059:ルミナの成長
『レベルが上昇しました。ステータスポイントを割り振ってください』
『《刀》のスキルレベルが上昇しました』
『《MP自動回復》のスキルレベルが上昇しました』
『《収奪の剣》のスキルレベルが上昇しました』
『《HP自動回復》のスキルレベルが上昇しました』
『《生命の剣》のスキルレベルが上昇しました』
『《生命力操作》のスキルレベルが上昇しました』
『テイムモンスター《ルミナ》のレベルが上昇しました』
「……疲れたんですけど」
「ふむ。今回ばかりは俺も同意だな。流石に、蟻と猿の混成はやりすぎだったか」
ぐったりと地面に座り込んだ緋真の言葉に、俺は苦笑交じりに頷いていた。
この戦いに付き合っていたルミナも、すっかり疲労困憊な様子で、大の字で転がっている。
経験値稼ぎにはかなりちょうど良かったのだが、流石に猿に乱入された時は全滅の危機を感じたものだ。
まあ、そのおかげでかなりハイペースで経験値を稼ぐことができただろう。
ルミナも既にレベルが上がっている。苦労はするが、やはり稼ぎ所としては優秀なようだ。
「何なんですかね、あの蟻たち……」
「うーむ。あっち側のエリアに近づくと襲い掛かってくるようだが」
山道から離れ、山の奥へと足を踏み入れたエリア。
あの蟻共は、あちら側に近づくと必ずその姿を現し、集団で襲い掛かってくるのだ。
その習性を考えるに、夜だけの出現ということではないだろう。
恐らくは、あのエリアに足を踏み入れることが条件であると考えられる。
「しかもあの名前ですよ、名前」
「ん? 名前がどうかしたのか?」
「ポーンって書いてあったじゃないですか。あれ、チェスの駒ですよね? ってことは――」
「ああ……成程、上位種がもっと存在しそうってことか」
上位種が存在すると仮定すると、ポーンということは、最も下位の存在ということか。
あの蟻共に対処できているのは、個体の強さがそれほどでもないためだ。
それが上位種になってしまったら、流石に手が足りなくなるだろう。
「ふむ……あのエリアの奥に蟻共の巣があり、そこにはもっと上位の蟻が存在するかもしれない、と」
「あり得なくはないと思いますよ。まあ、現状じゃ確かめようがないですけど」
「確かにな……ポーンを蹴散らしながら前に進めるようじゃなけりゃ、その奥までは行けんか」
緋真の言葉に頷きつつ、肩を竦めてそう返す。
今の状況では、ポーンを相手に退避しながら戦うしかない。とてもではないが、戦いながら前進することは不可能だ。
そこにさらに上位種が出てくる可能性があるとなれば、現状での攻略はまず不可能だろう。
「まあ、今は仕方あるまい。別に、そこを攻略することが目的というわけでもないしな」
「そうですね。それで先生、そろそろ――」
「あっ!」
緋真が問いかけようとしたその瞬間、起き上がったルミナが唐突に声を上げる。
弟子と揃って目を丸くしながらそちらを見れば、立ち上がったルミナが唐突に素振りを始めていた。
そして、その動きを目にして、俺たちは思わず息を飲む。
ルミナの剣閃は、体運びまで含めて明らかに上達――否、進化と言えるレベルで変貌していたのだ。
これまでも、レベルアップによって一気に成長を見せていたが、これは段違いだ。
「どうした、ルミナ。いきなり随分と上達したが」
「お父さま、スキルが使えるようになりました!」
「何、スキル?」
滑舌もはっきりしてきたルミナの言葉に、思わず首を傾げる。
だが、スキルと言うからには、恐らくルミナ本人のスキルのことだろう。
そう判断し、俺はルミナのステータス画面を確認していた。
■モンスター名:ルミナ
■性別:メス
■種族:スプライト
■レベル:10
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:18
VIT:12
INT:28
MND:19
AGI:17
DEX:15
■スキル
ウェポンスキル:《刀》
マジックスキル:《光魔法》
スキル:《光属性強化》
《飛翔》
《魔法抵抗:大》
《物理抵抗:小》
《MP自動大回復》
《風魔法》
称号スキル:《精霊王の眷属》
表示ついでにステータスを割り振り、改めてスキルを確認する。
見てみれば、変化は明らかだろう。これまでは所有していなかったウェポンスキルに、俺と同じ《刀》のスキルが発生している。
どうやら、レベル10に到達したことにより、新たなスキルを習得したようだ。
これまでは進化によって新たなスキルを習得していたが、どうやらレベルアップでも同様の事象が発生するらしい。
偶然このタイミングだったのか、それともレベル10という節目だからなのかは、判断が付かなかったが。
「確かに、《刀》のスキルを習得してるな。今のレベルアップで習得したのか」
