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511:獣の剣戟











 ――必ず殺す。そう決意したのであれば、やることは最早単純だ。

 ゲートの破壊は完了している。この場所での仕事は既に済ませているし、このまま悪魔を無視して撤退したとしても問題はない。

 だが、それでも。この群れを率いている可能性のある爵位悪魔が目の前にいるのであれば、これを見逃す理由などない。



「シィッ!」



 歩法――縮地。


 これ以上、この場からの増援はない。故に、まずは邪魔になる周囲の悪魔共を片付ける。

 そう決意した俺は、即座に近場にいたデーモンへと肉薄した。

 縮地による接近もあるが、それ以上に唐突に加速した俺の動きに反応しきれていない。

 そんなデーモンの視線が俺を捉えるよりも早く、放った一閃はデーモンの首を即座に切り飛ばした。



「は――?」



 僅かに、困惑したような声が響く。

 どうやら、ラキュラーズもまたこちらの動きを捉え切れなかったらしい。

 一瞬遅れて俺の姿を追っているため動体視力が悪いというわけではなさそうだが、どうやら俺の動きを把握しているわけではなさそうだ。

 さて、俺のことを知っていそうな口ぶりであった割に、俺の戦い方についてはそこまで詳しくはない。

 果たして、そんな奴がこのような作戦を考えてくるものだろうか。



(分からんが――まあいい、こちらを捉え切れていないのならば好都合だ)



 強く地を蹴り、更に速度を上昇させる。

 刃が纏う赤黒い炎だけが軌跡を残し、俺はこちらを囲む悪魔の群れの中へと飛び込んだ。


 斬法――剛の型、扇渉。


 一瞬後、こちらを狙って放たれた魔法と矢が延長線上の悪魔へと突き刺さる。

 この状況で遠距離攻撃などを使えば、当然ながら同士討ちすることになるだろう。

 しかし、悪魔たちはそんなことを気にする様子もない。

 遠慮なく攻撃してくる点は厄介であるが、同士討ちで数を減らしてくれるのであればそれはそれで好都合だ。



「《練命剣》――【煌命閃】」



 斬法――剛の型、扇渉・親骨。


 群れの中に滑り込みながら放っていた一閃を、強く踏み込むことで横薙ぎの一閃へと変化させる。

 それと共に放たれた生命力の刃は、群れていた悪魔の一角を纏めて斬断してみせた。

 この威力ならば、アークデーモンが混ざっていたとしても一気に斬り裂くことができる。

 一撃で包囲の一角を切り崩しつつ体を反転、軸足を替えつつ次なる一撃を振り返り様に放つ。



「《奪命剣》、【咆風呪】!」



 纏う一撃は呪いの風。刀身を中心に渦を巻くそれは、まるで餓狼丸の黒い刃より顕れたかのよう。

 飲み込んだ相手の生命力を喰らうこの一撃であるが、ここで重要となるのはその性質だけではない。

 反転しつつ放った呪いの風は、周囲の木々ごと悪魔たちを飲み込み、その生命力を喰らって枯死させていく。

 ラキュラーズも巻き込んでいるだろうが、流石に爵位悪魔相手にそこまで大きな効果は望めないだろう。

 重要なのは、射手であるこの悪魔の隠れる場所を奪うこと。そして、この黒い風によって相手の視界を塞ぐことだ。


 歩法――烈震。


 そして、その位置を気配で捉えたまま駆ける。

 その刹那に殺気を隠し、こちらの位置を悟られぬようにしながら、一直線に前へ。

 放つのは、その命脈を確実に貫くための刺突だ。



「《練命剣》、【命衝閃】!」



 斬法――剛の型、穿牙。


 刃を長大な槍と化すテクニックと、鋭き刺突を放つ穿牙の一撃。

 これらを組み合わせた一撃は、まるで閃光の如く敵を貫く一撃と化す。

 呪いの風に包まれた森の中を、一陣の閃光が引き裂き――しかし、それがラキュラーズに突き刺さるよりも僅かに早く、その軌道に別の悪魔が割り込んでいた。



「が……ッ!?」



 【命衝閃】は非常に鋭い一撃だ。

 例えアークデーモンがその身を挺して庇ったとしても、容易にその身を刺し貫いてラキュラーズまで穂先を届かせることができる。

 だが、それでも勢いが殺されてしまったことは事実。【命衝閃】の一撃はラキュラーズに浅く刺さった程度で止められてしまった。

 尤も、これは刺さった瞬間に生命力を破裂させてダメージを与える効果も有している。

 例え貫けるほどではなかったとしても、破裂の瞬間に十分なダメージは与えられた様子であった。



(さて、どう出る?)



