計な言い争いに気を逸らせてしまった格闘家は、振り向き様の拳によって吹き飛ばされてしまった。

 大きく離れてしまったため状態は分からないが、無事だろうが何だろうが戦線復帰までは少し時間を要するだろう。

 さて――彼らがどう判断するにしろ、俺たちが戦うことはほぼ確実となったわけだが。

 彼らのリーダーらしき、槍使いの男。俺と視線を合わせた彼は、悔し気に渋面を作りながらも大きく声を上げた。



「くっ……手を貸してくれないか、『剣鬼羅刹』!」

「そちらから言うなら、構わんだろう」



 餓狼丸を構え直して、前へと出る。

 面倒事はありそうだが、とりあえずはこいつを片付けてから考えるとしよう。











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