554:兵器の考察
「つまり、エインセルは現代兵器に似せた武器を使って戦うタイプということなんですかね?」
「現状ではわからんが、そういう知識をどこからか得ているのは確かだろうな」
今日も今日とて、エリザリットへの挑発のために例の都市へと向かう。
戦い方としては昨日のままではいかないだろうが、やりようがないわけではない。
まあ、若干の準備は必要になるわけだが、とにもかくにも都市までは辿り着かなければ。
で、その間に暇潰しを兼ねてエインセルの勢力について話し合いをしていたのだが――
「率直に言って、かなり厄介だ。単純な数の暴力を主戦力とするアルフィニールより、遥かに危険度は高いと言っていい」
「まあ、兵器は確かに脅威ですけど……魔法とそんなに変わらないんじゃないですか?」
「遠距離でまとめて薙ぎ払えるような威力を出せるんだから、どっちも変わらないと思うけど」
「単純な威力だけだったら別に何も悩むようなことは無かった。問題なのは、それを量産できる体制が整っていることだ」
アリスが拾ってきた、迫撃砲の砲弾。
それは、二つとも完全に同じ大きさや分量――つまり、統一された規格として製造されていた。
つまるところ、エインセルは既に兵器の量産体制を確立しているということだ。
「魔法は放つのにも溜めが必要だし、大体の魔法は射線も見やすくいくらでも対応方法はある。だが兵器が相手である場合、魔法のように打ち消せるわけではないから、防御の必要があるわけだ」
「防げない威力ってわけじゃないですけど、足を止めなきゃいけないのは面倒ですよね」
「ここで問題となるのが、単純な物量だな。完全な量産化が済んでいる場合、奴らはいくらでも攻撃を続けられる。魔法のようにMPの制限があるわけでもなく、詠唱時間が必要となるわけでもない攻撃をだ」
純粋な威力だけで見るのであれば、魔法の方が優れている点もあるだろう。
ディーンクラッドの魔法などと比べてみれば、現代兵器より遥かに火力の高い攻撃もある筈だ。
だが、兵器の場合は弾切れにならない限り、一定の破壊力を放ち続けることができる。
もしもその体制が既に構築されているのであれば、エインセルの危険度は更に増していると言ってもいいだろう。
更に兵器の厄介な点は、力のない人間でも一定の破壊力を発揮することができる点だろう。
先の迫撃砲の攻撃力は、恐らくはアークデーモンの放つ魔法よりも高い威力を発揮できていた。
それを、ただのデーモンが放つことができると考えれば、その危険度は容易にイメージできるだろう。
「何か対策は無いんですか?」
「今のところは何とも言えんが……一時的に補給路を断つぐらいしか手はないと思うぞ?」
恐らく、悪魔たちは街の何処か、或いは複数個所にゲートを繋いで、そこから物資を運搬していると考えられる。
今のところ、あのゲートがどの程度の距離を繋げられるのかは分かっていないが、一瞬で長距離を移動させられるあのゲートはやはり脅威だ。
だが、あのゲートの大きさでは、大型の兵器を運ぶことはできないと思われる。
悪魔共にインベントリがあるという話は聞いたことも無いが、少なくともあの迫撃砲レベルの大きさになるとインベントリでの持ち運びもできないと思われる。
つまり、そういった兵器運搬用の大型のゲートがある可能性は高いだろう。
「悪魔共が使っているゲートの仕様や制限が分かればある程度作戦も立てやすいんだろうが……連中が情報を漏らすわけも無いからな」
「結局、潜入してゲートを壊すしかないってことですか?」
「今のところはな」
アルトリウスは他にもいろいろと考えているかもしれないが、今のところはそれぐらいしか考えつかない。
まあ、その辺りの専門家である軍曹なら何かしら思いつくかもしれないが。
「……」
「先生? どうしたんですか、いきなり顔を顰めて?」
「ああ、いや……苦手な奴のことを思い出してな」
緋真の問いに、深々と溜息を零しながら返す。
国連軍時代、破壊工作関連の仕事ではある仲間が主導となって行っていた。
