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555:対応の違い











 南側から都市に接近し、攻撃を加える。

 一言で言えばそれだけではあるのだが、こちらには南西側とは異なる悩みが存在していた。

 単純に言えば、こちら側は身を隠せる場所が少ないのである。

 こちら側はあまり起伏の多くない平原であり、街道を逸れればそれなりに草木もあるのだが、身を隠し続けるには不安が残る。

 そのため、俺たちは先ほど購入したマントを羽織り、身を伏せながら少しずつ都市へと接近していたのである。



「……これ、ここまでする必要あります?」

「やっておいた方が有利になるのだから、やらない手はあるまい」



 作戦の成否というものは、個人の嗜好で左右されるべきではない。

 国連軍の部隊にいた時も、隊員たちはあれこれ文句は言うものの、一度決定した作戦は迷うことなく遂行していた。

 疑問や不満は、迷いに繋がる。そして迷いを抱えたまま戦えば、いずれは致命的な隙を作り出すかもしれない。

 故にこそ、いざ始まったならば疑問を抱くべきではない。それらを全て封じて、目標達成のために努めるべきだ。

 まあ、それで後々殴り合いになることもしばしばであったが、ご愛嬌ということだろう。



「けど、迷彩って本当に効果があるのね」

「俺としては、普段からあんな目立つ格好で隠密をやってるお前さんの方が信じられんが」

「そこはそれ、スキルがあるから」

「それなら、私達に付き合ってこんなことをしなくてもいいんじゃ……?」

「いいじゃない、マントまで買って貰ったんだから」



 色合いの調整は必要ではあるのだが、それがうまく噛み合っている場合、迷彩柄は優れたカモフラージュになり得る。

 気配で探らなければ本当に見つけられない場合もあるのだ、そうそう馬鹿にできるものではない。

 まあ、スキルによって完全に透明になれるアリスにとっては、本来無用の長物ではあるのだが。



「さて……とりあえず、射程圏内までは近づけたな」

「そう? 前まではもうちょっと近かったかと思うのだけど」

「今回は門に攻撃するから、この辺りでも問題はない」



 ここまでは街の中に攻撃していたのだが、迫撃砲が破損してしまうと検証ができない。

 それで相手に本気になられても困るし、その辺りに留めておいた方がいいだろう。

 ついでに言えば、今後あの街を攻めるにあたっても、外壁や門を損傷させておいた方が楽になる。

 まあ、最近の悪魔はそういった部分の修復技術も持っているようなので、鼬ごっこにしかならないかもしれないが。



「それじゃあ、私はまたゲートを繋いでくるから。ちょっと待ってて」

「ああ、一応地雷には気を付けろよ。存在しているかどうかは分からないが、可能性はある」

「地面に注意しておけばいいのよね、了解」



 そう告げると、アリスはスキルを発動して姿を消した。

 既に姿は見えなくなったが、一応ある程度気配は追えているのか、彼女の去って行った方向を見つめながら緋真が声を上げる。



「地雷って、本当にあると思います?」

「条件で爆発する仕組みを作れるのなら、地雷程度なら簡単だろうさ。その精度や威力は知らんが」



 本来の地雷は、踏んでから足を離すと反応して爆発する。

 踏んでからその状態で固定すれば、一応対処可能である可能性はあるのだ。

 まあそもそも、そんな解除を悠長にやっている暇があるかどうかは別の問題だが。

 また、威力についても控えめで、その威力だけで相手を殺すことはあまりない。

 だが、少なくとも脚は使い物にならなくなる。それだけで、地雷の効果としては十分なのだ。

 しかしながら、回復魔法という瞬時の回復手段が存在するこの世界の場合、その威力では不十分であるとも考えられる。



「踏んだら即死レベルの爆弾を作れたら恐ろしいが……まあ、分からんな。だが、警戒するに越したことはない」

「はぁ……足元に注意しながら進まなきゃいけないのは面倒ですね」

「それはそうだろうな。金属探知機があるわけでもないし、そもそも金属で作られているかどうかも分からんしな」



 先に見た迫撃砲の砲弾は、何やら瓶のようなもので作られていた。

 内容物を含め、金属は使われていないことだろう。

 そう考えると、ますます地雷の感知が難しい気がするが、何かスキルでも使えないものか。

 思いつくのは《看破》系統であるが、それを使えるアリスは今仕事中だ。確かめるのはまた後でにすることとしよう。

 ――ゲートが繋がったのは、ちょうどそんなことを考えていたタイミングであった。



「準備完了よ、二人とも」

「了解、流石だな。それじゃあさっさとやるとするか」



 ゲートから顔を出したアリスに、俺は笑みと共に返しながら従魔結晶を取り出す。

 今回は目立つセイランやシリウスだけではなく、ルミナも従魔結晶に戻していた。

 何しろ、あいつは何もしていなくても光るのだ。マントを被せても目立ってしまうのである。

 俺は手に三つの結晶を掴んだ状態で、アリスの開いたゲートへと足を踏み入れた。

