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Magica Technica ~剣鬼羅刹のVRMMO戦刀録~  作者: Allen
HW ~Hello World~

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58/956

058:闇夜の襲撃












 夜の森の中、無数の気配が近づいてくる。

 黒く、地を這う無数の生物――ルミナの発生させた光源に照らされたその姿は、見覚えのある昆虫だった。

 ただし、一匹一匹が、1メートルほどの大きさを持っていたが。



■レギオンアント・ポーン

 種別:魔物

 レベル:20

 状態:アクティブ

 属性:土

 戦闘位置:地上・地中



 その名の通り、蟻である。

 黒く、硬そうな甲殻に身を包んだその虫は、数えきれないほどの物量を以てこちらに殺到してきていた。

 闇の向こう側から黒い虫の群れが迫ってくるのは、中々に背筋が寒くなる光景である。



「うひぃ!? ぞわっと来た、ぞわっと来ましたよ先生!」

「まあ、分からんでもないな……これは俺も流石に引く」



 これほどの数が集まってくるのは、現実のサイズの虫でも中々に悍ましい光景だろう。

 それが、更に最大で1メートルほどの大きさになっているのだ。

 虫嫌いの人間にとっては、悪夢としか呼べない光景だろう。

 我ながら少々珍しい動揺を感じている内に、一匹の蟻がこちらへと向かって突撃してくる。

 カチカチと顎を鳴らし、その顎で噛みつこうと向かってきた蟻へ、俺は即座に太刀の刃を振り下ろしていた。



「ギ――!」



 頭部へ振り下ろした切っ先は、硬い感触と共にその頭を真っ二つに叩き割る。

 どうやら、その一撃でHPは尽きたらしく、ごろりと転がって屍を晒していたが――その程度では、まるで数が減っている気配はない。

 明りで見えている範囲だけでも、山のように群がっているのだ。

 果たして、あの先にどれほどの数がいるのか――俺は、思わず顔を顰めていた。



「チッ……拙いな、こいつは」



 一匹倒されても、まるで怯んだ様子が無い。

 と言うより、仲間を殺されても何も感じていないようだ。

 昆虫らしいというか何というか……こういう、感情らしい感情が無い相手は少々苦手だ。

 何しろ、殺気らしい殺気が無い。こいつらは、ただ機械的にこちらを狙ってくるばかりだ。

 蜂の方はまだ、その針の切っ先に攻撃の意志が集っていたように感じたのだが、こいつらはただひたすら群がってこようとしているだけのようである。

 こいつら相手には、本気で威嚇してもそれほど効果は無いだろう。



「お前たち、下がるぞ!」

「えっ!?」

「先生、逃げるんですか? 珍しい……」

「阿呆、退きながら戦うんだ。こいつらに囲まれたら終わりだぞ!」



 視界の悪い夜の森の中、黒い体色をした虫の群れが群がってくるのだ。

 いつの間にか周囲を囲まれてしまっていたとしても不思議ではない。

 圧倒的に数で負けているこの状況下、せめて包囲されることだけは避けたいのだ。

 一匹一匹が弱くとも、この数に群がられれば死は免れまい。

 であれば、距離を取りながら少しずつ片付けていくのが得策だろう。



「緋真、壁だ!」

「分かってますよ――《スペルチャージ》、【フレイムウォール】!」



 後方へと向けて走り出しながら、緋真が魔法で炎の壁を発生させる。

 森の中を赤く照らし出した炎の壁は、しかし木々を燃やすことなく、その奥から殺到しようとする蟻のみを的確に燃やしていた。

 だが、それでもなお、蟻たちの歩みが止まることはない。

 体を燃やされながらも、連中はこちらへと向けての殺到を続けていた。



「チッ……俺が殿だ。お前たちは左右から来る敵に対処しろ。ルミナ、お前は魔法を使え」

「え、でも……!」

「阿呆、あのサイズの敵には慣れていないだろう。無茶をせずに魔法で対処しろ!」



 ルミナはそれなりに修練を繰り返してきはしたが、それでも実戦に耐えるレベルというわけではない。

 緋真の隣で戦うことはできるだろうが、一人で戦わせるにはまだまだ不安が残るレベルだ。

 だが、魔法使いとしてのルミナは十二分に優秀である。

 飛行能力も相まって、あの程度の蟻の群れに後れを取ることは無いだろう。

 ルミナの腰を叩き、先行させる。ふわりと浮かび上がったルミナは、若干躊躇いつつも己の周囲に光の玉を発生させていた。

 さて、飛んでいるならルミナはあまり心配はない。むしろ――



「こっちの方が危険、か!」



 問題は、俺の方だ。

 《強化魔法》を発動しながら、殺到してくる蟻の群れを斬り払う。

 まあ、殿を引き受けた以上仕方ないことではあるが、俺にかかる負担が一番多い。

 尤も、火の壁を潜り抜けてダメージを受けているため、倒すことはそれほど難しくはないのだが。



「先生、大丈夫ですか!?」

「気にするな、お前は自分の心配をしておけ!」



 回り込もうとしてきた蟻を斬り払いながら叫ぶ緋真に、そう声を上げる。

 緋真の方も、それほど問題は無いだろう。

 横手であるため、蟻共の数は少ない。緋真の腕ならば対応は難しくはないはずだ。

 後は――



「苦手な相手だが――く、はは! これはこれで面白いな!」



 殺気が無い相手はどうもやり辛い。相手の攻撃を察知しづらいからだ。

 とは言え、この蟻共の攻撃は接近して噛みついてくる程度しか攻撃手段がない。

 脅威と呼べるものは、この数程度だろう。まあ、それが最大の問題であるわけだが。

 炎の壁もそろそろ消えるだろう。ダメージを受けている蟻共は簡単に蹴散らせるが、無傷の相手にはそうはいかない。

 さて、どうしたものか――



(あの蜘蛛と言い、こんなでかい虫との戦闘経験なんざねぇからなぁ)



