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516:ルミナの元へ











 セイラン同様、ルミナの戦闘は傍から見ていると中々に派手だ。

 魔法陣で複製した光の魔法を連射し、精霊たちを召喚して集団戦を仕掛けながら、その翼の力で味方の強化を振りまく。

 眩く輝くその姿は、セイランほど音を立てているわけではないが、十分すぎるほどに目立っている。

 遠くから見えるその姿は十分に目立っており、追いかけるには困らない状況だ。



「流石に、ルミナもセイランと同じ判断か」



 どうやら、ルミナもセイランと同様、森には踏み込まずに敵を押し留める戦法を選んだらしい。

 ルミナはセイランよりも能力のバランスが良く、戦っていてもそれほど消耗することがない。

 しかも自分でアイテムを使用することも可能であるため、持たせたMPポーションで補給をすることも可能なのだ。

 まあ、俺たち異邦人プレイヤーのようにインベントリを使用できるわけではないため、ポーチに入る分だけなのだが。



(少々下がり気味だが……他のプレイヤーのことも考えると、まあまあ妥当な判断か)



 セイランの場合は周囲を巻き込まないようにするため、プレイヤーとは離れた位置で戦っていた。

 だがルミナの場合、器用に立ち回ることが可能であるため、比較的他のプレイヤーに近い位置で戦っている。

 プレイヤーたちもルミナからの援護を得られると知ってか、そこそこに前線を押し上げているようだ。



「あいつめ、上手い使い方をしてやがるな」



 どうやら、ルミナは少しずつ前線を上げることにより、プレイヤーの位置を外側に誘導してきているようだ。

 突出し過ぎないようにしてはいるようだが、悪魔の軍勢を集落から押し返すような形にはなっているだろう。

 可能な限り集落の中央からは悪魔を遠ざけたい状況であるため、この動きは実に都合がいい。

 とはいえ、ある程度までしか押し上げることはできないし、ここだけ押し返せたとしても解決する問題ではない。

 根本的な解決には至らない状況、ということだ。



「――まあ、それもここまでだがな」



 アリスは既に姿を隠している。どこで動いているのかは知らないが、巻き込まれない位置で獲物を狙っていることだろう。

 ならば、後は単純だ。この周囲の悪魔を蹴散らし、森まで踏み込んでゲートを破壊すればそれで済む。


 歩法――烈震。


 一気に踏み込みながら、刃を構える。

 とりあえず、まずは数を減らす。多少なりとも数を減らしておかなければ、前に出たこの前線を維持することが難しいだろう。



「《練命剣》、【煌命閃】」



 斬法――剛の型、輪旋。


 大きく弧を描く一閃が、生命力を纏って風を切る。

 それと共に広がった黄金の軌跡は、集まっていた悪魔の群れを纏めて両断した。

 突然の横槍に、異邦人プレイヤーと悪魔、両者の動きが一瞬止まる。

 だが、その状況であろうとも、ルミナは即座に次なる行動へと移ってみせた。



「――! 光よ、連なりて!」



 背負っていた魔法陣が位置を変え、縦に並ぶように向きを変更する。

 それと同時、周囲に散っていた精霊たちが集まり、宿す魔力を滾らせながら前方へとその手を向けた。

 そして――眩い閃光と共に、彼女たちの魔法が放たれる。

 地を穿ち、その破壊力を存分に撒き散らしながら、森へと向けて一直線に悪魔の群れを蹂躙したのだ。



「お父様!」

「ああ、よくやった! 行くぞ!」



 そうしてルミナがこじ開けた道を、俺は一気に走り抜ける。

 今の一撃でかなりの数の悪魔を削ることはできたが、同時に召喚していた精霊たちも消えてしまった。

 ルミナ自身もMPを消耗しているし、先程のような攻撃の連射は不可能だろう。

 だが、敵の密度は明らかに減った。この状況ならば、プレイヤーに対する援護は必要あるまい。



「休息は必要か?」

「いえ、大丈夫です!」



 これ以上魔法を撃つことは厳しかったか、槍を仕舞って刀を取り出したルミナは、俺の隣に降り立って走り始める。

 MPポーションはまだあるようではあるが、ポーションは連続で服用するわけにはいかない。しばらくは白兵戦で補うつもりなのだろう。

 一方で、悪魔はまだ森の側から姿を現し始めている。

 数は他のゲートと同じではあるが、ルミナが広範囲攻撃できない状況には不安が残るな。

