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547:安全圏での反撃











 頭上から飛来する砲弾を警戒しながらの撤退。

 結論から言ってしまえば、俺たちは安全圏まで退避するまでに追加で二回爆撃を受けることとなった。

 幸い、リアルとは異なり光の尾を引いているため、警戒さえしていれば対処することは難しくはない攻撃だ。

 その二回についても、セイランによる迎撃で事なきを得ることができた。



「よし……そろそろ片付けるぞ」

「上、大丈夫ですかね?」

「流石にここまでは届かない筈だし、来たら来たで迎撃もできる。いい加減目視も届かない距離だしな」



 迫撃砲の正確な性能を測れない以上は希望的観測にならざるを得ないが、先の攻撃からしても既に限界射程は越えていると判断している。

 先ほどの砲撃は、一定の距離を進むごとに飛来した。

 どれも広く開けた場所で、しかし後半になるほど着弾地点は分散していた。

 三度目の砲撃では、ほんの一部のみ迎撃するだけで済んだ上に、悪魔の群れに着弾した攻撃まであったほどだ。

 流石に、あれ以上は有効射程を伸ばせないと考えた方がいいだろう。



「4キロちょっとで限界ってところか……思ったほどは長くなかったな」

「そうなんですか? 十分すぎるぐらい長かったと思いますけど」

「俺の知る迫撃砲ならもっと長く、もっと速く、そしてもっと正確に撃ち込んで来ていただろうな。まあ、流石にそこまでの再現はできなかったのだろう」



 尤も、どうやって迫撃砲など再現したのかという疑問は残るのだが。

 後に利用するためにも、是非とも鹵獲してしまいたいところだ。

 流石に、それができるのはまだまだ先の話になるだろうが。

 ともあれ、今は追い縋る悪魔を殲滅する方が先だ。



「シリウス、待たせたな。存分に暴れろ!」

「グルルルルルッ!」



 俺の声に、シリウスは歓喜の唸り声を上げながら反転する。

 そして、迷うことなく悪魔の群れの中へと一直線に突撃した。

 これまでひたすら逃げていた俺たちが唐突に反転したことで、悪魔たちの動きに混乱が生じる。

 その群れへと向けて、俺もまた続くように突撃した。


 歩法――烈震。



「《練命剣》、【煌命閃】」



 斬法――剛の型、扇渉・親骨。


 大きく踏み込みながら、薙ぎ払うように一線を放つ。

 それに伴い放たれた生命力の刃は、シリウスに気を取られていた悪魔の群れを一気に薙ぎ払った。

 真っ二つになって崩れ落ちる悪魔たちの中、辛うじて生き残っているアークデーモンなどもいるが、既に致命傷であるため放っておいても勝手に死ぬだろう。

 それよりも今は、より多くの敵を片付けるべきだ。



「《奪命剣》、【咆風呪】」



 先ほどから幾度となく使っている黒い風を放ち、広範囲の悪魔たちの体力をまとめて削り取る。

 ついでに【煌命閃】で消費したHPを回復させつつ追撃を放とうとするが、生憎とそれよりも早く、セイランの魔法によって吹き飛ばされることとなった。

 体力の減った悪魔には、セイランの放つ雷の風は耐えられるものではなかったようだ。



(今見える範囲は雑魚ばかり……例の悪魔たちはここまでは追撃しては来なかったのか?)



 回り込んでくる別動隊もいなかったが、あれは迫撃砲による誤爆を回避するためだろう。

 だが、それが届かなくなった場所でならば、奴らの動きには制限は無いはずだ。

 単純に追撃を行う範囲の外まで出たのか、或いは――



『クオン、側面に注意して』

「……!」



 ふと、耳元に響いたアリスの声に、俺は自らの意識領域を押し広げた。

 俺たちの左手側には、若干盛り上がった丘のような地形がある。

 こちらから見える範囲には確かに何も見えないが――確かに、そちら側から俺たちの方へと向けられる視線を感じ取ることができた。

 まだ距離はあるが、位置的には相手側が有利。しかし、制空権はこちらが取れている状況。

 ならば――



「ルミナ、左の丘の上に魔法! 仕留め切れなくてもいい、動きを止めろ!」

「っ、はい!」



 俺の指示に即座に従ったルミナは、頭上へと向けて光の柱を撃ち放った。

 その光は幾条もの光の帯へと姿を変え、雨の如く丘の上へと降り注いでいく。

 幻想的にも思えるその光景を眺めながら、俺はすぐさま丘を駆け登るために地を蹴った。

 膨れ上がる魔力の気配は、そこに悪魔が存在することを示している。

 だが、敵の数はそこまで多くはない。奇襲にしても少数過ぎるこれは、単なる偵察のための兵士だったのか。



(……悪魔が偵察ねぇ)



