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544:エリザリットの対策











 エリザリットのごたごたがあったため、結局あの後はログアウトし、その翌日。

 俺たちは、再び例の妙な悪魔がいた都市へと向けて出発していた。

 ロムペリアから聞いた話については既にアルトリウスに伝えてあり、その上でこの方針が示されたのだ。

 即ち――あの都市に向かい、挑発目的の威力偵察をしてきて欲しい、という依頼である。



「挑発目的の威力偵察って何よ……?」

「まあ、適当に攻撃を仕掛けて出てきた敵を片付けろってことだろうな」

「ハチの巣を突いてこいなんて、アルトリウスさんの依頼にしては珍しく慎重さの欠片もない内容ですよね」

「ハチの巣か……この間の様子を見ると、あながち間違いでもないよな」



 何しろ、近付いただけで集団での迎撃を行い、尚且つ包囲殲滅まで狙おうとしてきたのだから。

 未だあの動きをしてきた悪魔の正体は謎のままであるのだが、そこについてはあまり問題ではないらしい。

 エインセルの調練した悪魔である可能性が高いし、仮に違っていたとしても精兵を削れるだけで損はないということらしい。

 尤も、今回の依頼の主目的はそこではない。あくまでも、俺たちに必要なことはエリザリットに関する対処なのだから。



「現状他に手掛かりが無いから仕方のないことではあるが、今はデルシェーラに接近するしかエリザリットに近付く術がない」

「それは……まあ、その通りですけど」

「だからまずはデルシェーラに近付くことを目指すわけだが……直接向かうこともできんからな」

「上空から向かっても無理かしら?」

「一度捕捉されたら延々と援軍を出される上に退路を塞がれる可能性もあるからな」



 背後に敵の拠点を抱えたまま、別の拠点を狙うことは非常にリスクが高い。

 相手が公爵級悪魔ということも相まって、相当に分の悪い賭けとなってしまうだろう。

 その点、手前から攻める分には退路を確保しやすい。別動隊が出現する可能性も、あらかじめわかっているのなら対処もし易いだろう。



「けど、手前の街にちょっかいをかけていても、デルシェーラは出てこない可能性もありますよね?」

「むしろ、あの雪女は出てこない方がいい。公爵級が相手では、流石に俺たちだけで対処することは不可能だからな」



 侯爵級ならまだ何とかなるかもしれないが、公爵級は明らかに別格。

 業腹ではあるが、遭遇することがあれば即座に撤退するしかない。

 尤も、撤退できればの話ではあるが。



「アルトリウスの言う挑発ってのは、エリザリットに向けてのものだ。俺が比較的近くまでやってきて、悪魔に攻撃を仕掛けている――なんて話を聞いて、あのクソガキが黙っていると思うか?」

「正直私はあの悪魔とはあんまり会話してないんですけど……まあでも、何かしら仕掛けてきそうですよね」



 ロムペリアがいれば完璧だっただろうが、あまり過剰反応させすぎるのも都合が悪い。

 そもそも、あの女が俺たちの都合で動くことはないだろうし、流石にこの最前線まで出て来れるほど力を取り戻すには時間も足りていないだろう。

 まあ、動きたければ勝手に動くであろうし、あいつに関しては放置しておく以外に道はない。

 何にせよ、必要なのはエリザリットを誘き出すことだ。



「ロムペリアの語り口からして、デルシェーラが積極的にこちらへ仕掛けてくることはないだろう。俺たちが単独で動いているとなればなおさらだ」

「大丈夫ですかね? 悪魔って私たちのこと……というか先生のことを結構注目してますけど」

「公爵級悪魔なら、単独で動いている俺たちのことは、潰そうと思えばいつでも潰せる程度の脅威でしかない。それに、デルシェーラとは特に個人的な因縁もないしな」



 あの時奴と戦っていたのは黒龍王であるし、俺は奴に対して特に何かやったわけではない。

 その程度の繋がりで、俺たちを仕留めるためにわざわざ出張してくるとは考えづらいだろう。

 それに、俺たちは異邦人であり、手間をかけて潰したとしてもまた戻ってくる上に、幾らか手札をこちらに見せることになる。相手側にはメリットが少ないのだ。

 無論、可能性が皆無というわけではないし、警戒しておく必要はあるだろうが。



「とにかく、あの都市を攻撃することで、エリザリットに俺たちの存在を感知させる。それに加えて、あの都市の状況の把握および戦力の削減を狙う、一石三鳥の行動というわけだ」