「各構えからの斬撃もかなり上達してますね。それどころか、重心移動も一気に上手くなってますし……これがスキル習得の効果なんでしょうか?」
「俺は最初からできていたからな……スキル習得による差は感じなかったが」
「ですよね。まあでも、ルミナちゃんの底上げにはなったんじゃないですか?」
「ふむ……まあ、勝手に別の型を教え込まれるのは困るが、教えた分しかできていないようだし、問題はないか」
単純に熟練度が上がったということであれば、これまでのレベルアップと大差ない。
これまでのようなレベルアップによる成長と、スキル習得による成長。
それら二つが合わさったことによって、この大幅な躍進を遂げたのだろう。
何にせよ、これで久遠神通流としてはともかく、一剣士として戦えるぐらいの実力は手に入れただろう。
これならば、猿一匹ぐらいが相手ならば一人でも問題は無いと思われる。
「いい具合だな。よし、ルミナ。次からは、お前も一人で戦っていい。ただし、それはこちらがいいと言った相手だけだ」
「あ……は、はいっ!」
「緋真、こいつにあまり負担が行き過ぎない程度にはしておけよ。だが、お前が隣についている必要もない」
「分かってますよ。ちゃんと観察しつつ、加減して修行させますって」
まあ、正直甘い訓練ではあるのだが、それでも以前のように過保護な扱いをする必要は無いだろう。
元より一人で戦えるだけの技量を持たせるための修行を行っていたのだ。
既に、緋真の隣で戦闘を行わせ、接近戦における心得も叩き込んでいる。
今のルミナならば、一人でも十分立ち回ることができるだろう。
まずは、自分自身で戦うことの経験を積ませるべきだ。
「まあ、ともあれ――おめでとう、と言っておくか」
「え……?」
「そのスキルが出現したのは、間違いなくお前の努力の賜物だ」
《刀》というスキルが出現したのは、決して偶然ではないだろう。
ルミナがこれまで、真剣に剣術に打ち込んできたからこそ、このスキルを習得することができたのだろう。
こいつの努力と熱意は、間違いなく本物だった。
スプライトという種族の特性のおかげとは言え、あの熱意が無ければここまで来ることは不可能だっただろう。
「よく頑張ったな、ルミナ」
「あ……ありがとう、お父さま。本当に、ありがとう」
僅かに視線を伏せたルミナは、小太刀を鞘に納めて俺の傍へと近寄る。
小学校の中学年から高学年程度まで大きくなったルミナは、そのまま俺の服を掴んで額を腹へと寄せてくる。
その声は僅かに震え――けれど、強い信頼の念が込められていた。
「本当に……ありがとう、ございます。お父さま、感謝しています」
「……どうした? 随分と大げさだな、ルミナ」
「お父さまが、わたしを育ててくれたから……わたしのやりたいことを認めてくれたから、ここまで成長できました」
その言葉に、俺は僅かに目を見開き、そして苦笑を零す。
確かに、始まりはルミナの我がままであっただろう。
あの小さな妖精が、剣を振るうなど正気の沙汰ではない。普通ならば、却下してそれで終わる場面であったはずだ。
けれど、俺はその在り方を許容した。真剣に夢を見て、その未来を願った――その姿は、俺にとって好ましいものであったが故に。
「お前が、覚悟を持って選んだ道だ。俺はただ、認めることしかしていない。お前が自分の手で掴み取った力なんだ、胸を張って誇っていろ」
「ん……分かりました、お父さま」
顔を上げたルミナは、嬉しそうににこりと笑う。
そんな見た目相応の姿に苦笑しつつ、俺は緋真の方へと向き直る。
「さて、今日はここまでにしておくか」
「あれ、いいんですか? もう1セットとか言い出すかと思ったんですけど」
「ここの連中は相手をするのに時間がかかるからな。それに、多少は稽古もしてやった方がいいだろう?」
「あー、まあ、それもそうですね」
ここまで成長してきてはいるが、まだルミナの成長の機会は残されているだろう。
であれば、訓練の機会を見逃すのは勿体ない。
先ほどのレベルアップの効果も見ておきたいし、稽古をつけてやるのも有用だろう。
「よし、さっさと関所の所まで戻るぞ。道を塞ぐのはいかんだろうが、関所の傍で野営するぐらいならば問題ないだろう」
「人もいませんでしたしね。あそこは敵も寄ってこないみたいですし、テント張るにはちょうどいいですよ」
「だな。あそこで稽古つけてやれ」
先ほどまで後退しながら戦っていたおかげで、関所自体はすぐ傍だ。
夜になってしまっているせいでその姿は見えないが、少し歩いただけで到着できるだろう。
傍にいるルミナの頭をぐりぐりと撫で、俺は二人と共に関所へと足を進めていた。
光源はルミナの出している光の魔法だけであるが、山道ならば十分に視界を確保できる。
そんな光に照らされた山間には、数分の内に建造物の影が見え始めていた。
