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Magica Technica ~剣鬼羅刹のVRMMO戦刀録~  作者: Allen
DW ~Demon's War~

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589:射撃戦











 狙撃戦闘はしばらくの間続き、軍曹たちは何体もの悪魔を撃ち抜いて見せた。

 驚くべきは、一般の隊員まで含めた射撃精度だろう。

 軍曹たちは、何と四重の防壁までは《スペルブレイク》の弾丸で破ってみせたのである。

 アルトリウスの作戦に乗って練習していただけとは言っていたが、スキルの補正があるにしてもそこまで簡単な話ではないだろう。

 そして、そこまで防壁を重ねるとなると、当然ながらカバーしきれない部分も出てくる。

 多めに魔力を費やしたのか、防壁の範囲も広げていたが、軍曹やランドはその隙間を縫うように奥の悪魔たちを撃ち抜いて見せた。

 しかも、防御に必要な魔力も消耗させている。狙撃戦闘としては、上々の成果であると言えるだろう。

 とはいえ――



「……一方的な戦いはここまでだな。シェラート!」

「あいよ。そっちはそっちで仕事をしろよ」



 相手が攻撃射程に入ったことを確認し、軍曹たちは壁に隠れて射線を遮る。

 それと入れ替わるように、俺はその壁の上へと登って悪魔の軍勢を睥睨した。

 数はかなり減っているとはいえ、それでもかなりの量。しかも組織だった行動をしているとなると、正面から乗り込むことも不可能だ。

 であれば――



「おい軍曹、衛生兵メディックを寄越せ!」

「ああ? もう出しちまうつもりか!?」

「目立てって注文だろうが! だったら精々目立ってやるよ!」



 どうせ、俺がここにいると分かった時点で、奴らはそれを警戒せざるを得ないのだ。

 ならば、精々派手に登場させてやることとしよう。



「シリウス、派手にぶちかませ!」



 従魔結晶を頭上へと放り投げ――眩い銀色の輝きと共に、シリウスの巨体が現れた。

 出現と同時に魔力を昂らせたシリウスは、大きく息を吸いながらその魔力を口へと収束させる。

 放つのは、奴らを微塵に斬り刻まんとする強大なブレスだ。



「ガアアアアアアアアッ!!」



 その咆哮だけでも、物理的に外壁を震わせるほどの衝撃。

 しかし、その強大な一撃に対し、悪魔たちはしっかりと反応してみせた。足止めをしていた時と同じように、大規模な障壁を張ってみせたのだ。

 あの時、あれだけ足止めに喰らっていた相手であるためか、シリウスのことは警戒していたらしい。

 だが、今はあの時とは異なる点もある。



「総員、《スペルブレイク》射撃!」



 軍曹が隊員たちへと指示し、《スペルブレイク》の弾丸を発射する。

 シリウスのブレスよりも速いその弾丸は、悪魔たちの構えた防壁へと突き刺さり、消滅はさせないまでも亀裂を走らせる。

 そして――シリウスのブレスは、弱まった障壁を容赦なく貫き、その向こう側にいた悪魔たちを吹き飛ばして見せた。



「ハハハ! やるじゃねぇか!」

「暢気に喜んでる場合か!?」

「わぁかってるよ! そら、反撃が来るぞ! 伏せろ!」



 攻撃を防ぎきれないと見た悪魔たちがどう出るかは分かりやすい。

 悪魔たちは、即座にこちらへと向けて大量の攻撃魔法を放ち始めたのだ。

 攻撃の大半は、先程のブレスを放ったシリウスである。

 いくらタフとはいえ、あれだけの攻撃に集中されてはたまらない。

 一旦壁の後ろ側まで退避させるが、そうすると攻撃が来るのは俺の方である。



「《蒐魂剣》、【護法壁】!」



 まあ、相手が魔法で、こちらから攻める必要が無いならば、【護法壁】を使えば事足りる。

 俺の前に出現した蒼い障壁は、こちらへと飛来した魔法をまとめて消滅させて吸収するだけだ。

 とはいえ、狙いも完全に正確というわけではない。外壁に命中するもの、狙いよく外壁の上に着弾するもの、様々だ。

 問題はその数の多さだろう。悪魔たちは、シリウスの攻撃を防ぐために、大量の魔法を一気に放ってきている。

 おかげで、外壁の上から顔を出すことすらままならないような状況だ。

 とはいえ――



「ハハハ! 楽しくなってきたな!」



 軍曹をはじめ、俺たちにとっては慣れた状況だ。

 相手が障壁を使わなくなったと見るや、軍曹は一瞬だけ顔を出しては正確に狙いを付けて敵を狙撃していく。

 一方で、ランドは大弓を取り出し、斜め上に狙いを付けて矢を放っているようだ。