「そう上手く行きますかね……?」

「俺たちのレベル上げにもなるし、どれか一つ達成できるだけでもプラスになる。やるだけやってみればいいのさ」



 そうこう話している内に、俺たちは目的地である北東方面の都市へと接近した。

 遠くから見た限り、都市の様相に変化は見られない。先日の俺たちの攻撃程度では、警戒に値しないということだろう。

 それならそれで構わない。むしろ、こちらから仕掛けやすくて助かるところだ。

 とはいえ、このまま近付けば前回と同じことになるだろう。もう少し、都市の側にも被害を与えておきたいところだ。



「ふむ……アリス、一つ頼みたいんだが」

「何かしら?」

「あの街の近くまで、隠れてゲートを繋げられるか?」



 アリスの持つ《月魔法》――いや、今は《闇月魔法》か。これの呪文の中には、特定の場所から場所を一瞬で繋ぐワープゲートのようなものを作る魔法がある。

 尤も、あまりにも遠い距離を移動することはできず、精々数百メートルが限度と言ったところであるが。

 しかもアリスが直接始点と終点を作らなければならないため、一度は足を運ぶ必要があるのである。

 そのため、少々使い勝手は良くない魔法ではあるのだが、アリスならば隠れて潜入できるため若干使い易い方ではあるだろう。

 俺の狙いを察知したのか、アリスは小さく笑みを浮かべながら頷いた。



「ええ、問題ないわ。あの街を射程圏内に収められればいいのよね?」

「そういうことだな。頼めるか?」

「勿論、行ってくるわね」



 頷き、アリスは魔法とスキルを発動して歩き出す。

 スキルを発動したアリスは既に透明となっており、通常ではその姿を捉えることはできない。

 やたらと反応のいいあの悪魔たちでも、今のアリスの姿を発見することはできないだろう。

 気配だけが遠ざかるアリスのことを確認しつつ、俺はシリウスとセイランを一度従魔結晶に戻す。



「緋真、分かってるとは思うが――」

「接近したら最大火力を叩き込めってことですよね?」

「そういうことだな。この際、街にダメージが行くことは考慮に入れる必要はない」



 少しずつ悪魔を消耗させようとした場合、遠くからちまちまと攻撃するだけでは焼け石に水だ。

 であれば、奴らが利用しているあの街自体にダメージを加えた方が、後にも響くため有効的だろう。

 無論、あの街を射程圏内に収めなければならないため、その作戦はリスクが高いのだが、アリスがいればその課題をクリアできる。



「ルミナも遠慮なくぶち込んでやれ。流石に刻印は使わんでもいいがな」

「勿論です、お父様」



 刻印は不測の事態が発生した際に取っておきたいから、ここで消費してしまうのは勿体ない。

 緋真とルミナは通常通りの魔法、セイランは雷でも落としておき、シリウスはブレスを放たせれば十分か。

 何にせよ、広範囲に作用する魔法で一気に街へとダメージを与えることとしよう。

 ある程度の方針を確定させたところで、俺たちの目の前に青白い光を纏った黒い渦が姿を現した。

 そしてその中から、ひょっこりとアリスが姿を現す。



「準備できたわよ。かなり近い場所まで接近できたわ」

「流石だな。しかし、こうして見ると悪魔の使ってるゲートとある程度似通ってるな」

「同種の魔法だからね。それはそうなんでしょう。それで、そっちの準備はいいの?」

「ああ、問題ない。行くぞ」



 アリスの言葉に頷きつつ、黒い渦の中へと足を踏み入れる。

 あの悪魔のゲートとは異なり、俺の視界は一瞬暗転して――次の瞬間には、大きな街の外観が目の前に広がっていた。

 アリスと違って姿を隠していない俺たちは、接近した時点で悪魔に察知される。

 当然ながら、悪魔たちは迎撃のために動き出し、無数の気配の蠢動が感じ取れた。

 だが――



「セイラン、シリウス。遠慮はいらない、派手にぶちかませ!」



 頭上へと放り投げた従魔結晶から、セイランとシリウスが姿を現す。

 刹那、嵐の魔法を発動したセイランによって、周囲が黒雲に包まれた。

 同時、シリウスの口腔内には強烈な魔力が渦を巻き始める。

 悪魔たちも即座に反応し、俺たちに攻撃するために次々と姿を現すが――その発動を止めるには、あまりにも遅すぎた。



「ケェエエエエエエエエッ!」

「ガアアアアアアアアアッ!!」



 セイランの嘶きと共に巨大な竜巻が発生し、降り注ぐ雷が手当たり次第に悪魔を打ち砕く。

 その暴風によって動きを止めた悪魔たちは、衝撃波のブレスによってまとめて薙ぎ払われた。

 次いで、眩く輝く光の鉄槌が外壁の一部を打ち砕き――その間を縫って、灼熱の炎が街中を舐めた。

 限界まで強化を施した上での一撃は、街の中で動き始めていた悪魔を片っ端から薙ぎ払う。

 この段階では俺やアリスにできることはないのだが、俺たちの仕事はここからだ。



「よし、一旦戻るぞ。元の位置に戻って迎撃だ!」



 俺の指示に従い、緋真たちは揃って【ムーンゲート】へと戻る。

 巨体を持つシリウスが入れるのかは若干不安であったが、その手でゲートに触れた瞬間に吸い込まれるように消失した。

 全員が移動したことを確認して俺もゲートに入り、先程移動する前の位置まで撤退する。

 そして即座に《蒐魂剣》によってゲートを破壊、これを使った追跡を受けぬように対策する。

 悪魔のゲートのように奴らには使用できない可能性もあるが、念には念をだ。



「よし……初手は上々。後は反撃を何とかするだけだな」

「だけって言っても……あの様子ですけど」



 うんざりとした表情で緋真が指差した先は、まるで鳥の群れが飛び立つように、黒い点が溢れ出す街の様子である。

 どうやら、中々に多くの悪魔の気を引くことができたようだ。



「まずは引き撃ちだ、距離を取りつつ数を減らす。MPの残量には注意しろよ」

「……了解です」



 嘆息交じりに頷く緋真の反応には笑みを零しつつ、テイムモンスター達にも指示を飛ばす。

 さて、エリザリットが反応するまでにはどれほどの戦いが必要であろうか。

 分からないが――とりあえず、あれらは悉く討ち果たしてやるとしよう。











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[一言] >挑発目的の威力偵察 いやいや、適当とか言わずに、出来るだけ派手にやれってことじゃない?w さて、蜂の巣所の騒ぎじゃないがw果たしてw
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