 槍の消滅した餓狼丸を構え直し、【咆風呪】の中でも生き残っていたアークデーモンを斬り捨てながら、俺はラキュラーズの動きを観察する。

 優位な状況であったにもかかわらず、何もできずにここまで戦力を減らしてしまった。

 この状況で、果たしてラキュラーズはどのように動くのか。それを確認した上で、こちらも対策をするとしよう。



「くそっ……公爵斬り、化け物が!」



 ダメージを受けたラキュラーズは、血を流しながらも弓を構え、そのまま後方へと跳躍する。

 どうやら、やはり木々に隠れながらこちらを狙い撃つつもりであるらしい。

 遠距離攻撃に徹するのであれば間違いではないが、殺気が分かりやすすぎるためどこから攻撃が飛んでくるのかは一目瞭然だ。

 逃げながら攻撃をしてくるのは厄介ではあるが、逆に言えば積極的に攻撃を仕掛けてくるわけでもない。

 であれば、そうして手をこまねいている内に、他の戦力を殲滅してやることとしよう。

 ――そう考えた、直後であった。



「《蒐魂剣》ッ!」



 凄まじい魔力の集中と共に、青白い光が木々の奥で瞬く。

 そして次の瞬間、まるで一本の矢がその光を帯びて、まるで彗星のようにこちらへと飛び込んできた。

 その一撃を振り上げた一閃で弾きつつ、同時に魔力を奪って威力を大幅に減ずる。

 それでも餓狼丸を弾かれそうになってしまった辺り、どうやら今の一撃にはとんでもない威力が込められていたようだ。



「……成程」



 今の一撃をどの程度の頻度で撃てるのかは知らないが、狙撃に徹せられるのも厄介であると理解した。

 魔力の収束があるため、来るタイミングは分かりやすい。だが、他の悪魔との戦闘中に狙われれば対処しきれない可能性もある。

 それに、奴は腐っても伯爵級だ。まだ《化身解放メタモルフォーゼ》という切り札を残しているし、どのような行動に出てくるのかは想像もつかない。



(仕方ない。周りは邪魔だが、先に狙うとするか)



 幸い、先程の攻撃である程度の数を減らすことはできた。

 この後も、定期的に【咆風呪】を放てばデーモン程度であれば片付けることができるだろう。

 故に、次はラキュラーズを狙う。これ以上、厄介な攻撃を放たせるわけにはいかない。


 歩法――陽炎。


 ラキュラーズは、未だこちらのことを狙っている。

 いかなるスキルで来るのかは分からないが、相手は射撃攻撃。

 ならば、その的を絞らせぬようにするために、緩急をつけて森の中へと足を踏み入れていく。

 だが――



「っと!」



 光を纏って三本に分かれた矢が、回り込むようにしながらこちらへと迫る。

 こちらの動きに合わせてホーミングしているようで、速さはそれほどでもないがかなり正確にこちらを追尾してきている。

 先ほどから、随分と面倒な攻撃ばかりしてくれるものだ。


 歩法――烈震。


 横に動いての回避では意味が無いと判断し、あえて一気に前へと踏み出す。

 そして、正面から飛来した一撃だけを弾き返し、残る二本を掻い潜るように回避して、俺は一気にラキュラーズの方へと直進した。

 その姿は既に捉えている。そこそこに機動力は高いが、俺に接近されて逃げられるほどのものではない。

 俺が肉薄するまでに、行える行動は精々が一射で限界。さあ、奴は果たしてどう出るのか。

 そんな俺の期待に応えるように、ラキュラーズは魔力を込めた矢を天へと向けて撃ち放った。

 瞬間、頭上に無数の魔力の気配が出現する。



(やってくれる……!)



 上空から降り注ごうとしているのは、今はなった矢を起点とした無数の魔力の矢だ。

 面で制圧せんとするこの攻撃は、狙いこそ正確ではないが回避することは困難だ。

 降り注ぐ先もランダムなようであるし、これを狙って回避することは難しい。

 ならば――



「《蒐魂剣》、【断魔鎧】!」



 全身に蒼い光を纏い、俺は躊躇うことなく直進する。

 数発の攻撃ならばいい、それを超えてダメージを受けることになっても、急所だけは避ければ問題はない。

 致命傷を負う前に、矢の雨の中を通り抜ける。



「《奪命剣》――」



 狙いをつけられてはいないものの、それでも何発かの矢は俺の体へと降り注ぐ。

 だが、魔力によって形作られたそれらは、【断魔鎧】に触れた瞬間に消失していくのだ。

 しかしながら、【断魔鎧】にも吸収の限界はある。急速にその限界へと近づいていく青い鎧は、恐らくこの矢雨を潜り抜けるよりも早く消滅してしまうことだろう。

 それを少しでも先延ばしするために命中しそうな矢を弾きつつ、ただ真っ直ぐと前へ。

 既に見えているラキュラーズの表情は、勝気と不安が混ざり合ったようなそれであった。

 どうやら、奴はこの一撃に随分と自信があったらしい。



(だが――)



 吸収の限界を迎え、【断魔鎧】が消失する。

 抑えきれなくなった矢のうちの一本が俺の肩へと突き刺さり――けれど、それ以上のダメージを受けるよりも早く、俺は矢の雨の降り注ぐエリアを通り抜けた。



「――【命餓練斬】ッ!」



 ラキュラーズが逃れようと地を蹴るが、既に加速しきっている俺の方が速い。

 最早衝突する勢いで突撃した俺は、その黒く染まった刃をラキュラーズの肩口へと叩き込んだのだった。











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― 新着の感想 ―
[一言] よし、食らい付いたね! しかしアレは正味の弓術じゃないから、近距離の一矢とかありそうですねw 伯爵級というとヴェルンリードですね、アレから随分と遠くまできたね……w
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