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579:足止めと空中戦











「セイラン、思うように飛び回れ。俺がお前に合わせてやる」

「ケェエッ!」



 俺の言葉に、セイランは力強く頷いて翼を羽ばたかせる。

 それを確認すると共に、俺は手綱を左腕に巻きつけつつ、餓狼丸を両手で掴んだ。

 《纏嵐》を発動したセイランのスピードは凄まじい。鞍にも固定具は付いているが、それでも体を支えきれないほどだ。

 だが、それではまともに刀を振るうことなどできはしない。故に、苦肉の策ではあるが、こうして無理矢理体を固定しているのである。



(無茶は無茶だが、何とかするしかあるまい……!)



 我ながら無茶苦茶な姿には苦笑しつつ、セイランの加速に体を合わせる。

 まるで重力を無視したかのような早さで飛び出したセイランは、そのまま最も近い場所にいた悪魔へと突撃を敢行した。

 戦闘機の如く飛翔するセイランのスピードは、悪魔は勿論飛行する魔物たちですら追い付くことはできない。

 擦れ違い様に腕を振るったセイランは、飛んできた悪魔をその鋭い爪で引き裂いて行った。



「《ワイドレンジ》、《奪命剣》――【咆風呪】!」



 それとほぼ同時に、俺は悪魔の数が多い方向へと向けて【咆風呪】を放つ。

 《ワイドレンジ》を併用して放ったそれは、通常よりも広い範囲で効果を発揮する一撃となっているのだ。

 餓狼丸の解放こそしていないが、強化を施している時点で威力は十分。

 体力の低いデーモンや一部の魔物は、それだけで力尽きて地面に墜落していくほどだ。



「成程……確かに、使い勝手はいいな」



 《ワイドレンジ》は発動にMPを消費するが、その量は大したものではない。自動回復で容易に補充しきれる程度のものだ。

 一方で、効果は分かりやすく、攻撃範囲が拡大している。

 レベルが低いためそこまでの拡大にはなっていないのだが、広がりながら効果を発揮する【咆風呪】は、少し範囲が広がるだけでも十分な意味を持つのだ。

 拡散する形状の攻撃であるため、範囲が1メートル伸びるだけでも効果面積は大きく広がることになるのだから。



(まあ、【命輝一陣】は単純に射程が伸びるだけだろうからな)



 それはそれで、今まで攻撃が届かなかったところまで届くことになる。

 それだけでも十分に有用な効果であると言えるだろう。

 単純であるため使い勝手もいいし、これはランドに感謝しておくべきだ。

 と――内心でそんなことを考えていたちょうどその時、視界の端で眩い光が煌めいた。

 ルミナが、広範囲に降り注ぐように魔法を発動したのだ。



「セイラン!」

「クェエッ!」



 俺の言葉に従い、セイランは回避行動を取る。

 そして次の瞬間、上空へと撃ちあがった光は幾条もの光の束へと変貌し、地上へと向けて雨のように降り注ぎ始めた。

 より広い範囲に効果を及ぼすための魔法は、しかし余すことなく悪魔の軍勢へと向かって降り注ぐ。

 奴らの数が多すぎるが故に、当然と言えばその通りであるのだが。

 しかし――



「……やはり防ぐか」



 悪魔の軍勢は、降り注ぐルミナの魔法を再びスキルで防いで見せた。

 先ほどのシリウスのブレスよりも攻撃範囲は広かったのだが、奴らも見事にそれに対応し、複数の防壁を張ることによって全ての範囲をカバーすることに成功したのである。

 尤も、防げたのは地上だけで、空を飛んでいる悪魔の中には巻き込まれたものもいたようだが。

 だが、全体からすれば微々たるもの、奴らにダメージを与えたとは口が裂けても言えないだろう。

 あれだけの範囲に効果を広げても、有効なダメージを与えるには至らない。

 足を止めさせることには成功しているが、それもいつまで持つか分かったものではないのだ。



「だが、やれることをやるしかないか」



 小さく嘆息して、再び飛行する悪魔の迎撃に戻る。

 こいつらが緋真たちのところまで辿り着いてしまっては、地上を攻撃するための手が足りなくなってしまう。

 奴らの足を止められるのは、広範囲に対する攻撃手段を持つ緋真たちだけなのだ。

 攻撃範囲が狭い俺やアリス、そしてセイランは、直接的には役に立てないのである。

 まあセイランはやろうと思えばできるのだが、セイランまで攻撃に回ると迎撃ができなくなってしまうからな。



(あとの手は二つ。まずは――)