 尤も、ルミナとてすでに数々の戦場を経験している。己の限界は弁えているだろう。



「魔力を回復できるようになるまでは無茶をするなよ。行くぞ!」

「はい!」



 プレイヤーたちには悪いが、そろそろ自分たちだけで戦って貰うとしよう。

 敵は減らしたのだから、戦力的にも問題は無いはずだ。



「《奪命剣》、【咆風呪】!」



 振り下ろした刃から、黒い呪いが溢れ出す。

 吹き荒ぶ黒い風は、周囲の木々と共にデーモンの命を丸ごと吸い尽くして消滅させるほどだ。

 精霊であるルミナにとっては眉をひそめる光景かと思ったが、ちらりと見た限りでは全く気にした様子もない。

 それどころか、生き残っているアークデーモンへと向けて躊躇うことなく斬りかかるだけだ。

 気にしていないならこちらも気にする必要はないと、僅かに笑みを浮かべつつ異なる標的へと向かう。

 と――



『クオン、聞こえてる?』

「っ、アリスか」



 突如として響いた呼び出しに、驚きつつも集中は切らさず悪魔へと刃を振るう。

 だが、意識のうちの一部は会話へと割き、呼び出してきたアリスへと通話を繋げた。



「何があった?」

『こっちは隠れながら先行してゲートの状況を確認してるわ。ただ、護衛の悪魔の姿が見えないのよ』

「さっきみたいな、爵位持ちの悪魔か」



 先ほどセイランと共にゲートを制圧した際は、アリスが先行して爵位悪魔を仕留めてしまっていた。

 今回も同じことをしようと思ったのだろうが、どうやら目論見が外れてしまったらしい。

 それについては歓迎すべきなのかどうか微妙なところだが、護衛がいないというのも妙な話だ。

 ゲートを利用した奇襲と包囲戦は、悪魔たちにとっても作戦の要である筈。だというのに、それを放置している理由が分からない。

 隠れているのか、或いは何らかの思惑があっての行為なのか――



「チッ……面倒な」



 先ほどから、どうにも後手に回っている感覚が抜けきらない。

 戦い自体は優位に進めている筈だというのに、何故こうにも気味の悪い感覚が残るのか。

 まあ、理由など言うまでもなく、悪魔共の奇妙な戦い方が原因であるのだが。

 策を仕掛けた割には詰めが甘い。だが、詰め以外の点については非常に的確で、こちらにとって厄介な状況を作り上げている。

 この状況、決して偶然ではあるまい。誰かしらが、裏で糸を引いている可能性が高いのだ。



『クオン、どうするの?』

「とりあえず、不用意に近付くな。周囲は《看破》で調べておいてくれ」

『《看破》はもう進化してるけど……了解、注意するわ』



 状況は不明な部分が多すぎる。だが、だからといって悪魔を出現させるゲートを放置することはあり得ない。

 これを破壊しない限り悪魔は増え続け、悪魔の包囲を押し返せなければ石板の設置に至れないのだから。

 敵の思惑がどこにあるのかは分からないが、今は少なくとも、この戦いを続ける他に道はない。

 アリスには注意するよう言い含め、俺は再び刃を構えた。



「《奪命剣》、【呪衝閃】」



 斬法――剛の型、穿牙。


 前方へと向けて一気に放つ、闇を纏う刺突。

 一直線に伸びたその一撃は、前方にいた悪魔たちを貫いてその生命力を奪い取る。

 それと共に前へと飛び出たルミナは、その刃に魔力を宿しながら脇にいた悪魔を斬り裂いた。

 そろそろ時間も経ったし、MPポーションの再使用も可能になることだろう。

 そうすれば、一気に森の奥まで足を踏み入れることができる。



(罠があったら、その時はその時だ。罠ごと叩き潰す)



 何があるかは分からない。警戒しながら先へと進むこととしよう。

 改めて気を引き締め、俺は前へと足を踏み出した。

 ルミナがMPを回復させるならば、その時間を稼がなくてはなるまい。



「《練命剣》、【命輝一陣】」



 ルミナの近くにいた悪魔を生命力の刃で斬り伏せ、その死体を後方へと向けて蹴り飛ばす。

 他の悪魔を巻き込んで転倒するその悪魔を追い縋るように前に出つつ、俺はルミナへと向けて鋭く告げた。



「ポーションを使えるなら回復しろ! 一気に踏み込むぞ!」

「はい、分かりました!」



 相変わらず打てば響くような返事だ。

 その答えに満足しつつ、俺は倒れ込んだ悪魔の胸へと刃を突き立てたのだった。











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