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617:風の歩む先、凍れる城塞あり その4











 敵を蹴散らしながら、中央部に近い路地へと足を踏み入れる。

 とはいえ、それで一気に奥まで駆け込もうとすると、罠に引っかかってしまう可能性もある。入る時には常に注意を払う必要があるのだが。

 流石に入ってすぐのところには罠も無かったため、とりあえずは一安心か。

 敵もそれほど強くなかったとはいえ、広い通りには結構な数が存在していた。全てを相手にしていると、無駄に時間を浪費してしまうだろう。

 どうせしばらくしたら再配置される敵であるし、適当にあしらうのが正解だ。



「ふぅ……少しは進展しましたかね?」

「さてな、自分の足で確かめるしか無かろう。アリス、忙しいだろうがまた頼む」

「了解、敵の方は任せるわ」



 どうせまた罠が配置されているだろうし、アリスに注意して貰いつつ先へと進む。

 俺は敵の警戒、そして緋真は適度に警戒しつつ掲示板を使った情報収集だ。

 ワールドクエストであるし、多くのプレイヤーが参加している手前、情報は数多く集まってくる。

 とはいえ、それが本物の情報であるかどうかを見極める必要もあるため、緋真は情報の照らし合わせを行っているのだ。

 実際に参考になる情報はほんの僅かであるらしいが、それでも決して無駄ということはない。



「たまに壊せる……というか壊しやすい壁があるってことは、一応既出の情報だったみたいですね。あんまり話題にはなっていませんでしたけど」

「そりゃどうしてだ? 状況を打開する選択肢になると思うが」

「そこそこ強力な魔法破壊スキルが必要になるからですね。先生は《蒐魂剣》でさっくり穴を開けられましたけど」



 緋真の返答に、成程と頷く。

 あの時に使ったのは、《蒐魂剣》でも特に威力の高い【破衝閃】だった。

 壁に容易く風穴を開けることができたのは、あのテクニックを使ったからこそだったようだ。

 まあ、これについては運が良かったと考えておくべきだろう。



「それで、他の連中の攻略状況はどんなもんなんだ?」

「えーと……えぇ?」

「緋真姉様、どうかしましたか?」



 俺の質問に対して困惑した様子の声を零した緋真に、ルミナが覗き込むようにしながら問いかける。

 対する緋真は、眉根を寄せながらウィンドウを操作している。どうやら、あまり良くない情報を発見したようだ。



「……どうやら、まだ最初の門を突破できてないようです」

「門というと、内部防壁……あの城壁のことか?」

「はい。何だか、紋様の刻まれた氷壁があるらしくて、それがどうしても開かないらしいですね」



 緋真の言葉を聞き、しばし黙考する。

 単純に最奥の城まで到達すればいいと考えていたのだが、どうやらそう単純な話ではなかったらしい。

 大方、内部へと入るための門には何かしらの封印が施されており、ギミックを解かなければ中に入れないといったところか。



「ふむ。今のところ、それを解除するための方法を捜索中ってところか」

「そうですね。氷壁には紋章が四つあって、恐らく四つギミックがあるのではないかと考察されています」

「成程な。それなら、門に行くよりそのギミックを探した方が手っ取り早いか」



 とはいえ、それはそれで問題がある。何しろ、そのギミックがどこにあるのか分からないのだ。

 街一つを使った広大な迷宮――外周区だけとはいえ、それらの中からどこにあるかも分からないようなギミックを探し出すなど、現実的ではないだろう。

 道筋が決まった迷宮ならまだしも、定期的に構造が変化する迷宮では、何の目印もなく移動するなど不可能だろう。



「その門に、ギミックの位置を示すような情報はなかったのか?」

「ない……みたいですね。情報を秘匿されていたら分かりませんけど」

「それなら一度行ってみた方がいいのかしら?」

「ふむ……いや、アルトリウスに情報を求めるか」



 その門を見に行くのでもいいのだが、何の手掛かりも無いのでは無駄足だ。

 何かしらの情報を手に入れているのであれば、アルトリウスに聞いた方が早いだろう。

 そう思いつつアルトリウスへと通話を繋ごうとしたところ、さほど時間を置かず彼の声が聞こえてきた。



『こんにちは、クオンさん。何かありましたか?』