 軍曹がまるで動揺していない様子に触発されてか、隊員たちも思い思いの方法で悪魔への攻撃を再開している。

 射撃部隊や魔法部隊、それぞれも攻撃を開始する中、緋真も同様に敵陣へと向けて炎を放っていた。



「シリウス! ブレスを使えるようになったら俺の後ろから顔を出せ!」

「グルルッ!」



 壁の後ろに身を潜める形となったシリウスであるが、軍曹たちの戦い方はシリウスにもできる。

 俺が【護法壁】を使って攻撃を防いでいる後ろから顔を出し、放つ瞬間だけ俺が退避すればいいのだ。

 的がでかいため多少は攻撃を受けるだろうが、シリウスがその程度で揺らぐはずもない。

 先ほど受けた攻撃は、軍曹が回してくれたヒーラーたちのお陰で回復もしているし、多少顔を出した程度で倒されることはないだろう。



(しかし、また派手な射撃戦になったもんだ)



 悪魔側が有効な防御手段を持ち合わせていないためだろう、思った以上に激しい戦闘となっている。

 このまま進むと、お互いにかなりの戦力を消耗することになるだろう。

 まあ、それこそこちらの望む状況であるかもしれないが、あまり速く戦闘が進んでしまうのもそれはそれで困りものだ。

 何しろ、内部の防衛準備はまだ完全には完了していないのだから。

 時間稼ぎとまでは言わないが、奴らが接近するのはもう少し後にしておきたい。



「緋真、できるだけ顔は出すなよ」

「そりゃ、こんな中でのんびり顔なんか出しませんよ!」



 シリウスと違い、俺たちは頭部に攻撃を受けると流石に危険だ。

 特に、俺たちは防御能力は殆ど強化していないため、一撃で致命傷となる可能性も高い。

 そこは現実世界と同じく、注意して戦う必要があるだろう。

 とはいえ、この距離を正確に射抜けるのならばとっくにやっているだろうが。



(流石に、軍曹ほどの精密な射撃能力はないか)



 比較する対象がおかしいとも言えるが。

 一瞬だけ顔を出し、狙いを付けて弾丸を放つ。その一連の動作に二秒とかからない。

 最初から、そこから顔を出すと想定していた場合でもない限り、その動きを捉えることはできないだろう。

 まあ、軍曹は毎回顔を出す場所を変えているため、それを予測することは困難なのだが。



「……だが、それでも詰めてくるか」



 徐々に、正確に壁の上を狙う魔法の数が増えてきている。

 正確に狙いを付けられる射程に近づいてきているのだ。

 それはつまり、奴らが徐々にではあるが、こちらに近づいてきていることを示している。

 この魔法の雨の中でさえ、奴らは前に進む足を止めていない。


 壁の上に魔法を撃ち込まれれば、当然プレイヤー側はダメージを受ける。

 『キャメロット』の防御部隊も一部応援に来ているため、防ぐこと自体は可能だ。

 だが、それでもすべてをカバーできる訳ではないし、ダメージを受ければ当然ながら回復の必要が出てくる。

 結果として攻撃の手が弱まり、悪魔が近付いてくる要因にもなるのだ。



「そう簡単に抜かせるわけにもいかんがな……シリウス、準備はできたか?」

「グルルッ!」



 外壁に手をかけて身を乗り出してきたシリウスが、再びその魔力を高め始める。

 当然、この目立つ頭が生えて来れば、悪魔たちの攻撃はこちらへと向かってくるが――



「《蒐魂剣》、【断魔斬】!」



 それらの魔法を全て、【断魔斬】の蒼い軌跡で斬り払う。

 その裏で、シリウスの魔力は収束し、強大なブレスとなって形を成すのだ。

 まあ、この場に立っていては巻き込まれてしまうため、一旦横に退避するのだが。



「グルァアアアアアアアアッ!」



 そして放たれるブレスは、外壁の上を少しだけ削り取りながら、悪魔の群れへと殺到した。

 悪魔たちは、こればかりは無視できないと足を止め、巨大な防壁を出現させる。

 今度は二重――流石に、今の状況では十分な《スペルブレイク》の弾丸も期待できない。

 結果として、シリウスの一撃は完全に受け止められてしまった。



(だが、今の時間のお陰で立て直せたか)



 悪魔が足を止め、シリウスにのみ集中したこの数十秒。

 その時間のお陰で、プレイヤーたちは回復を済ませて全員が戦線復帰することができたようだ。

 悪魔の足止めにもなったし、上々であると考えておこう。

 俺の顔面目掛けて飛んできた魔法を《蒐魂剣》で斬り捨てながら、シリウスを再び壁の後ろに戻し、戦場を見据える。

 早速の激しい戦いであるが、まだまだ前哨戦。確実にやれることをこなしていくとしよう。











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