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590:攻城戦











 互いに射撃攻撃での戦闘が続く。

 遠距離での攻撃同士になるため、やはり効率的に敵の戦力を潰すには至らない。

 しかしながら、それでも互いに消耗が出ることは避けられない状況だ。

 当たり所が悪かったり、爆風に巻き込まれて落下したりと、脱落してしまったプレイヤーもいる。

 また、そこまで行かずとも、ダメージを負って一度治療をしなければならないプレイヤーも数多く出てきている状況だ。



(削った数で言えばこちらの方が優勢だが……防衛戦である以上は当たり前だ。数で不利な以上、よほど圧倒的に勝てている状況でもなければ意味がない)



 それでもこの戦場を保たせることができているのは、軍曹の指揮があってこそだろう。

 敵の防御の合間を縫って的確に敵戦力を削り、時にはランドと協力して小隊長と思われる悪魔を落としている。

 あれが無ければ、奴らは既にこちらまで距離を詰めてきていることだろう。



「ハハハ! ここは戦線復帰が楽でいいなぁ!」



 当の軍曹はと言えば、相変わらずテンションの高い状態であったが。

 かつての戦場と比べれば、こちらは重傷を負っても回復魔法やポーションですぐさま戦線復帰できるのだから、この不利な状況でも維持はし易い。

 大方、前にもこれがあればよかったのにとでも考えているのだろう。

 それは俺も同じことを思ったが、今更言っても詮無いことだ。



「しかし……時間の問題だな」



 敵の戦力数に陰りは見えない。むしろ、こちらが奴らの先鋒を何とか抑えている間に、後方では着々と戦力が集結しつつある。

 双眼鏡でその様子を確認できてはいるのだが、生憎とこちらから打って出るなどできるはずもない状況だ。

 奴らが総攻撃の準備を完了すれば、こちらは到底抑えきれないだろう。

 とはいえ、ここが落とされるのは最初から想定の範囲内。負けることが分かっているのだから、重要なのは負け方だ。

 つまり、可能な限り味方の被害を減らし、敵に損害を与えながら後方へ撤退すること。

 故に、タイミングを見逃さずに対処する必要があるだろう。



(仕掛けがあるとは言っていたが、あのブロンディー……一体何をやらかすつもりなのか)