「ああ、情報があったら教えてほしいんだが――」

『門の封印のことでしょうか?』

「ああ、その通りだ」



 相変わらず話が早いことだと、思わず笑みを浮かべながら同意を返す。

 恐らく、『キャメロット』の方もこの問題に直面しているのだろう。

 あの内部防壁が閉ざされているのでは、いつまで経ってもデルシェーラの元まで辿り着くことはできない。

 まだ余裕があるとはいえ、ワールドクエストには時間制限がある。あまりのんびりと探索を続けるというわけにもいかないのだ。



『こちらも、先遣部隊は既に門まで到達していますが、やはり通り抜けることはできませんでした。紋章が四つあることから、恐らく四つの封印が施されているものだと考えられます』

「そこまでは聞いていた通りだな。封印解除の方法は?」

『少なくとも門の周辺には何もありませんでした。やはり、外周区のどこかでギミックを解除する必要があると思われます。また、内部防壁の門は三つありますが、すべて同じ紋章が刻まれていました』



 この街の外周区のどこかに、四つのギミックが存在している。

 そして、それら四つを解除すれば、三ヶ所ある防壁の門全てが通れるようになると思われる――といったところか。

 とりあえず、ここまでは予想していた通りであると言えるだろう。問題は、このギミックを発見、解除するための方法だ。

 当てもなく探すのでは、どれだけのプレイヤーがいても成功するとは思えない。



『すみません、これに関しては確かな情報はありません。一つでも発見できれば、多少は推察もできるのですが』

「……そうか。だが、三日目でもこの状況というのは中々に厳しいな」

『ええ。ですので、いくつかの仮説を元に捜索を続けています。一番有力なのは、ワールドクエスト名をヒントとした説です』

「クエスト名?」



 今回のワールドクエストの名前は確か――『風の歩む先、凍れる城塞あり』だったか。

 それを思い起こし、俺は成程と頷いた。



「風というのは俺たちのことを示しているのかと思ったが……ひょっとして、本当に風そのものを指していたのか?」

『という説ですね。実際、迷宮の内部では風が吹いている場所があります。もしかしたら、それを辿って行けばギミックに辿り着けるのではないかと』

「だが、まだ辿り着いてはいないのか?」

『構造変化が起こると風向きが変わったり、見失ったりしますからね……立証するにも時間がかかりそうです』



 ヒントがあっても、そうそう簡単に片付く話ではないか。

 とはいえ、当てもなく彷徨うよりはよほどマシだ。迷宮内で風の吹いている場所を探し、それを辿っていく――クエスト名からして、風を遡るのではなく追って行く方が正解だろう。

 今のところ仮説の域を出ないが、当たっていたとすれば、その風の向かう先にこそ答えがある筈だ。



「助かった。俺たちもそれをヒントに進んでみるとしよう」

『分かりました。何かありましたら、また連絡を頂けると助かります』

「了解だ、そっちもよろしく頼む」



 アルトリウスとの通話を切り、一息つく。

 さて、一つの方針は定まった。それが正解であるかどうかはまだ分からないが、試してみる価値はあるだろう。



「よし、アルトリウスのヒントを元に動くぞ。風が吹いている場所を見つけたら教えてくれ」

「分かりました。先生はこれが正解だと思います?」

「可能性はあると思うぞ。それにまぁ、他にヒントも無いしな」



 他にもっと有力なヒントがあるなら、それを元に動くのもいいと思うが、特に思いついたことも無いしな。

 他の仮説もアルトリウスから聞いておいた方が良かったかもしれないが、向こうから伝えてこなかったということは、胡乱な当てずっぽうのレベルを超えないのだろう。

 途中でもっと有力な仮説が出てきたのであれば、それを採用すればいい。それまでは、この方針で進むこととしよう。



「さてと……上手いこと当ってくれればいいんだがね」



 ぼやきつつも、アリスの先導に従い進む。

 まずは、風の吹いている場所を見つけること。そして、構造変化が起きる前にそれを辿ること。

 その先でギミックを見つけることができれば、この都市の攻略も大きく進展することだろう。











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