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Magica Technica ~剣鬼羅刹のVRMMO戦刀録~  作者: Allen
DW ~Demon's War~

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523/987

518:集落への帰還











 先ほど聞こえた、謎の悪魔の声。

 正体は一切不明だが、無視するにはあまりにも厄介そうなその存在に、俺はアリスに教えて貰いつつアルトリウスへとグループ通話を繋げていた。

 一応、この話は離れている緋真にも聞かせておきたかったのである。



『名乗りもせず、爵位も明かさず、姿も出さない……ですか。これまでの悪魔を考えると、珍しいタイプですね』

「何を企んでいるのか、予想はできないか?」

『流石に、情報が少なすぎますね。確定で言えることは少ないです』



 ゲートを破壊したからといって、周囲の悪魔が丸ごと消滅するわけではない。

 俺たちは目についた悪魔を殲滅しつつ、集落へと帰還するため足を急がせていた。

 敵は少なくなっているし、あまり苦戦することはないのだが、考えなければならないことは結構多い。

 特に問題なのは、先程声をかけてきた謎の悪魔の存在であろう。



『ですがクオンさんの言う通り、残りのゲートに罠が仕掛けられている可能性は高いですね』

「やはりそうか……なら、方針としては帰還でも問題はないか?」

『はい。ここまでゲートを破壊できているならば、戦線を戻すだけではなく、押し返すことも十分に可能です』



 どうやら、アルトリウスも同じ結論であるらしい。

 ゲートを破壊したおかげで、敵の増援数は少なくなっている。

 多少は通してしまったため、少々押し込まれてしまった部分もあるようだが、被害は最低限に留められているだろう。

 アルトリウスならば、十分に押し返すことができる規模だ。



「それで、どう見る?」

『……ここまでの動きを考えると、その悪魔は僕たちの戦力をよく把握しているように思えます。クオンさんの能力に応じた配置や、意識しているであろう罠。これらを準備しているということは、情報収集に長けているタイプかと』

「だろうな。正直、厄介な手合いだ」



 悪魔たちは能力主義というか、自らの力を誇示する性格の持ち主であることが多い。

 仮にあまり戦闘を得意にするタイプでなかったとしても、こちらの能力に合わせた作戦立案という動きはこれまでに見られなかった。

 情報を集めている手段は問題ではない。これまでに幾度も悪魔と戦闘しているし、監視する手段があったとしても不思議ではないのだ。

 それに、ここ最近は積極的な戦闘をせずに撤退する悪魔も多い。どういう方針転換なのかは知らないが、悪魔側にもある程度、異邦人プレイヤーの情報が渡っていると考えた方がいいだろう。



『状況に応じた対策や配置、的確にこれらを行う分析能力。そういった性質を持ち合わせている以上、『キャメロット』のことについても割れている可能性が高いと考えています』

「……まあ、お前さんは警戒されているだろうな」



 何だかんだで、アルトリウスもディーンクラッドに大ダメージを与えた経験がある。

 一発限りではあるが、あの破壊力は俺よりも遥かに上だ。

 当然、悪魔側も警戒していることだろう。



『なので、それを踏まえて対策を行っておきますが……エレノアさんとも調整しておきます』

「あいつとか? まあ、来てはいるし無関係じゃないが」



 正直、エレノアの戦闘面における知識はアルトリウスどころか俺にも及ばない。

 まあ、経済やら政治やらについては圧倒的なのだが……こと、悪魔との直接戦闘は得意ではないだろう。

 あいつを巻き込むというのであれば、何やら大掛かりな仕掛けをすることになりそうだが――



『今回、僕らにとってされたら最も嫌なことは何か。相手が、それを理解していると想定した上での行動です。この予想が当たらないのであれば、それはそれでいいのですか……あまり、楽観視はできませんね』