 それでも、蜘蛛の方は確かな戦意があったため、対処はし易かったのだが。

 この、冷たい機械のような蟻共はやり辛い。

 群がってくる蟻を踏みつぶし、足の関節を太刀で斬り払いながら、俺は滑るように後退していく。

 足を止めれば、たちまち多くの蟻を相手せねばならなくなるだろう。

 ある程度ならばいいが、流石に全方位囲まれると手が足りない。



「先生、どっちに逃げます!?」

「山道だ。視界が広い方がいい」



 この暗い中で木々にぶつかるのは勘弁してほしいところだ。

 炎の壁も消え、殺到してくる蟻の数は増えている。太刀で薙ぎ払い、怯んだ蟻を後続の蟻が踏み越え、飲み込んでゆく。

 そのまま殺到してくる蟻たちへと、俺は足を振り降ろしていた。


 打法――槌脚。


 直撃を受けた蟻が砕け散り、迸った衝撃が、周りにいた蟻共を吹き飛ばす。

 すり鉢状に陥没した地面には、ぽっかりと穴が開いたように蟻の姿が消え去っていた。

 軽いおかげか、吹き飛ばすことはそれほど難しくはないようだ。

 納得して頷き――その刹那、背筋が粟立つ感覚に視線を上げていた。

 同時、頭上の枝の上から落ちてきたのは、二匹の蟻の姿。



「チッ……!」



 降ってきた蟻の一匹を左手の篭手で打ち払い――もう一匹には対処しきれず、蟻は俺の肩口へと噛みついていた。

 鋭い痛みに顔を顰めつつ、俺は左手でその首から下をへし折り千切り取っていた。

 どうも、まともなダメージを受けたのは久しぶりな気がする。

 痛みと、同時に感じる怒りの熱に、しかし思考は冷たく研ぎ澄まされる。



「先生っ!」

「魔法だ、撃て!」

「っ……《スペルチャージ》、【ファイアボール】!」

「ん……ッ!」



 緋真の放った炎が爆ぜ、同時に更に広い範囲で閃光が炸裂する。その衝撃によって、蟻共はまとめて吹き飛ばされていた。

 範囲攻撃は、やはりあると便利だな。まあ、今は使えるスキルも無いし、仕方が無いのだが。

 蟻共が吹き飛ぶのと同時に、俺たちは木々の間から抜けて山道へと躍り出る。



「関所の方へ向かえ。少しずつ削っていくぞ」

「分かりましたけど、大丈夫ですか?」

「大したもんじゃない、行くぞ」



 手傷を負ったのは久しぶりであるが、かすり傷程度だ。

 この程度ならば、動くことに支障はない。むしろ、痛みで意識が尖鋭化している。

 尤も、大したダメージ量ではないため、《収奪の剣》を使えばさっさと治るだろう。

 やはり、一体の攻撃によるダメージは大したことは無いようだ。俺のHPは1割も減ってはいない。

 まあ、あの数で噛みつかれればそんなことも言っていられないだろうが。



「俺が向こうの動きを制限する。その間に魔法を叩き込んでおけ」

「了解です。でも、気を付けてくださいよ?」

「馬鹿弟子、誰に言ってる」



 視界が広がったおかげで、近寄ってくる蟻共の気配も掴みやすくなった。

 少なくとも、この場ならば頭上からの奇襲はあり得ない。

 であれば、対処することはそう難しくはないだろう。

 襲い掛かってくる蟻を脛当てで蹴り飛ばし、太刀の刃で薙ぎ払って足を斬り飛ばす。

 俺がトドメを刺す必要はない。動けなくさえすれば、後は――



「【ファイアボール】!」

「きえてっ!」



 爆炎と閃光が、山を閉ざす暗闇を斬り裂く。

 その光の中に吹き飛んでゆく影はかなりの数だ。やはり、あの数を相手にするならばこれが最も効率が良いだろう。

 後退しながら接近してくる敵を蹴散らし、その間に二人が放った魔法で消し飛ばす。

 姿さえ捉えられているのであれば、それほど問題はない。俺だけでは全滅させることは難しいが、時間を稼ぐ程度ならば十分だ。



「いいぞ、その調子だ!」



 吹き飛ばされたことで数を減らしたが、それでも残った蟻たちはこちらへと向かってくる。

 相変わらず機械的な反応だ。働き蟻には、高度な思考力を持たせる必要も無いということか。

 正直、殺気で相手の攻撃を察知しづらいのは面倒だが、視界が確保できている状況ならば対応は難しくはない。

 数も減ってきているし、後は――



「そろそろ、叩き潰すとするか」

「関所まではまだありますよ?」

「そこまで行かなければならん理由も無いだろう。そら、さっさと潰すぞ」