爆破工作に関しては紛れもなくエキスパートであり、数々の作戦をミスなく成功させてきた、紛れもない天才だ。
その能力を買われて軍曹の部隊に所属していたのだが――本当に、隅から隅まで問題しかない女だった。
(正直顔を合わせたくはないが、そういう作戦だと軍曹が連れてくる可能性も無くはないからな……)
とりあえず、嫌な記憶については頭の隅に追いやりつつ、改めて攻略を考える。
考えるべきは、エインセルがどのような兵器を用意しているかというところだろう。
エレノアの考察から、恐らく複雑な構造を持つ銃器についてはあまり考えなくてもいいと思われる。
火薬そのものは向こうも用意できるようだが、複雑な構造の銃はパーツの製造が困難であり、そうそう量産できるものではない。
現状の情報のみで言えば、爆発物の方が多くなることだろう。
「地雷や大砲、携行砲……グレネードなんかもあるか。どれを作られても厄介だな」
「今のところはそういう兵器は見かけてないですけど……」
「私も、ちょっと入っただけじゃ見つからなかったわね」
「個人携行可能な兵器はともかくとして、設置兵器が迫撃砲しかなかったのは朗報ではあるな」
だが、仕組みからして、地雷やグレネードの方がはるかに簡単に製造することが可能だろう。
エインセルに知識がなく、そういった兵装の製造ができない――ということは考えづらい。
迫撃砲などという兵器がある時点で、もっと単純な兵器を作れないとは考えない方がいい筈だ。
であれば――
「現段階では、エインセルは本気ではない。俺たちを相手に、製造した兵器の実験を行っている……立地からして、この都市は取られても問題はないと考えているのか」
「安定性の高い兵器はわざわざ使う必要もないってことですか?」
「さてな、どの考えも確証があるわけじゃない。だが、そういった兵器も用意してある可能性は、考慮に入れておいた方がいいだろうな」
現状では、エインセルはまだまだ底の知れない存在だ。
少しずつ情報を明らかにし、いずれは奴の喉元に刃を届かせなければならない。
しかし、どちらにせよ最初に狙うべきはアルフィニールであり、エインセルについてはしばらく放置するしか道は無いだろう。
懸念があるとすれば――
(エインセルがアルフィニールに協力した場合、数だけ多い悪魔が厄介な存在になりかねない。ただ爆弾を持って突っ込んでくるだけでも厄介だが、正しく扱われれば更に危険なことになる)
大公級同士がどのようなやり取りを行っているのかは、想像することすらできない。
とりあえず今のところはそういった協力の気配はないが、今後出現する可能性も考慮に入れた方がいいだろう。
自爆特攻してくるだけの兵士など、考えたくもないが。
「とにかく、エインセルについては少しずつ情報を集めるしかないな。相手の出方については少しずつ確認し……あとは、エリザリットへの対処に集中しよう」
「まあ、大きな目的はそっちですしね……また街を攻撃されても困りますし」
「でも、いつになったら出てくるのかしらね?」
「さあな。そればっかりは、エリザリット当人にしかわからんだろうよ」
あの性格からして、俺がここにいることが分かったなら飛んで来そうなものでもあるが。
しかし、エリザリットにしても何を考えてあんな回りくどい攻撃方法を選んだのか。
悪魔側の行動は、つくづく不透明で謎が多いものだ。
「さてと……見えてきたな。準備はいいか?」
「いいけど、どうするの? 昨日と同じ方法じゃ、またあのライダー部隊が出てくるだけでしょ?」
「俺の考えが正しければ、気にしなくてもいいと思うぞ。まあ、近付くまでにはちょっとした工夫は必要だが」
言いつつ、俺はインベントリからある道具を取り出す。
それは、ここに来る前にエレノアから購入しておいたアイテム。
まあ簡単に言ってしまうと、フードの付いた迷彩柄のマントであった。
「今回は最初の時と同じく、南側から近づく。おそらく、機動部隊についてはそれで解決するはずだ」
俺の考えが正しければ、この方法ならばあの部隊は出てこない。
今回の一戦で、それを確かめてみることとしよう。