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588:狙撃戦











 このゲームにおける魔導銃という武器種は、色々と特殊な装備である。

 素体となる魔導銃があり、それを様々にカスタマイズしていくことで強化することができるのだ。

 つまり、新しい物に乗り換える通常の武器種とは異なり、最初に手に入れたものをずっと使って行くことになる。

 ハンドガンやショットガン、アサルトライフルにグレネードランチャー、そしてスナイパーライフルなど、素体の形状は様々だ。

 最初はハンドガンしか持てないが、クエストを受けることで新たな素体を受け取ることができるようになる――というのが、以前に緋真から聞いた説明だ。



(軍曹にしろアンヘル達にしろ……それを上手いこと使うもんだな)



 形状こそ銃であるのだが、その性能は現実世界の銃とは明らかに異なる。

 弾速は確かに速いのだが、現実世界のそれとは比べるべくもない。

 以前にアンヘル達と戦った時に使われた銃であれば、引き金を引いてからでも回避することは可能だ。

 だが、その中でもスナイパーライフルだけは別格であり、この弾丸だけは放たれる前に回避しなければ避けることは困難なのだ。

 半面、取り回しは大変悪く、現実世界の標準的なスナイパーライフルより五割増しで大きく重い。

 アンチマテリアルライフルの大きさで、通常のスナイパーライフル程度の性能しかないのだから、軍曹としては不満が大きいだろう。

 ――それでも、アウトレンジからの攻撃能力は、他の追随を許さない能力を持っているのだ。



「……命中が多いな。軍曹はともかく、スキルの補正か?」

「便利なもんだよ。一流の狙撃兵とは比べるもんじゃないが、まずまずの戦力としては使える」



 コッキングをしながら素早く次の標的へと狙いを定めるランドは、軽い口調で話しながらも弾を外すことはない。

 既に目視できる距離であるなら、彼や軍曹が狙いを外す筈もないか。

 とはいえ、他のプレイヤーたちもほとんど命中させていることは驚嘆に値する。

 スキルやゲームとしての補正はあるだろうが、動いている相手にこうも命中させられるとは。



「とりあえず、相手の出鼻は挫けたみたいですけど……先生」

「ああ、このままとはいかんだろうな」



 列を組んで接近しようとしてきた悪魔たちは、アウトレンジからの攻撃で足を止められ、いったん後退を余儀なくされた。

 軍曹の射撃中断のサインと共に攻撃は取りやめられ、銃声が響き渡っていた戦場には、再び遠くの戦闘音だけが届くようになる。

 一時の静寂――果たして、相手はどのように出てくるのか。



(射撃で相手の先鋒は潰せたが、数の上で言えばほんの一部。軍勢を退けるには到底足りない)



 この状況下で、敵が取るであろう方法は二つ。

 攻撃を防ぎつつの堅実な行進か、数に物を言わせての強行突破かだ。

 前者であればこちらの攻撃が通じなくなるが、進むスピードは遅い。

 逆に後者は攻撃こそ通じるが、一気に距離を詰めてくることだろう。

 どちらであるにしても、何かしらの対処は必要だ。悪魔共の性質からして、後者で来るのではないかと思うが――



「……意外だな」

「あれ、射撃を防ぎながら来る感じですかね」



 悪魔たちは、正面に魔法による障壁を形成しながら、ゆっくりと前進を開始したのだ。

 数で勝り、しかもいくらでも補充が可能なアルフィニールの悪魔を従えているというのに、戦力の消耗を避ける方法を取ったか。



(……いや、当然と言えば当然か)



 何しろ、奴らには時間の制限などない。

 急いでこちらを打破する必要がない以上、拙速な方法を取ってまで戦うような理由がないのだ。

 ゆっくり、堅実に行けばこちらを押し潰すことができる。そう判断しての行動だろう。

 理由はともあれ、あれはあれで厄介だ。昨日の足止めの時のように、大規模な防御スキルは足を止めなければならないようだが、この程度の防壁ではそのまま進むことが可能であるらしい。