 山道に姿を晒した蟻たちの数は、既に数えられる程度には減ってきている。

 未だに多いことは多いが、それでも最初に比べれば雲泥の差だろう。

 この程度の数ならば、片付けることも難しくはないだろう。

 相も変わらず接近してくるだけの蟻共を斬り裂き、蹴り飛ばし、踏み潰す。

 攻撃してくるのが足だけであるため、流水での反撃はできないが回避することは不可能ではない。



「――《収奪の剣》」



 ついでに、減ったHPを回復しておく。

 肩の傷が癒え、痛みも消え去るが、それでも尖鋭化した意識だけは維持し続ける。

 踏み込みと共に踏み潰し、脇構えに構えた刃を振るう。


 斬法――剛の型、鐘楼。


 振り上げた刃で蟻の顎を斬り飛ばし、そのHPを消し飛ばしながら吹き飛ばす。

 そしてその先の蟻には目もくれず、次なる標的へと刃を振り下ろしていた。


 斬法――剛の型、鐘楼・失墜。


 胴から真っ二つになった蟻を尻目に、次なる標的を踏みつぶす。

 そうこうしている間にも、緋真は炎を纏う刀で焼き斬り、ルミナは上空から光の矢を放って射抜き続ける。

 そして、再び詠唱が完了した二人の範囲魔法が炸裂し――蟻の群れは、ようやく全滅していた。



『レベルが上昇しました。ステータスポイントを割り振ってください』

『《刀》のスキルレベルが上昇しました』

『《識別》のスキルレベルが上昇しました』

『《テイム》のスキルレベルが上昇しました』

『テイムモンスター《ルミナ》のレベルが上昇しました』






















■アバター名:クオン

■性別:男

■種族:人間族ヒューマン

■レベル:21

■ステータス(残りステータスポイント:0)

STR:21

VIT:16

INT:21

MND:16

AGI:13

DEX:13

■スキル

ウェポンスキル:《刀:Lv.21》

マジックスキル:《強化魔法:Lv.14》

セットスキル:《死点撃ち:Lv.15》

 《MP自動回復:Lv.10》

 《収奪の剣:Lv.12》

 《識別:Lv.14》

 《生命の剣:Lv.13》

 《斬魔の剣:Lv.5》

 《テイム:Lv.9》

 《HP自動回復:Lv.7》

 《生命力操作:Lv.1》

サブスキル:《採掘:Lv.1》

称号スキル:《妖精の祝福》

■現在SP:18






■アバター名:緋真

■性別:女

■種族:人間族ヒューマン

■レベル:23

■ステータス(残りステータスポイント:0)

STR:23

VIT:15

INT:20

MND:17

AGI:15

DEX:14

■スキル

ウェポンスキル:《刀:Lv.23》

マジックスキル:《火魔法:Lv.18》

セットスキル:《闘気:Lv.16》

 《スペルチャージ:Lv.12》

 《火属性強化:Lv.14》

 《回復適正:Lv.8》

 《識別:Lv.13》

 《死点撃ち:Lv.12》

 《格闘:Lv.14》

 《戦闘技能:Lv.14》

 《走破:Lv.13》

サブスキル:《採取:Lv.7》

 《採掘:Lv.4》

称号スキル:《緋の剣姫》

■現在SP:24






■モンスター名:ルミナ

■性別:メス

■種族:スプライト

■レベル:9

■ステータス(残りステータスポイント:0)

STR:17

VIT:12

INT:28

MND:19

AGI:16

DEX:15

■スキル

ウェポンスキル:なし

マジックスキル:《光魔法》

スキル:《光属性強化》

 《飛翔》

 《魔法抵抗:大》

 《物理抵抗:小》

 《MP自動大回復》

 《風魔法》

称号スキル:《精霊王の眷属》

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マギカテクニカ書籍版第12巻、7/18(金)発売です!
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― 新着の感想 ―
これは剣の修練とは別に、この世界で生きていくために範囲攻撃や攻撃魔法が必要かな? 緋真やルミナを頼れない場面があるかもしれないし。
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