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595:門の守護











 作戦の第二段階となる、第二防衛ラインでの戦闘。

 遮蔽物が多く射撃戦が向かないこの状況においては、俺たちのような白兵戦等を得意とする面々に活躍の場が与えられることとなる。

 外壁の外側には塹壕ではないが、仮設の防塁が設置されており、これを盾に戦うこととなるだろう。

 小さい分頑丈に作られているため、防御力はそこそこだ。だが、これの本来の目的は、悪魔が壁に張り付くのを足止めすることにあるだろう。

 防塁で足止めを喰らっているところを、防壁上からの射撃によって仕留める。単純な手ではあるが、素人にも分かりやすく、狙い易い戦況となるだろう。



「さてと……そろそろ来るか」



 この内部側の防壁は、入るための門が二ヶ所しかない。

 しかも現状、南側の門は完全に塞いでいる状態だ。つまり、壁そのものを物理的に破壊することを避けた場合、この北側の門一ヶ所だけが通れる場所となる。

 まあ、実際のところは何ヶ所か抜け道があるのだが、そこは割愛だ。

 とにかく、相手を一ヶ所に集中させる。それこそが主な目的なのである。

 そんな門の前には、巨体を誇るシリウスが鎮座している状態だ。門が元々そこまで大きくないこともあってか、コイツをどかさない限りは門に触れることは叶わないだろう。



(当のシリウスは、自分で暴れたいところだろうけどな……流石に人が多すぎる)