 迫撃砲を見たせいか、人間を相手に戦っているような気分になっている。

 だが、もしも偵察という考えが正しい場合、奴らは迫撃砲から逃れた俺たちの動きを観察していた可能性が高い。

 その情報を用いて、奴らは何をするつもりなのか。もしも迫撃砲の改良が可能であるというのならば、その情報を持ち帰らせるわけにはいかない。

 いずれ、アルトリウスたちと共に軍勢を率いてあの街を攻める際、迫撃砲は大きな脅威となり得る。

 あれを有効活用される可能性は、極力排除しておくべきだろう。

 つまるところ、結論は一つだ。



「――ここで皆殺しにする」



 ルミナからの奇襲を受けた悪魔たちであるが、それでもきちんと防御はしていたようだ。

 丘を駆け登って発見したその群れは、五人組の小隊であるらしい。

 しかも、後方には騎乗用と思われるスレイヴビーストの姿がある。

 やはり、高機動偵察部隊と考えるべきだろう。ならば――



「《奪命剣》、【刻冥鎧】――《夜叉業》」



 歩法――跳襲。


 ルミナの攻撃を防ぐために動きを止めている悪魔たち。その頭上を飛び越えるようにしながら、虎に近い姿をしたスレイヴビーストへと肉薄する。

 角が伸び、餓狼丸は血炎に包まれ――どうやら魔法に対する防御手段は無かったらしい獣へと、己が刃を振り下ろす。



「『生奪』」



 斬法――柔の型、襲牙。


 突き出した切っ先が、魔物の首を穿つ。

 そのまま着地と共に刃を振り下ろせば、半ば以上首を断たれた獣はその場に崩れ落ちた。

 ここからは時間との勝負。まずは、こいつらの足を潰さなくてはならないのだ。


 久遠神通流合戦礼法――風の勢、白影。


 故に、全速力でスレイヴビーストたちを片付ける。

 悪魔たちは俺の姿に気が付き行動を開始しているが、まだ攻撃の準備が整っている状態ではない。



「《練命剣》、【命輝練斬】」



 斬法――剛の型、輪旋。


 収束した生命力を纏う餓狼丸を、こちらへと振り向こうとする獣の胴へと振り下ろす。

 弧を描いたその一閃は、獣の脇腹に深々と突き刺さり、その臓物を地面へとぶち撒けることとなった。

 そこまで来てようやく敵の行動が追い付き、まずは尤も近くにいた獣がこちらへと飛び掛かってくる。


 斬法――剛の型、刹火。


 無論のこと、相手から来てくれるのであればこちらとしても願ったり叶ったりだ。

 飛び掛かってきた虎の攻撃を掻い潜るようにしながら刃を振るい、その肩口から胸にかけてを深々と斬り裂きながら腹下を通り抜ける。

 そのまま墜落した獣には目もくれず、ただ前へ。


 歩法――陽炎。


 横合いからこちらへと迫るのは悪魔の攻撃。

 その攻撃を緩急をつけて回避しながら、スレイヴビーストへと肉薄。

 迫る剛腕もその動きで回避して、相手の横合いにて刃を突きつけた。



「『生奪』」



 斬法――柔剛交差、穿牙零絶。


 体の回転のみで撃ち出した餓狼丸の切っ先は、スレイヴビーストの臓腑を穿ち、心臓に穴を開ける。

 一応は刃を捻って心臓を潰すが、流石に穴が開いた時点でそれ以上の行動は不可能だろう。

 小さく嘆息しつつ、俺は崩れ落ちようとするスレイヴビーストへと肩を触れさせた。



「邪魔をするなよ、後で相手をしてやるから」



 打法――破山。


 足元から破裂するような音が響き渡り、巨体を誇るスレイヴビーストが冗談のように吹き飛ぶ。

 それが向かう先は、こちらへと接近しようとしていた悪魔の一体だ。

 流石にその巨体に押し潰されることは避けたかったのか、悪魔たちは一瞬ためらったように足を止め――



「《練命剣》、【命輝閃】」



 こちらに食らいつこうとした虎の顎をギリギリで回避しつつ、振るった刃でその首を斬り裂いた。

 崩れ落ちるスレイヴビーストの体を見下ろしながら、刃を振るって血を落とす。

 これで、スレイヴビーストは全滅。この悪魔共の足を潰すことができた。

 後は、じっくりと悪魔共を片付けるだけだ。軽く息を吐き出して呼吸を整え、白影を解除して悪魔共の姿を観察する。

 さて、こいつらはどのように戦うのか――未知の部分が多いこの悪魔と、今度は観察しながら戦うこととしよう。











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― 新着の感想 ―
[一言] ファンタジーの世界で現代兵器を再現するか……まあ、やりそうだよな、軍勢の悪魔ならね…… しかしなろう的にいうと、主人公がやりそうなことを敵側がやったという、面白い構図になってますね。 そ…
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