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568:釣り出し











 堅実かつ慎重な作戦を得意とするアルトリウス。

 そして、部隊員の特性に合わせた最高効率を求めるファム。

 どちらが優れているという話ではないのだが、どちらかというとアルトリウスの方が大規模な軍勢向け、ファムは少数精鋭向けの作戦立案に向いている。

 今回にしても、ファムが立案できるのは大方針までであり、軍勢規模の具体的な部隊運用までは通じていない。

 ファムは方針を示し、アルトリウスはそれを受けて具体案を作り上げたのだ。



(……あいつも色々と苦労してるもんだな)



 今に始まったわけではないのだが、ファムのような手合いが出てくると、アルトリウスも頭を悩ませてしまうことだろう。

 何が厄介かと言えば、あの女が味方であることだ。敵ではなく、しかも有用な意見であるが故に、アルトリウスはその言葉に耳を傾けないわけにはいかない。

 まあ、アルトリウスがあの女に弱みを握られるようなことはないだろうが――できるだけ、軍曹には手綱を握って貰いたいところである。



「さてと……準備はいいか?」

「それは大丈夫ですけど……アリスさんがいない状況でもいいんですか?」

「ああ、むしろ今回は派手に目立つ方がいいからな」



 以前と同じように森の中へと身を潜めた俺たちは、アルトリウスからの作戦開始の合図と共に行動を開始した。

 先に聞いていた作戦通り、まずは俺たちだけで都市へと接近して攻撃を仕掛け、敵の戦力を引きずり出す。

 このとき重要となるのが、できるだけ敵を引きつけながら、限界まで外に引きずり出すことだ。

 そのため、俺たちからの積極的な攻撃は必要ではなく、あくまでも囮としての役割がメインなのである。

 無論、タダで殴られてやるつもりなどさらさら無いが。



「全員で飛びながら接近、遠距離攻撃を撃ちこんで撤退する。恐らく高機動部隊が出てくるだろうが、そこは俺とセイランで撹乱しながら撤退することになる」

「あんまり距離を開きすぎて、敵に逃げられないようにするってことですね?」

「そういうことだ。まずは、敵戦力をあの街から引き離すぞ」



 作戦の第一段階の目的は、敵の戦力をあの街から引き剥がすことにある。

 適当に攻撃し、守勢に入られてしまうと、むしろ後々の手間を増やすことになるだろう。

 多少頭を使うようになったとはいえ、未だ敵の動きは単純だ。

 そして、ここまで俺のパーティと戦い、俺たちを撤退させてきたという認識が、守勢に入るという選択肢の邪魔をする。

 しかも前回、こちら側からの攻撃では、あまり悪魔の数を減らすことができずに撤退することになった。

 この方角からの攻撃は、奴らにとっては成功体験に紐づいていることだろう。



「シリウスは相手に気づかれてから出す。それまでは、俺たちだけで飛行して接近するぞ」

「了解です。あんまり飛ばし過ぎないでくださいよ? 特にセイラン」

「分かってるよ。流石に、あの速度で飛ぶのは必要な時だけだ」



 セイランの《纏嵐》による加速はあまりにも強力過ぎる。

 俺でも体を支えるのが精一杯で、まともに刀を振ることも難しいのだ。

 あんなスピードは訓練ならともかく、必要も無いタイミングで使うようなものではない。


 ともあれ、俺と緋真、そしてルミナはいつも通りに宙へと舞い上がる。

 俺たちが身を潜めていた森の中には、アルトリウスの招集した精鋭部隊が身を潜めている状態だ。

 街の反応からして、悪魔たちはまだその存在に気が付いていない。つまり、作戦の準備は成功ということだ。



(奇襲作戦か……折角ならばそっちに加わりたかったところだ)