「そこまで内情に詳しいか? いくら何でも、プレイヤーの中にスパイを送り込めるわけじゃなかろうに」

『分かりませんが、警戒はしておいた方がいいかと。前提をひっくり返されてしまっては、こちらも困りますからね』



 アルトリウスが何を想定しているのかはよく分からないが、今の時点で口に出すつもりはないのだろう。

 果たして、あの悪魔はどこまでの情報を把握しているのか。そして、どのような行動に出てくるのか。

 今のところ、それを把握することはできない。



『まあ、そういった性質がある一方で、指示出しは苦手にしているようにも思えますが……断定はできませんね。実際に接触しないことには、分析しきれません』

「接触してくると思うか?」

『五分五分ですかね。可能性はあると考えています』



 姿どころか名すら明かさない、かなり慎重なタイプだと思っていたのだが、アルトリウスは何を根拠にそう判断したのだろうか。

 先程声をかけてきた際も、可能な限りこちらに情報を渡さぬようにしていたように思える。

 そんな性格の悪魔が、果たして自ら姿を現すことがあるだろうか。

 俺が抱いたその疑問は、アルトリウス自身抱いていたものだったのだろう。声を潜めるように、彼は小声で続ける。



『こういった手合いの場合、姿を見せるのは勝利を確信した時です。そんな人物が、声だけとはいえ存在を露呈させた。これはつまり、現時点で勝利の算段が付いているということでしょう』

「……俺がゲートを破壊しない方向に動くのも想定されていて、その上で既に勝利が見えていると?」

『実際、ゲートがこれだけの数になった時点で、ゲート破壊の必要性はあまりないと考えていましたから。相手側も、可能ならクオンさんを誘導できればいい程度の考えでしょう』



 まさか、俺が思惑に乗らないパターンも想定しているとは。

 アルトリウスとて確信を持ってそう言えるわけではないのだろうが、確かに可能性は考えられる。



『クオンさんの考えている通り、罠は仕掛けられているでしょう。しかし敵の目的はあくまでも、クオンさんを倒すことではありません。今回の敵の動きはどちらかというと、クオンさんを分断することを主眼に置いているように思えます』

「あの伯爵級悪魔や、ゲートに仕掛けられていたトラップは――」

『足止めや、強制的な転移。そんなところでしょうね。そしてそれは、悪魔の勢力がクオンさんを警戒しているからこそ。いざという時に、クオンさんに邪魔をされないようにするための分断策かと』



 最初の伯爵級悪魔は、足止めに徹すれば時間稼ぎには最適な人選だった。

 次の悪魔の能力は不明だったが、俺の機動力を担うセイランを護衛のために集落へ戻させることには成功している。

 そして、先程のゲートに仕掛けられたトラップ。あれがアルトリウスの言う通り、強制的な転移の類であるとしたら――



「あの悪魔は、すぐにでも動く可能性があると?」

『クオンさんを長時間拘束できなかった時点で、行動に移る可能性は高いですね。恐らくは、クオンさんが集落に戻ってくるよりも早く仕掛けてくるでしょう。僕も急ぎ準備を行っていますが……賭けに負けた場合は、かなり拙いことになりそうですね』

「ッ……急いで戻る」

『間に合わないタイミングになるかとは思いますが、お願いします』



 通話が終了したことを確認し、舌打ちを零す。

 アルトリウスの読みがどこまで当たっているのかは分からないが、程なくして仕掛けてくるという想定は納得できるものだ。

 何を狙っているのかは知らないが、厄介なことになる前に急いで戻らなければなるまい。



「アリス、悪いが――」

「ええ、行って。相手が貴方を警戒しているということは、逆に言えば貴方がいる時には仕掛けたくないと考えているってことでしょうから」



 アリスの言葉に頷き、俺は全速力で駆けだした。

 俺の分断に失敗した時点で、あの悪魔は仕掛けてくる。

 だが逆に言えば、奴は俺の完全な分断には失敗しているのだ。

 伯爵級悪魔は足止めの役割を果たせず、トラップも俺を捉えるには至らず、そして残るゲートの破壊にも向かわせることはできなかった。

 相手も動ける状況ではあるだろうが、動かざるを得ないシビアなタイミングであるとも考えられる。

 このタイミングで動いてくるならば、まだチャンスもあるだろう。

 故に――



「全速力だ。これ以上、舐めた真似ができると思うな……!」



 久遠神通流合戦礼法――風の勢、白影。


 視界がモノクロに染まり、スローモーションになった世界を一気に駆け抜ける。

 間に合うかどうかは賭けだ。だが間に合いさえすれば、敵の思惑を崩すことができる。

 群れる悪魔たちは一切合切無視し、ただ前へ。久方ぶりに本気の危機感を抱きながら、ただ全速力で集落へと足を進めたのだった。











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[一言] さて、間に合うかどうか、そして賭けに勝てるかどうか……
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