574:間近で見た迫撃砲
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軍曹たちが集まっているのは、幾度となく脅威に晒されることとなった件の迫撃砲の下だった。
アリスが撮ってきたスクリーンショットでは確認していたが、実際に目にするのはこれが初めてである。
平屋建ての建物の屋根ぐらいまでは届いているそれは、俺の知る迫撃砲とは随分と異なる代物だ。
まあ、この世界で俺たちの知るものを製造できるものではないだろうし、全く別物になるのも仕方のない話であろうが。
と、そこが気になる状況ではあるのだが――
「……おいクソビッチ、お前また何かやったのか?」
「失礼ねぇ、今はそんなことをしてる暇はないわよぉ」
「分かっちゃいたが、暇があったらやるんだな」
今更言うまでもない話だが、こいつは放っておくと本当に碌なことをしないな。
しかし、本人が言う通り、今はそのような時間の余裕は無い。さっさと準備をして、敵の襲来に備えなくてはならないのだ。
「アンヘル、分かっちゃいると思うが――」
「……分かってます。今は邪魔しないわ」
「緊急時なんでな。そこは頼む」
この確執の原因が、ランドたちがいつまでも煮え切らない態度であったことであると考えると、何とも馬鹿馬鹿しい気分になってくるが――やってしまったものは仕方ないし、ファムが反省するはずも無いから改善もしないだろう。
アンヘルもプロであるし、この状況で仕事の邪魔をするような真似はしない。
むしろ、こうして睨みを利かせてくれていた方が、ファムが無駄口を叩くことも少なくなるため仕事もやり易くなるだろう。
「で、実際に見てみた感想はどうだ?」
「最低限ってところだな。何度か試射しておけば運用は可能だが……」
「生憎と、砲弾の数が足りん。ある程度置かれてはいるが、一日撃ち続けたら枯渇するな」
ランドと軍曹の言葉に、眉根を寄せる。
エレノアたちによって、砲弾の仕組み自体は解析されている。
しかし、それをこちらで生産できるかと問われれば、それは否だ。
現状では、この砲弾を作るための材料が足りていないのである。
「砲自体は作れるだろう。こいつそのものはそこまで難しい仕組みじゃない」
「問題は砲弾だけか。時間をかければ何とかなるだろうが――」
「そうだな。今回の戦いには間に合いそうにねぇ」
そう告げる軍曹の表情は苦いものだ。
迫撃砲が強力で恐ろしい兵器であると知っているからこそ、この後の作戦に活用したかったのだろう。
俺としても、多数の敵を相手にするにはこの兵器を利用した方がいいと考えている。
しかしながら、どうしたところでその力を十全に発揮することは難しいだろう。
「とりあえず、コイツを使っていいかどうかは団長殿に確認しておくさ。何台かあるんだから、多少は使っても良さそうだろ?」
「アルトリウスが許可するなら問題は無いと思うが……まあいい、その辺りのことは『キャメロット』に任せておくさ」
「そうそう、あの王子様に伝えておいてよねぇ。絶対に半数は使うから」
「おいおい、確かめきれてもいない兵器をそんなに投入しろってのかよ?」
「ジャパニーズのことわざにあるでしょう? 『背に腹は代えられない』ってやつよ」
確かに、効率的に運用できるのであれば強力な支援になるだろうが、使うべきかの判断は難しい。
アルトリウスがどちらの判断を下すにせよ、あまり過度な期待はしないでおくようにしよう。
「ファム、この後はどうするつもりだ?」
「ん? うーん……シェラートはとりあえず北側で待機していればいいんじゃないかしらぁ?」
「おい、俺だけ適当だな」
「だって貴方もマスターも、こちらが想像もしてないようなことをしでかすんだもの。大雑把な指示だけ出して放っておくほうが効率的でしょぉ?」
何とも適当なファムの言葉であるが、何故かランドとアンヘルも頷いている。
そちらへと半眼を向ければ、この夫婦は揃って顔を背けた。
「きちんと作戦指示には従っていただろうが」
「自分たちが優勢なうちはでしょぉ? 不利な状況になったらすぐ勝手に動き始めるんだから」
「おかげで助かった場面も多いがなぁ。具体的に言っておくより、最初から臨機応変に動かした方が効率的なんだわ」
「貴方も人のことは言えないけどねぇ、軍曹?」
まあ、俺やジジイが独断専行できたのは、軍曹の下で動いていたからこそというのも間違いないが。