 瞬間、薄暗い光が視界を封じ、一瞬の後に都市の外壁の光景が視界全体へと広がった。

 当然ではあるが、ここまで近寄れば悪魔共も気が付くし、しかもこれまでの攻撃から対応も早い。

 さっさと行動に移らなければ、逆にこちらが攻撃を受けてしまうだろう。



「お前たち、仕事だ!」



 故に、俺はそう告げながら、三つの従魔結晶を頭上へと向けて放り投げた。

 瞬間、光り輝いた結晶の中より顕れたテイムモンスターたちが、事前に指示していた内容に従って即座に攻撃行動へと移行する。



「光よ――!」

「クェエエエエッ!」

「グルァアアアアアッ!」



 スキルが強化されたルミナは大規模な魔法を顕現させ、その邪魔をさせないためにセイランは速攻で攻撃魔法を発動する。

 紫電を纏う黒い風――セイランが体に纏うことができるようになったそれは、強力な竜巻となって防衛のために門にいた悪魔たちを吹き飛ばす。

 そして、そこへと向けてルミナの魔法とシリウスのブレスが放たれる。

 セイランが巻き起こした嵐を吹き散らすようにブレスが直撃し、門全体に衝撃と共に斬撃の傷跡を刻みつけ――追撃として放たれたルミナの魔法が、まるでゴムを擦ったような甲高い音と共に直撃した。

 《超位魔法陣》によって増幅されたその一撃は、門を破壊するには至らなかったものの、その構造自体にかなりのダメージを与えることに成功したようだ。

 そして――



「《オーバースペル》、【フレイムポイント】」



 魔法を発動した緋真が、その指先で門を示す。

 瞬間、その指先より放たれた深紅の光線が、門を正面から貫いて穴を開けると共に炎上させた。

 流石に破壊に至るほど大きな穴を開けられたわけではないのだが、燃やすことができただけでも十分だろう。



「よし、十分だ! 撤収!」



 俺の号令と共に、全員がさっさとゲートの中に飛び込む。

 再び先ほどの位置まで戻ってきたことを確認し、俺は《蒐魂剣》でゲートを破壊した。

 迷彩マントはインベントリに格納し、無数の悪魔や魔物が姿を現し始める都市を尻目に後退を開始する。



「あのグレーターデーモンの小隊、出てきますかね?」

「さて、それを確かめる意味を含めての戦いだ。一つ前の時と同じように、後退しながら敵を片付けるぞ」



 ただし、今回は前ほど引き付けることはせず、早めに移動するが。

 経験値稼ぎもしたくはあるが、今回はどちらかというと検証の面が強い。

 騎獣に乗っての移動はしないが、別に悪魔共を待ちながら戦う必要はないだろう。



「迫撃砲が来たポイントはマップでマークを付けておいてくれ。行くぞ」

「それなら近い内に一発は来そうだけどね」



 前回がどの辺りで攻撃が来たかは、何となく周囲の光景でしか覚えていない。

 正確な位置を把握するためにも、検証は必要だ。

 早めに移動したいという思いもあるが、そうするとセイランが防衛に動くことができない。

 迫撃砲の砲弾を防ぐのには、セイランの魔法が最も適しているのだ。



「《オーバースペル》、【インフェルノ】――うーん、何か前より分散してますね」

「ふむ……やはり、少しずつ対応を改善してくるか」



 こちらを追い縋る悪魔の群れであるが、これまでのように塊で追いかけてくるのではなく、ある程度距離を離して分散しながら駆けてきている。

 強さそのものは変わらない、アルフィニールの悪魔のようであるが、こうやって分散されると範囲魔法で巻き込める数が少なくなってしまう。



(散々攻撃して、悪魔の数が少なくなったか? 或いは、その程度の指示を聞ける程度の頭はあったのか?)



 アルフィニールの悪魔は何も考えずに突撃してくるイメージしかないため、これは少々意外な変化であった。

 これまでのことを考えると、多少減らした程度でアルフィニールの悪魔の数に影響が及ぶとは思えない。

 恐らくは、こちらの攻撃に対する比較的単純な対応策ということだろう。



(やはり守将がいるな。姿を見せていないからどんな奴なのかは分からないが……)



 こちらの動きに応じて対応方法を変化、改善する。

 更には、あのアルフィニールの悪魔たちにすら指示を通すことが可能。

 そして、エインセルから齎されている兵器も利用できる――姿を現していないことを含めて、大層厄介だ。



「先生。たぶんですけど、そろそろ前に砲撃を受けた地点近くです」

「了解だ。それなら、恐らくそろそろ――」



 いうが早いか、遠くで気の抜けた音が鳴る。

 魔力によって推進力を得た砲弾が、光の筋を描きながら上空へと駆けのぼり、やがてその反応を止めて落下してくる――それを見上げながら、俺はまず一つ目の予想が当たっていたことへの確信を一つ深めた。



「確証を得るにはまだ情報が足りない……だが、策を練っているのがそちらばかりとは思うなよ?」



 セイランが嵐を巻き起こし、飛来する砲弾を迎撃する。

 炸裂する爆音の中、俺はまだ見ぬ相手を脳裏に描きながら、そう呟いたのだった。











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