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558:追撃部隊











 突き出した【破衝閃】の穂先は、エリザリットの胸を貫き、その分身を構成している魔法そのものを破壊する。

 範囲こそ少ないが、一点に絞れば非常に威力の高い一撃だ。たとえ高度な魔法によって構成されたエリザリットの分身であろうとも、この威力に耐えられるものではない。

 胸を槍で貫かれたエリザリットは、驚愕と憎悪に表情を歪ませながら、こちらへと手を伸ばし――その指先が、魔法としての構成を失って霧散する。



「魔剣使い……それに、ロムペリア……ッ! 絶対に、殺して――」



 重く、纏わりつくような怨嗟。しかし、それが形になるよりも早く、エリザリットの分身は完全に消滅した。

 セイランのスピードを落とし、【破衝閃】ごと消えたその空間をしばし見つめ、嘆息を零す。

 一度目の分身との戦いと、先日の氷塊との戦い。それを経て、相手がただの魔法であると知れているからこそ楽に戦うことができたが――さて、これが本体であったならば、こうも容易くあしらうことができるだろうか。

 デルシェーラによる強化は中々に強力であるようだが、まだその力に振り回されている状態だった。

 しかし、時間をかければかけるほど、エリザリットもその力に慣れてくるかもしれない。



「公爵級そのものとまでは行かんだろうが……それに準ずる火力にはなるかもしれんな」



 そうなると、ただの侯爵級として認識しておくのは危険だ。

 果たして、どこまで仕上げてくるか……あまり、時間的な猶予はないと考えておいた方がいいだろう。

 可能であれば、力に慣れていないであろう今のうちに討伐してしまいたいところであるが、流石に今の段階で、本体がいるであろう交易都市を攻めることはできない。

 というか、そこは公爵級悪魔であるデルシェーラの支配領域であるため、攻めるためには最大限の準備が必要になってしまう。

 少なくとも、今の段階でそこを攻撃することは不可能だろう。



「……仕方ない。セイラン、残った敵を片付けるぞ」

「クェ」



 先ほど援護が飛んできた方向へと視線を向けるが、そこには気配も魔力の残滓すら見当たらない。

 誰が先程の魔法を放ったのかは考えるまでもなく明白であるが、どうやら姿を現すつもりはないらしい。

 小さく嘆息を零し、俺はセイランの背から飛び降りた。

 目指すは、群れる悪魔の中心地点。その中にいたアークデーモンの肩口へと向けて、黒い闇を纏う餓狼丸の切っ先を振り下ろす。


 斬法――柔の型、襲牙。


 次いで、その体をクッションにしながら衝撃を殺し、落下のダメージを極限まで減らす。

 周囲には突然の襲撃に硬直している悪魔の群れ――それらへと向けて、刃を振り抜く。



「《練命剣》、【煌命閃】」



 斬法――剛の型、輪旋。


 アークデーモンの体内に埋めたままチャージしていた生命力の刃は、その解放と共にアークデーモンの体を爆散させる。

 そのまま放った一閃は大きく広がり、多数のデーモンたちを腰から真っ二つにする。

 唸りを上げる餓狼丸は無数の悪魔たちからその生命力を啜り、己が鋭さを増してゆく。

 今の刃であれば、アークデーモンであろうとも一撃の下に葬り去ることができるだろう。

 だが――流石に、さらに上位の悪魔となると、一撃とまでは行かないだろう。



「ルミナ! 敵の追撃部隊は来てるか!」

「っ、あちらの方角です!」



 ルミナは薙刀を振るうと共に光の球体を生み出し、それを悪魔の群れへと向けて解き放っている。

 弧を描いて飛んだ光弾は、悪魔に着弾すると共に爆裂し、奴らを大きく吹き飛ばしていく。

 グレネードランチャーのようだと思いつつも、俺はルミナが指差した方向へと向けて走り出した。


 歩法――間碧。


 悪魔の隙間を走り抜けるようにしながら進み、擦れ違い様に刃を振るう。

 急所を斬り裂かれて地面へと崩れ落ちる悪魔たちを尻目に前へと進めば、近くに何かが着弾して悪魔たちが弾け飛ぶ。

 ルミナが魔法を放ったのかと思ったが、どうやら嵐を纏うセイランがそこに突撃した結果であったらしい。雷と暴風が吹き荒れ、悪魔の群れを蹂躙している。

 おかげで、奴らの注意がある程度そちら側に逸れている。その隙に、俺はさらに加速して悪魔の群れを抜け出した。

 そうして視界に飛び込んできたのは、体の一部が異形化している悪魔によって率いられた、悪魔の集団であった。

 数は二十程度――精鋭部隊と考えると、中々の戦力だ。



(機動部隊。エリザリットが追撃したのを見て編成したか)