ファムの言う通り、軍曹もかなり勝手に動くタイプの人間であったため、似た者同士であると言われても否定はできないだろう。
ともあれ、俺は北側で自由に動け、ということらしい。
「なら、基本的には接近してきた敵を迎撃しておく。まだ敵に動きは無いんだろう?」
「今のところはねぇ。でも、近いうちに必ず来るわよぉ」
「で、俺はお前さんたちの仕込みが終わるまで外で時間を稼いでおけと」
「そういうことねぇ」
何とも雑な指示ではあるが、やることは単純であるため頷いておく。
要は、近付いてきた敵を迎撃するだけでいいのだから。
そのように動く場合、俺たちは上空から動き、発見した敵を強襲するようなスタイルの方がいいだろうか。
索敵も速くなるし、離脱も簡単だ。まあ、俺やアリスが少し戦いづらいというデメリットはあるが。
「っと……そうだった。ランド、お前はスキルに詳しいか?」
「スキル? そりゃ調べちゃいるが、このゲームをプレイしている期間はそっちの方が長いだろ」
「無駄ですよ、ランド。直感で生きているシェラートがその辺りを調べている筈がないじゃないですか」
「否定はしないが、お前にだけは言われたくないぞ、アンヘル」
どうせこいつも、スキルの取得方針についてはランドに任せているだろうに。
尤も、ランドとしても、好き勝手に取られるよりはその方が楽なのだろうとは思うが。
「テクニックの射程を伸ばせるようなスキルを知らないか?」
「テクニックの射程? 射撃系なら《ロングレンジ》とかだろうが……シェラートのは近接攻撃、しかも斬撃だろう?」
「そうだな。分かっちゃいると思うが、テクニックを伸ばしたいのであって通常攻撃じゃない」
「それは通常攻撃っていうか、そういうアクティブスキルになるだろうからな……魔力で刀身を伸ばすとか、そういう系」
期待していた通り、ランドはかなり色々なスキルを調べているようだ。
様々な武器を扱う《マルチウェポン》を使っているわけだし、武器のシナジーを考えるにもそういった調査は必要だったのだろう。
尤も、射程という観点で調べているかどうかは分からないが。
何しろ、こいつは弓も銃も使えるため、射程不足に悩むようなことはないからな。
「まず射程というか、全体性能を上げた結果射程も伸びるのと言えば、《オーバーチャージ》だろうな」
「どういうスキルなんだ?」
「《スペルチャージ》っていうスキルがあるだろう。MPを多く消費して魔法の性能を上げるやつ。あれのスキル版だな」
そのスキルについてはよく知っている。緋真が普段から使っている《オーバースペル》の初期スキルだ。
確かに、《オーバースペル》を使って【ボルケーノ】の性能を確認した時、魔法攻撃の範囲が広がっていた。
あれと同じ仕組みであるというならば、確かに攻撃の射程も伸びることだろう。
「《スペルチャージ》については知っているだろうが、要はコストを多く支払って一撃を強化するスキルだ。それだけのコストを払えるなら悪くないスキルだと思う」
「成程な……しかし、コストか」
俺の場合、回復そのものはいいのだが、その場で消費する量については限度がある。
《練命剣》で消費するHPは当然、使いすぎれば命に係わる要素だ。
また《奪命剣》や《蒐魂剣》で消費するMPは、直接命にかかわることはないのだが、【武具神霊召喚】のせいで余裕がほぼ無い状態である。
より多くコストを払うことになると、配分に苦労することになるだろう。
「逆に、射程だけを伸ばせるスキルは《ワイドレンジ》がある」
「威力は上がらないってことか?」
「さっき言った《ロングレンジ》と同系統だが、発動後に使うスキルかテクニックの判定が広がるスキルだ。コストは少なめで使い勝手はいいが、効果の幅は《オーバースペル》に劣るだろうな」
ランドの言葉に、俺はしばし黙考する。
最初に求めていた要件の内で言えば、《ワイドレンジ》がそれを満たしているだろう。
一方で《オーバーチャージ》は、リスクの代わりにより高い効果を得ることができる。
どちらが優れているとも言い難い、悩ましい選択肢だ。
「……成程な。感謝する、少し考えてみるよ」
「しかし、そっちはもう110か……こっちはまだしばらくかかりそうだよ」
「ちょうど稼ぎ時だろう。すぐに上がるさ」
実際、こいつらならばかなり大量に稼ぐことができるだろう。
防衛戦の様相はまだ想像するしかできないが、数多の敵を相手にすることは間違いない。
負け戦なら負け戦なりに、存分に稼がせて貰うこととしよう。