 まあ、重要な作戦であるし、流石にそんなことも言っていられないのだが。

 さて、こうして空中に飛び出してきたわけだが、流石にその直後に敵から補足されるということはない。

 もしもシリウスを呼び出していた場合は、遠くからでもギラギラと光を反射するその体によって気づかれていたことだろう。

 今回はアリスの転移魔法も無いし、いきなり街の近くまで移動できるわけではないため、気付かれるのも時間の問題ではあるのだが。



「さてと……そろそろ来そうだな」



 俺たちが空を飛んで近付いていくほどに、街の様子に変化が生じていく。

 慌ただしく悪魔共が動き回っている気配からして、どうやら俺たちの接近に気が付いたらしい。

 距離的には射程圏内ギリギリ、もう少し近付いておきたいところではあるが――



「欲を掻いても仕方がないか。シリウス、行ってこい!」



 変に欲張って敵に追いつかれてしまっては元も子もない。

 軽く溜め息を吐きつつ、俺は頭上へと向けてシリウスの従魔結晶を放り投げた。

 眩い光と共に現れたシリウスは、その巨体で俺たちへと影を落としながら、強力な魔力を収束させ始める。

 距離が遠いことには若干面食らった様子ではあるが、何とか有効射程範囲ではあるだろう。



「緋真、目標地点を見せてやれ」

「分かってます! 《オーバースペル》、【ボルケーノ】!」



 緋真の宣言と共に、街の一角に炎の柱が出現する。

 今回の攻撃目標となる地点は、アリスたちが潜んでおらず、攻撃を加えても安全であると確定している場所だ。

 緋真が示したその位置へ、ルミナは光の柱を、そしてシリウスは逆巻くようなブレスを撃ち込み――収束した魔力が破裂し、その一帯を吹き飛ばす。

 とはいえ、破壊できたのは街のほんの一部。当然ながら、街からは蜂の巣をつついたように、無数の悪魔たちが溢れるように出現した。

 それから若干遅れるようにして、虎の魔物に乗った悪魔の集団が出現するのも目に入る。

 真っ先に駆けだしたのは普通の悪魔たちであるが、俺たちのところに辿り着くころには機動部隊が先頭に立っていることだろう。



「さて、地上で待ち構えるか」

「ここに近づいてくるまでなら撃っていいですよね?」

「そうだな。ただ引き付けるだけってのも芸がない。だがシリウス、お前は飛び出すなよ」

「グルゥ」



 先日からの教育があったおかげか、シリウスも暴走することは少なくなった。

 今は釣り出しが目的であるし、こちらから攻めてしまっては意味がないのだ。

 とはいえ、遠距離攻撃自体は遠慮する必要はない。

 シリウスの場合は先ほどブレスを使ってしまったため、《魔剣化》ぐらいしか使えるものは無いが、逆に言えば強力過ぎる火力だ。

 もしも敵の機動部隊を狙えるのであれば、そこそこな損害を与えることができるだろう。

 とはいえ――



(敵も分かってるか……流石に、見せている手札の対策は取っているってわけか)



 緋真とルミナが魔法を放っているためか、機動部隊は他の悪魔を盾にするような形で展開している。

 やはり、あまり損耗したくない戦力であるようだが、こう面倒な動きをされると厄介だ。

 それに、奴らはひと塊ではなく、小隊規模に分かれて分散しながらこちらに向かってきている。

 シリウスの《魔剣化》は、射程はそこそこあっても複数の小隊を巻き込めるほどの範囲にはならないだろう。



「仕方ない……シリウス、あそこにぶっ放せ」

「グルルルルッ!」



 とはいえ、逆に言えば小隊一つは真っ二つにできるだけの範囲と火力がある。

 魔力を尾へと集めたシリウスは、その強大な魔力を俺の示した小隊へと向けて解き放った。

 空間が歪むように景色がズレ、そこにいた悪魔たちと共に、後方の機動部隊一つが真っ二つになって崩れ落ちる。

 乗っていたグレーターデーモンと思われる個体も真っ二つになっているし、多少不満はあるが十分な戦果であるだろう。



「さてと……そろそろ下がるぞ」

「分かりました!」

「お父様、私は空中を牽制します」

「頼んだ。行くぞ!」



 ルミナには空中から接近する魔物に対処して貰うとして、俺たちは軽く迎撃しながら後方へと下がるとしよう。

 セイランを走らせ始めながら、俺は視線だけを動かして森の方を確認する。

 身を潜めた『キャメロット』の精鋭部隊たちは、この光景をあの場所から観察していることだろう。

 動き始めるのは、アルトリウスが作戦段階の移行を判断してから。

 そのタイミングが来るまで、精々奴らを引き離してやることとしよう。











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