 スピード重視であるらしく、全員がスレイヴビーストに騎乗している。

 エリザリットがいるうちに俺たちを包囲しようとしていたのだろうが、当てが外れたようだ。

 どうやら、奴らは俺の姿を確認して撤退を指示しているようだが、残念ながらもう遅い。



「セイラン、退路を塞げ!」



 強く声を上げれば、セイランは嵐を巻き起こしながら空へと舞い上がる。

 鋭敏な感覚を持つセイランは、この乱戦の中でも俺の声をしっかりと聞き取ったようだ。

 騎乗する悪魔たちは、逃げに徹せられれば俺には追い付けない。

 しかし、今のセイランならばそれらを遥かに凌駕したスピードを有している。

 逃げられたところで、容易く追撃することが可能なのだ。


 歩法――烈震。


 セイランが雷を落としながら悪魔たちの背後に回り込んでゆく姿を確認しつつ、俺は真っ直ぐと悪魔へと向けて襲い掛かる。

 後ろを塞がれたことは理解しているのか、悪魔たちはすぐさまこちらの迎撃を判断したようだ。



「《練命剣》、【命衝閃】」



 斬法――剛の型、穿牙。


 無論のこと、その判断を下したグレーターデーモンこそが最も危険な相手。

 故にこそ、司令塔となっているその悪魔を真っ先に仕留めるべきだ。

 まだ若干の距離があったため、相手は俺の攻撃が届かないと考えていたのだろう。若干ながら、攻撃に対する対処が遅れている。

 俺が【命衝閃】を使ってリーチを二倍以上に伸ばしたその一撃は、グレーターデーモンの胸元へと飛び込み――しかし、その心臓を穿つギリギリのところで攻撃を受け止めた。



(……今のタイミングで反応するか)



 これまでの感覚で言えば、爵位悪魔でも接近戦型の能力を持つ者でなければ反応しきれないタイミングだった。

 それを、無名の悪魔が行っているのだから、信じがたいと言わざるを得ない。

 俺の攻撃を受け止めたグレーターデーモンは、しかしギリギリであったため体勢を保つことはできず、騎獣の上から落下する。

 すぐさまトドメを刺そうと接近するが、他の悪魔たちが道を塞いでインターセプトしてくる。

 判断も早く、本当に厄介な連中だ。



「《奪命剣》、【咆風呪】!」



 ならばと、前方へと向けて黒い呪いの風を放つ。

 これならば攻撃は貫通し、更にHPを吸収することも可能。

 餓狼丸を解放し、更に最大限の強化を施した今の状況ならば、【咆風呪】だけでアークデーモンすら仕留めることは可能なはず。

 ――だが驚いたことに、道を塞いだアークデーモンたちは辛うじてそのHPを残していた。



(こいつら、通常の個体より能力全体が高いんだな……それもかなりの量だ)



 アルフィニールの生み出した悪魔であれば、今の【咆風呪】でアークデーモンまで倒すことができていた筈だ。

 しかし、このエインセルの悪魔たちはその威力にすら耐えている。

 【咆風呪】は相手の防御力を無視してHPを削り取るテクニックであるため、この悪魔たちはHPそのものが高いと考えられる。

 こんな個体がアルフィニールと同じ数で襲い掛かってきていたら、流石にこちらも押し込まれてしまっていただろう。

 だが――



「虫の息であることには変わりない」



 歩法――陽炎。


 こちらを迎撃するために振るってきた攻撃、そして横合いから放たれた魔法を回避しつつ、正面にいた悪魔を斬り捨てて道を作る。

 その先にいたグレーターデーモンは体勢を立て直しつつあったが、【咆風呪】の闇の中から唐突に飛び出してきた俺には反応しきれず、それでも体の異形化だけは行っている様子だ。

 まるで昆虫のような外皮に包まれた、強固な肉体。

 普通に攻撃するだけでは、これを貫くことは難しいだろう。通常の状態であれば、だが。



「《練命剣》、【命輝練斬】」



 斬法――剛の型、輪旋。


 大きく振るった一撃が、グレーターデーモンが防御のために掲げた腕ごと、その首を斬り裂く。

 防御が間に合わない状況ならば《会心破断》を使っていたところだが、こいつらは反応が早い。

 それならば、純粋に威力の高い【命輝練斬】が有効だ。

 ともあれ、頑丈なグレーターデーモンであろうとも、首を落とされれば絶命する。

 塵となって消滅していくその体を尻目に、残心と共に周囲を確認すれば、指揮官を落とされた状況であるにもかかわらず他の悪魔は動き続けていた。

 どうやら、指揮系統の順序はきちんとつけているらしい。



(……つくづく、面倒な相手だ)



 とはいえ、最も厄介なグレーターデーモンは倒した。

 後はそう面倒な相手というわけでもない。俺は気を取り直しつつ、部隊の殲滅のために足を踏み出したのだった。











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[一言] 結局今回や今までみたいにどんだけ質良くても単騎で突っ込んで来たり適当な集団戦にしちゃうと最終的に師匠1人に絶対上回られちゃうから、きちんと全体を"戦争"の形にしてとりあえず師匠たちの足を止め…
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