「先生、今日は何を教えますか?」
「とりあえず流水の確認をしろ。そうしたら歩法だな。とりあえず烈震、それからどうせだから穿牙も教えておけ」
「そうですね、あれは結構使い易いですし。けど、流石に難易度が高いですよ」
「容易く覚えられたらこっちの立つ瀬が無いからな。まあ、しばらくは練習になるだろう」
攻撃手段としては、俺もよく使う烈震と穿牙だ。
距離を詰めながら攻撃する手段としてはかなりの速度と攻撃力を持っており、かなり優秀な攻撃だ。
まあ、体重を攻撃力に利用するような攻撃であるため、今のルミナではそれほど威力は出ないだろうが。
だがあれは、重心制御が非常に重要となる。そうそう簡単にはいかないだろう。
「まあ、何はともあれ、まずは流水の確認だ。あれをある程度習得すれば、重心制御も上達するからな。烈震と穿牙はそれからだ」
「そうですね。そっち無しに烈震は無理ですし」
あれは、倒れるほどの前傾姿勢を取る歩法だ。
重心を制御できなければその場で倒れるか、或いは停止に失敗して盛大に転倒するかのどちらかとなるだろう。
重心の制御を向上させるのには非常に有効な修行なのだが、生傷が絶えないとも言える。
そのため、子供たち相手にはもう少し斬法と打法を教えることになるのだが――優秀な学習能力を持つルミナには、これを覚えさせて重心制御を向上させたいのである。
緋真と合意しつつ関所まで戻り、俺たちはようやく野営の準備を始めていた。
「じゃあ、テントはこっちで張っておくから、お前はルミナに稽古をつけてやれ」
「了解です。ルミナちゃん、流水の練習だよー」
「はい、緋真姉さま!」
門の前辺りで木刀を向け合う二人の様子を横目に見ながら、アイテムであるテントを張り始める。
これは、フィールド上でログアウトする際に使用するアイテムだ。
ただし、これだけではログアウト中に魔物に攻撃を受け、テントが破壊される可能性がある。
それを防ぐのが、魔物避けの香と呼ばれるアイテムだ。
まあ要するに、これらが両方揃っていないとフィールド上でログアウトすることは不可能だということだ。
「あの時はテントなんて上等なものは無かったがな……」
クソジジイに山に置き去りにされた二度の経験を脳裏に浮かべながら、二つのテントの設営を終える。
魔物避けの香は一つでそれなりの範囲をカバーできるらしいため、とりあえず消費は一つで問題ない。
ルミナの様子は――かなり上達しているが、あと少しと言った所か。
今日は烈震の稽古には移らず、流水の完成度を上げることに集中すべきだろう。
ログアウトの時間までひたすら稽古に励む様子を、俺はぼんやりと眺めていた。
■アバター名:クオン
■性別:男
■種族:人間族
■レベル:22
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:22
VIT:16
INT:22
MND:16
AGI:13
DEX:13
■スキル
ウェポンスキル:《刀:Lv.22》
マジックスキル:《強化魔法:Lv.14》
セットスキル:《死点撃ち:Lv.15》
《MP自動回復:Lv.11》
《収奪の剣:Lv.13》
《識別:Lv.14》
《生命の剣:Lv.14》
《斬魔の剣:Lv.5》
《テイム:Lv.9》
《HP自動回復:Lv.8》
《生命力操作:Lv.2》
サブスキル:《採掘:Lv.1》
称号スキル:《妖精の祝福》
■現在SP:20
■アバター名:緋真
■性別:女
■種族:人間族
■レベル:23
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:23
VIT:15
INT:20
MND:17
AGI:15
DEX:14
■スキル
ウェポンスキル:《刀:Lv.23》
マジックスキル:《火魔法:Lv.18》
セットスキル:《闘気:Lv.16》
《スペルチャージ:Lv.13》
《火属性強化:Lv.14》
《回復適正:Lv.8》
《識別:Lv.13》
《死点撃ち:Lv.12》
《格闘:Lv.14》
《戦闘技能:Lv.14》
《走破:Lv.14》
サブスキル:《採取:Lv.7》
《採掘:Lv.4》
称号スキル:《緋の剣姫》
■現在SP:24
■モンスター名:ルミナ
■性別:メス
■種族:スプライト
■レベル:10
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:18
VIT:12
INT:28
MND:19
AGI:17
DEX:15
■スキル
ウェポンスキル:《刀》
マジックスキル:《光魔法》
スキル:《光属性強化》
《飛翔》
《魔法抵抗:大》
《物理抵抗:小》
《MP自動大回復》
《風魔法》
称号スキル:《精霊王の眷属》