 緋真たちの方へと飛ぼうとしていた魔物を【命輝一陣】で撃ち落しつつ、視線を僅かに上方へと向ける。

 その先にいるのは、己の尾に魔力を溜め込んでいるシリウスだ。

 限界近くまで魔力をチャージされた尻尾の刃は、眩く銀色に輝いている。

 シリウスの持つ最大のスキルである《魔剣化》――その一撃を、シリウスは容赦なく解き放った。

 悪魔たちはまだ防御のスキルを発動したままであったが、そんなものは関係ないとばかりに振り抜かれたその一撃。

 空間をも歪ませる魔剣の一閃は、悪魔たちが展開する防壁へと突き刺さり――



「――――っ!」



 まるで、アスファルトを砕く工具が立てるような音と共に、奴らの防壁が爆ぜ割れた。

 防御無視の効果を持つ《魔剣化》であるが、防御無視は相手の防御力をゼロとして換算する効果であり、防御魔法やスキルを無視するわけではない。

 だが、今のシリウスの一撃は、その防壁を強引に突破してしまったのだ。

 威力は大幅に減衰した様子であるが、それでも突き抜けた一閃は多くの悪魔を真っ二つにして見せたのである。



「……失敗したな」



 だが、それを見た俺は失策を悟った。

 地上の悪魔たちがダメージを受けたその瞬間、奴らの魔力が急激に高まったのだ。

 それと共にこちらへと飛来したのは、長射程を持つ魔法による攻撃だった。



「セイラン、回避に専念! 緋真たちは距離を取れ!」



 左腕に巻き付けた手綱をしっかりと握り、セイランの体に伏せるように身を屈める。

 それと共に、セイランは再び加速して向けられた攻撃を回避し始めた。

 地対空攻撃――どうやら、奴らはこの高さに対しても攻撃能力を有しているようだ。

 流石に地上で戦う時ほどの火力にはならないのだろうが、これだけの数がある時点で厄介であると言わざるを得ない。

 地上から弾幕のように放たれる無数の魔法を高速で回避しながら、俺は改めて地上の状況を確認した。



(これまで防御に専念していたのは、こちらを脅威であると認識していなかったからか。だが、防御スキルすら貫通できるシリウスの存在を知り、無視しきれなくなった)



 やはり、奴らも戦力を消耗したくはないらしい。

 こうなると、反撃に対しての対処をしなければならないため厄介だ。

 多少なりとも消耗はさせられるかもしれないが、その分こちらも対処に手間取ることになってしまう。

 単純な時間稼ぎだけを考えるならば、《魔剣化》は使うべきではなかったのだ。



「チッ……結果論だ、どうしようもない」



 いずれにしても《魔剣化》は使っていただろうし、どうしたところでこの状況にはなっていただろう。そう結論付けて、改めて対策を練る。

 こちらが行いたいことは足止めであり、奴らの撃破ではない。

 この地対空攻撃が続いている状況では、奴らは足を止めているためとりあえずの目標は達成できていることになる。

 まあ、対処のためにこちらも消耗を強いられるため、決して効率は良くないのだが。

 それならば――



「お前たち、高度を上げろ!」

「お父様、でもそれだと攻撃が届きません!」

「構わん、一旦距離を取れ! 奴らの攻撃範囲外まで出ろ!」



 本末転倒な結果ではあるが、この攻撃の中に居続けるのは流石に拙い。

 今は一度離脱し、状況をリセットする必要があるだろう。

 しかしながら、また射程内に戻ってくれば奴らは反応してくる。

 シリウスがいるかどうかで反応が変わる可能性もあるが、それは実際にやってみなければ分からないだろう。

 ともあれ――まずは、一度仕切り直しだ。



(面倒だが、上手く使えば効率的に足止めができるかもしれない)



 セイランと共に迎撃の悪魔たちを退けながら、少しずつ高度を上げる。

 アルトリウスたちが足止めの準備をするまで、何とか時間稼ぎを行うとしよう。











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