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607:防具の相談











「また無茶な注文をしてくれるわね……」



 俺たちの注文に対し、エレノアはまだ疲れを残した様子のままそう声を上げる。

 先日は戦いの直前にログアウトしていたため、顔を合わせるのはあれ以来だ。

 あれこれと苦労する羽目になったためか、あまり機嫌はよろしくない。

 とはいえ、ファムに対する苛立ちをこちらにぶつけてくるような人物でもない。

 単純に、注文そのものが複雑であることが問題なのだろう。



「クオン、氷がどうして滑りやすいか分かる?」

「いや、よく知らんが」

「氷は圧力がかかると融点が下がる……つまり溶けやすくなるのよ。体重がかかっている部分はそれだけ水になり易く、結果として足が滑ることになるわけね」



 北部の戦地はあまり回ったことが無かったため、仕組みまでは気にしたことが無かった。

 圧力がかかった部分が水となり、滑りやすくなる。スケートのシューズがブレードのようになっているのはこれが理由か。

 だが、理由が分かっていたとしても困った事態でもある。つまり、いかなる対策を取ったとしても、踏み込んだ場所が滑りやすくなることは物理的に変えようがないということなのだから。



「単純に滑らなくするというだけなら単純よ。いくら公爵級の作った迷宮だからといっても、全く歯が立たないってわけじゃないし、そこはスパイクを付ければ解決するわ。でも、普通の地面と変わらず動けるようにしたいっていうのは難しいわよ」

