553:謎の砲弾
「また随分と面白いものを拾ってきたものね」
「やっぱり、お前さんもそう思うか?」
「まあ、私は兵器に関してはそれほど詳しくはないけどね。でも、この砲弾は面白い構造をしてるわよ」
結局昨日のレベル上げはあそこまでとして、俺たちは街まで帰還することとなった。
あのまま戦うにしても、正直なところ効率が悪い。相手の精鋭を少しずつ削れるかもしれないが、あの様子を見るに相手の動きも少しずつ洗練されていく可能性がある。
こちらから攻勢を仕掛けることが難しいタイミングで撤退されれば、ほんの少し都市にダメージを与えるだけで終わってしまうのだ。何かしらの対策が必要になるだろう。
それはそれとして、収穫が無かったというわけではない。
他でもない、アリスが取ってきた写真と砲弾――これらは、あの都市を攻略するうえで重要な要素だ。
砲弾についてはエレノアに、写真についてはアルトリウスにそれぞれ渡しているが、どちらも早速検証に入ったようだ。
ちなみに、アルトリウスについては王都の方に戻っていたらしく、直接話をすることはできなかった。
城の方で何やらやっているようだが、相変わらず忙しそうなことだ。
まあ、おおよそあのお姫様関連で何かがあったという程度のことだろう。
「しかし、随分と張り切っているようだな」
「私は他にもやることがあるから忙しいのだけどね。一通りの作業が終わった錬金術師たちはちょっと暇をしていたのよ」
「それは錬金術の範疇ってことか。一つはバラバラになっちまったかね」
エレノアが机の上に置いている砲弾は一つだけ。
恐らく、もう一つはその錬金術師たちが分解してしまったのだろう。
そう考えていたのだが、エレノアはにやりとした笑みを浮かべながら続ける。
「よく見なさい、クオン。これはレプリカよ」
「何だと?」
「あのね、流石に爆発物を自分の執務室には置かないわよ」
まあ、気持ちはわからんでもないのだが、信管の入っていない爆弾など単なる置物だ。
正直なところ、そこまで気にするものでもないとは思うのだが。
しかし、悪魔の砲弾管理がどんな方法になっているのかも不明だし、念のため安全策を取るのも悪くはないか。
「これ、少し意外だったけど、この透明な宝石みたいなものは推進剤なのね。つまり、こっちの瓶の側の方が弾頭ってことになるわ」
「推進剤ってことは、これに火がついて飛んでいくってことか?」
「燃料とはまた違うのだけど、おおよそそんなイメージで問題はないわ。仕組みとしては、火薬の炸裂により飛翔する弾丸より、ミサイルのようなものとイメージした方が良いかも」
動作は迫撃砲だが、その砲身の見た目はどちらかというと高角砲のような形状であり、更に砲弾はミサイルのような性質を持っている。
何とも、奇妙奇天烈な兵器である。
「ミサイルっていう割には、ただ上に飛んで落ちてくるだけだったが」
「そりゃ、弾道入力やら熱源感知みたいなことができるわけじゃないんだから、ただ真っ直ぐ飛んで推進剤が無くなったら落ちてくるしかできないわよ」
まあ、砲弾に羽が付いているわけでもなく、細かな弾道制御ができるわけでもない。
どちらかというと、ロケットランチャーの砲弾として扱った方が使い易いかもしれないな。
「この推進剤部分が何らかの作用で発動すると、推進力を発生させる代わりに急激に劣化・崩壊していくわ。まあ、燃焼しているとイメージした方が分かりやすいでしょう。それが終了すると落下してきて地面に衝突するわけね」
「その衝撃で爆発する、なんてことはないよな?」
単純な衝撃だけで爆発する爆弾など、安定性に欠けて運用できるようなものではない。
そんな俺の問いに対し、エレノアは軽く肩を竦めながら声を上げた。
「流石に、それは無いわ。この推進剤部分の下のところに薄い板のようなものがあるのだけど、落下の衝撃と共にこれが外れることになるの。で、そうすると推進剤の残留魔力がその下のジェルのような物質に触れるわけね」
「急にファンタジーな話になってきたな」
「最初からファンタジーなところになぜか現代兵器が出てきてるだけでしょ」
エレノアの言う通りではあるのだが、砲弾の仕組みの話をしていたところに魔力などという要素が出てくると困惑するしかない。
軍曹はともかく、ランド辺りも頭を抱えていることだろう。アンヘルは――まあ、どうせ何も考えていないか、どうやって武器に転用するかぐらいしか気にしていまい。
ともあれ、エレノアたちの分析に間違いはあるまい。そういうものであるとして覚えておくこととしよう。
「このジェルは、いわば魔力の増幅剤みたいなものね。触れた魔力を一気に増幅させる役割を持っているわ」
「ふむ、それなら他にもいろいろと使えそうだな?」