 前は兵器を使う分、やらかすことに関してはある程度想像ができていた。

 しかし、今は魔法やスキル、そしてアイテムという想像もつかないような要素が追加されている。

 限界点が分からない以上、より大掛かりな仕掛けになっている可能性も考えた方がいいだろう。

 と――



「――シェラート、準備だ!」

「っ……了解!」



 こちらを狙ってきた魔法を斬り払いながら、軍曹の声に応える。

 それと共に、俺は外壁に隠れるシリウスへと密かに指示を飛ばした。

 俺の言葉を聞いたシリウスが準備を始める中、周囲の状況を確認し、俺は感嘆の吐息を零した。

 どうやら、既に軍曹は味方への通達を済ませていたようだ。

 彼らは、さりげなく撤退可能な位置にまで部隊を移動させていたようだ。



「あれがこっちに向かってきたタイミングで撤退か……」



 言うは易く行うは難し、といったところだ。

 普通に考えれば、そのまま追撃を受けてしまうのがオチだろう。

 どちらにしろ殿は俺が引き受けることになるだろうが、それがどれだけ大変になるかはこの撤退のタイミングにかかっている。

 無駄に粘ろうとする馬鹿がいないことを願うばかりだが――と、そんなことを考えていたタイミングで、街の中央より鐘の音が響いた。

 撤退の合図、『キャメロット』があらかじめ決めていた連絡手段だ。

 そして、それとほぼ同時に、後方で集結していた悪魔の軍勢が一斉に前進を開始した。



「先生、あれは――」

「無理だな。あらかじめ決めていた通り、撤退だ」



 よほど大規模な火力が無い限り、あれを何とかすることは不可能だ。

 強制解放リミットブレイクを使った俺や緋真であれば、ある程度の時間留めることは可能だろうが、そのリスクに対するリターンが釣り合わない。

 であれば、当初の想定通り、さっさと撤退して後方での戦闘に備えた方がマシだ。

 そのためには――十分に引き付けた上で、奴らの出鼻を挫く。



「軍曹、こっちで連中の動きを止める! 奴らに一撃叩き込んだら撤退だ!」

「そいつはご機嫌だ、やってやりな!」



 こちらへと向かってくる悪魔の軍勢。

 隊列を組み向かってくる奴らは、既に防御スキルの発動準備も終えている様子であり、多少の攻撃が来てもびくともしない。

 軍曹の狙撃でも、他のメンバーのスキルでも、奴らの足を止めることは不可能だろう。

 奴らの足を一時的にでも止めることができるのは、その防御スキルを破壊することが可能な一撃だけだ。

 故に、奴らがこちらの攻撃射程の中に足を踏み入れてきたその瞬間、俺はシリウスへと指示を告げた。



「シリウス、叩き斬れッ!」

「グルルルルッ!」



 鋼鉄の翼を羽ばたかせ、外壁の裏からシリウスが飛び立つ。

 《研磨》を使用して威力を高めたその尾は、シリウスの持つ大量の魔力を纏って銀色に輝いている。



「ついでだ、派手にぶっ放せ! 【エクステンド:『シリウス』《魔剣化》】!」



 滅多に使わない昇華魔法の呪文を重ね、シリウスの尾の輝きが最高潮に達する。

 悪魔もシリウスには警戒せざるを得ないのか、その足と動きが僅かに鈍る。

 そして、シリウスを撃ち落とそうと魔法を準備するが――生憎と、その動きは既に手遅れだ。



「ガアアアアアアアアッ!!」



 眩い魔力を纏う尾を振り抜き――空間が、真っ二つに歪む。

 悪魔たちは全力で防御スキルを展開し、その一撃を食い止めようとするが、強化を施したシリウスの《魔剣化》を受け止めることなどできるはずもない。

 建物を解体する時のような轟音と共に、悪魔の展開した防御スキルは砕け散り――奴らの前衛が、まとめて真っ二つに斬り裂かれた。

 そして、それに合わせるように、防壁の上から無数の攻撃が発射される。

 防御する余裕のない悪魔は、その攻撃を防ぐことができず、まとめて前衛に多大な混乱を被ることとなった。



「総員、撤退! 第二防壁で再編成を行う!」



 着弾を確認した軍曹は、即座に撤退を宣言。味方を先導しながら移動を開始した。

 その際こちらに寄越した一瞥は、殿は任せたという意思表示だろう。

 元よりやるつもりであったため、それは問題ないのだが――



「……先生、一部残っている人たちがいますけど」

「『キャメロット』の連中じゃない、一般のプレイヤーか。ま、自己責任だな」



 大半は今の流れに従って撤退している。『キャメロット』以外の連中も、何となくではあるがその流れに従っているのだ。

 だが、それでもすべてとはいかない。目の前で混乱している敵に釣られたのか、まだ粘って魔法を撃っている連中もいる。

 昔の戦場であれば引き摺ってでも撤退する場面であるが、ここではそこまでする必要もない。

 欲に眼がくらんで自滅するのであれば、それはあくまでも自己責任だ。



「あっちも殿を引き受けてくれるなら、ご協力に感謝するとしよう。それよりもこっちの準備だ。奴らは恐らく――」

「ねえクオン、あれって何かしら」

「おん? 何を――何だ?」



 アリスが上げた疑問の声に、彼女の視線を追い、思わず素っ頓狂な声を上げる。

 北側の外壁の方向――そこが、金色に燃え上がっていたのだ。

 何か問題が発生したのかと思考を巡らせるが、その炎は瞬く間に外壁に延焼し、走るようにこちらへと迫ってくる。

 思わず頬を引き攣らせながら、俺は街の内側へと飛び降りた。



「は!? うわあああああああっ!?」



 一方、悪魔へ攻撃を続けていたプレイヤーは、炎に巻き込まれて悲鳴を上げている。

 咄嗟に内側へと飛び降りてきた連中はいいが、パニックになって外側に飛び降りた奴はもう救助不可能だろう。

 それよりも気になるのは――明らかに炎に巻かれていたプレイヤーが、ダメージを受けていないことだ。



「……これ、聖火ね。こんな風に使えるなんて」

「聖火って、あのランタンの灯ですか?」

「私のスキルにはそう表示されてるわ。どうやって燃やしているのかは知らないけど、これなら確かに悪魔の足止めになるんじゃないかしら」



 魔物や悪魔の力を弱体化させる聖なる炎。

 確かに、その力であれば悪魔は近寄り辛いだろう。

 どうやら、これがファムの用意した最初の手札であるらしい。



「とりあえず、部隊の最後衛に追従する形で撤退するぞ。聖火とはいえ、いつまでも悪魔を留めていられるわけじゃないからな」

「了解、それじゃあさっさと――」



 後退しよう、そう言おうとした瞬間だったのだろう。

 ――金色に燃えていた門が、氷に包まれ消火されてしまったのは。











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― 新着の感想 ―
[良い点] エクステンド、久々の登場 [一言] 人魔大戦の時といい、異邦人の前に登場する時のデルシェーラが消火器扱いされてるのが面白すぎる 公爵級の扱いが……
[一言] おっと、来るか?このタイミングで…… 確かにシェラート的には嫌なタイミングでしょうが…
[一言] 氷……となると、ヤツかな?
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