「むしろ、デルシェーラの作り出した氷なのに、圧力がかかっただけで溶けるのか?」

「隅から隅まで力を入れて氷を生み出しているわけじゃないんでしょ。逆に、わざと力を抜いているのかもしれないわよ?」

「俺たちの邪魔をするために、か」



 実際のところはどうなのか分からないが、どちらにしても動きづらいことに変わりはない。

 どうにかならないものか、と期待を込めてエレノアの瞳を見つめる。

 彼女は、深く溜め息を零したのち、改めて口を開いた。



「装備開発のチームに確認してみるわ。コスト度外視なら、何とかできる可能性もあると思う」

「ああ、金に糸目は付けなくてもいいさ。言い値で払う」

「貴方はいいけど、貴方の門下生は大丈夫なの、それ?」

「足回りは重要だからな。多少値が張っても何とかするだろ。なぁ?」



 視線を向けると、ユキは鷹揚に頷き、戦刃は若干目を逸らしていた。

 どうやら、何かしら浪費をしてしまっているらしい。

 もう少し後先を考えろと言いたいところであるが、まあ靴を買うぐらいの金なら何とか捻出できるだろう。



「話は開発チームに通しておくわ。そこそこ大口の注文になるからね。どうせなら全環境対応型の安全靴なんかを作っておきたいわね」

「おいおい、盛り過ぎじゃないのか?」

「人間、多少の値が張ったとしても、汎用性が高くて便利なもの――所謂、それ一つあれば事足りる、というタイプの商品には弱いものよ」



 相変わらずの商売人だが、その辺りにこちらから口出しすることはない。

 今回はブロンディーのせいで色々と損害を被ったことだろうし、その辺りの補填に走るのも無理はないだろう。

 さて、それはそれとして――



「それで、メールは出しておいたが、防具の件はどうだ?」

「できてるわよ。新しい製造器具も導入したし、性能は保証するわ」



 防具に限らずではあるが、アイテムを生産するには製作用の道具も必要となる。

 そして、それらの道具もまた、個別に性能を有しているのだ。

 公共施設でレンタルできる製造器具は、決して性能が悪いというわけではないが、ある程度のところで頭打ちとなってしまう。

 『エレノア商会』程になれば、製造器具から自分たちで用意するのは当然のことなのだ。



「伊織からしたら、もっと頻繁に交換しろっていうところなのだけど」

「防具を交換するのも中々大変なんだよ。基本的に総入れ替えになるしな」

「気持ちは分からなくもないけどね。貴方は稼いでいるんだから、もっとお金を落として欲しいわ」



 言いつつ、エレノアは片手でメニューを操作し始める。

 何をやっているのかは分かりやすい。準備をしていた伊織を呼び出しているのだろう。

 事実、彼女がメニューウィンドウを閉じた直後、部屋の外からバタバタと走ってくる足音が響いてきた。



「――お待たせいたしましたわ!」

「別に待ってはいないわよ。というかもうちょっと落ち着きなさい」



 ノックもせずに部屋に乗り込んできた伊織の姿に、エレノアは苦笑交じりにそう返す。

 こういった姿を見ていると、軍曹の孫というのも何となく納得できてしまう者だ。

 ともあれ、防具を準備してきたらしい伊織は、すぐさまそれをインベントリから取り出し――さらに、マネキンまで取り出してそこに装備させ始めた。

 何やら、以前よりも本格的になっている様子だ。



「さて、今回は悪魔が連れていたスレイヴビーストから集めた素材ですので、中々稀少ですわ。何しろ出現地がまだ判明しておりませんので」

「また随分と面倒なことを……」

「最も優れた素材がそれだったんですもの。かき集めて、皆さんの分は何とか確保できていますわ」



 スレイヴビーストは、悪魔共が各地から集めて支配している魔物だ。

 だからこそ、現時点では到達していないような地方の魔物も現れるわけだが、それを材料にするとなると中々に骨が折れる。

 狙ってアイテムを集めることができないのだから、それも当然であるのだが。



「ドラグスパイダー、という魔物らしいですわね。分類は亜竜のようで」

「糸が出るってことは蜘蛛じゃないのか?」

「さあ……わたくしは素材しか見ていませんので、実物がどのような姿なのかは分かりませんわ」



 俺もそれらしい魔物の姿は見かけていないため、相当に珍しい素材なのではないだろうか。

 まあ、まとめて薙ぎ払ってしまっていたら何も分からないのだが。



「何にしても、かなり頑丈な素材ですわね。特に斬撃耐性が高く、そうそう斬れませんわ。魔力を帯びているため打撃への耐性も十分高いですわよ」

「そりゃありがたい。遠慮なく購入させて貰うさ」



 色々と困惑はあるが、伊織の作った装備の性能は折り紙付きだ。

 デルシェーラ相手には分も悪かろうが、その能力には期待させて貰うとしよう。



■《防具:胴》竜蜘蛛の着物・金属糸加工(黒)

 防御力:66(+14)

 魔法防御力:56(+12)

 重量:13

 耐久度:100%

 付与効果:防御力上昇(中) 魔法防御力上昇(中) 斬撃耐性 打撃耐性(小)

 製作者:伊織


■《防具:腰》竜蜘蛛の袴・金属糸加工(黒)

 防御力:61(+13)

 魔法防御力:48(+10)

 重量:10

 耐久度:100%

 付与効果:防御力上昇(中) 魔法防御力上昇(中) 斬撃耐性 打撃耐性(小)

 製作者:伊織


■《防具:装飾品》竜蜘蛛の羽織・金属糸加工・装甲付与(白)

 防御力:63(+13)

 魔法防御力:52(+11)

 重量:9

 耐久度:100%

 付与効果:防御力上昇(中) 魔法防御力上昇(中) 斬撃耐性 斬撃耐性 打撃耐性(小)

 製作者:伊織


■《防具:頭》剣龍の鉢金

 防御力:43(+9)

 魔法防御力:38(+8)

 重量:8

 耐久度:100%

 付与効果:防御力上昇(中) 魔法防御力上昇(中) 攻撃力上昇(小)

 製作者:伊織


■《防具:腕》剣龍の篭手・装甲付与

 防御力:46(+10)

 魔法防御力:38(+8)

 重量:8

 耐久度:100%

 付与効果:防御力上昇(中) 魔法防御力上昇(中) 攻撃力上昇(小)

 製作者:フィノ


■《防具:足》剣龍の脛当て・装甲付与

 防御力:49(+10)

 魔法防御力:34(+7)

 重量:10

 耐久度:100%

 付与効果:防御力上昇(中) 魔法防御力上昇(中) 攻撃力上昇(小)

 製作者:フィノ



 性能については一切問題ない。

 防御力も、今装備しているものと比べれば大幅に上昇することだろう。

 デルシェーラを相手にするには不安が残るが、それを言い出したらパルジファルですら危うい。

 彼女でも、不意打ちを受ければ一撃で落とされてしまう程なのだから。

 とにかく、相手の攻撃を防ぐことが重要だろう。



「感謝する。支払いはいつも通りでな」

「ええ、靴についてはこちらで何とかしておくから、その間に準備を進めておいて。どうせ、近い内にワールドクエストに挑むのでしょう?」

「まあな。そこまでに成長武器をもう少し強化しておくさ」



 そのついでに、多少レベルも上げておくこととしよう。

 少しでも手札を増やせば、奴に通じる可能性は高くなる。

 どこまで行けるかは分からないが――万全の準備と共に挑むこととしよう。











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