 これでは、奴らを削ることができずに接近を許してしまうだろう。

 ――無論のこと、それを黙って見過ごすような軍曹ではないが。



「ランド、お前はこっちに合わせてくれ」

了解ヤー



 ハンドサインが示すのは、ツーマンセルの合図だ。

 だが、続いて示されたもう一つのハンドサインは、俺にも見覚えが無いもの。

 どうやら、ゲームをプレイしている間に考案した、新しいサインであるようだ。

 軍曹の示した通り、立ち並ぶスナイパーたちは二人一組の編成となり、再び敵の軍勢へと銃口を向ける。

 そして、並んで構える二人のうち、片方の銃が青い光を放ち始めた。



「――《スペルブレイク》」



 そして、隣に居たランドがスキルの発動を宣言すると同時、彼の持つスナイパーライフルも同様に青く光り始める。

 《蒐魂剣》の光に似ているとは思ったが、やはり魔法破壊スキルの光であったようだ。

 銃身へと収束していく光は限界まで高まり――青い軌跡を残す弾丸を解き放つ。

 そして間髪入れることなく、その弾丸の軌跡をなぞるかのように、軍曹のライフルからも弾丸が放たれた。

 ツーマンセルにて放たれたその弾丸は、狙い違えることなく悪魔の展開する障壁へと突き刺さり、まるでガラスに弾丸を撃ち込んだかのように亀裂と共に穴が開く。

 その亀裂を、軍曹の放った弾丸は精密に射抜き、奥にいる悪魔の頭蓋を粉砕してみせた。



「流石、腕は衰えていなさそうだな」

「当然だ。軍を退こうが、前線にいることに変わりはねぇよ」

「なら、俺に仕事が来ないぐらいに頑張ってくれよ」

「残念だが、お前の仕事はすぐに来るなぁ。準備しとけよ、シェラート」



 にやにやと笑う軍曹の言葉に、俺は嘆息しながら立ち上がる。

 この状況では、すぐに接近戦が始まるということではない。

 しばらくの間は射撃戦となる筈だ。であれば、俺がする仕事など大してある筈もない。

 だというのに、俺を使おうということは――まず間違いなく、面倒な仕事だろう。



「で、ご注文は?」

「お前さんは目立つから、しばらく的になっててくれ」

「くたばれ」



 中指を立てながら悪態を吐くが、その考えの有効性自体は認める。

 俺がこの場にいるという情報それ自体が、悪魔側を惑わすための武器となるのだから。

 とはいえ、攻撃が届かない俺が立っていたとしても、そこまでの脅威だとは認識されないだろう。

 そして、流石にこの状況で敵陣まで単騎掛けするのは難しい。

 ならば、果たしてどのように目立てというのか。



「まあ、お前さんの仕事があるのは射撃戦射程に入ってからだ。しばらくは待っとけよ」

「ったく……精々それまでに数を減らしておきやがれ」

「先生、いいんですか?」

「他にできることも無いからな、仕方ない。お前の方は存分に魔法をぶっ放しておけ」



 とりあえず、今は相手の攻撃の射程外。

 こちらの攻撃のみが届く状況であるため、遠慮なく数を削っていくべきだ。

 防御スキルを貫通する攻撃を受け、悪魔の軍勢の足が再び鈍る。

 だが、敵もさるものであり、先程よりも強力な防御スキルを展開しつつ、体勢を立て直しているようだ。



(あれは流石に《スペルブレイク》でも抜けないか)



 シリウスのブレスすらも防ぎ切るような障壁だ。

 魔法破壊スキルとはいえ、簡単には貫けないだろう。

 その防壁に護られている間に、悪魔たちは編成を変えていく。

 先ほどと同じく防御スキルを前面に出しての前進のようだが、今度は複数重ねて発動するつもりのようだ。

 それを観察して、軍曹は更に指示を飛ばし、こちらもまた編成を変えてゆく――



(どこまで対応できるんだかな)



 いくら軍曹といえども、狙撃の訓練を長時間に渡ってつけられたわけではないだろう。

 先ほどのツーマンセルの射撃でも、ある程度は失敗している様子が見て取れた。

 というより、一般のプレイヤーがあれを成功させている時点で驚くべき事態なのだ。

 防壁をさらに重ねられれば、その分だけ対応は難しくなるだろう。



「……仕事が来るのも、そう遠くはなさそうだ」



 スリーマンセルで射撃の準備を始める軍曹の部隊を眺めつつ、俺は小さく嘆息を零す。

 敵の数はまだまだ多い。本格的な戦闘が始まるまでに、果たしてどこまで削ることができるのか。

 あまり期待はせず、事の趨勢を見守ることとしよう。











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