「そう思ったのだけど、何しろ急激に増えるものだから、魔法が上手く発動しないらしいわ。発動できても制御できないから、その場でドカンよ」
「試したのか……」
少なくとも、使い捨ての威力増幅アイテムとして使うのは難しそうだ。
研究が進めばその辺りも改良できるかもしれないが、少なくともすぐさま運用することは不可能だろう。
そもそも、昨日の今日では量産化の目途どころか原材料の分析で四苦八苦しているところだろうが。
「で、その増幅した魔力がジェルに包まれているこの粉末部分……言ってしまえばこれが爆薬ね。これに魔力が注ぎ込まれることによって爆発するということ。大まかな仕組みはこんなところね」
「ふむ……再現はできそうなのか?」
「材料さえわかれば、製法そのものは簡単だわ。だけど、原料が分からないことにはどうにもね」
やはり、そう簡単にはいかないらしい。
構造だけで見るのであれば、精密な機械など必要としない単純な代物になるだろう。
これをどうやって正確に相手の頭上に落とすのかという疑問はあるが、それはどちらかというと砲身側の工夫となる。
その辺りについては、今も軍曹が分析を行っていることだろう。
「量産化できれば、迫撃砲はともかくロケットランチャーなら簡単に作れそうだな」
「使い捨てにするには中々コストが高いのだけどね……でも確かに、いざという時の攻撃手段には有効だわ」
とはいえ、まずはこれを再現するところから始めなくてはならないのだろうが。
今見せているレプリカは、外見だけ似せた単なるフェイクでしかないのだろう。
まず、自分たちの手で作り上げられるよう分析し、その上で試作と改良を繰り返してようやく実戦投入が可能になる。
果たして、そこに行き着くまでにどれだけの時間を要することか。
「とにかく、砲弾の構造はこんなところね。それを踏まえて……これを作った悪魔は、急激に燃焼して推進力を発生させる物質、魔力を遮断する物質、魔力を瞬間的に増幅する物質、大量の魔力に反応して爆発する物質を量産できる状況にあると考えていいわ」
「それは……」
「迫撃砲は試験的な運用であり、貴方を相手にテストしていたとも考えられる。でも、他の兵器が存在する可能性は十分にあるし、何ならテストする必要もなく、既に実戦配備が可能な完成度になっている可能性も高いわね」
エレノアのその言葉に、思わず顔を顰める。
先ほど話をしていたように、この砲弾が作れるならばロケットランチャーは簡単に作れるだろう。
それに、特定条件で反応させられるのならば地雷を作ることも可能なはずだ。
銃器の類については正直コストに対してリターンがあっていないかと思うが、そういった爆発兵器の運用は十分に考えられる。
「生産拠点を探る必要があるな……」
「そうね。だけど、迫撃砲の運用状況からして、これが作られているのは――」
「大公エインセルの領域、か。アルフィニールの悪魔はこんなものは使わなかったからな」
もしも使えるのであれば、兵器の運用はなくとも、集団が爆弾を抱えて突撃してくるだけで十分な脅威だっただろう。
尤も、大公同士での融通などがあるのかどうかも分からないため、今後そういった運用が出てこないとも限らないわけだが。
どちらにせよ、エインセルはこういった兵器の運用によって戦う可能性が出てきたということだ。
あらかじめ判明したのは、不幸中の幸いであろう。
「生産工場を破壊したいが、悪魔はゲートを使った転移で物品を運んでいる可能性が高い。運搬路を探ることも不可能……だがそう考えた場合、最も可能性が高いのは――」
「大公の御膝元、でしょうね。輸送の手間がないのであれば、それが最も安全で効率的だわ」
「つまり、補給を断つことは難しいってわけだ……全く厄介なことをしてくれる」
無論、全く手立てがないというわけでもない。
ゲートはすぐに構築できないことは分かっているため、一度破壊してしまえば、一時的には敵の補給を断つことができる。
つまり、潜入してゲートの位置を特定、破壊しておけば、相手の物資は一時的に制限されるわけだ。
それがどの程度の期間になるのかは検証が必要だろうし、そもそも根本的な解決にはならないのだが、都市制圧には有効な手段となるだろう。
「とりあえず、相手が新しい兵器を持っている可能性は考えておくことね」
「了解だ。いい情報だった」
「それなら、もっと新しい武器も鹵獲してくることね。あればあるほど、分析できる情報は増えるんだから」
それにはアリスに負担を強いることになってしまうし、あるかも分からないものを探るのはリスクが高い。
できるタイミングがあったら程度に留めておくべきだろう。
内心でそう呟きつつ、俺はエレノアの部屋を辞去したのだった。