 街中での戦闘と言うこともあり、小回りの利かないシリウスは中々戦いづらい状況だ。

 周囲の建物を破壊しながらの戦闘なら可能かもしれないが、どちらにせよシリウスが暴れているところには他のプレイヤーは近づけない。

 大人しく門の護衛をさせるか、防空を任せるかの二つに一つ。

 シリウスとしては飛んで戦っていた方がマシだったかもしれないが、限界まで門を破られぬよう粘るため、しばらくはそこで壁に徹していて貰いたい。

 まあ、それはそれとして――



「ファム、準備は!」

「完了してるわぁ。接敵の直前で使うわよ」



 仕込みは十分、後は直接戦うのみ。

 姿の見え始めた悪魔たちを、餓狼丸を抜き放ちながら待ち構える。

 防塁の裏にて準備を行っているのは、無数のプレイヤーの群れ。

 彼らは防塁を盾としながらも、向かってくる悪魔の群れの姿を見据え、準備を進める。



「流石に、敵も陣形を組んではいませんね」

「狭い市街戦じゃどうしたところでな。小隊単位での行動はしているようだが、やはり大規模な軍勢としての動きは不可能だろう。しかし――」

「それでも、総数では不利、ですか」

「だな。完全に取りつかれれば、こちらも後退せざるを得ない」



 そこまでにどれだけ粘り、敵の数を減らせるか。

 元より、ここは突破されることを想定した戦いだが――それでも、易々と抜かれてやるつもりはない。



「総員、攻撃準備!」



 頭上で響くのは、アルトリウスの声だ。

 しばらく姿が見えなかったが、どうやら用事は済ませてきたらしい。

 メインイベントに間に合わせたのであれば、多少の遅刻には目を瞑ることとしよう。


 悪魔が迫る。武器や魔法を構え、こちらへと一直線に向かってくる殺意の塊。

 ――けれど奴らは、それが誘導されたルートであることを知らない。



「――迎撃、開始!」



 アルトリウスの宣言とほぼ同時――防塁と防壁、それぞれから魔法攻撃が撃ち放たれた。

 対し、こちらへと向かってくる悪魔たちも、当然攻撃を受けることは予想していたのだろう。それぞれが防御魔法を発動しながら前へと進んでくる。

 しかし、通りの横幅があまり広くはなく、あまり多くの悪魔が同時に攻めてくることはできない。

 故に、こちらは標的に対して攻撃を集中させることが可能であり、防御の上から敵を押し潰すことができるのだ。

 しかし――



「まあ、そうそう思い通りにはいかんわな――《蒐魂剣》!」



 小さく嘆息し、俺は山なりにこちらへと飛来した火球の魔法を斬り裂いた。

 後方に着弾すれば、その爆発によってこちらがダメージを受けていたことだろう。

 悪魔共も、ただ接近戦しかできないというわけではない。むしろ、数の上で有利であるならば、弾幕を張ってくるのが道理だと言える。

 飛来する無数の魔法に、『キャメロット』の防御部隊がそれぞれ対応しているが、やはりその分だけ攻撃の手が緩んでしまうことは避けられない。



「《オーバースペル》、【ボルケーノ】!」



 後衛が弾幕を張り、前衛が防御魔法を盾にして向かってくる悪魔の軍勢。

 そこへと向け、緋真が【ボルケーノ】の呪文を発動する。

 立ち並ぶ火柱の中心から発生した爆炎は、迫ってこようとしていた悪魔たちをまとめて吹き飛ばす。

 悪魔の一団を消し飛ばすことには成功したが、やはり全体から見るとごく一部でしかない。

 後続は次々と向かってきている状況だ。もしも道幅の制限が無ければ、とっくに取り付かれていただろう。



「《蒐魂剣》! 先生、やっぱりこれ負荷分散した方が良かったんじゃ!?」

「俺に言われてもな。それに、こちらの戦力も分散することになるから結局は同じだぞ……『生魔』」



 破壊力の高い魔法が飛んできたため対処しつつ、緋真の文句にそう返す。

 実際、敵が来る方向をほぼ一ヶ所に限定したからこそ、若干有利な状況で拮抗できているのだ。

 もしも二ヶ所に分けた場合、『キャメロット』も戦力を二分する必要が出てくる。

 それでも対処は可能だろうが、エリザリットやデルシェーラが出現した瞬間に突破されかねない。

 相手との殴り合いを避けられない以上は、できるだけ戦力が揃った状態で対応するという選択なのだ。

 と――



「全敵戦力の都市内への侵入を確認――起動してください!」



 アルトリウスの声が響く。それは、この作戦における大仕掛けの一つを発動せんとする通達だった。

 ファムの準備していたそれは、これまで防御のために使っていた道具を攻撃に転用しようという発想であった。



「はぁい、石板結界起動。反転式にて鍋の蓋を閉じましょうねぇ」



 厭味ったらしく嗤うファムの声。それと共に、街の中央に設置された石板から、街を覆う結界が展開された。

 それは、石碑や石板より展開されている、街を保護する結界と同種のものだ。

 唯一異なる点は、魔物や悪魔の侵入を封じる防壁としての性質が、内側へと向けて展開されていること。

 それ以外の、奴らの力を弱めるという性質そのものは、以前と変わることなく維持されていた。

 そんな器用な真似ができるのかという疑問はあったが、どうやら耐久度を大きく減らした上でようやく実現した機能であるらしい。

 明らかに通常運用とは異なる方法であるためか、石板には大きな負荷がかかっているようだ。



(エレノアからしたら不本意この上ないだろうが……有用であることは間違いないな)



 結界の力により、悪魔たちの力が制限される。

 力が抜けたのか、がくりとその動きが鈍り――殺到した魔法によって、まとめて吹き飛ばされた。

 やはりこの結界は、名無しの悪魔たちにとってはかなり厳しい性能であるようだ。

 とはいえ――



「……やっぱり、完全にあいつらを封じられるってわけじゃなさそうですね」

「結界を反転させるのに相当無茶をしているらしいからな」



 どうやら、通常の運用と違い、悪魔たちを弱らせる性質は十分な性能を発揮できていないようだ。

 通常であればアルフィニールの悪魔のデーモン程度は完全に封じることができただろう。

 だが、奴らは動きこそ鈍っているものの、普通に動き回りこちらを攻撃してきている。

 流石に、そこまでの準備をするには時間が足りなかったようだ。



(それでも、一手で敵の全てを弱体化させられたことは事実。これなら十分に押し返せるが――)



 当然、敵も黙っている筈がない。

 次の瞬間にこちらへと殺到してきたのは、鋭い氷の刃を含む水の奔流であった。

 蛇のように空中を駆けるそれは、上からこちらを押し潰さんと迫り――



「《蒐魂剣》、【断魔斬】!」



 青い刃の軌跡が、それを真っ二つにするように消し去った。

 悪魔の群れの先で姿は見えないが、今の攻撃が誰のものであるかなど明白だ。



「さて、根競べだ。こっちを磨り潰せるまで、テメェはお行儀よく待っていられるかな?」



 小さく笑い、餓狼丸を肩に担ぐ。

 迫る悪魔はまだまだ多数――戦いは、ここからが本番だ。











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― 新着の感想 ―
[一言] さて、ここからデルシェーラが動くか否か……
[一言] 石版を逆に使うかぁ・・・・・・ 負荷も大きいでしょうによく思いついたなぁ 蓋をして出られなくした上で殲滅させていく作戦のようですが エリザリットが暴れている中で石版は負荷に耐えきれるのかが心…
[一言] 600更新おめでとうございます(^^) 師匠がどこまで行くのか楽しみにしてます
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